ふるさと納税の返礼品である「1点3万円、全222種のNFT」がわずか3分で完売。NFTを活用した地方創生の可能性に迫る

「NFTによる地方創生」を目的に2020年に設立された株式会社あるやうむ。北海道の余市町をはじめとする地方自治体とともに、NFTを活用したさまざまなプロジェクトを展開しています。2022年10月に実施した、ふるさと納税の返礼品企画「ふるさとCNP」では、わずか3分で全222種のNFTが完売。「地方創生×NFT」という意外な組み合わせには、どのような可能性が秘められているのでしょうか。同社の代表取締役を務める畠中 博晶氏の地方創生にかける想いについてお話を伺いました。

ざっくりまとめ

- 仮想通貨トレーダーとして活動していた畠中氏。札幌の地でスタートアップビジネスを学ぶと同時に、勃興しつつあるNFTブームの波を感じ取り、ふるさと納税とNFTを組み合わせたビジネスを着想。

- 2022年10月にリリースした「ふるさとCNP」では、1点3万円、全222種のNFTが3分で完売。購入者の属性は30代半ば~40代後半と考えられる。

- NFTの強みは「データの保有体験」を得られること。この強みを活かして、兵庫県の加西市ではNFTによる移住促進も視野に入れている。

- 現在取り組むのは「観光×NFT」のビジネス。NFTが一般化すればスタンプラリーのような仕組みも可能になり、新しいインバウンド事業を創出できる。

「ふるさと納税×NFT」のアイデアは偶然の出会いから

――畠中さんは札幌であるやうむを立ち上げたそうですが、ふるさと納税×NFTというアイデアを思いつくまでの経緯を教えてください。

もともと札幌という街に興味があって北海道の大学への進学を希望していたのですが、親に反対されたので大学卒業後に移住しました。当時は仮想通貨トレーダーとして生計を立てていて、同時にキャラクターグッズの製造販売事業も手がけていました。当初は両立できていたのですが、グッズの売上よりもトレードでの利益のほうが断然大きいんですね。トレードは四六時中気を張っていなければいけないので、グッズ販売は自然と開店休業状態になっていきました。

そんなときにブロックチェーン事業を手がけているスタートアップから業務委託で仕事をいただけることになって、これが人生の転機になりました。それまで私は日本政策金融公庫などの融資を利用していましたが、このとき初めてスタートアップのビジネスモデルを目の当たりにして衝撃を受けたんです。彼らの基本的な考え方は「資金を出すからビジネスを実現してほしい」というもので、これまで自分がやってきた「どこかを節約してビジネスを回す」という考えとは対極のものでした。

ちょうど世はNFTのブームがやって来たタイミングで、仮想通貨に比べて規制の厳しくないNFTに将来性を感じ、どうにか札幌を盛り上げるような地方創生と組み合わせられないかと考えて生まれたのが今のビジネスモデルです。ただ、そのアイデアを思いついてもビジネスとして成立するかどうかは未知数です。いろいろ考えを巡らしているときに、旅先でNFTと家具を結びつけたビジネスを考えている人と出会う機会がありました。世の中にはこの人と同じ考えを持つ人が必ずいるはずなので、その層をターゲットにすれば地方創生×NFTというビジネスは上手くいくだろうと思い、起業アドバイザーに相談したところ、ふるさと納税と絡めることを勧められて形になったという経緯です。

全222種、1点3万円のNFTがわずか3分で完売

――2022年の5月には北海道の余市町からふるさと納税の返礼品として、特産品であるワインをモチーフにしたNFT「Yoichi Mini Collectible Collection No.1(※1)」をリリースされています。これはどのような経緯で実現したのでしょうか?

※1 Yoichi Mini Collectible Collection No.1:3種類の人物、3種類の背景、3種類のドリンク、2種類のポーズの組み合わせからつくられた計54種類のNFT。作者はNFTクリエイターのPoki氏で、価格は1点12万円。

これは「コレクティブルNFT」という、複数のパーツを組み合わせて絵柄をつくるタイプのNFTです。余市町の特徴に合わせてアレンジしたNFTの作成依頼をPoki先生にお送りしたところ、ご快諾いただき実現しました。余市町でのプロジェクトが実現するまでは私たちも苦労をしていました。各地の自治体にいろいろと営業をかけましたが、正直どれも上手くいきませんでした。私がお世話になっている先輩経営者が余市町の町長と知り合いで、紹介いただけたことで、今回のプロジェクトの実現に至りました。

――余市町ではもう一つ「ふるさとCNP」というプロジェクトもありますが、詳細を教えていただけますか?

これも基本的な構造は同じです。『CryptoNinja Partners(※2)』というNFTのキャラクターと余市町のご当地パーツを組み合わせた全222種のNFTです。10月21日に1点3万円でリリースしたのですが、わずか3分ですべての作品に寄付が集まりました。おかげで他の自治体からも「うちでも同様の取り組みをしてみたい」といった問い合わせを多数いただいています。

※2 CryptoNinja Partners:『Crypto Ninja』のキャラクターをメインにしたNFTコレクション。

――余市町の住民からはどのような反響がありましたか?

