ただの激安通販アプリじゃない。AmazonにもマネできないWishの戦略 ~デジタルシフト未来マガジン〜

「デジタルシフト未来マガジン」では、石原靖士氏が捉えた国内外のデジタルシフトの最新事例を紹介する。
石原靖士
株式会社デジタルホールディングス 執行役員
株式会社オプト 上席執行役員

2003年、旧ソフトバンクIDC㈱に入社。ネットワークエンジニアとして従事した後、2006年にオプト(現:デジタルホールディングス)入社。営業、マーケティング職を経て、2010年にWebマーケ会社のデジミホ(旧デジタルホールディングスグループ)の取締役に就任。SaaS系の新規事業を立ち上げ・グロース後、事業売却。2015年にオプト執行役員に就任し、エンジニアとクリエイティブの組織を拡大。2019年4月、グループ執行役員に就任し、レガシー業界のデジタルシフトを狙った、顧客との共同事業開発を推進中。
今回紹介するのは、「激安の殿堂」に挑戦する通販アプリ「Wish」です。Wishは、販売者と購入者をつなぐ、Amazonのようなマーケットプレイスを提供しています。コンセプトとして「この星で一番安い値段で購入」「1円からの限定セール」を掲げているように、徹底的な「安さ」を追求しています。有名ブランドの類似品も平気で売られているなど、ともすれば胡散臭い印象すらあるこの激安通販アプリですが、侮ってはいけません。デジタル時代ならではの通販戦略のもとに、特定のターゲットに支持される革新的なビジネスモデルを持っています。2010年以降に、1,300億円をも資金調達を実現していることからも、市場からの評価は見て取れるのです。

先入観を捨て、「Wish」から何を学べるのか詳しく見ていきましょう。

■「Wish」の実体

※AppStoreより
Wishは2010年にGoogleのエンジニアがサンフランシスコで創業しました。元々は、欲しいものや、やりたいことをリスト化する「ウィッシュリスト」の管理アプリとしてスタートしています。

その後にアプリで集めたデータからユーザーが何を欲しがっているかを分析することで、グローバルにサプライヤーを求め、マーケットプレイスを開始したのです。

2019年末の調査時点で、会員数はおよそ5億人、月間の購入者数はおよそ7500万人、売上は1000億円を超えています。ちなみにWishの収益は流通金額の15%を販売者側から受け取っている販売手数料からなっています。


安さの理由としては、中間業者を介していないことが先ずあげられます。

Wishに出品しているのは、多くが中国のメーカーです。メーカーが直売しているからこそ、本来上乗せされる中間業者のマージンの分が安くなっています。

さらに特徴的なのが、「ブランドが重視されない商品」を多く取り扱っていること。例えば、ノーブランドのアクセサリーや、LEGO風の子ども向けブロックなど。必要最低限の機能はありますが、ブランドものではないからこそ安く販売されています。そして、「配送にかかる時間が長い」ことも値段が下がる理由です。Amazonはすぐ届くことを売りにしていますが、Wishでは届くまで3週間以上かかることもあります。

なぜ、このような配送スピードでも商品が売れるのか?それはターゲット層が、スピードを求めていないからなんです。

徹底的な「安さ」を打ち出しているWishのメインターゲット層は、先進国や発展途上国を中心に、世界に14億人も存在するといわれている年収30〜200万円の「中間所得層」です。「ブランド品でなく類似品でも良いし、届くまでに時間がかかっても良いから、とにかく安く買いたい!」というニーズに応えるのがWishの戦略。

例えばアメリカの都市部ではAmazonの配送が行き届いていますが、地方に行けばAmazonですら、配送に数日かかるということがざらにあると言います。そうしたところに住む人にとってみれば、配達のスピードに大きな意味はないのです。
しかし、「ECの巨人」とも言われるAmazonにたったそれだけで対抗できるのでしょうか?そこにはAmazonにもマネのできないWishの戦略があります。

■Amazonにはマネできない3つのポイント

Wishのポイントは「圧倒的な価格メリットの訴求」、「バーティカル化の徹底」、そして「メーカーでも出品しやすいUX」です。
ポイント1:「圧倒的な価格メリットの訴求」
すでにご説明した通り、Wishの強みは何といっても安さです。日本国内の相場と比較すると、多くの商品が90%ほど割り引かれて売られています。

そして、その安さを強くユーザーに訴求します。例えば、アプリ上でルーレットが始まり、その結果次第で限定セールが行われるというものや、セール情報を配信するプッシュ通知、割引コードを記載したポップアップなど多岐に渡ります。

このように、様々な手法と割引内容を巧みに組み合わせてユーザーに安さを伝えているのです。

ポイント2:「バーティカル化の徹底」
Wishはコマースサイトによくある、「ホーム画面→家電→冷蔵庫」のように商品を探す階層構造を採用せず、ジャンル毎に複数のアプリを作り分けています。メインの「Wish」はファッションや化粧品などを取り扱うアプリです。他には、子ども向け商品を扱う「Mama」、インテリア用品を扱う「Home」などを運営しています。

複数のアプリに分けるメリットは、ターゲット層やニーズを絞ることで、コンテンツを国ごとにローカライズする必要がなくなることです。こうしたバーティカル戦略を徹底することで一気にグローバルに拡大することができています。

ポイント3:「メーカーでも出品しやすいUX」
Wishではメーカーが直接販売していることが多く、それが安さの理由のひとつです。しかし、メーカーはあくまで作ることがメインで、多くの場合、ECサイトの扱いに慣れていません。

メーカーの人でも簡単に利用できるように、Wishは販売側のシステムもとてもわかりやすく作られています。マーケットプレイスに出品するにあたり必要なサービスが一通り揃っていて、慣れていない初心者でも簡単に利用することができるのです。また、グローバル展開していることから、多言語対応や通関・税務用の機能も充実しています。

販売側にとっても使いやすいことから安い商品が集まり、安い商品があるから消費者も集まるという好循環を生み出しているのです。

■「中間所得層」のニーズを忘れていないか?

あらためてWishのターゲット層は、先進国や発展途上国で、年収30〜200万円の「中間所得層」と分析できます。今後10年で、この中間所得層は35億人に急増すると推計されていて「ネクストボリュームゾーン」と言われているのです。

今はまだ「ありえない」と思われるかもしれませんが、Wishがこのまま中間所得層のニーズに応えるサービスを提供し続け、圧倒的な支持を維持すれば、最終的には「ECの巨人」Amazonをひっくり返す。社会的に大きな意義を持つ。そんな未来が訪れるのかもしれません。

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