国内最大級恋活・婚活マッチングアプリ「Pairs」と三重県桑名市が連携。デジタル×自治体が恋愛市場に新風を起こす
2023/3/28
現在、結婚に至るカップルの2割がマッチングアプリで出会っているという調査結果があるほど、マッチングアプリは私たちの生活に浸透し始めています。そんななか、2022年の11月に恋活・婚活マッチングアプリ「Pairs(ペアーズ)」を運営する株式会社エウレカと、三重県桑名市は「独身男女の出逢いの機会創出」などに向けた連携協定を締結し、少子化・未婚化の課題解決に共同で取り組むことを発表しました。具体的にエウレカと三重県桑名市はどのような取り組みをしていくのか。そしてデジタル時代に変化する恋愛の潮流とは? 株式会社エウレカで、公共政策部 部長を務める長島 淳史氏と広報を担当する小野澤 翔氏のお二人にお話を伺いました。
Contents
ざっくりまとめ
- 桑名市は人口減少、Pairsは少子化未婚化対策と認知・イメージ向上と互いの目的が一致したパートナーである。
- オンラインでの恋活・婚活のユーザー満足度は高い。
- ユーザーの恋愛観は“脱・恋愛至上主義”へ。サービス成長はマッチングアプリの利用に踏み出せない層へのアプローチがカギに。
- エウレカが見据える未来は、マッチングアプリを使った出会いが当たり前な世界。
マッチングアプリと自治体。異例の連携が生まれた理由
長島:我々はPairsという真剣な交際相手探し・結婚相手探しのためのサービスを運営していますが、サービスが大きくなるにつれ、企業としての責務として事業領域と近い部分の社会課題に対してなんらかのアプローチができないかと考えるようになりました。具体的には、少子化やその大きな要因となる未婚化などの課題です。はじめは2019年頃から有識者の方と共同調査や意見交換をしていたのですが、そこで得た調査結果を実践できる取り組みは何かと考えていました。そんななか、多くの自治体が少子化や人口減少という課題に直面していることが分かりました。そんなときに、官民合同で取り組むことが効果的ではないかと考えられていた桑名市とご縁があり、目的や課題感が一致したことで連携に至りました。
——桑名市との連携でエウレカにはどのようなメリットがありますか?
長島:官民連携による仕組みをつくることで、我々に対する信頼度が上がるというメリットがあると思っています。我々は2012年から10年に渡ってマッチングアプリの領域で事業を継続し、ユーザーも増えていますが、いまだに「出会い系サイトと何が違うの?」と警戒心を持たれたり、なんとなくのイメージで「不安」と思われてしまうといった課題がありました。「自治体と連携している」という事実は信頼感や安心感に直結するので、今回の連携は、その課題にアプローチできるものだと思っています。
——今までPairsが訴求できなかったユーザーへの訴求が可能になる、ということでしょうか?
小野澤:ユーザーのセグメント、という意味でいえば、これまでマーケティング的に訴求できていなかった層を取り込めるわけではありません。これまでマッチングアプリに警戒心を持っていたために、「広告などではPairsに触れたことがあったけれども始めていなかった人たち」に対する心理的ハードルを取り払うことができる、というイメージです。出会いのきっかけを自治体が提供していることで、ユーザーが安心感を持つのです。
——桑名市側のメリットはどのようなものですか?
小野澤:桑名市は2015年をピークに人口減少が進んでいます。その課題に対して、人口を一定水準まで戻すための施策を行っています。人口を増やすためには一つの施策だけを打ってどうにかなるものではなく、出会いのない人たちには出会いを提供する、すでに結婚している人のためには定住・移住環境を整備する、子育てサポートを充実させるなどのフェーズごとの施策が必要になります。その「出会い」の部分に対して、我々の運営するPairsのサービスと認知度を利用できる、という部分が今回の連携における桑名市のメリットではないでしょうか。
長島:桑名市も行政で結婚相談やマッチングイベントを行っていますが、すでに世の中にある認知度の高いサービスと連携し、全国に先駆けて課題解決のモデルをつくっていこうと考えられている、と認識しています。
オンラインのメリットを最大限に引き出す施策とは
長島:まずは交際や結婚がしたい独身男女を対象とした恋活・婚活セミナーイベントの開催です。そのイベントで弊社のPairsコンシェルジュから、Pairsの利用方法や安全に出会うための注意点などをレクチャーします。それに加えて、イベント参加者にはPairsで使えるデジタルギフトコードをプレゼントして、実際にPairsを試していただける機会を提供できればと思っています。また、詳細は議論中ですが、将来的に桑名市内にある企業と協力したデート支援施策なども検討しています。
——オフラインで市民同士が出会えるイベントの予定もあるのでしょうか?
