リモートワークの可能性を切り開く「株式会社キャスター」 〜IPOから読み解く、デジタルシフト #13〜

多くの企業が目標の一つとして掲げ、憧れ、夢を見る言葉、「上場」。これを達成した企業は資金調達の規模が大きくなり、さらなる挑戦ができるとともに、社会的に認められたという箔が付く。何百万社とある日本企業のなかで、上場企業は約3,800社。非常に狭き門を突破した、選ばれし企業たちだ。

本記事では、デジタルシフトを実現しながら新規上場を果たした企業に焦点を当てていく。今回は、リモートワークを活用した業務代行サービスを提供する「株式会社キャスター」を取り上げる。同社は、2023年10月4日に東証グロース市場に上場した。初値は2,319円で公開価格の760円を上回った。

リモートワークに特化した事業を展開「株式会社キャスター」

キャスターは2014年に設立され、リモートワークに焦点を当てながら事業を展開してきた。日常業務から採用・経理などの専門業務まで幅広い仕事をオンラインでサポートするリモートアシスタントサービスの「CASTER BIZ」シリーズや、在宅勤務希望者と企業をマッチングするリモート派遣サービス「在宅派遣」、リモートワークに特化した求人・転職メディア「Reworker」などを提供している。

同社は「リモートワークを当たり前にする」をミッションとして掲げており、提供するサービスだけでなく、自社でもリモートワークを推進している。「1日も出社しない完全なリモートワーク形態」を「フルリモート」と定義し、2023年5月時点で、800人以上の従業員のうち、重要書類・備品管理に必要な人員を除いた従業員の98.7%がフルリモートで勤務しているという。数千人規模でのフルリモートワークを想定しており、リモートワーク運営に特化した独自のシステムや体制を構築していることを強みとしている。
出典元: https://caster.co.jp/service/
キャスターは、2022年8月期の売上高が約33億3,800万円で、営業損失は約1億6,200万円だった。2023年8月期は売上高が約41億7,900万円、営業利益が約200万円となっている。上場を発表した際は、直近の資金調達時からの大幅なダウンラウンドであると指摘された一方、2023年8月期の営業利益が黒字になったことや2024年8月期の業績予想が好感され、その発表後には一時ストップ高となった。

時間単位で業務を代行する「WaaS」事業

キャスターの主力事業は、クライアント企業の希望に応じて適切なリソース(Workforce)を提供し業務を代行する「WaaS(Workforce as a Service)事業」だ。顧客に中小企業が多いことが特徴で、2023年5月末時点でクライアント企業の8割以上が中小企業となっている。業務代行業界のなかで従来の外注サービスや派遣事業は、人数単位の見積もりが多く、数時間だけ発生するタスクなどへの対応が難しかったという。そのため、大企業の利用が多く、人手不足に悩む中小企業は利用しにくかったとのことだ。これに対し、キャスターのWaaS事業では、人数単位ではなく、分単位や年単位といった時間単位でサービスを提供することで、中小企業からの小ロットの業務を受けることを可能にした。
出典元: https://cast-er.com/
また、実際の案件では、キャスターの従業員がディレクションを担当し、依頼内容に合わせて、キャスターの抱える働き手のアサインや具体的なタスクの指示、成果物の品質確認を行う。これにより、クライアント企業はキャスターに対して仕事の依頼を行うだけでよく、細かい要件定義や働き手のマネジメント、契約管理が不要となった。これらの負担を軽減したことも中小企業のニーズを満たした一因だ。
出典元: https://cast-er.com/

WaaSによる成長戦略

キャスターは今後の成長戦略として、WaaS事業のさらなる拡大を挙げている。WaaSという仕組みの対応領域を広げようとしており、コンサルティングやエンジニアリング領域への進出を検討中だ。さらに、海外展開も進めている。コロナ禍でリモートワークによる国を跨いだ雇用が広がったことや、賃金の上昇で採用が難しくなっている国が増えていることを背景に、2022年9月から海外事業を開始した。ドイツ支店・ドバイ支店を設立し、主力サービスである「CASTER BIZ アシスタント」をヨーロッパ各国に提供している。これらを中心に、リモートワークを活用する範囲を拡大していくことで売上の成長を目指している。コロナ禍で急速に普及しながらも、現在では見直しの動きもある「リモートワーク」。2014年の創業以来フルリモートを行っているキャスターは事業成長だけでなく、その働き方も注目されている。

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