ブランドロイヤリティの高め方 これからのCRMはどうあるべきか? オプト、JAL、ビームス、ビービット登壇

2020年1月22日に東京・渋谷で開催された「Customer Engagement Conference TOKYO(CEC)」の模様をお届けする。今回は、顧客に長く愛されるブランドを目指すために、これからのCRMについて、JAL、ビームス、オプト、ビービットのマーケターが語りつくす。

※この記事は、セッションの内容を一部、編集、抜粋してお届けしています。
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株式会社ビービット
代表取締役 / President & CEO

遠藤 直紀氏 (Twitter / @NaokiEndo
米国留学後、開発会社、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)を経て、2000年3月、ビービットを設立し代表取締役に就任。日本ではまだ馴染みの薄い“ユーザビリティ、ユーザエクスペリエンスの重要性”に着目、コンサルティングを開始。人間の心理を解明することで多くのデジタルサービスの改善を行ってきた。2017年からはユーザエクスペリエンスを高めるSaaS、USERGRAMの提供を開始している。
株式会社オプト
マーケティングマネジメント部 部長
園部 武義氏 

通販業界で10年間、新規顧客獲得、CRM改善、物流改善などの業務を経験した後、2015年オプト入社。2019年より現職。コンサルタントとして心理データと行動データの組み合わせによるユーザー育成戦略とPDCAの高度化を推進。リアルとWEBを横断した顧客育成戦略の立案と実行、エンゲージメント向上のためのCEMコミュニケーション構築、BIやMAツールの導入支援など、多岐にわたるプロジェクトチームをマネジメントしている。
日本航空株式会社
ブランドコミュニケーション・東京2020オリンピックパラリンピック推進部 Webコミュニケーショングループ長
山名 敏雄氏 

日本航空株式会社に新卒で入社。IT企画部、空港での勤務を経て、JAL ECサイトの企画・運営などに携わる。現在は、ブランディング戦略の一環として、SNSの運用やリアルイベントを活用したSNS施策などを手掛ける。顧客とのコミュニケーションを重視するJALのSNSは、デジタルとリアルの両方で、顧客との接点を増やしていく取り組みを進め注目を集めている。
株式会社ビームス
事業企画本部コミュニティデザイン部 部長
矢嶋 正明氏 

2000年、ビームスに入社。店舗での販売業務を経て、2005年にEC部門を立ち上げ、EC事業の責任者に就任。2009年に自社ECサイトを開設。 2016年、自社ECサイトとビームス公式サイトを統合し、プラットフォーム戦略を構築。2018年、台湾で現地ECサイトを開設。日本では、EC事業の統括責任者としてオムニチャネル化を推進。2019年から現職。

■変革の時を迎えたCRM-ブランドロイヤリティを高めるメトリクス―

遠藤:ビービット代表の遠藤と申します。短い時間ですが、出来るだけ学びの多い内容にさせていけたらと思います。

園部:オプトの園部と申します。ダイレクトマーケティング企業で10年ほどマーケティングを担当した後、コンサルタントとしてオプトに入社し、今年で5年目になります。

山名:山名です。社歴としては、ITとデジマケが半々くらいです。宜しくお願いします。

矢嶋:ビームスの矢嶋です。元々店舗の販売員として入社しまして、数年販売を行なったあと、ハウスカード事業の部署に異動し、2005年にEコマース部門を立ち上げました。その後は、ECをやりながら店頭と自社ECを繋げるオムニチャネルの開発に取り組み、現在に至っています。

遠藤:基本的に皆さんデジタル領域に特化してCRMからブランドロイヤリティやエンゲージメントを高めるということをされているので、その辺りのお話を深堀っていきたいと思います。

最初に、各社でどういう風にCRMに取り組んでこられたのかを伺います。

園部さんは今オプトにいらっしゃるんですけども、長い期間ダイレクト通販の会社にいらっしゃいましたよね。どんな取り組みをしていて、そして今何故オプトにいるのでしょうか?

