「店舗は初めてゲランという世界観に触れる場所」 デジタルシフト成功の秘訣は、店舗との密な連携
2019/7/3
1828年の創業以来、化粧品業界の中でも多くの支持を集めるフランスの高級ブランド「ゲラン」。日本でも三越や伊勢丹、高島屋などの「高級百貨店」で取り扱われている。世界中の人が憧れる老舗ブランドだ。
最近では、2018年4月にリニューアル発売した着せ替え可能でカラフルなリップスティック<ルージュ ジェ>を発売し、そのプロモーションにSNSやweb動画などを積極的に展開するなど、デジタル施策に力を入れている。
とはいえ、現時点でECサイトを持たないゲランで製品が購入されるのは、あくまでリアルの「店舗」だ。デジタルだけでは完結しない中で、どのようにデジタル施策の効果を最大化しているのだろうか。
ゲラン株式会社のマーケティング本部でメイクアップ プロダクトマネジャーを務める渡辺あきと氏と、同じくマーケティング本部でデジタルマーケティングを担当する岡本美果氏にお話を聞いた。また、2016年からゲランのパートナーとなった株式会社オプトで消費財メーカーを中心に企業のデジタルマーケティングを支援する営業部門で部長を務める鎌田友佳氏にも加わっていただいた。
■店舗は初めてゲランという世界観に触れることができる、大切な場所
岡本:注目してはいましたが、部分的な施策に留まっていました。雑誌媒体などの従来のマーケティングに注力することもあり、継続的ではありませんでしたね。2016年から本格的に力を入れ始めました。
――きっかけは何でしょうか?
渡辺:2016年ごろ、フランス本社で新製品が発表されたことがそもそものきっかけです。その製品は、従来メインターゲットとしていなかった若年層を新たな顧客としていく戦略が新しく決まりました。若年層に影響力の高いデジタル施策に注力しようと思い、まずBAがデジタル世代を理解し、意識を変えてもらう必要を感じました。
そこで、毎年年始に方針発表を目的に行っているBA向けの社内セミナーで、デジタルメディアに関する講演を企画したのです。そこへご登壇いただいたのが、従来からデジタルマーケティング施策を一緒に行なってきたオプトさんでした。
(注)BA:「ビューティ アンバサダー(美容部員)」の略で、百貨店などの店頭で接客や販売を担当。
――そのセミナーではどんなお話を?
鎌田:店舗は、初めてゲランという世界観に触れる大切な場所です。だから、来てくれるお客様にとって、BAさんとの出会いがすごく重要だと伝えました。
■デジタル施策の成功は店舗との連携が鍵
岡本:今までは、「サンプルクーポンを出しました、そのためすごく人が来ます」ということだけで、デジタルで来店するお客様の違いや特性をうまく伝えきれていませんでした。そのため、せっかくサンプルを渡しても購入につながらないことが多く、BAからは「デジタルからのお客様は購入しない」と思われていました。
デジタル施策でお客様に来店していただいても、サンプルのお渡しするのみで、店舗での体験を通してゲランというブランドを知ってもらい、ファンになってもらうまでには至りませんでした。
鎌田:お客様が店舗に足を運ぶまでの仕組みはできていたのですが、その後の連携がうまくいっていないことが分かったんです。これはまずいということで、色々と話し合った結果、まずBAさんに施策についてきちんと理解をしてもらうことが大切だということになりました。
クーポンによって来てくれたお客様は、今までのお客様とは商品への思いやマインドが違うかもしれない。でもBAさんの対応によって、その人たちをファンにすることができます。それをセミナーで伝えたんです。その後は、デジタル施策と店舗との連携がスムーズになったと聞いています。
岡本:今ではあの頃とは全然違いますね。BAの接客については、Twitterでも評価が高いです。デジタル施策によって、初めてゲランとの接点を持つようになったお客様とのコミュニケーション方法を理解してくれたのだと思います。今では、デジタル上の施策を成功させるための鍵になっているBAが、ひとつひとつの接客をさらに丁寧にやってくれています。
■デジタル100%のマーケティングが成功した理由
渡辺:2018年に<ルージュ ジェ>をリニューアルした際、「カスタマイズで世界に1つのマイルージュジェ」というコンセプトには、ソーシャルのプラットフォームとデジタル世代がマッチすると考え、デジタルに100%投資するというマーケティングを展開しました。
既にデジタル施策に対する取り組みは進んでいましたし、理解もあり、社内は「うん、この製品は絶対にデジタルだよね」となっていました。<ルージュ ジェ>はタイミングも良かったのかもしれません。
岡本:改めて、<ルージュ ジェ>の、「好きなケースとリップカラーを選べ、カスタマイズできる」という魅力を見直し、若年層や初めてゲランに出会う人たちに、どういうコンセプトで伝えたら、一番商品を手にとってもらえるかを考え直しました。その上で、PRや情報発信、動画などのコンテンツ制作、SNSキャンペーンなどを行いました。
鎌田:市場の変化に合わせて、都度、消費者のインサイトをつかんで、製品の良さやコンセプトを、デジタルでどう伝えていくかを設計してプロモーションしていくことは非常に重要です。
――数字上の結果はいかがでしたか?
渡辺:2018年にはブランドで新客が2桁%伸びました。<ルージュ ジェ>の平均年齢も、2017年と比べるとマイナス10歳と若年層を取り込むことに成功しています。
渡辺:セミナーの前は、インスタで話題になっても、それがどれだけ集客に貢献しているか、あまり理解できていないようでした。でも、オプトさんのお話を聞いたり、その後にBA同士で、20代・30代BAのインスタ活用法を学んだりして、2018年の<ルージュ ジェ>発売時には、全員の意識がかなり変わっていたように思います。3年前は、「デジタル=若い、買わない」というバイアスみたいなものがありましたが、今は全くありませんね。
岡本:今では、「サンプルクーポンやります」って言ったら、BAは新規のお客様と出会うチャンスだと、逆にクーポンへの期待が大きくなっています(笑)。
――オプト側からは、成功の要因をどのようにお考えですか?
鎌田:ゲランさんは発表会やセミナーにご招待いただくなど、我々をパートナーとして見て下さっています。広告主と代理店としてというよりも、パートナーとして一緒に歩めたからこそ、店舗も含めて大きくデジタルシフトができたのだと思います。
渡辺:今は若年層だけではなく、新しいお客様を増やすことに注力しています。もちろん若いお客様にはどんどん来ていただきたいのですが、30代、40代、50代でも、まだゲランに足を運んだことがない方もいらっしゃいます。新しいお客様に来ていただいて、その方々に継続的に使っていただけるような取り組みをしていきたいと思います。
鎌田:若年層を動かすのは、簡単とは言いませんがテクニックはあります。ただ、30代や40代となると、そう簡単にはブランドシフトしません。弊社としてのチャレンジは、そういう方たちの心をどう動かしていくか、そしてどうやって定着してもらうかにあります。
岡本:ゲランに対して「自分とは関係ない」や、「素敵だと思っているけど自分ゴトではない」と思っている方々に、日本ならではのプロモーションや、今後はECの展開も視野に入れて、「『いつかはゲラン』じゃなく『いますぐゲラン』」と思ってもらえるようなブランディング・マーケティングをやっていきたいと思っています。一人でも多く、ゲランを知らない方に魅力を伝えて、店舗で素晴らしい体験をしてもらい、ファンを増やしていきたいと思います。