日本のデジタル通貨発行の動きはどのように進んでいるのか?
2021/3/1
世界でデジタル通貨の発行に向けて各国中銀が研究を進めている中で、日本銀行もCBDCの実証実験を行いつつ民間企業も共同で研究をスタートさせています。現在具体的にどのような動きになっており、どのような計画や課題があるのかを解説します。
Contents
デジタル通貨の定義
しかし、デジタル通貨の明確な定義はまだ定まっていません。
現段階で考えられているデジタル通貨とは、「現金ではないが、現金と同等に扱える電子マネーや仮想通貨(暗号資産)」のような説明になるでしょう。
デジタル通貨の種類は「電子マネー」、「仮想通貨(暗号資産)」、「CBDC(中央銀行が発行するデジタル通貨)」の3つに大別されます。
それぞれ特徴は千差万別であり、また利用用途も全く異なります。
以下で電子マネー、仮想通貨、CBDCにどのような特徴があり、どのように利用されているのか、もしくは利用される予定なのかを説明します。
デジタル通貨としての電子マネー
「交通系」、「流通系」、「クレジットカード系」、「ORコード系」です。
交通系はSuicaやPasmo等バスや電車で利用できる電子マネーです。
交通系を利用するユーザーの利点として事前に日本円で電子マネーをカードにチャージすることで、移動するための改札や切符の購入等の手間が省けます。
利便性の向上のためにこの電子マネーが使われています。
流通系はスーパーマーケットやコンビニエンスストアで買い物を行うときに利用できる電子マネーです。
セブンイレブンのnanacoやWAON等が流通系の電子マネーの代表例です。
流通系電子マネーのメリットは「買い物時にポイントが貯まる」点が挙げられます。
また電子マネーで支払いを受ける側は顧客の買い物データ等を得ることが可能となり、データとして蓄積することが可能になります。
クレジットカードは電子マネーに大別されますが、似て非なるものです。
電子マネーは「先払い式」となっており、日本円から各種電子マネーにチャージすることで電子マネーを利用することができるようになります。
しかしクレジットカードは「後払い式」となっており、店舗等でクレジットカードを利用し、後日引き落としが行われ実際に現金が出ていきます。
そのためクレジットカードには与信審査がありますが、その他の「先払い式」の場合決済不履行のリスクがないため審査等は必要なく誰でも利用することが可能です。
QRコード系はpaypayやLINEpay等の決済手段です。
QRコード決済のメリットは高い還元率が挙げられます。
現在では様々なQRコード決済の企業が参入してユーザーの争奪戦が行われています。
ユーザーの手軽に利用しやすい決済方法のため、今後も拡大すると期待されている決済手段です。
デジタル通貨としての暗号資産(仮想通貨)
現在では暗号資産の種類は草コインと呼ばれる種類を含めて3,000種類以上が存在しています。
暗号資産の種類としては「決済通貨型」、「匿名型」、「プラットフォーム型」、「ステーブルコイン型」、「企業トークン型」と様々な用途に促した暗号資産が開発されています。
暗号資産やトークンは何かしらの社会的な課題を解決するために開発されており、それぞれ解決したい課題や目的がホワイトペーパーに記載され発行されています。
暗号資産の大きなポイントは「データの改竄ができないこと」、そして「ブロックチェーン上でデータが繋がっているためトレースが可能なこと」です。
中央銀行のデジタル通貨(CBDC)
中央銀行のデジタル通貨を満たすものは3つの条件があることを日本銀行のホームページで説明されています。
1.デジタル化されていること
2.円などの法定通貨建てであること
3.中央銀行の債務として発行されていること
この3つがCBDCの条件を満たすものと定義しています。
中央銀行が法定通貨のデジタル化を行うメリットは下記の内容が考えられています。
1.信用力のあるデジタル通貨を発行して現金を無くすことにより、現金を発行することで発生するコストやリスクを無くすことができること