園部:10年くらい通販業界にいたのですが、この業界は良い意味でも悪い意味でも顧客の購買を全力で追いかけるのが特徴で、ときどき「LTVを搾り取る」ような感覚になることもありました。その中で、お客様の購買の裏に隠れている商品とかブランドに対する態度ってどうなっているんだろうという課題感を持ち始めたんです。「お客様に買ってもらう」という事と、「ブランドと社会的に繋がっていく」とか「関係性を作っていく」という事を両立させていかないと持続的なブランドには出来ないんじゃないかという思いでオプトに入り、そこに向けた取り組みを始めています。

遠藤: CRMって何のためにあるかというと「ライフタイムバリュー(LTV)を最大化するため」といいますが、LTVってどっちにも意味が取れる。「お客様にとって最大のライフタイムバリューを提供します」というのもあれば、「できるだけ絞り取ろう」みたいな話になる所もあって、両方が大切だとは思いますが、どっちの視点で見ていくのかというのは結構考えないといけなくなっているのかな、と。

園部:そうですね。もちろん購買を増やしていくのも重要な事なんですけど、同時にロイヤルティやエンゲージメントといった心理面も高めていかなければ持続的なビジネスは成り立たないなと思ってます。今日は、あえてエンゲージメントを高めるという所にフォーカスして話をさせていただければと。

遠藤: JALさんの話を山名さんから伺いたいんですけども、エアラインは、どちらかと言うとホスピタリティ産業なので、LTVを上げるとか絞り取るっていう観点よりも、お客様との関係性を昔からお持ちだと思うんですけども、CRMをどういう風に立ち上げてこられたのか、お話を伺えますか?

山名: CRMという言葉がなかった頃に「マイル」という概念が出てきました。アメリカの航空会社が、搭乗距離や運賃に応じてマイルを発行し、貯めたマイルで無料航空券に変えられるという制度を導入したので、僕らも追従する形で始めたんです。この制度を始めるために顧客データベースを作ったのが最初で、90年代ですかね。

初期の頃というのは、ご搭乗されたお客さま一人一人が貯められたマイルの管理と、使われているかの管理だけ。使い道としても航空券との交換や座席のアップグレードぐらいしかなかったんです。今は旅行でホテルに泊まってもマイルが貯まるし、JALカードで買い物してもマイルが貯まるし、色んなECサイトとも提携しているので、生活の色んなシーンでマイルが貯められます。徐々に幅を広げていったというのが経緯ですね。

遠藤:お客様との関係性を作るという点でマイルは重要なんですね。

山名: LCCとの差別化でも結構大きなポイントになっているなと。飛行機って仕事とか出張で使う以外は利用頻度が非常に低い商材です。年に数回しか乗らない方もいる中で、普段の生活でもマイルを貯められるとなると、その都度JALを想起してもらえますから非常に重要なツールとなります。

遠藤:現状の課題などありますか?

山名:マイルは航空券に換えるのが一番効率が良いんですけど、限られた席数の中では、マイルで換えられる席の供給に限りがあります。お金を払ってご搭乗いただくお客さまの席も確保しないといけないし、バランスが課題です。

遠藤: JALさんの施策を見ていると、マイルを使いやすくするために色々やっていらっしゃいますよね。サイコロを振るやつとか。

山名:「どこかにマイル」ですね。あれは、閑散期や、繁忙期でも混んでいない便を中心に、通常のマイルの半分くらいで、国内のどこかへ行けるという施策なんですよ。例えば羽田発だったら石垣とかにも往復できちゃう。

遠藤: JALさんって歴史がある会社なので、ある意味型にはまっている部分が結構あるのかと思ったら、あの手この手の新しいアイディアの施策が出るなと。

山名:ちょうど10年前に破綻を経験し、大きく色んな事が変わって、そこからたぶん新しい事に取り組む事を推奨するような文化が会社の中にできていったというのはあります。たぶんそれ以前だと「どこかにマイル」って発想はなかったでしょう。

遠藤:ありがとうございます。元々CRMという言葉自体が流行ったのって90年代後半くらいで、最近はカスタマーエクスペリエンスを管理するとか、カスタマーエンゲージメントを管理するみたいなキーワードに変化していますね。本質的には変わっているわけではないと思うんですが、エクスペリエンスを指標化して管理するということを伺っていきたいと思っています。矢嶋さんいかがでしょうか?

