中国EV市場を席巻する、三大新興メーカーを徹底分析。脅威の中国EVメーカー最新事情・後編【中国デジタル企業最前線】

中国企業の最新動向から、DXのヒントを探っていく本連載。今回は、ガソリン車に代わるモビリティとして期待が高まるEV(Electric Vehicle=電気自動車)と、その核とも言える自動運転技術で世界をリードする中国の強さに迫ります。前編では「EV先進国」の名を欲しいままにしているその理由を、国の政策や技術の面から探ってきました。後編となる今回は、自動車産業に参入してきた新興メーカー3社を紹介するとともに、日本の立ち位置の考察、中国が抱える課題を話題に進めていきます。

ざっくりまとめ

- 「新興EV造車三兄弟」創業の裏側に、テスラが存在。

- 新興企業によって自動車業界がイノベーションされたことがスマートEV発展のきっかけ。自動車はソフトウェア基点にシフトしている。

- EVが主流になれない日本の自動車業界。イノベーターの不在がネックに。

- 中国市場では、使用済みバッテリーの処理・リサイクルが今後の大きな課題。

- 中国独自の自動車業界カオスマップ。日本にはないサプライヤーの存在にも注目。

「新興EV造車三兄弟」その創業に影響を与えたのは、テスラの存在?

前編では、中国EVメーカー台頭の三つの要因を挙げました。続く、四つ目の要因とも言えるのが「新興メーカーの攻勢」です。なかでも有名なのは、NIO(上海蔚来汽車)、Xpeng(小鵬汽車)、Li Auto(理想汽車)。これら3社は「新興EV造車三兄弟」と言われており、いずれも2014~2015年に創業、2020年に成長軌道に乗った点が共通しています。
出典元:Xpeng創業者 ヒー・シャオペン氏のWEIBO(微博)公式アカウント
NIO、Li Autoの創業者は、自動車情報サイトを運営するAutohome(汽車之家)を2000年代に設立しており、2013年にはニューヨーク証券取引所への上場を果たしています。彼らはテスラ(Tesla)が創業した2003年以来、その動向を追い続けてきました。2014年、テスラから「Model S」が中国で発売されたことと、二人が創業したことは決して無関係ではないでしょう。

また、Alibaba(阿里巴巴)の元幹部であり、Xpengの創業者、ヒー・シャオペン氏は、テスラのCEO イーロン・マスク氏のスピーチを聞いたことが、EV業界への関心を強めるきっかけになったと話しています。
出典元:中国乗用車市場信息聯席会のデータを基に筆者作成

【NIO】無料バッテリー交換方式で顧客のロイヤルティ向上をねらう

ここからは、3社についてそれぞれ掘り下げて解説します。

“三兄弟”のなかでもっとも勢いがあるのが、販売台数の一番多いNIOです。一番の特徴は、世界で唯一、バッテリー交換方式を採用していることです。NIOは2021年現在、中国全土500か所以上にのぼるバッテリー交換ステーションを独自に展開しており、車両購入者に対し、バッテリー交換の無料サービスを提供しています。NIOユーザーはステーションに行けば、わずか3分で充電済みのバッテリーと交換してもらうことができます。このサービスは非常にコストがかかるものの、顧客の満足度とブランドイメージの向上に寄与できることから先行投資として継続されています。

この仕組みからも分かるように、NIOが展開しているのは単純な車販売ビジネスではなく、コンシューマービジネスです。会員限定イベントを開催しているのも、その一環だと言えます。また、彼らが販売するEVは、“スマート車”でもあるため、車内向けエンターテインメントコンテンツの提供も収益源の一つになっています。

なお、NIO自身は自動車生産資格を有していません。そのため、自社で手掛けるのはEVの設計と開発まで。生産は、委託提携先のJAC(江淮汽車)が行っていますが、今後は新設や買収等を通じて自社工場を持つ可能性も考えられます。
5人乗りSUV「EC6」

