「8割以上の精度で、赤ちゃんが泣く理由が判明」CES2021イノベーションアワード受賞。注目の日本発ベビーテック企業とは

テクノロジーの力で子育てを変えていく。そんなミッションを掲げ、泣き声診断アプリや赤ちゃん向けスマートベッドライトなど、画期的なプロダクトを世に送り出してきたファーストアセント社。「CES2021 Innovation Awards」を受賞するなど、世界的に注目を集めるベビーテック企業である同社の強さの秘密とは。服部 伴之代表にお話を伺いました。

ざっくりまとめ

-会社設立当時、育児の問題をテクノロジーで解決しようと考える人はほとんどいなかった。エビデンスに基づいた育児情報のために、生のデータを集め始めたのが最初のプロダクトである「パパっと育児」
-「赤ちゃんが泣いているのをなんとかしてあげたい」。集めた泣き声データをAIに学習させ、アルゴリズムを構築。精度を高め、今では泣き声診断の精度は8割以上
-2016年からCESに設けられていたベビーテックカテゴリに着目。スマートベッドライト製品で「CES2021 Innovation Awards」を受賞
-テクノロジーで赤ちゃんをよりよく理解し、すべてのお母さんやお父さんが、前向きに楽しく、笑顔で子どもと触れ合う時間を、増やしていきたい

子育てには、圧倒的にエビデンスが欠けている

——御社の設立は2012年。ベビーテックという言葉も生まれていないタイミングで、この分野へと参入したのはなぜですか?

会社を立ち上げる直前に、子育てを経験したことが最大の理由です。当時の私は38歳で、起業家としては決して若くない年齢でした。だから、どうせ事業を起こすのなら、お金儲けよりも、社会的に価値がある事業をつくりたいと思ったんです。じゃあ、今、自分自身が何を課題と感じているのかと考えたときに、真っ先に思い浮かんだのが育児でした。

当時は、育児の課題をテクノロジーで解決しようと考える人はほとんどいませんでした。せっかくなら私は、人がやらないことにチャレンジしたかった。そんな想いは、クライミングや登山において、誰も登っていないルートを初めて登ることを意味する「ファーストアセント」という社名にも込められています。

——育児をするなかで、どんなことを課題と感じていたのでしょうか?

特に気になっていたのが、エビデンスに基づいたサポートを受けづらかったことです。育児に関して、Aという意見を主張する人もいれば、それと矛盾するBという意見を主張する人もいて、誰を信じていいのか分からない。そんな風に思い悩んだことのある方は少なくないと思います。それに私自身が元々は研究者なので、「その原因と結果の関係って正しいの?」ということを良く考えていました。

ネットでいろいろと調べていて気づいたことは、研究者の視点で見ても、その情報が信じるに値するものか否かを判断する事が、ものすごく大変だということです。そこで厚生労働省のデータなども見たのですが、私が当時知りたかったような細かいデータは存在せず、途方にくれてしまったわけです。

それならまずは自分で育児に関する生のデータを集めてみよう。そう考えて開発したのが、育児記録アプリ「パパっと育児」です。

必要なデータは、サービスを通じて集めていけばいい

——最初からデータ収集を目的にリリースしたアプリだったんですね。

その通りです。だからこの時点では、サービス単独での収益化は目標としていませんでした。まず5年間はデータを集めることに注力する。その前提で、事業のポートフォリオも組み立てていましたね。

幸いなことに、育児を記録し、お子さんの生活を可視化するアプリが、ほかにはほとんどありませんでした。ママ友同士の口コミで少しずつユーザーの輪が広がり、2013年のリリースから今日まで、通算で60万人以上にご利用いただいています。

サービスを開発するなかで印象的だったのは、プロトタイプの段階で、お母さんたちに「お子さんの成長を見える化するアプリです」と紹介しても、彼女たちに全く響かなかったことですね。ところが、実際にアプリをリリースしてみると、多くのお母さんたちが、見える化機能を頻繁に利用していたんです。つまり、実際にサービスを体験するまでは、ユーザー自身もそのニーズに気づいていないことがある。サービス開発ではよくある事かもしれませんが、身をもってそれを学ぶことができました。

8割以上の精度で、赤ちゃんが泣いている理由を診断

——「パパっと育児」を通じて集めたデータはどのように活用していったのでしょう?

まずは国立成育医療研究センターとの共同研究に活用しました。赤ちゃんの生活習慣に関する学会発表や学術論文の執筆などをお手伝いし、データを正しく扱うためのノウハウを蓄積していきました。

同時に「パパっと育児」を通じて、育児に関する困りごとを調査していきました。そのなかでたくさん寄せられたのが「赤ちゃんが泣いているのを、なんとかしてあげたい」という声です。赤ちゃんが泣いているのに何もできない。そんな無力感は、育児のモチベーションを下げる大きな要因の一つです。

そこで開発に取り組んだのが、赤ちゃんが泣いている理由を、泣き声から推測する「パパっと育児」の泣き声診断機能です。

——泣き声のデータは、どのように集めていったのですか?