矢嶋:そうですね、まずお客さまが洋服を買いたいと思った時に、あまたある洋服ブランドの中から自社を想起してもらえるかですよね。そして、実際にお店に足を運ぶという労力を掛けて来店してもらう。ただ、そこで気に入った服がなかったり自分に合うサイズがないという体験だと、やはり期待が高かった分残念な気持ちに繋がってしまい、ブランドからの離脱にも繋がると考えると、そこも含めて全てエクスペリエンスという概念で捉え、サービスを作っていかなきゃと思っています。

今は、洋服を見に行こうと思った時、必ずスマートフォンを見て検索しますよね。気になる物があり、価格もこれで良いと思った時に、いざお店に行ってその商品がないというのは残念な体験になってしまう。

そこで、デジタル上で店舗の在庫を、お取り置きできるようにし、商品が店舗に無くてもECサイト上に在庫があれば、店舗に送って用意する形にしました。お店に物が到着した段階で「届きましたよ」というメールをお客様にお送りします。

遠藤:オンラインとかオフラインの区別はあまりなくて、お客様に最適化した試着体験を提供していると?

矢嶋: eコマースでお買い物をしていただくお客様の比率がどんどん上がっていまして、利便性が高いのはいい事ではあるのですが、サイズや、洋服の質感など、試着や接客で確認する作業を含め、お客様に付加価値を提供したいと思っていますので、出来るだけ店頭の商品を手に取っていただく形でサービスを開発しています。

逆に店舗に来ていただいて、在庫がなかったけど、オンラインショップ側に色・サイズがあるのであれば、お会計はお店で済ませていただいて、後日eコマースの方からご自宅に商品を郵送するという事もしています。そういったスムーズな購買体験がエクスペリエンスかなと思っています。


遠藤: ECで買ったら、評価はeコマースの担当の人に付いちゃうのでしょうか?

矢嶋:先程申し上げた事例ですと、お店でそのまま決済が済みますので、接客したスタッフの方に売上や評価が付きます。

遠藤:単にお客様のエクスペリエンスだけを継続しても難しい側面があるんで、エンプロイーのエクスペリエンスも根本的には考えていかないといけないと、エクスペリエンスの最大化・最適化って出来なくて、その部分を工夫されているという事ですよね。JALさんは指標としてはどのようなものを持たれていますか?

山名:定期的に顧客満足度調査というのをやっています。個々の施策に関しては、例えば機内でご搭乗された方にアンケートを募ったりとか、カスタマーサポートに入るお客さまの声を集計したり、最近だとSNSの投稿を見たり、トータル的に判断しながら、やった事の評価と改善のサイクルを回しています。

しかし、なかなか売上とは結びつきにくいというのがありますね。例えば航空会社ってイベントリスクが付き物で、連休に台風とか来て欠航とかになると、あっという間に売上が落ちちゃいますから。色んな要素が絡み合っているので、必ずしもここで売上が増えたのはこのサービスの価値だとは言えないんですよね。

遠藤:園部さんもメトリクス(指標)に込める思いみたいなのってありますかね。

園部:ダイレクトマーケティングは非常にPDCAサイクルが早いのが特徴です。それこそ毎日数字をチェックして細かいチューニングをしている。そんな中で、ロイヤリティを年に1回とか半年に1回、上がったよね、下がったよねって議論するのでは遅すぎる所があるんですよね。とはいえ私の前職の会社で言うと、例えば素材に化粧品を使ったレストランを企画して、お客様を招いたり、一緒に農園を作りましょうみたいな事をやった時に、それを体験したお客様のLTVが2年後3年後にすごく上がったという事例もあります。そういった体験やロイヤリティがLTVに影響する事自体は確かにある。

日々忙しく指標改善をしていくPDCAの中で、どうやってロイヤルティとかエンゲージメントの変化をスピード感をもって判断していくか。そのために定量的なデータを使って心理変容を評価し、2週間とか1か月というタームでPDCAを回していくということに取り組んでいます。データに強いアナリストやパッションを持ったクライアントにも恵まれて、やっと事例がいくつかできてきたところです。

遠藤:今日来ていらっしゃる皆さんって、基本的にはデジタル領域の方が多いかなと思うんですけど、SaaSのビジネスが大きくなり、カスタマーサクセスという言葉をよく聞くようになりましたが、カスタマーサクセスも基本的にはエンゲージメントを高める概念としてはあまり変わりません。カスタマーサクセスのメトリクスってヘルススコアって言うんですけど、これを管理していくのって園部さんの概念に近いんですね。

