「Web3時代のアニメスタジオ」とは。NFTホルダーと共同制作し、新たなアニメづくりを模索する「ANIM.JP」に訊く

「日本が世界を席巻する業界といえば?」そう問われたとき、「アニメ業界」と口に出す人は少なくないはず。日本で爆発的に流行したアニメが海外でも大ヒットするという流れは、もはや世界的に当たり前の光景になっています。そんな日本のアニメ業界において、NFTを多くの人に保有してもらうことで資金調達から制作、配信、プロモーションまでを包括的に行うアニメ制作プロジェクトが始動しています。それが「Web3時代のアニメスタジオ」を標榜し、活動する「ANIM.JP」です。
今回は、自身もかつてアニメ業界に身を置き、日本のアニメ業界の現状や課題を目の当たりにしてきたANIM.JPの代表、LEGこと足尾 暖氏に、Web3がアニメ業界にもたらす影響やANIM.JPが目指す新たなアニメ業界の道筋についてお話を伺いました。

ざっくりまとめ

- つくる人と売る人が分断された日本の「製作委員会方式」はクリエイターの厳しい労働環境に影響を与えてきた。

- ANIM.JPの立ち上げは、海外のWeb3プロジェクトのアニメ参入も一つのきっかけ。

- ANIM.JPは、NFTホルダーとクリエイターがともに作品をつくる「共創型」プロジェクト。

- エコシステムを構築することで、日本のアニメ制作に新たな選択肢を増やしていく。

Web3時代の制作プロセスを定義し、新たなアニメづくりを模索

——日本のアニメ業界の現状について教えてください。

日本のアニメ業界は、「製作委員会方式」という方法がとられていて、そのアニメを売る人(出版社や配給会社)と制作する人(制作会社やクリエイター)が完全に分断されています。アニメに対して権利を持っているところと制作能力を持っている現場が分かれているため、そのアニメがどれだけヒットしても現場には制作費以上のお金が流れていかない構造になっているのです。

——そのようなアニメ業界の現状は、どのような課題につながっているのでしょうか?

制作費以外の報酬がないと、制作会社は製作委員会からきた仕事に、いかに安く効率よく取り組むかを考えるようになります。人件費のカットも行われるようになり、人材の流出にもつながってしまいます。一方で、アニメが好きでこの業界で働きたいと流入してくる人材もまた多いので、人の入れ替えが起こりやすく、結果、長期間アニメ業界で働く人材が少ないために、クリエイターの賃金底上げが実現されないという事態が起きています。

また、アニメに関わる業務が分断されていることで、制作会社は受託することが目的化していきます。制作の作業を担ってくれる人材は、フリーランスなどの委託先でも問題ないわけです。この現状は、なかなか新たな人材が育たないという事態を生み出すことにもなります。

——ANIM.JPの立ち上げ理由には、このような課題を解決したいという考えもあったのでしょうか?

そうですね。あとは、海外でのアニメIPに関する動向もきっかけの一つです。海外ではWeb3の仕組みを使ってアニメIPを立ち上げようという動きが2022年2月頃から活発になっていて、なかには“日本のIP風”のプロジェクトが莫大な資金を調達している事例もあります。

日本のアニメ業界は長い期間、限られた予算のなかで懸命にものづくりをして世界的にアニメの礎を築いてきたはずなのに、上澄みを持っていかれた気がして憤りを感じました。しかしそんな海外の動きを見て、むしろこれまで世界のアニメを牽引してきた日本こそ、Web3時代に適した制作プロセスをうまく構築して、よいものづくりができるのではないかと考えたことが、プロジェクト立ち上げのもう一つのきっかけです。

NFTを資金調達の手段として活用し、NFTホルダーと共にアニメを制作

——実際に、ANIM.JPはどのような取り組みを行っているのでしょうか?

