医療機関と連携した、妊活・不妊のサポートも。フェムテックの先駆け「ルナルナ」の挑戦

昨今、注目を浴びている「フェムテック(Femtech)」という言葉をご存知でしょうか? フェムテックとは、FemaleとTechnologyをかけあわせた造語で、女性が抱える健康の課題をテクノロジーで解決するサービスや製品のこと。実は、フェムテックという言葉が世に登場する以前から、この分野で先陣を切ってサービスを提供してきた日本企業があります。今回は、生理日や排卵日の予測をはじめとする、女性の健康情報サービス「ルナルナ」を手掛ける株式会社エムティーアイ ヘルスケア事業本部 ルナルナ事業部 副事業部長 那須 理紗氏に、同社のサービスについてお話を伺いました。

ざっくりまとめ

・20年前は生理にまつわる情報共有の考え方は閉鎖的だったが、最近では「フェムテック」という言葉も登場し、社会的な認知や理解が広がってきた。
・女性の生理周期の記録と管理をデジタル化する「ルナルナ」を中心に、女性のライフスタイルに寄り添う多様なサービスを展開。
・DXの観点から、オムロンの婦人体温計と連携し、アプリに基礎体温のデータを転送したり、医療機関にデータを提示したりといった取り組みも推進中。
・ルナルナのビッグデータ解析から、10代から20代にかけて、生理周期がいったん長くなり、30代から40代の前半にかけて短くなることが明らかに。
・ヘルスケア分野で、女性とより深く寄り添えるサービスやブランドを展開し、女性がその人らしく生き生きと活躍できる社会をつくることが、ルナルナの最終ゴール。

「フェムテック」も後押し! ようやく変わり始めた女性の生理に関する認識

―まず、この20年間で女性の生理に関する認識や、サービスがどのように変化してきたのか、その周辺状況も含めて教えてください。

ルナルナ事業を20年間続けて、生理に対する社会の認識が徐々に変わってきた印象があります。私たちがサービスを始めた2000年当時は、生理自体がオープンに語られる話題ではなく、むしろ隠すべきという社会通念が強くて、サービスの普及には高いハードルがありました。

2000年の事業開始当時は、携帯キャリアの公式サービスとして認めてもらうことができず、全てのキャリアに導入してもらうまでに7年もかかりました。それくらい、女性の健康や生理を管理することが大切だという認識が浸透していなかったのです。また、ガラケー時代にも生理や体調不良などの情報をパートナーに共有できる機能を提供していたのですが、当時はあまり受け入れられませんでした。一方で、数年前に同様の機能をスマホに追加したところ、「よく活用している」という声を数多くいただくようになりました。この20年間で生理に対する認識やパートナーとの情報共有における考え方も、変化が起きている印象ですね。

―現在(2020年11月時点)、ルナルナは1,600万ダウンロードを突破していますが、アプリの認知が急速に高まったのでしょうか?

急に数字が跳ねたというよりも、スマホの出荷台数に比例する形で伸びてきました。2012年にヘルスケア事業部を立ち上げ、ルナルナだけでなく、さまざまなヘルスケアサービスに挑戦し始めました。その頃からスマホも普及し、徐々にヘルスケアアプリも認知されるようになっていったと思います。

先ほどお伝えしたパートナーとの共有機能は、登録した相手にメールが配信される形で情報が提供されます。最近では、彼女や奥様の生理日や、ホルモンバランスの変化を感じ取ってサポートするなど、男性が女性を気遣うために、生理に関する情報を必要としている傾向もあるように思います。

―「フェムテック」という言葉も登場し、女性向けのヘルスケアサービスが注目を集めています。御社はその先駆け的な存在ですが、この隆盛について、どのように捉えていますか?