私も現地入りして地域の方とお話しする機会がありますが、NFTそのものがニッチな文化ですし、余市町は高齢化が進んでいるので、本当の意味での理解を得られるのはこれからでしょう。ただ、職員の方や寄付者からはとても好評で、町にも取材や視察の依頼が届いているようです。
「Yoichi Mini Collectible Collection No.1」#1、#26

「Yoichi Mini Collectible Collection No.1」#1、#26

NFTの「保有体験」が育む、地域への愛着

――余市町以外の自治体と実施した事例についても教えてください。

兵庫県加西市と実施したプロジェクトをご紹介します。この事例では、ブロックチェーンゲーム『CryptoSpells』のカードを返礼品としてご当地向けにアレンジしました。余市町のプロジェクトのように一瞬で多額の寄付が集まった事例ではありませんが、意外な波及効果があったんです。

弊社もそうですが、NFT産業は日本全国どこにいても働けるんですね。加西市はそこに可能性を感じてくれて、NFTを活用した移住促進なども視野に入れています。ふるさと納税で寄付が集まることはもちろん喜ばしいですが、お金以外の面にも注目していただいたことが非常に嬉しかったです。私は東京以外の都市も注目されて欲しいので、地域にお金が集まる以上の貢献をしたいという想いをずっと抱えていました。職員の方からもいろいろなアイデアをいただいて、とても有意義な取り組みになったと思います。

――これまでのプロジェクトを通じて、NFTを購入している人の属性を教えてください。

商品ごとにまちまちですが、今の主力商品である「ふるさとCNP」は30代半ば~40代後半の方が多い印象ですね。NFTの技術や将来性に強い関心を持っている層です。当初は20代後半~30代半ばをターゲットに想定していましたが、実際はそれよりも高くなっています。購入者の生年月日のデータを取得しているわけではないのですが、私の肌感覚では50代半ばの方もいらっしゃるかと思います。

――現状のNFTには投機商品的な傾向もありますが、今後のNFTはどうなっていくと思いますか?

弊社と関係する部分でいえば、NFTの強みは「データの保有体験」が得られることです。 縄文時代の文化財の3Dデータはつくれても、現物を個人が所持することはできません。そういった文化財でもNFT化すれば個人所有が可能です。まだ日本では普及していませんが、世の中には所持しているNFTをギャラリーのように飾れるサービスがたくさんあります。このNFT独特の保有体験を地方創生と絡めると、よりいっそう地域への愛着を増幅させるサービスが実現できると考えています。NFTの投機性がマイルドになり、世の中を面白くするという面が引き出される。そういった未来が理想ですね。

「観光×NFT」で新しいインバウンド事業を創出して日本の富を増やす

――最後に、今後の展望を教えてください。

短期的にいえば、まずは自治体にとって導入がしやすい初期費用無料モデルのふるさと納税×NFTの取り組みを進めていきます。長期的には、日本の富の総量が増えるようなインバウンドに資する「観光NFT」を実現させることが目標です。これは自治体側の大きな予算が必要になるため、実施できるタイミングは年一回か二回に限られ時間はかかりますが、それぞれ両輪で進めていきます。

――観光NFTとはどのようなものでしょうか?

先ほどお話しした縄文土器のNFT化のように、現地に足を運ばないと入手できないNFTをつくって人々の移動を促すものです。さらに、車ではなく公共交通機関を利用した人しか入手できない仕組みにすれば、観光地の混雑を緩和することも可能になります。NFTという概念がより広まっていけば、各地で実施されているスタンプラリーのような仕組みも実現できるでしょう。

観光×NFTのビジネスが成功すれば、新しいインバウンド事業の創出にもつながりますし、画期的なソリューションであれば越境もできると思います。さらにその先の展望としては、札幌の地にスタートアップエコシステムをつくるという目標があります。現在も市役所と意見交換をしていますが、東京に比べて札幌は若者を信じる大人がとても少ないんです。ですから私がその橋渡しをしたいと考えています。

――日本の成長には地方の発展が不可欠ということですね。

東京と札幌を比べると、必要性が分かりやすいと思います。例えば、東京で生まれた人がそのまま東京の大学に通い、インターン先で上手い具合にベンチャーキャピタルと出会って、そこから出資が決まり独立、といったストーリーが起き得ます。しかし、札幌で同じことが起きる確率は劇的に低いでしょう。生まれた場所によってチャンスの確率も違ってくる。私はそこに大きな疑問を感じます。私は札幌という街が大好きで、この街に引っ越してきました。街に紐づかないチャンスを増やすことができれば、人間はもっと自由に好きな場所に住めるはずです。NFTの可能性を引き出して、そういった世界をつくっていきたいと考えています。

畠中 博晶

株式会社あるやうむ 代表取締役

東京での中高生活に疲れ、北大への進学を機に札幌移住を志すも、周囲の猛反対に遭い断念。失意のまま進学した、京都大学総合人間学部在学中の2017年に、日経の改正資金決済法特集の記事をきっかけにビットコインに出会い、父から渡された30万円の教習所代で仮想通貨の裁定取引を始める。それ以降ブロックチェーン/仮想通貨の世界にのめり込み、稼いだ資金で2020年3月に念願の札幌移住を果たし、2020年11月に、株式会社あるやうむを創業。

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