クルマがスマホ化!? ソニー・ホンダのEV「アフィーラ」が「移動」の概念を変える

2023年1月に開催された、世界最大級といわれるテクノロジーの見本市「CES 2023」でソニー・ホンダモビリティが発表した新ブランドの「AFEELA(アフィーラ)」。会場ではセダン型のプロトタイプのモデルが展示され、大きな話題を呼びました。洗練されたミニマルデザインの車体前面に外部とのコミュニケーションが取れる「メディアバー」を搭載した姿は、まさに未来そのもの。「高付加価値EV」をコンセプトにした AFEELAとは、どのようなEVなのでしょうか。「移動空間を感動空間に進化させる」と語る、代表取締役会長兼CEOの水野 泰秀氏を直撃しました。

ざっくりまとめ

- これからの時代のクルマは移動のためだけの乗り物ではなく、車内でさまざまなコンテンツが楽しめるモビリティに進化していく。中国では「クルマのスマホ化」が進んでいるが、日本も同様の未来を辿ると予測。

- AFEELAのプロトタイプは45個のカメラ、センサー等を搭載しており、膨大なデータが取得可能。また、アメリカのゲームメーカー「Epic Games」の持つ高い画像処理技術を活かして、さまざまなコンテンツを提供していく。

- AFEELAは北米で2026年春デリバリー予定。日本でも同年の秋口を予定している。ターゲットは固定せず、ソニー・ホンダモビリティを面白いと感じてくれるファンの存在を大事にする。

- EVの普及とエネルギー問題は密接な関係にある。日本はEVのインフラ整備の課題が大きく、クリーンエネルギーの問題もあるため、普及にはまだ時間がかかると予想。

ウォークマンが音楽の楽しみ方を変えたように、AFEELAが移動の概念を変える

――ソニー・ホンダモビリティ株式会社を立ち上げた狙いを教えてください。

2022年に設立したソニー・ホンダモビリティは、両社の思惑が一致したところから生まれた新会社です。ソニーの持つソフトウェアの知見と、ホンダの持つハードウェアの知見を組み合わせて、新しい時代のクルマを生み出す。そういった想いから設立されました。

――AFEELAのコンセプトである「高付加価値EV」とは具体的にどのようなものでしょうか?

自動運転技術やADAS(※1)などドライビング面での価値はもちろん、よりエンタテインメント性の高いソフトウェアをはじめとする、これまでにない付加価値を提供していきます。クルマの変遷を見ると、ガソリン車、ハイブリッド車、EVという流れがありますが、基本的にEVは自動運転技術やエンタメ的なコンテンツと非常に相性がいいんです。これからの時代のクルマは、移動のための乗り物から大きく変化をしていくでしょう。携帯電話が通話機能だけでなくさまざまな機能を持つようになり、「スマホ」に進化したのと同じです。

※1 ADAS: Advanced Driving Assistant System。運転手をサポートする、先進運転支援システムのこと。

――ソニーのウォークマンによって、音楽は室内だけでなく屋外でも楽しめるようになりました。AFEELAによってクルマの概念も大きく変わっていくのでしょうか?

皆さん、電車に乗るときは本を読む人もいれば、スマホを触る人もいるし、友だちと会話をする人もいますよね。それと同じ感覚で、クルマに乗って映画や音楽を楽しみながら、運転の疲労やストレスを感じることなく快適に目的地まで辿り着けるようになるでしょう。特にコロナ禍のような時代には「自分の空間」はとても貴重ですので、その空間のなかで新しい価値を提供していきます。

完全な自動運転技術の確立はまだ先ですが、すでに現在の技術でも運転のアシスト機能は充実しているので、ドライバーの疲労は大きく軽減されます。バブル期には「デートカー」なんて言葉があったように、かつてはドライブという行為が一つの楽しみであり、デート空間だったんです。その頃の楽しみは音楽を聴くことくらいでしたが、我々が先頭に立って移動空間を感動空間に変えていきます。

――中国ではいわゆる「クルマのスマホ化」が進んでいますが、ソニー・ホンダモビリティの目指す先も同様でしょうか?

僕は以前、中国に10年ほど住んでいました。中国ではEVメーカーの「NIO」をはじめとする新興企業が成長しているので、単なる移動手段としてのクルマではなく、車内で映画を楽しめるなどエンタメ性に寄った価値を提供しています。新しい付加価値を高めることで、伝統的な自動車メーカーとは違うフィールドで勝負しているんです。当然、安全性や電費、自動運転技術の向上を目指しますが、今後は日本でも「移動空間でどのような価値提供ができるのか?」といったことが争点になっていくでしょう。

アメリカのテスラなどのEVに特化したメーカーや、中国のNIOなどの新興企業、そして伝統的なOEM企業がありますが、ソニー・ホンダモビリティはその中間に位置すると考えています。ソフトウェアに強いソニーとハードウェアに強いホンダが手を組むことで、双方の強みを活かした製品が生み出せます。僕の世代ですと「ソニー=ウォークマン」のイメージですが、現在のソニーはソフトウェア企業にシフトをしており、ホンダと一緒になることで非常に面白くなると僕自身も期待しています。

最先端の画像処理技術で、移動空間をより面白く

――ソニーとホンダが手を組むことで、具体的にどのような相乗効果が考えられますか?