当初は「パパっと育児」のユーザーに、有償で提供してもらっていました。そのデータをAIに学習させ、仮のアルゴリズムを構築。あとはモニターユーザーを募りながら、少しずつ精度を高めていきました。

サービスをリリースしたのは、2018年。泣き声診断機能は、赤ちゃんが泣いている理由を、「お腹が空いた」「眠たい」「不快」「怒っている」「遊んでほしい」の五つに分類し、それぞれの確率を表示します。

実際にご利用いただいた方からは、「赤ちゃんが寝てくれずに泣いている時、授乳したばかりだから、お腹が空いて泣いているわけではないと思っていたけれど、『お腹が空いた』と表示されたので、少しミルクを飲ませてみたら、すぐに寝付いてくれた。授乳の量が足りなかったのか」などの声をいただいており、診断結果をもとに行動を変えてみる人もいるようです。

ちなみに診断の精度をチェックするために、ユーザーには診断からしばらく経過した後に、「先程の赤ちゃんが泣いていた理由は何だったと思いますか?」と尋ね、フィードバックをお願いしています。その結果、泣き声診断の精度は8割以上であることが分かりました。

「日本のベンチャーが何か面白いことをやっている!」CES出展で感じた手応え

——泣き声診断機能はアプリだけではなく、「CryAnalyzer Auto(クライアナライザー・オート)」としてハードウェアプロダクト化もされています。これはなぜでしょう?

いくつかの理由があります。まずは能動的にアプリを起動して利用しなくてはならないソフトウェアと違って、ハードウェアなら置いておくだけ泣き声を自動検知して、分析することも可能になります。

もう一つ、ハードウェアプロダクト化に取り組んだ大きな理由は、CESに出展するためです。2016年からCESでもベビーテックという分野が設けられていましたが、ここ最近、本当に革新的な製品が出てきたかというと、そうではないと個人的には感じていました。なので、自分たちがこの商品を開発したら、ベビーテック業界に大きなインパクトを与えられるのではないかと考えました。また、それは当社の活動場をワールドワイドに広げられることにつながる。そんな狙いもありました。

——反応はいかがでしたか?

「ワオ!」と言っていただくことができた、という手応えがあります。「日本のベンチャーが何か面白いことをやっているぞ」と、メディアなどでも取り上げていただきました。

ブースを訪れてくださった皆さまの反応もポジティブでしたね。海外だと「見守りカメラ」などが普及していて、育児にデジタルツールを使うことに抵抗感がないんです。「赤ちゃんを見守ってくれる“耳”を、枕元に置くことができるのね」といった声もいただき、とても嬉しかったことを覚えています。

「寝かしつけ」の悩みから、多くの人を解放したい

——最近は、新たなプロダクトの開発にも取り組んでいるとお聞きしました。

「ainenne(あいねんね)」というスマートベッドライトを開発しました。目指したのは、育児におけるストレス要因の一つである「寝かしつけの負担」を軽減することです。

着目したのは、「体内時計」と「朝日」の関係です。人間の体内時計は、一般的に24時間より少し長い周期で動いています。だから、普通に生活していると、それだけで睡眠のリズムがズレていってしまうんです。実際にはそうならないように、朝日を浴びると体内時計がリセットされる働きがあり、だから大人でも「早寝早起きのためには、朝日を浴びましょう」と言うわけです。

ところが、赤ちゃんの場合は、自分の意志で朝日を浴びることができません。そこで搭載したのが、太陽光を模したLED光による目覚まし機能です。設定時間の5分前から徐々にLEDライトが明るくなり、朝日を浴びたように自然な起床をサポートします。

寝かしつけ記録をAIが学習し、「推奨起床時間」を表示する機能も備えています。私自身も経験があるのですが、育児中はすごく忙しいので、赤ちゃんが寝ていると「もうちょっと寝かせておこう」と思ってしまうものですよね。けれどそれが結果的に、生活リズムの乱れにつながってしまう。そうならないようにAIが「生活リズムを整えるためには、この時間に起こした方がいいですよ」と提案してくれるイメージです。

——なんだか、赤ちゃんだけでなく、大人でも使えそうなプロダクトですね。

そうなんです。そこも一つのポイントで。というのも、クライアナライザー・オートをCESに出展したときに、「泣き声診断が必要なのは、せいぜい半年。そのためだけにプロダクトを買うのは抵抗がある」という声があったんです。その反省を踏まえて、赤ちゃんが成長しても使い続けられるプロダクトを目指しました。

テクノロジーの力で、育児をもっと楽しく

——ainenneはCES2021にも出展されたそうですね。

はい。「ベビーテック×スリープテック」という取り組みが総合的に評価され、「CES2021 Innovation Awards」を受賞することができました。3月からクラウドファンディングサイト「Makuake」で先行発売もスタートしています。6月26日まで購入できますので、興味のある方はぜひご覧ください。

——御社のこれからの展望を教えてください

テクノロジーの力で子育てを変えていくことが、私たちのミッションです。今後も、IoTセンサーなどを活用したツールの提供や、さまざまなサービス開発を手がけていきたいと考えています。

誤解してほしくないのは、AIや機械に育児を任せっきりにする未来をつくりたいわけではないということです。

私たちが目指すのは、テクノロジーによって、赤ちゃんをよりよく理解すること。自分の育児は、本当にこれで正しいのかな? と迷っている人のサポートをしたいんです。すべてのお母さんやお父さんが、前向きに楽しく、笑顔で子どもと触れ合う時間を、少しでも増やしていけたらと思っています。
服部 伴之
株式会社ファーストアセント 代表取締役社長

1998年東京大学大学院工学系研究科を修了。株式会社東芝で研究者として従事。その後IT業界へ転身し、ベンチャー企業のCTOや技術責任者などを歴任。
2012年に「テクノロジーで子育てを変える」をミッションに掲げるベビーテックベンチャー、株式会社ファーストアセントを創業。
代表取締役CEOとして、育児記録アプリ「パパっと育児@赤ちゃん手帳」や寝かしつけをサポートするベッドライト「ainenne」を企画開発。

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