例として現金輸送コストや、現金が存在することによって強盗等犯罪面の抑止力にもなるためです。
2.AMLや脱税等を防止できること
ブロックチェーン技術を利用してCBDCを発行するため、CBDCで決済が行われるようになれば、現金の移動した経路が全てトレースできるようになります。
そのため誰から誰に現金が移動しているか明確になるため、マネーロンダリングの防止にも繋がります。
現在世界各国でCBDCの研究が進められています。
その中でも中国の動きが加速しており、実証実験まで完了するフェーズまできているなど、国によってもそのスピード感が異なっています。
CBDCを発行するための課題でも、ユーザビリティやユニバーサルアクセス(誰でもどこでも自由に利用できる方法)、セキュリティ面等様々な点で挙がってくるため、すぐに世界各国が導入できる環境でもないでしょう。
日本のデジタル通貨の動き
日本銀行は、CBDCの発行は現時点で検討していません。しかし、技術革新のスピードの速さなどを考えると、CBDCに対する社会のニーズが急激に高まる可能性があるため、研究は行っていく方針が示されました。
日本銀行の役割としては決済システム、金融システム全体の安定化を行うことが命題であるため、今後の環境の変化に迅速に対応ができるよう準備をしている状況です。
また、日本銀行が民間の行う共同研究にオブザーバーとして入るなど、民間との協力姿勢を強める動きも出ています。
官民一体でデジタル通貨の研究が進んでおり、日本は他国と比較してもデジタル通貨のフレームワークの構築が早いという意見があります。
2021年度に行う民間企業共同の実証実験
これは民間発のデジタル通貨を発行する取り組みとなっています。
デジタル通貨フォーラムにはメガバンクや大手通信会社、電通や総合商社が名を連ねており、オブザーバーとして金融庁、財務省、経済産業省、日本銀行、総務省等が参画しているため、日本でも今後の動きに注目が集まっています。
デジタル通貨フォーラムで民間発のデジタル通貨を発行する目的としては決済サービスの基盤の一元化です。
一元化によりユーザビリティを高めたいという意図があります。
日本円を裏付け資産としてデジタル通貨は発行される計画となっています。
2022年に実用化を目指す動きを取る方向性で動いており、今年の4月からは業種を絞った実証実験が開始される予定です。
日銀独自で実証実験がスタート
第一段階は今年の早い段階でスタートする計画となっており、1年程度行った後に第二段階に移る計画しています。
第一段階は概念実証フェーズ1となっており、実験環境の構築、決済手段としての「発行」、「送金」、「還収」の基本機能の検証を行う予定です。
第二段階は概念実証フェーズ2となっており、CBDCの周辺機能を付加して実現の可能性を検証するフェーズとなっています。
CBDCの種類
日本銀行もこの2種類の取り扱いをどのような形で行うか検討されており、それぞれ特徴や課題があるため解説します。
ホールセール型CBDC
ホールセール型CBDCは利用者が限定的であるため、民間銀行が日本銀行に預けている当座預金のデジタル通貨版のようなものです。
ホールセール型CBDCはヨーロッパでは実際に研究が進んでおり、セキュリティートークンを資金と証券の決済を迅速に行うことができるような動きも出ています。
分散型台帳技術を用いたホールセール型のCBDCは機関投資家や金融機関の有価証券、デリバティブ商品の決済でも有益となると考えられており、効率性の向上が期待されています。
一般利用型CBDC
一般利用型CBDCはデジタル日本円と言い換えることが可能であり、日本円を裏付け資産としてブロックチェーン 上で発行された法定通貨のデジタル版であり、現在の現金と同様の機能を有しています。
利用者は現在現金を自由にやりとりできるように、スマートフォンやカード等を利用して決済をスムーズに行うことを目的とするものであり、日常の生活で利用する決済手段として発行ができないか検討されています。
CBDC発行での課題