小野澤:そのようなオフラインイベントは、参加できる人数や出会える相手の人数が限られてしまう上に運営側にも多大なコストがかかります。リソース的にもオフラインの出会いの場の提供に継続性を求めることが難しいですし、桑名市以外の自治体でも今回のモデルをやっていこうとなったときに、再現性を保つのが難しくなってしまうという課題があります。結果、現状のオンラインの出会いの場であるPairsを最大限に活用してみましょう、という座組みに落ち着きました。
——自治体の婚活支援は認知度が低いとのことですが、今回の連携の浸透施策や周知方法はどのように進めていくのでしょうか?
小野澤:桑名市がお持ちの媒体や広報誌での出稿はもちろん、Pairsのアプリ内でも告知をします。告知のエリアを広めにして近隣県に居住地設定している人への告知も検討中です。あとは先ほど長島が話したように、地元の若い人たちへのアプローチが得意な地元企業様もあるので、そういった企業の協力を得てこの連携事業をより効果的に広げていけるのではないかとも思っています。
——Pairsのオンライン性を最大限に活用するとのことですが、オフラインと比べたオンラインならではのメリットはなんでしょうか?
小野澤:まず、出会いの可能性がオフラインとは比べものにならないほどに広くなります。簡単にいえば「日常では出会えないほど多くの人のなかから理想のお相手を探せる」ということです。なおかつ、アプリ内で自分の趣味嗜好をあらかじめ提示することで、本当に自分に合った相手を探せるところが大きなメリットだと考えています。ゆえに、価値観に関わる部分のミスマッチが少ないこともメリットですね。結婚に対する意思、将来的に子どもを望むかどうかなど、プライベートかつセンシティブな事項もプロフィールで分かるようになっているので、いざ結婚となった際に価値観の違いが発覚するなどの事態を防ぐことができます。弊社の調査では、マッチングアプリ経由で結婚に至った夫婦の結婚生活に対する満足度が高いという結果もあります。こういったマッチングアプリの特性が、この結果に寄与していると考えています。
変化する恋愛観にPairsはどう対応するのか
小野澤:コロナ禍に入って1年前後の頃に行った調査で、変化が見受けられました。コロナ以前は、見た目や収入などのスペックが相手に求める項目の上位にありました。しかし、ステイホーム時期の調査では、相手に求める項目が「一緒にいて気まずくないか」「生活の水準が合うか」「同じ趣味があるか」など、一緒に生活をする上でより現実的かつ内面的な項目が上位にきていました。
その他にもここ数年の間に、特に若者世代で恋愛の優先順位が下がってきているという大きな変化があったのですが、これは「コロナ禍を経たから」という変化ではありません。時流とともに、「本当に自分に合う人と付き合いたい、そうでなければ無理に恋愛をしなくていい」という価値観に変わってきた結果ですね。この変化に伴ってPairsのサービスも、プロフィールやテキストなどの文字情報に加え会話を通じてお相手との波長・フィーリングが合うかを確かめられる体験を強化したり、ユーザーの趣味嗜好を加味した独自のアルゴリズムでより相性がよいお相手をおすすめする、などの機能開発を日々行っています。
——恋愛の優先順位が下がっている理由はどこにあると考えていますか?
小野澤:さまざまな要因があるのではっきりと断定できないのですが、「恋愛以外にも夢中になれるコンテンツが多くなった」という要因が大きいと感じますね。趣味や推し活など、充実した時間を過ごせるコンテンツが世の中にあふれていることで、恋愛至上主義的な考えが希薄になってきたのだと思います。
——ユーザーの意識変化やデジタル化が進むなか、マッチングアプリはどう変わっていくと考えていますか?
