自動運転の法規制やガイドラインはどうなってる?改正点も解説

道路交通法ではこれまで自動運転に関する規定がなく、人が運転に関与しない自動車が公道を走行することを想定していませんでした。そこで道路交通法が改正され、2020年4月から施行されました。どんな規定が追加されたのか、改正のポイントを解説します。

日本での自動車運転に関する交通ルールは、主に道路交通法と道路運送車両法に記載されています。しかし、1960年に施行された道路交通法では人が運転に関与しない車両の運行は想定されておらず、自動運転を普及させるためには、法改正の必要が叫ばれていました。そんななか東京オリンピックの開催を控え、国をあげて世界に先駆けてレベル3の自動運転車が走行できる環境づくりを行うという機運が生まれ、道路交通法や道路運送車両法の改正が実施されました。こうした法改正は世界に先駆けたもので、2017年に「Audi AIトラフィックジャムパイロット」という自動運転システムを搭載した量産車を発表したドイツのアウディは各国の法整備が追いついていないという事情から、レベル2に相当するADASを実装して販売されました。改正道路交通法や改正道路運送車両法にはどんな規定が追加されたのか、改正のポイントを解説します。

日本の自動運転に関する法規制やガイドライン

自動運転レベルが0から2に該当する車両の場合、運転する主体はあくまで人です。車両に搭載されたシステムは安全な運転を補助、支援する技術として利用されていました。しかし、自動運転レベルが3に到達すると、運転の主体も人間からシステムへと移行することになります。そのため、従来の交通ルールに関する法律に規定がなく、公道での走行が不可能となっていました。

道路交通法

道路交通法は1960年12月に施行された法律で、車や自転車、あるいは歩行者が、道路上を安全かつ円滑に走行、歩行できるようにするためのさまざまなルールが記載されています。なお1964年には道路交通に関するジュネーブ条約への加盟に合わせて、大幅に改正されたという経緯があります。

道路運送車両法

道路運送車両法は、道路を走る自動車の保安基準や点検、整備に関する基準を定めた法律で、自動車が公道を安全に走行するために欠かせないさまざまなルールが規定されています。

道路法

道路法は、道路の定義のほか、道路整備に関する手続きや管理、費用負担などが定められている法律で、1952年6月10日に公布されました。2020年(令和2年)の改正では、自動運転車の運行を補助するための施設(磁気マーカなど)を道路附属物として位置付ける記述が追加されています。

自動運転車の安全技術ガイドライン

従来の車両の安全基準では、人間が操作を行うこと前提としています。自動運転がレベル4、そしてレベル5になると、操作は人間からシステムに変わるため、車両の安全基準も見直す必要があります。そこで国土交通省は自動運転車の導入初期段階において車両が満たすべき安全要件を2018年9月に発表しました。それが自動運転車の安全技術ガイドラインです。同ガイドラインでは自動運転車の安全性に関する基本的な考え方のほか、運行設計領域(ODD)の設定や、サイバーセキュリティなど、自動運転車の安全性に関する10項目を明記しています。

自動走行システムに関する公道実証実験のためのガイドライン

自動運転の実現には、さまざまなデータを集め、技術の信頼性や安全性を高めるための実証実験が欠かせません。ラボや研究施設でのテストはもちろん、公道を使った実証実験も世界中で進められています。日本でも自動運転先進国になるため、各地で実証実験が行われていますが、警察庁が公道での実証実験のルールとして発表したのが、自動走行システムに関する公道実証実験のためのガイドラインです。同ガイドラインでは、道路使用許可の手続き内容のほか、道路使用許可が不要なケースの条件、都道府県警察への事前相談窓口などに関する記載があります。

改正道路交通法で定められた自動運転の法規制

これまで道路交通法では、人が車両を運転することを前提にして、さまざまな安全運転の義務や交通ルールが定められていました。そのためシステムが人に代わって運転を担当する自動運転システムに関する記載はなく、そのままでは自動運転車を走行させることができませんでした。そこで公道を安全に走行できるようにするため、道路交通法が改正され、2020年4月から施行されました。