日本の金融システムは現在二層構造の仕組みで通貨が供給されています。
日本銀行が通貨を発行し、民間銀行へ日本円を供給し、民間銀行を通して国全体に資金が流れていく仕組みです。
しかし日本銀行が一般利用型CBDCにおいて直接的に供給するようになった場合、現在中間機能を果たしている民間銀行の立ち位置や、役割が薄くなるため金融システム全体に影響が出る可能性があります。
またこれまでの既存のフレームワークから大きく逸脱する可能性があることからの制度設計の難易度、またオフラインでのCBDCの決済方法の構築、ユニバーサルアクセスが可能なシステム設計ができるのか等課題は多く残されています。
デジタル通貨発行の担い手
そしてCBDCを発行するとした場合にデジタル通貨発行を日本銀行が全て担い直接的に国民や一般企業に供給するのか、現在の2層構造を維持して民間銀行を挟んで流動性を供給するのかという問題があります。
民間銀行を利用せず、現在の2層構造を変化させた場合に、民間の銀行モデルが崩壊する可能性があります。
民間の銀行モデルは預金者からお金を集めて、必要な企業や個人へ貸し出し利鞘を得るのが基本的なモデルですが、CBDCで日本銀行が直接的に関与することで、預金が集まらなくなるためビジネスモデル自体が成り立たなくなります。
専門家の意見として、個人の信用審査、口座開設や口座管理等一部分を民間銀行に日本銀行が委託するようなこともあるのではないかという意見もあります。
このCBDC発行から金融システムに与える影響度合いは選択次第で大きくなるため、民間銀行としてビジネスモデルの変革を求められる可能性もあるでしょう。
民間の電子マネー等との共存、補完が必要
しかし、電子マネーとCBDCは本質的には異なっており、共存が可能だという専門家の意見があります。
第一にCBDCは現在の日本円という現金であり、電子マネーはその現金から転換したものであるため、現金の部分がCBDCに取り替わるだけです。
そして民間が発行する暗号資産のようなものが発行された場合でも、自国通貨の信任次第では信用性が高くなる可能性もあります。
現在でもベネズエラのような自国通貨の信任がなくなっている法定通貨を保有している国民は、法定通貨を売却してビットコインを購入する動きが続いています。
ベネズエラの例のように日本銀行が発行して日本円が裏付け資産とされているから信用できる国もある一方で、非中央集権でシステムが動いている裏付け資産のない方が信用できるユーザーもいるため、共存は可能でしょう。
制度設計面での難易度の高さ
一方で、デジタル通貨というものの定義から、発行した場合の法律の枠組み、制度設計等の議論は現段階では深く展開できていません。
順序としてデジタル通貨発行のスキームが確定した後に制度設計に入るため、時間はある程度かかる状況です。
ユニバーサルアクセスの確保
デジタル通貨発行において、このユニバーサルアクセスの確保は日本銀行でも大きな課題として挙がっています。
一例として、地方の高齢者がオフラインでデジタル通貨を現金と同様に利用できるようにするにはどうすればいいか、というものがユニバーサルアクセス確保の課題の一つです。
このように現代の決済の仕組みを根底から変化させることは、難題であり、まだ具体的な対策は示されていません。
まとめ
まだまだ普及までの道のりは長く実証実験がこれからスタートするフェーズです。
しかし日本のデジタル通貨の研究のスピードは技術、法整備の両面で他国と比較しても早いものであるため、数年後には大きな変化が生まれているかもしれません。
その変化は私たちの生活スタイルに直接的に影響するものです。
今後の日本のデジタル通貨発行の動きに注目してみましょう。
1976年生まれ。岡山県出身。2007年に株式会社テコテックを設立。証券決済及びFXシグナル配信システム、株式売買履歴管理サービスなどFinTech関連の開発・運営実績多数。近年は分散技術とブロックチェーン開発にも力を入れており、2016年には暗号資産交換業を営み、技術だけでなく各国における法律・会計面など幅広い知見を持つ。