生理に関して議論する機会が増えたり、社会の関心が高まったりという意味で、いい流れだと感じています。一方で、まだまだ女性の身体に関する悩みを1人で抱え込んでしまい、我慢することが当たり前になっている傾向もあるように思います。フェムテックの登場で、社会にソリューションを適切に取り入れていくことが、女性の隠れた課題を解決する糸口にもなると思うので、さらに広まっていくことを願っています。

生理周期の記録をデジタル化し、ライフスタイルに寄り添うサービスへ

―ルナルナの提供を開始した目的や具体的なサービスについて教えてください。

以前まで、多くの女性は紙のスケジュール帳に生理周期を記録するなど、アナログな管理をしていました。それをアプリで管理できたら便利なのでは!という発想がサービスの発端でした。生理日管理が中心ですが、その中で一般ステージ、ピルモード、妊娠希望ステージなど、複数ステージを設け、サービスを提供しています。
当初は、あくまで次回の生理日を算出してお知らせする機能がメインで、現在のようにライフステージ全般までは意識していませんでしたが、女性のライフスタイルに寄り添うサービスを少しずつ拡充してきました。たとえば、妊活向け機能や、ホルモンバランスの変化に伴う「PMS(月経前に続く精神的あるいは身体的症状)・月経困難症」のサポート機能などがあります。

妊娠後は生理が来なくなるので、そこでアプリとの縁が切れてしまうというサービス課題もありました。しかし、「ルナルナのおかげもあって子どもを授かったのだから、その後もサポートしてほしい」というユーザーの皆さまの声も多くいただき、妊娠・育児向けサービス「ルナルナ ベビー」も提供しています。

―ルナルナ ベビーで、妊娠後にサポートできる機能には具体的にどういったものがあるのでしょうか?

たとえば最終月経日、もしくは出産予定日を入力すると、お腹の中にいる赤ちゃんがどれぐらい成長しているのか、などの情報が配信されます。妊娠初期は胎動がないため、赤ちゃんがお腹の中にいる実感がなく、「すごく不安になる」という声が多いんです。先輩ママや同じ悩みを抱えるママへ相談できる機能など、女性の一生涯を並走してサポートできるサービスの提供を目指しています。

DXの観点で、婦人体温計からアプリへのデータ転送や医療機関との連携も

―女性の一生涯を並走してサポートしたいとのことですが、ルナルナには、ほかにどんなサービスがありますか?

妊活中の方を対象に、基礎体温のグラフから体調管理をサポートする「ルナルナ 体温ノート」という姉妹サービスがあります。もちろんルナルナでも基礎体温を管理できますが、毎日測ってグラフを見るというアプローチに特化したサービスとして展開しています。オムロンの婦人体温計をはじめ、国内の転送機能付婦人体温計との連携によって、計測データをルナルナ 体温ノートへ転送可能となっており、体温の推移が手軽にグラフ化され、基礎体温を計測する女性の手間やストレスが軽減されます。
また、医療機関と連携した「ルナルナ メディコ」というサービスも2017年から提供しています。産婦人科・婦人科での診察時に、ルナルナに記録したデータを医療機関側が閲覧できるシステムです。

患者さんのメリットは、医師への情報伝達をスムーズにでき、使い慣れたアプリでデータの記録を続けられる点だと思います。医療機関からすると、医師が診察前にもデータを確認できることで、診察時に齟齬が生まれにくくなる点がメリットです。医師が利用しているPCやタブレット上で、患者さんと一緒にデータを閲覧でき、現在、約900件程度の全国の産婦人科・婦人科で導入されています。

オンライン診療サービスも提供されているようですが、どんなことが実現できるのでしょうか?

「ルナルナ オンライン診療」は、通院時に長い待ち時間が発生したり、物理的な制約から病院に通えなかったりといった患者さんの課題解決を目指して開発しました。オンライン診療によって受診のハードルを下げ、必要な医療機関からのサポートを受けやすい仕組みをルナルナ全体でつくりたいと考えています。ピルの処方やエコー機器を使わない検査であればオンラインで十分可能ですし、検査結果の確認にもご活用いただけます。

―不妊治療中は、他の患者さんと一緒になりたくないなど、センシティブな面もありますもんね。

そうなんです。周りに相談しづらいといった事情もあるので、ルナルナで専門家とつながっていただきたいと思っています。基本的には、対面にて初診を受けていただいた上でのオンライン診療となりますが、コロナ禍の特別措置として、現在は初診もオンライン診療が可能ですので、ぜひ気軽にご利用いただきたいです。

―自治体との取り組みも進められているんですよね?

