自分にそっくりの「AIクローン」で働き方はどう変わるか。オルツ社代表に訊く

AI

「AIを使って人間のコピーをつくる」そうした想いを掲げ、AIクローン技術、「P.A.I.」(パーソナル人工知能)の研究・開発を行ってきたのが株式会社オルツです。生成AIが台頭してきた今、AIクローンは人間の労働をアップデートするのか。それとも、人間の尊厳や自由、倫理観を奪ってしまうのか。株式会社オルツの代表取締役を務める米倉 千貴氏に、AIクローンの社会実装における現在地や未来の見立てについてお話を伺いました。

AIクローンは人間の働き方を大きく変える

── オルツが提供するAIクローンの技術と事業について改めて教えてください。

オルツでは、AIクローン技術を活用したパーソナルAIの開発と実用化に取り組んでいます。具体的には、人間の対話データをAIに学習させることで、その人物の言葉遣いや話し方、思考パターンを再現した“分身”をつくる技術を開発しています。これにより、個々の人物に対応した「パーソナルAIをつくり出せる」ことになります。自分の分身となるAIクローン(デジタルクローン)がいれば、時間がない中でも自分の代わりにメールを返信したり、会議に出席したりできます。AIクローンが単純作業や時間を取られる作業を代行することで、人間はより創造的な仕事や戦略的な思考に時間を割けるようになり得るでしょう。

また、オルツでは、AIクローン技術を活用したプロダクト開発も行っており、AIが会議の発言をリアルタイムに文字起こしするツール「AI GIJIROKU」や、音声認識、自然言語処理、音声合成の技術を活用し、コールセンター業務を自動化する「AIコールセンター」を提供しています。
ノーコードエージェント生成プラットフォーム『altBRAIN』
利用者のライフログを連携しデジタルクローンを生成する『CloneDev』
── AIクローンの普及により人間の働き方はどのようにアップデートされるとお考えですか?

AIクローンによって、デジタル上に自分の生き方や思想、価値観をコピーすることができれば、自分の時間軸を複数持てるようになります。また、AIクローンは24時間稼働が可能なので、人間は時間の制約から解放され、より柔軟な働き方が可能になると考えています。AIと人間の理想的な役割分担は、AIがルーチンワークやデータ分析などの作業を担い、人間はその結果をもとに戦略を立てたり、創造的なアイデアを出したりするという形が考えられます。単なる生産性の向上だけでなく、「人間がより人間らしい仕事」に集中できるようになるのではないでしょうか。

「ディープフェイク×AIクローン」は新たな価値を生み出す

── AIクローンの導入で発展しそうな産業や海外の事例があれば教えてください。

教育業界では、AIクローンが個々の学生の学習進度や理解度を分析することで、より最適化された教育の提供が可能になります。また、医療業界では医師の行う診断や治療をAIクローンがサポートすることで、医療サービスの質の向上が期待されています。

海外の事例を挙げると、OpenAIの開発した「GPT-3」は、大量のテキストデータから学習を行い、人間と同じように自然な文章を生成できるAIです。ChatGPTのような対話型AIのほか、今後はさらにその応用範囲が広がっていくと予測しています。一方、中国のIT大手である百度(バイドゥ)は、AIクローンを活用したニュースキャスターやウェザーキャスターを開発しています。これらのAIクローンは、テレビ番組やウェブサイトで実際にニュースの読み上げや天気予報の発表を行っており、そのリアルさと自然さが話題となっています。

AIクローン技術は、さまざまな産業で新たな価値を生み出す可能性を秘めています。オルツとしても、この技術の可能性を最大限に引き出し、人々の生活をより便利で豊かにするためのサービスを提供していきたいと考えています。

── 中国のライブコマース市場では、ディープフェイクが24時間ライブコマース上で稼働しています。「ディープフェイク×AIクローン」により、ライブコマース市場は今後どのような広がりを見せていくとお考えですか?

ディープフェイクとAIクローン技術の組み合わせは、ライブコマース市場に大きな変革をもたらす可能性があります。先述の通り、AIクローンは24時間稼働できるため、消費者は自分の都合のよい時間にいつでもショッピングを楽しめるようになります。また、AIクローンは疲れることなく、一貫したパフォーマンスの提供が可能なので、サービスの品質も向上します。さらに、AIクローンは個々の消費者の嗜好や購買履歴も学習できるため、パーソナライズされたショッピング体験を提供することで、消費者の満足度やリピート率向上に寄与するでしょう。

これに加えてディープフェイク技術を活用すれば、ライブコマースに著名人やインフルエンサーのAIクローンを登場させることも可能になります。しかし、プライバシーや倫理的な問題、法規制など、さまざまな課題を解決する必要があります。オルツとしては、これらの課題を解決し、安全で便利なライブコマースの実現に向けて取り組んでいきたいと思っています。

AIクローンの普及に欠かせないガイドラインの策定

── AIクローンを社会に普及させていくためには、どのような課題がありますか?