自動運転レベル3の自動車の公道走行が解禁された

自動運転システムによる走行も「運転」と定められたことによって、公道でレベル3の自動運転ができるようになりました。

自動運行装置による走行も「運転」に含まれる

改正道路交通法では、自動運転システムのことを「自動運行装置」と表現していますが、「自動運行装置」による公道の走行も「運転」と定義されました。これまでドライバーが運転に際して行っていた安全に対する認知や予測、判断、操作といった行動をすべて装置が代替できると判断されたわけです。この記載が加わったことで、自動運転レベル3の車両も公道での走行が認められることになります。

自動運転中のドライバーにも義務を課している

自動運行装置が安全に対する認知や予測、判断、操作をすべて代替できるからといって、ドライバーが運転にまったく関与しなくても良いわけではありません。改正道路交通法では自動運転中のドライバーにも義務を課しており、自動運転中にシステムから警報が鳴るなどした場合には、すぐにドライバーが通常の運転に戻らなければならないという記載が追加されています。そのため走行中の飲酒や居眠りは認められず、もしも自動運転中に事故や違反が起こった場合には、運転者の責任が問われることもあります。

自動運転システムの作動状況の記録が義務付けられた

もうひとつの改正のポイントは、車両の保有者に自動運行装置(=自動運転システム)の作動状態を記録して、保存することが義務付けられたことです。もし、事故や交通違反が発生したときに、それが自動運転システムによるものなのか、それともドライバーが車両を運転していたのか、証拠を残して、確認するための処置です。もし、警察官から記録の提示を求められた場合には、この記録を提示する必要があります。

運転中の車載テレビやスマートフォン閲覧が可能に

自動運転システムがすべての運転操作を代替することが認められたため、レベル3の自動車では、高速道路など一定の条件の下であれば、ドライバーがハンドルから手を離すなどをしても、構わなくなりました。そのため、自動運転中であれば、車載テレビやスマホの閲覧も可能になったと解釈できます。

道路運送車両法で定められた自動運転の法規制

もうひとつの交通ルールに関する法律である道路運送車両法も2020年4月に改正され、自動運転に関する記載が盛り込まれています。

保安基準の対象に自動運行装置が含まれた

改正道路交通法と同様に、道路運送車両法でも自動運転システムのことを「自動運行装置」と表現し、その定義を「プログラムにより自動的に自動車を運行させるために必要な、自動車の運行時の状態及び周囲の状況を検知するためのセンサー並びに当該センサーから送信された情報を処理するための電子計算機及びプログラムを主たる構成要素とする装置」で、また「自動車を運行する者の操縦に係る認知、予測、判断及び操作に係る能力の全部を代替する機能を有し、かつ、当該機能の作動状態の確認に必要な情報を記録するための装置を備えるもの」という記載が加わっています。どういう状態の自動運転車が安全に行動を走行できるのかという基準が保安基準として定めるようになりました。

自動運行装置の安全基準は国土交通省が定めている

なお、自動運行装置の安全基準については国土交通省が定めています。それによると、「走行環境条件内において、乗車人員及び他の交通の安全を妨げるおそれがないこと」や「走行環境条件外で、作動しないこと」「運転者の状況監視のためのドライバーモニタリングを搭載すること」などといった記載が見られます。

電子検査に必要なデータの管理について定められた

従来は電子的な検査といえば、警告灯の確認など簡易な方法でしか行われていませんでしたが、自動運転車になると自動運転に必要な機械がたくさん載っています。そこで、自動車技術総合機構という独立行政法人が、それらを精密に管理するための情報管理を行うことになっています。