母子手帳アプリ「母子モ」は、340以上(2021年3月時点)の自治体に導入いただいています。ルナルナ ベビーとも連携しており、ルナルナのIDで母子モを利用でき、妊活から育児まで、シームレスなサポートを一緒に提供していくことを目指しています。また子どもに関するデータは手書きが多く、予防接種の度に同じ内容を問診票に書くなどのアナログ作業が課題となっており、弊社も力を入れているサービスの一つです。

―全国1,700程度の自治体のうち340件という数字は大きいですね。具体的にどのような自治体と連携されているのでしょうか?

母子モは、政令市などの大きな都市から小さな町や村まで幅広い自治体に導入いただいています。自治体独自の支援制度を紹介したり、子育てに役立つコンテンツを動画配信したり、自治体による子育て支援をオンラインで届ける取り組みを進めています。

ルナルナのビッグデータ解析から、生理周期に関する新事実も判明

―日本女性31万人、生理周期600万にも及ぶというルナルナのビッグデータ解析から、何か見えてきたことはあるのでしょうか?

これまで一般的に、女性の排卵日は生理周期にかかわらず一律の計算方法でしたが、ルナルナのビッグデータでは、周期によって排卵日も違うし、妊娠に成功する日も周期ごとに違うことが分かっています。さらに、成育医療研究センターとの共同研究では、年齢によって生理周期が違うということも明らかになっています。

あまり研究が進んでいない分野だからこそ、ルナルナで蓄積してきたデータを活用したいと、お声がけいただきました。結果として10代から20代にかけて、生理周期が一度長くなって、そのあと30代から40代の前半にかけて短くなっていくことが分かってきました。研究から得られた知見を、今後のサービスにも反映していきたいと考えています。

異業種とルナルナを組み合わせ、新たな発見やビジネスモデルも模索

―今後、ルナルナ全体としてどのような事業展開を計画されていますか?

ルナルナのビジネスモデルは、いままで課金事業や広告事業がメインでしたが、ルナルナ メディコやルナルナ オンライン診療といった新しいサービスで、医療連携を強めたビジネスを展開したいですね。というのも、やはり女性の不調や妊活なども含めて、医療で改善できる点が多くあると思うからです。

DXという観点でステークホルダーを広げ、サービス利用のハードルをより低くすることで、女性がその人らしく生き生きと活躍できるようにサポートしていきたいと考えています。

これまでルナルナは、地道なサービス展開で、対外的にあまり強く発信してきていませんでした。しかし20周年を契機に、社会に対する発信にも力を入れ、ヘルスケア分野で女性により深く寄り添えるサービスやブランドを展開していくというメッセージを届けたいと考えています。それが私たちの最終的なゴールだからです。

その一つとして、あらゆる女性たちが、より生きやすく、暮らしやすく、働きやすい社会への変革を後押しするためのテーマ「FEMCATION※」という新しい言葉をつくりました。

※「FEMCATION」は、FEMALE(女性)とEDUCATION(教育)を掛け合わせた造語のこと

このテーマに賛同してくださる企業を募り、PRしていくことを計画中です。ルナルナ単体ではなく、多くの方々を巻き込みながら協力して取り組んでいきたいですね。昨今、SDGs第5番の目標(ジェンダー平等の実現)について、活発に議論されるシーンも増えてきている流れを活かして、大きなムーブメントを作れると大変うれしいです。

また、全く業種が異なるサービスとの組み合わせも模索しています。実際に研究案件でも、ルナルナで蓄積したデータと異業種データの掛け合わせで、何か分かることがないか研究を進めています。これからもチャレンジを続けていきたい領域ですね。

那須 理紗

株式会社エムティーアイ ヘルスケア事業本部 ルナルナ事業部 副事業部長

2013年にエムティーアイに新卒で入社。『ルナルナ』と母子手帳アプリ『母子モ』の企画マーケティングに従事し、生理日管理から妊活・妊娠・育児へと市場ドメインを拡大。現在も女性だけでなく、医療機関や製薬会社との取り組みを通じた更なる価値提供に尽力。

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