1月に発表したAFEELAのプロトタイプには45個のカメラ、センサー等を搭載しており、膨大なデータを取得できます。僕はホンダでずっと四輪事業に携わってきましたが、ホンダのエンジニアだったらこのデータを「どんなに深い霧のなかでも1kmの白線追跡が可能です」といった実用的な方向に活かすと思うんです。けれども、ソフトウェアに強いソニーなら他のもっと面白いことを考えるでしょう。ソフトウェアの世界には、ホンダ出身の我々が知らない世界もまだまだたくさんあります。両社は互いに異なった視点を持っているので、相乗効果は非常に期待できます。

――今お話に出た、AFEELAのプロトタイプのデザインコンセプトについて教えてください。

できるだけ無駄を省いて美しい曲面を見せるため、シンプルなデザインを心がけました。セダンタイプにしたのも、AFEELAの第一号ということでトラディショナルなデザインにこだわったためです。車体のフロントにはメディアバーを搭載しており、外部とのインタラクティブなコミュニケーションを可能にしています。

法規的に可能であれば、ドライバーが自分の好きなメッセージを流したり、スポーツの試合結果を表示したり、天気予報を表示したり、どんどん自由に使っていただきたいですね。通常の自動車メーカーだとバッテリーの充電状態などを表示させる方向に進むかと思いますが、それぞれのドライバーにもっと自由に使ってもらえたらと思います。

――Epic Gamesとの協業についても教えていただけますか?

Epic Gamesの「Unreal Engine(※2)」のような、リアルとバーチャルの壁を壊していく技術に注目しています。彼らの持つ高い画像処理技術をAFEELAにも活用していきます。僕もPlayStation 5で遊んでいますが、やはりグラフィックがすごいですね。初代プレステとは雲泥の差があります。安全には最大限配慮しながらこの技術を活用していきます。

※2 Unreal Engine:グラフィック性能に優れたゲームエンジン。ゲーム開発を効率化するツールとして、大きなシェアを誇っている。

――Epic Gamesの画像処理技術を活用すると、どのようなことが可能になりますか?

分かりやすい例を挙げますと、見えない部分を見える化できるようになります。これは実現するかどうかは別として、クルマ内部のサスペンションの動きなども再現可能です。カーブするときにサスペンションがどのように動いているのか、普段は見られない部分をリアルに視覚化することができるでしょう。

多くのファンに「おもろいやん」と思ってもらえる企業でありたい

――運転以外の時間、例えば充電中でも何かAFEELAの活用法はあるのでしょうか?

フル充電していれば、災害時には家に給電することも可能でしょう。ガソリン車であれば10分もあれば給油は完了しますが、EVは急速充電でもフルチャージまでに30分は必要なので、その間に車内で何をするのか。映画をまるまる見るには短いし、ショート動画だと時間が余ってしまう。海外を見ると30分間を車内で過ごす人は多いので、そこには新しいビジネスの機会、エンタメの可能性があると考えています。

――AFEELAは北米で2026年デリバリーとのことですが、日本でのデリバリー時期を教えてください。

現時点では、2026年の秋口以降、遅くとも年末までには出したいと考えています。発売直後に大きく売れるような商品ではなく、徐々に浸透していく商品だと認識していますので、購入していただけるお客さまはもちろんのこと、購入しなくてもサポートいただけるファンを大事にしたいと考えています。

大切なのは、多くの人々に、関西弁でいうところの「おもろいやん」と思ってもらえることです。「funny」よりも「interesting」のニュアンスですね。北米でも日本でも「ソニー・ホンダモビリティが何か興味深いことをやっている」という認識のファンを増やしていくつもりです。

――具体的に想定しているターゲット像はありますか?

年齢に関係なく、モノに対してこだわりのある方をターゲットと考えています。プレステの『グランツーリスモ』シリーズのファンもその一例です。僕らがチャレンジする様子を見て、「あの会社は何かやってくれそうだな」と感じていただければ。今回のWBCで野球ファンが増えたのと同じです。今まではクルマというと男の趣味のイメージでしたが、女性でも、子どもでも僕らのことを面白いと感じて、ファンになってくれれば属性は問いません。

日本では避けて通れない、クリーンエネルギーの問題

――では、今後の展望を教えてください。

短期的にはAFEELAというブランドを市場に浸透させることです。SNSをはじめ、いろいろな媒体を活用して早く深く浸透させていきます。2026年の北米を皮切りに、中長期的には海外展開とラインナップの拡大も視野に入れており、中国を含めアジアの国々にいつ進出するのかを検討中です。今後も多くの国で僕らのファンを増やしていきたいですね。

――アジアでのEVの浸透度はどの程度でしょうか?

個人的に中国以外の国では浸透に時間がかかると思っていましたが、インドをはじめとするアジアの国々でも電動化がかなりの勢いで加速しています。EVのためのインフラ整備には莫大なお金が必要なので、政府が本気になると加速する傾向にありますね。

日本はその点課題が大きいと思います。アメリカはバイデン政権がEVの促進に力を入れていますし、中国でも中央の指令で地方政府が電動ステーションを増やしています。ただ、日本の場合はクリーンエネルギーの問題があり、我々もそういった視点から考える必要があります。

――エネルギーの供給元も、企業と消費者が考える時期に来ているわけですね。

EVの時代は必ずやってきます。しかし、EVといってもダーティなエネルギーを使い続けるのはどうなのか。いずれにせよエネルギー問題は避けて通れない問題なので、これからも一人ひとりが考えていく必要があるでしょう。

水野 泰秀

ソニー・ホンダモビリティ株式会社 代表取締役会長兼CEO

1986年本田技研工業入社後、主に営業・販売領域業務に従事し1995年にタイへ赴任。一度日本に戻るも、台湾、マレーシア、オーストラリア、中国と立て続けにアジア各国に駐在。中国本部長在任中は、中国専用電気自動車の開発やコネクト・ソフトウェアのための合弁会社を設立。通算20年以上の海外駐在を経て、2020年の帰国後は四輪事業本部長として、電動車の導入や、課題を抱える地域及び四輪事業の立て直しに邁進した。2022年よりソニー・ホンダモビリティ株式会社の代表取締役会長兼CEOを務める。

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