自動運転車の点検整備に関する情報提供の義務化

もうひとつの改正のポイントは、自動運転車が安全に走行するために、メーカーから整備事業者への技術情報の提供を義務付けたことがあげられます。

プログラムのバージョンアップに関する許可制度の設定

これまではプログラムの改変による改造は想定されていませんでしたが、今後は自動運行装置などに組み込まれたプログラムのアップデートやバージョンアップといった改造が行われることが想定されます。そのためこのような改造を適切に行えるようにするため、アップデートできる仕組みを設ける場合、許可が必要になりました。

世界の自動運転に関する法規制の現状

ドイツでは、日本の道路交通法と道路運送車両法に相当する法律が改正されたものの、国際基準が策定されておらず、まだ自動運転車が公道を走行できないと言われています。そのため日本の自動運転の法規制は海外よりも進んでいると考えられています。また国連会議においても自動運転に関する規定は日本が主導で話を進められているという報道もありますが、現状のルールを自動運転に合わせて、どのように変更していくかは、模索が続いてます。各国の現状を解説します。

国際基準の制定

2020年6月に開催された国連の自動車基準調和世界フォーラムの会合で、初めて自動運行装置(レベル3)と、サイバーセキュリティやソフトウェアアップデートに関する国際基準が成立しています。それによると、自動運行の装置は「少なくとも注意深く有能な運転者と同等以上のレベルの事故回避性能があること」や、「ドライバーモニタリングシステムを搭載すること」、「サイバーセキュリティ対策」などが主な要件になっています。

アメリカの自動運転に関する法規制

アメリカでは、自動運転車に関するルールはそれぞれの州独自で制定されているのが、現状です。車の移動は州をまたいで行われるため、早急に統一ルールとして連邦法を制定することが求められてきました。そこで、2017年9月には、自動運転車の安全対策を規定した連邦法「車両の進化における生命の安全確保と将来的な導入および調査に関する法律(SELF DRIVE Act)」が米国下院で法案可決されました。ただ、上院では可決には至っておらず、まだ成立していません。

中国の自動運転に関する法規制

中国は、国策として自動運転産業の育成に力を入れています。2015年には「中国製造2025」という政策を打ち出し、2025年までに新車販売台数の半分をレベル2もしくはレベル3の自動運転車にする方針です。また、レベル4を同年までに実用化して、2030年には新車販売台数の20%にまで増やす計画があります。そのため法整備にも積極的で、道路交通安全法の改正案を公表して、自動運転に関する条文を盛り込んでいます。

ドイツの自動運転に関する法規制

ドイツでは2017年に道路交通法や道路運送車両法を改正し、レベル3の自動運転車の走行が可能になっています。ただ、EU各国と足並みを揃えるため、本格的な運用には至っていないとされています。そんななか、レベル4の車両の公道走行に関する道路交通法の改正についても議論が進んでいます。自動運転車に関する技術的な要件のほか、保守やデータの処理法に関する規定なども盛り込まれる見込みです。

自動運転レベル4に対応する法改正は?

ホンダが自動運転レベル3の技術を搭載したレジェンドを世界に先駆けて発売しましたが、台数が限定されているなど、一般的な普及にはまだ時間がかかると考えられています。そのため、現状の法整備も自動運転レベル3までを対象にしています。今後は実質的な自動運転とされる、レベル4の実現も視野に入ってくるため、法整備に関するさらなる議論も進める必要があります。警察庁がレベル4の自動運転車を地域の移動サービスで使用するための許可制度を創設する方針を固めたとの報道もあり、注目が集まっています。

自動運転に関する法規制を理解しておこう

自動運転の実現には法改正が必要でしたが、2020年4月に世界に先駆けて、道路交通法と道路運送車両法が改正され、公道での自動運転が可能になっています。今後もレベル4、レベル5と自動運転が進化すると同時に再び、法改正の必要があるかもしれません。技術の革新はもちろん、法規制の動きについても注視しておくことが自動運転の理解には欠かせないでしょう。

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