AIクローンの普及にはいくつかの課題が挙げられます。まずはプライバシー保護の観点です。AIクローンは、個々の人間の特性や行動パターンを模倣するために、大量の個人データが必要となります。その際に、プライバシーの侵害やデータの不適切な利用といった問題が生じる可能性があります。そして、AIクローンが人間と同じように行動すると、それが本物の人間の意志や感情を代弁していると誤解される可能性があります。これは、人間の尊厳や倫理に関わる重要な問題であり、軽視できないものだと考えています。

さらに、AIクローンは法的な責任を負うことはできません。要するに、AIクローンが違法な行為を行った場合、「その責任を誰が負うべきか」という問題が生じるわけです。こうした課題を解決するためには、AIクローンの開発と利用に関する明確なガイドラインや法整備が必要となります。また、AIクローンの技術を開発・利用する企業が、倫理的な観点から自己規制を行うことも大事になってくるでしょう。

── そのような倫理的な問題やプライバシーの懸念が伴うなか、AI技術の適切な利用を促進する上では、どのようなガイドラインが必要になるのでしょうか?

AIクローンやディープフェイクの適切な利用を促進するためには、①プライバシー保護、②透明性、③誤情報の防止、④責任の所在の四つの観点からガイドラインを考える必要性があります。AIクローンやディープフェイクの作成には個人情報が必要となるため、その取り扱いについては厳格なルールが求められます。また、個人の同意なくその人物のAIクローンを作成・公開することは許されるべきではなく、プライバシー保護の重要性が問われるでしょう。

また、 AIクローンやディープフェイクがどのように作成され、どのように利用されているかについての透明性を確保することも肝になります。利用者は、AIクローンがどのようなデータに基づいて行動を決定しているのか、そのプロセスを理解できる仕組みが不可欠だといえます。先に述べたディープフェイク技術も偽の映像や音声を作成可能であり、誤情報の拡散に利用されるケースも出てくる恐れがあります。そのため、誤情報の拡散を防ぐためのルールやシステムが必要となるでしょう。

もし、 AIクローンの行動によってプライバシーの侵害や誤情報の拡散などの問題が発生した場合、その責任は誰が負うべきか、責任の所在を明確にする法整備も大事になってきます。これらのガイドラインは、AIクローンやディープフェイクの技術が社会に広く受け入れられ、その利点を最大限に活用するための基盤となると考えています。

「人間」のアイデンティティを「AI」にも求めるようになる

── 貴社の今後の展望を教えてください。

AIクローンが普及し、さまざまな産業や業界で活用されるようになれば、私たちの掲げる「人の非生産的労働からの解放」の実現により一層近づいていくと捉えています。将来的には、AI同士が会話して物事を決めていき、人間は人間にしかできないクリエイティブなことに専念する。このような未来が訪れると予想しており、そうなるとAIに真理を求めるだけでなく、人間と同じようなアイデンティティも求められ、確立されていくのではと思っています。

今後の展望としては、AIクローン技術を活用した新たなサービスの開発を行っていく予定です。個々のユーザーが自分自身のAIクローンを作成し、ライフスタイルをより便利にしていけるプロダクトを構想しており、スケジュール管理や情報検索など、日常生活で手間に感じていた作業をAIクローンが代わりにやってくれる世界観を目指しています。

そして、ビジネスやエンターテインメント業界だけでなく、教育や医療といった新たな市場への進出も果たしていきたいと考えています。これらの取り組みを通じて、オルツはAIクローン技術を活用した新たな価値を創造し、世界中の人々の生活をより豊かにしていけるように尽力していきたいと思っています。

米倉 千貴

株式会社オルツ 代表取締役

1977年生まれ。愛知大学文学部在学中から、株式会社メディアドゥ(東証1部:3678)に参加。2001年同社取締役に就任。2004年に独立しコンテンツプロデューサーとして活動。2006年よりグラフィックやゲーム、メディア系のサービスを展開する株式会社未来少年設立。年商15億円の企業に成長させる。2014年全事業を売却し同年11月に株式会社オルツを創業。

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