5人乗りSUV「EC6」

【Xpeng】“テスラキラー”の異名を持つ、広州発の革新メーカー

新興メーカーのなかで高級路線をいくNIOですが、続いて紹介するXpengは、車両価格を低めに抑え、大衆車市場に照準を合わせています。創業後しばらくは海南マツダに生産を委託していましたが、2020年にFODAY(福迪汽車)を買収し、自動車の生産資格を取得してからは自社生産に舵を切っています。

元トヨタのデザイナー、元テスラの技術責任者を擁しており、3社のなかでは唯一、ナスダックに上場。2021年10月にはNIOに続いて海外進出を果たしており、“中国版テスラ” “中国のテスラキラー”の異名のもと各国を席巻するのではないか、とその動向が注視されています。

そんな彼らのプロダクトですが、2019年に発売したSUVタイプの「G3」は、航続距離が520kmと、現在、純EVを採用しているSUVのなかで最長を誇ります。バッテリーにはCATLの次世代リチウムイオン電池を採用しており、残り30%のバッテリーを30分以内に80%まで充電できる点も特徴です。
5人乗りSUV「G3」

5人乗りSUV「G3」

また、2020年に販売開始したスポーツセダンの「P7」は航続距離が706kmと、ライバル視するテスラ「Model 3」の650kmよりも優れています。自動運転レベルは2.5であり、自動駐車アシスト機能、完全音声AIコントロールを標準搭載。さらには車載システム「Xmart OS」によって、発売時期にかかわらず常に最新の技術が車体に反映されるようになっています。
5人乗りスポーツセダン「P7」(画像はシザーズドアを付けた限定車)

5人乗りスポーツセダン「P7」(画像はシザーズドアを付けた限定車)

【Li Auto】順調な供給体制の構築で販売台数を伸ばす

3社目のLi Autoの大きな特徴は「レンジエクステンダー」を採用している点です。これは、エンジンモーターに取り付けるガソリン式の発電装置のことで、バッテリーの残量が少なくなるとガソリンで発電して走行距離を伸ばす役割を持っています。そのため、航続距離は800kmと、他社と比べて大きな優位性を持っています。

同社は2018年に中堅自動車メーカー、Lifan(力帆汽車)の買収を通じて生産資格を取得、翌年には江蘇省の自社工場で「理想ONE」の生産を開始しました。NIOのようにブランド戦略に時間をかけなかった分、3社のなかでもっとも早く量産体制に入ることができ、以来、急速に販売台数を伸ばしています。2020年9月には米国の半導体メーカー、エヌビディア(NVIDIA)と提携。自動運転レベル4の実現を目指し、システム開発を強化しています。
7人乗りSUV「理想ONE」

7人乗りSUV「理想ONE」

ソフトウェア基点でスマートEVをつくることが本流に

ここまで見てきたように、IT企業に加え新興企業の面目躍如が、中国でEV市場が台頭している背景です。かたや日本は現行メーカーへの依存度が高く、ベンチャー企業が参入しづらい状況です。さらに、現行メーカーの一つであり、イノベーションに積極的なトヨタも、EVは主に中国で展開しています。その理由は、日本の自動車市場の中心を、引き続きガソリン車あるいはハイブリッド車が担い、EVの時代がなかなか見えてこないからにほかなりません。

もっとも中国の自動車市場も日本同様、現行メーカーが幅を利かせる世界です。しかしながら、産業全体という視点で見ると、自動車メーカーよりもIT企業のほうが影響力を持っています。“三兄弟”の主要株主をみても、NIOはTencent (腾讯)、XpengはAlibaba、Li AutoはMeituan(美団)にByteDance(字節跳動)と、すべてIT企業です。インターネットやソフトウェアを掌握している彼らはEV領域にも精力的に進出し、惜しみない投資を行っています。