ANIM.JPは、「ANIM PFP(数千のANIM.JPオリジナルキャラクターから自動生成されるデジタルアート作品)」の所有者になってもらうことで資金調達を行い、コミュニティのなかでクリエイターとNFTホルダーがアニメに対するアイデアを出し合いながら一緒にアニメをつくっていくプロジェクトです。プロジェクトの進捗が常にコミュニティで共有されているのが大きな特徴ですね。

このように、NFTを資金調達のツールとしWeb3の特性を活かしながらプロジェクトを進めることで、アニメ制作を包括的に行えるようになります。つまり、アニメをつくる機能と売る機能が一つの母体に集約されることにより、資金調達から制作、配信、プロモーションまでをワンストップで行えるのです。

——前述のクリエイターが抱える課題に対しては、どのようにアプローチしていくのでしょうか?

クリエイターにもNFTを保有してもらうことで、賃金の課題を解決できる可能性があると考えています。NFTはクリエイターに自ら購入してもらうだけでなく、制作の報酬としてお渡しする、ということも可能です。ブロックチェーン上にクリエイターの作業実績が積み上がっているので、NFTを保有していればアニメのヒットなどで生じた利益から、制作費以外にも報酬を受け取る権利が発生します。現在、この仕組みの構築に取り組んでいる最中です。

——もう一つの課題、人材の育成が不十分になってしまう点についてはどうですか?

“教えていくためのカリキュラム”をプロジェクトのなかで用意しているわけではありませんが、知識を得るための環境にはなっていると思います。これまでは制作会社に入り込まない限り、アニメ制作のプロセスを知ることはできませんでした。たとえ制作会社に就職したとしても、スキルのあるフリーランスの方は自宅で作業していることも多いため、高いスキルを目の当たりにする機会が少ないという場合もあります。

ANIM.JPでは、NFTホルダーとしてコミュニティに所属することで、制作のプロセスを常に追うことができるようになります。これは、今後クリエイターとしてアニメ業界に携わっていきたいけれどその知識を得られる場所がない、という方にとっても大きなメリットではないでしょうか。

——一方、ANIM.JPのNFTホルダーになることのメリットはどんなところにありますか?

現在、ANIM.JPのNFTホルダーは約2,000人ですが、6割の方が資産として保有している方で、あとの4割は我々の「アニメ業界の新たな道筋をつくっていこう」という考えに共感し、応援の気持ちからNFTホルダーになってくれている方々です。応援という目的でNFTを保有している方ほど、コミュニティでの活動に積極的な方が多いですね。このような方々にとっては、やはりアニメ制作のプロセスで意見を出したり、進捗を目にしたりといった、作品づくりに参加できることこそが大きなメリットではないでしょうか。具体的には、ストーリーや世界観の設定を考えたり、主題歌の歌詞に入れたいフレーズを応募したりと、NFTホルダーの方もいちクリエイターとして関わることができるのです。もちろん、エンドクレジットにもNFTホルダーの皆さんの名前を掲載します。

サブスクリプションサービスなどで、アニメコンテンツを消費するという機会は多くあるのですが、アニメづくりに携わるという体験をすることは少ないですよね。我々はアニメ業界に身を置いていた経験から、消費する以上につくることが楽しいと知っているので、NFTホルダーの方にも「いかに自分たちの作品であると感じてもらえるか」を重視して仕組みづくりを行っています。

日本のアニメは、Web3でも世界に飛び出していける

——制作プロセスの違いによって、アニメ作品そのものにはどのような変化を生むと考えていますか?

コミュニティ内でのやりとりのなかで、多くの方に求められているテーマなどを事前に把握できるため、よりマーケットインの思考でつくられた作品になる、という部分が大きな違いだと思います。また、製作委員会方式とは異なり、複数の関係者によるフィルターがあまりかからないので、作品をつくる上での制限が少なく、純粋にやりたい表現ができることもアウトプットに違いが出てくる要因になると思います。これまでアニメの制作に関わっていなかったNFTホルダーの方からの意見を脚本家や監督が作品に昇華することで、これまでのアニメにはなかった化学反応が起こるのではないかという期待もありますね。

——アニメのリリース段階においても、これまでとの違いはあるのでしょうか?