小野澤:先述のとおり、ユーザーの優先順位や恋愛観の変化に合わせて、常にマッチングアプリの体験を最適化していく必要があると考えています。一方で、サービスの成長・市場拡大という部分に関しては、これまでと変わらずに取り組んでいくべきことですね。実はコロナ禍に入ってすぐは、オフラインでの出会いが減ったことでPairsのユーザー数が一気に増えたのですが、現在はその勢いが徐々にフラットになりつつあります。さまざまな規制が解除され社会的にオフライン回帰の傾向がありますし、現在は多くの人がリアルの場を楽しんでいる雰囲気もありますよね。
しかし、オンラインで出会いを求めるという傾向は今後ますます広がっていくと予測しています。というのも、内閣府調査を見ると、「いずれは結婚したい」と回答した人が80%以上、さらに結婚前の交際を希望する人も70%程度います。しかし、そのような人たちに何らかの行動を起こしているかと質問すると、調査によって数字の振れ幅はあるものの、実際に恋活や婚活をしている人は15〜30%と非常に少ないのです。そして、そんな人たちが活動できていない理由は、「活動の仕方が分からない」「きっかけがない」というものです。
——今から恋活や婚活を始めたい場合、マッチングアプリは入り口として手軽ですね。
小野澤:そうですね。日常生活における新たな出会いが減少しているなかで、恋愛相手を探す現実的な方法としてマッチングアプリの利用が思い浮かぶ人は多いのではないかと思います。出会いのために積極的に動いている人たちが、マッチングアプリに目を向けて利用してくれることで短期中期的な成長は十分に見込めます。しかし、成長の土壌を広げていくためには、出会いに対する行動に消極的な人たちやマッチングアプリの利用にハードルを感じている人たちにいかにしてマッチングアプリを利用してもらうかということが重要です。そういった意味では、今後のサービス成長のためにもアプローチの方法を変化させていくことも必要になると考えています。
Pairsを出会いのインフラに! エウレカが見据える展望とは
長島:現在、マッチングアプリの利用にハードルを感じている人の心理としてあるのが、やはり「安全性に対する不安」です。今回の桑名市との連携は、そういった人たちがマッチングアプリに目を向けてくれるきっかけを生み出せると感じています。この連携がもたらしてくれる恩恵を、先ほど小野澤が話した、まだ出会いのために行動をしていない人への中長期的なアプローチにつなげていければと思っています。また、桑名市との連携をモデルに、全国の自治体との連携にも取り組んでいきたいですね。
小野澤:我々は会社のビジョンとして、「日本、アジアにデーティングサービス文化を定着させる」ことを掲げています。これは出会いのツールとしてマッチングアプリを使うことが当たり前な世界にしたい、というものです。マッチングアプリというサービスに対する心理的ハードルが高く、恋愛をしたくてもなかなか行動を起こせない方々の課題に対してどうアプローチしていくかがカギになりますし、今回の連携はそれを打破する第一歩です。マッチングアプリ、ひいてはPairsを、「出会いのインフラ」に引き上げていくことが、エウレカとしての最終的なゴールイメージですね。
桑名市長コメント
昨年、三重県主催の人口減少対策フォーラムにおいて、これまで雇用対策や少子化対策に取り組んでこられた政府 内閣官房参与である山崎氏が、「人口減少対策が行われる中で、若者の声を反映した施策が取られていなかったのではないか」と述べられていたことに、私は、大いに共感しました。施策の検討にあたって、社会が大きく変化していく中で、若者の考えを的確につかみ、価値観やニーズ、彼らが置かれている現状をしっかりと見定めていかなければならないと考えております。
桑名市では、若者の声を聴取したアンケート結果でのエビデンスを踏まえて、私が、まちづくりに欠かせない視点として掲げる「公民連携」をもとに、恋愛や結婚を希望する若者に対して、その希望が実現できるように応援する手法を模索しながら、民間事業者との対話を重ねてまいりました。その結果、国内最大級のマッチングアプリ「Pairs」を運営する株式会社エウレカと桑名市との間で、昨年11月に連携協定を締結することに至りました。この連携協定はメディア各社で大きく取り上げていただき、市内企業からは「この連携に、我々も参画したい」等の声もいただいております。今後は市内企業も巻き込んだ、若者の恋愛や結婚をサポートできる体制を地域一体となって構築していきたいと考えております。
そして、桑名市は、男女の出会いから結婚、その後の子育てへと切れ目なく支援ができるまちを目指し、これからを担う若者に、「桑名で出会って結婚し、桑名に住み続ければこんなメリットがある」ということを実感していただけるような取り組みを進めていきます。
長島 淳史
株式会社エウレカ 公共政策部 部長
大学卒業後、国土交通省及び公正取引委員会にて、交通分野やIT分野等の政策立案を担当。その後、Airbnb Japan株式会社、Facebook Japan株式会社の公共政策担当を経て、2020年6月より現職。
小野澤 翔
株式会社エウレカ PR マネージャー
大手PR会社にて、世界的ファストフードチェーンや外資ECサービスなどの広報支援とPR活動を経験したのち、株式会社エウレカに入社。現在は国内最大級のマッチングアプリ「Pairs」のPR活動を通じて、同社の事業拡大やマッチングアプリの普及を目指す。