前編から通して考察してみると、これからの自動車づくりは、デバイスからソフトウェアではなく、ソフトウェアからデバイスが本流になることが分かります。つまりは、IT企業によって車の概念が新しくデザインされている、ということです。その上、彼らは「クリーンエネルギーの活用によって環境に貢献したい。だからEVをつくっている」と声高に話しています。こうした動きに対する消費者の期待は大きく、ニーズは高まるばかりです。このトレンドに抗えない現行メーカーは、EVに移行したくないという本音を抱えながらも、仕方なしにEV、準EVをリリースしています。これはDXによる進歩の結果とも言えるでしょう。

ひるがえって、日本はどうでしょうか。楽天、ヤフー、ソフトバンク……いずれのIT企業にもこうした動きは見られません。中国に倣うとすれば、日本でイノベーションが起きる様子はなく、自動車産業を取り巻く勢力図が変わらないことを意味します。日本にGoogleのような企業が存在すれば、また違う状況が生まれていたのかもしれません。

Nio Nomi

課題は使用済みバッテリーの回収

中国は他国に依存しない独自のサプライチェーンの構築を目指しており、2035年までには内製化を実現する予定だと言います。現在、特定の部品は主に中南米からの輸入に頼っていますが、実は、EVバッテリーの原材料の世界シェアを中国は有しています。EVが世界のスタンダードになるとしたら、中国はますます有利になるでしょう。

一方、唯一の気がかりはバッテリーの回収です。ここ数年以内に起きる大きな課題と目されています。EV用バッテリーには貴重な鉱物がいくつも原料として使われており、それらを個々に分離するには高い技術を要します。環境への負荷や産業廃棄物の取り扱いも考える必要があり、また資源の有効活用の視点からリサイクルが必須です。重量も数百キロと重く、輸送や保管のことも考えなければなりません。実際、筆者のもとに中国メーカーから「日本の技術ある企業と提携できないか」と相談を受けたことがあり、国内外問わず、課題解決できる道を模索している現状がうかがえます。

日本には存在しない独自のサプライヤーに注目

最後にカオスマップを紹介します。中国のEV市場には日本に存在しないサプライヤーが見受けられ、サプライチェーンも独自に張り巡らされています。
出典元:『iResearch:2020年中国新能源汽車行業白皮書』
まず、上段の左上「上游」が示すのはバッテリーの原料メーカーです。その隣の「中游」のうち、上枠内がバッテリーの生産メーカー、下枠内がEVのパーツメーカーになります。続いて、「下游」は、上枠内が新興自動車メーカーのくくりです。NIOやXpeng、Li Autoのロゴを確認できるでしょう。その下の枠内は現行メーカーです。その隣、水色文字の「后期市場」は、アフターサービスの企業群です。上枠は充電スタンドの提供企業であり、下枠内の企業はバッテリーの回収やリサイクルを担っています。

続いて、下段の左の枠内は、IT関連企業になります。これからの車はすべてインターネットにつながり、スマホと同じ機能を有するようになります。運転履歴もすべてクラウド上に保存され、車検や修理の場で利用されるほか、技術開発にも活かされます。このほか、エンターテインメントサービス、トラブル監視サービスを提供する企業も含まれています。中央の枠内は、自動運転技術、AI技術の開発提供会社です。右の枠内は高精度電子マップのサプライヤーです。

このカオスマップを見れば、中国EV市場には多くの企業が存在し、いかに網羅的にサービス展開されているかがお分かりいただけるのではないでしょうか。遅れを取る自動車大国・日本が、今後どのように中国と向き合っていくのか、動向に目が離せません。
李 延光(LI YANGUANG)
株式会社デジタルホールディングス 中国事業マネージャー兼グループ経営戦略部事業開発担当
天技营销策划(深圳)有限公司 董事総経理

2004年来日、東京工科大学大学院アントレプレナー専攻修了。IT支援やコンサルティング、越境EC、M&Aなど多岐にわたって従事したのち、2011年に株式会社オプト(現デジタルホールディングス)に入社。2014年より中国事業マネージャー兼中国深圳会社董事総経理を務める。日中間の越境ECの立ち上げ、中国政府関係及びテクノロジー大手企業とのアライアンス構築、M&Aマッチング、グループDX新規事業の立ち上げなどを担当。

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