リリースの段階で大きく違うのは、「最初から世界に飛び出していける」という部分です。ANIM.JPのNFTを保有するためのイーサリアムはどこの国でも使えるため、住んでいる場所に関係なく我々のNFTを保有することができます。NFTを持っていれば世界中の誰もがANIM.JPのコミュニティに参加できるので、IPの立ち上げ時からすでに世界中にファンがいる状態をつくれます。これまでのように、日本でヒットしたら次は海外に、という流れではなく、最初から海外に訴求できるのが大きな違いであり、メリットだと考えています。

——海外プロジェクトのアニメ参入が激化するなかで、ANIM.JPをはじめとする日本のプロジェクトにはどんな勝ち筋がありますか?

最初に製作委員会方式をとっていることでクリエイターにお金が流れていかない、という話をしましたが、実はこの構造がもたらしたものは悪いことばかりではありません。製作委員会があったことで作品数が圧倒的に多くなり、多様な作品群が生まれたのです。先行の作品を礎に、よい作品が生まれる土壌が日本にはできあがったのだと思います。自分の役割に集中してスキルを磨き上げられる環境と、日本人の職人気質が化学反応を起こすことで、どのアニメであっても一定のクオリティでリリースできるようになったのも、この製作委員会方式のおかげです。

このように、日本のアニメにはこれまで積み重ねてきた歴史と練り上げられた技術があります。海外プロジェクトが表面的に真似て、日本のアニメライクなキャラクターを成立させることは簡単ではないでしょう。これが、日本が持つ大きな強みであり、海外に対する勝ち筋だと考えています。

そもそもWeb3時代のアニメづくりは、まだ前例がない状況です。構想はあれど、誰も実現できていないんです。そういった意味では勝ち筋というよりも、新しい型を生み出せるポテンシャルが高い国こそ日本だというべきかもしれません。

ANIM.JPがつくり出すシステムが、日本のアニメ業界に選択肢を与える

——最後に、ANIM.JPの今後の展望について教えてください。

直近の展望でいうと、テレビアニメ制作も視野に入れた検討を進めています。立ち上げ当初は、実験的にショート作品をつくる計画だったのですが、本気で新しい制作プロセスを実現し、日本のアニメを世界に出していくつもりであれば、テレビで放送できる12話構成の本格的なアニメを最初からつくっていくほうが早いと考えたためです。地上波以外の配信プラットフォームに売り出すことも視野に入れています。

また、今後はIPごとに別のNFTを発行して資金調達を行い、作品づくりを進めていく仕組みを取り入れようと考えています。すでにアニメ化が決まっている漫画家さんの原作をIPとしてNFTを発行し、プロジェクトとして世界中にローンチすることも予定しています。現在のNFTホルダーの方はIP単位ではないホルダーにあたるので、複数のプロジェクトに参加していただけるように仕組みを考えています。

——Web3上での具体的な仕組みづくりをしていくのですね。

ANIM.JPはあくまでも、Web3を活用した“箱”だと考えています。IPごとにNFTを発行することで新たな作品を続々と生み出す、Web3上のアニメスタジオというイメージです。現在は1歩目としてANIM.JP主体のオリジナル作品の創出を目指していますが、プラットフォームとして機能をアップデートしていきたいです。

前述のとおり、Web3を活用したプロジェクトはアニメに限らず実態のないものが多く、新しいIPをつくるというのも構想段階のものばかりです。そんななか、ことアニメに関していえば、日本は経験豊富なプロフェッショナルと一緒にアニメをつくり上げることができるという強みを持っています。Web3の仕組みにその強みを掛け合わせ、「資金調達・制作・配信や版権利用・特典や報酬の授受」というエコシステムをしっかり1周させることを実行できるのが日本ではないかと考えています。これを我々が推進することで、日本のアニメ業界に新たな選択肢を提供してきたいですね。

LEG

ANIM.JP Founder/Main Designer

元スタジオたくらんけ所属、アニメ業界、ゲーム業界を経て、現在は株式会社オプトならびに株式会社デジタルホールディングスに所属するクリエイター。 ANIM.JPでは作画、イラスト、デザイン、企画立案、アニメ業界とのハブになることが主な担当領域。

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