ここから違う角度でお話を伺いたいと思います。ビームスさんに面白い事例を紹介していただきましょう。

矢嶋:良い場所に良いお店を出して、良い商品を用意すればお客様が来て下さる時代ではありませんので、私達から情報発信して私達のブランドを知っていただきたいと思っております。その最たる部分は、店頭に立っている現場のスタッフです。

彼らに自分のアカウントを作ってもらい、自分で情報発信をするということを、公式サイトのプラットフォーム上で行っています。
一番左のフォトログは、単品の商品を紹介するのに適したコンテンツです。画像1枚でそのままアップする事が出来るので、難易度や時間は非常に低いという状況から、だんだん右に行くに従って、情報量が増えていくという形になります。次がスタイリングです。やはり洋服を全身着こなすとどう見えるかという情報が重要で、店頭に立っているスタッフの、リアリティのある画像を楽しんでいただきたいと思っています。

3つ目がブログですね。4年前にこのサービスを3つ同時に始めまして、それぞれ順調に伸びてきたという所で、一昨年、動画コンテンツを追加しました。既に2,500本以上アップしていて、スタッフが自分で商品紹介をしているという形になります。

全てのコンテンツはスタッフの手元にあるスマートフォンで簡単に投稿が出来るシステムで、そのマニュアルも含めて用意しています。強制ではなく、スタッフが何を投稿したいかを自分で選ぶ事が出来ます。

遠藤:売上に対するスタッフの貢献とかって測られたりしているんですか?

矢嶋:右下の所に着こなしているシャツとか靴のECリンクがついていまして、クリックすればその商品詳細にいけます。このスタッフから何件商品詳細にアクセスされたかという所を全部取っていて、購入されるとEC売上になります。

ここから試着予約とかも出来ますので、実際にこのスタッフに接客してもらいたいと思えば、このスタッフのいるお店に商品を事前に送っておいて、接客をしてもらう事も可能です。別のお店であっても、このスタッフスタイリングを見てご来店・試着に至ったということを、一連のデータとして取得しています。


スタッフに対しても、データをフィードバックしています。参加してくれているスタッフ達を表彰する制度を作り、評価制度に盛り込むといった事も行なっています。

遠藤:ありがとうございます。JALさんではどのようなことをやられていますか? 個人的な体験としても、どんどんテクノロジーで解消されていくみたいな感じですよね。チケット出さなくていいし、荷物預けるのも全部自動化されているし、テクノロジーがエクスペリエンスを作っていくみたいな発想があるんですかね。

山名:そうですね。90年代にインターネットで航空券を購入出来るようになった所が一番大きな変革だったと思っています。

遠藤:最後に園部さんから今何をやられているかをお話いただければと思います。
園部:今までのお話の中でも、やはり体験というのががすごく重要なキーワードと感じました。ブランドに関する良い体験が、ブランドに対する好意や積極的な関与を生み出していくんだろうなと思います。そういったことを実現していくために「CEM(Customer Experience/Engagement Management)」というコンセプトを掲げて、プロジェクトを複数進行中です。
(下図)図でいうところの縦のラインである購買や利用が多い少ないという「経済的な関係」だけじゃなくて、「社会的な関係」、つまり顧客からブランドに対する積極的な関与も一緒に築いていくっていう事が、持続的なビジネスに繋がっていくはずです。その強固な持続的な関係を作るためのプロジェクトです。
ユーザーが購買という形以外でも積極的にブランドに対して関与してくれる状態が、ユーザーとブランドが強固に繋がっているということだと思います。そのために、まずはどんな価値観を持った顧客が、どんな認知や連想を持っているのかをデータ分析やリサーチから明らかにしたうえで、購買だけでなくエンゲージメント行動をKPIにして、「ブランドの真の価値」を伝えるためのコミュニケーション設計にチャレンジしています。
遠藤: 三社様それぞれ全然ビジネスが違うので、やられている事も違うと思うんですが、お客様視点で考え、価値を高めるにはどうしたらいいかということ、従業員がどうテクノロジーを活用してやっていくのかが大事になるといったことを、お話いただけたかと思います。本当に参考になりました、ありがとうございました。

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