シリーズBで45億円調達。米進出でバーチャルオフィスの世界トップシェアを狙う「oVice」

2020年8月にサービスをスタートさせたバーチャルオフィス「oVice」。昨年より実施しているテレビCMや斬新なキャッチコピーによるプロモーションで、その知名度は急上昇中。二次元の空間をアバターが移動するシンプルな設計は、回線速度が遅い環境でも安定して作動するため、日本ではバーチャルオフィスのトップシェアを誇っています。昨年3月に行ったインタビューから1年半以上が経過した現在、oViceを取り巻く環境はどのように変わったのか。本格的なアメリカ進出の背景や、新しいハイブリッドワークの形について、oVice株式会社で代表取締役CEOを務めるジョン・セーヒョン氏にお話を伺いました。

ざっくりまとめ

- 日本のリモートワーク率は韓国やアメリカよりも高い。要因として、コロナ禍以前より国がDXを推進していたこと、コロナ禍では国も企業も在宅勤務を推奨していたこと、ワクチンの遅れによりリモートワークの実験期間が長かったことなどが考えられる。

- 2022年8月にはシリーズBで45億円の資金調達を行い、本格的なアメリカ進出を目指す。リモートワーク未体験の人が多いアメリカで、oViceとして独自のポジションをどのように確立するかを検討中。

- 「デジタルワークプレイス」とは、オンラインとオフラインに囚われない新しいハイブリッドワークの形。どこで働こうとも不公平が生じず、適正なパフォーマンスが発揮できる環境を目指す。

- バーチャルオフィスの世界はネットワーク効果を生みやすいため、oViceを含む現状のトップランナーがこれからも先行し続けるとジョン・セーヒョン氏は予想する。

「oVice出社」だからできる働き方の広告が話題に

――前回の取材から1年半以上が経過しました。その間、テレビCMの放映をはじめ、大々的なプロモーションの展開もあり、知名度が上がってきていると感じています。この1年半でどのような変化がありましたか?

初のテレビCMを流したのは昨年の8月です。当時は誕生から1年未満のサービスだったので、会社としての信頼度を高めたいという狙いでテレビCMを実施しました。12月になるとコロナ禍の影響も一時的に落ち着いてきましたが、リモートワークという働き方は衰退することなく、コロナ後も定着する流れが見受けられたので、そこで大きくプロモーションを展開しました。oVice出社だから実現できる「5秒で出社できること」や、「布団でも仕事ができる」ことをアピールしたいくつかの広告を実施したところ、「もう猫吸いながらしか仕事できません」という電車内広告の画像がTwitterで12万以上のいいねを獲得するなど、大きくバズりました。

――テレビCMでは厚切りジェイソンさんを起用していましたが、この意図を教えてください。

私自身が外国人で、マーケットにも「oVice=海外のサービス」というイメージが強くありましたので、海外の人に「oViceを使わないのはおかしいよね?」と言ってもらいたいと考えました。人選をいろいろ考えたときに厚切りジェイソンさんが浮かび、「Why oVice 使わないの!?」というセリフを言ってもらうことで黒船的なイメージを演出しています。

――2021年はシリーズAで18億円を調達したこともニュースになりました。主にどういった目的で調達したのでしょうか?

メインはグローバル展開です。今は日本のユーザーが9割を占めていますが、その次のマーケットが韓国です。ただ、韓国に関してはリモートワークの割合がそこまで高くないのがネックになっています。

――韓国のリモートワーク率の低さにはどんな要因があるのでしょうか?

韓国が低いというより日本が高いのかもしれませんね。日本ではコロナ以前より国がDXを推進していたこともあって、一気にリモートワークが浸透した面があります。コロナ禍においても国が出社率や在宅率を数字で示して、企業もその流れに従いました。加えて、oViceの存在も影響していると思っています。oViceのようなリモートワークに上手くハマるツールがなかった海外に対し、日本では国も企業も在宅勤務を推進した流れをサポートし、適切なツールがあったからこそ、ここまで定着したと見ています。

オフィスの規模を縮小する企業も出てきましたし、今やリモートワークでも普通に働けることが分かってきたので、無理にオフィスに戻る必要がないですよね。日本ではワクチン接種の開始が遅かったことも要因の一つだと思います。アメリカでは早い段階からワクチン接種が始まっていたため、リモートワークが普及する前にオフィスに戻ることができましたから。

実際に、アメリカでもリモートワークはそこまで定着していません。イーロン・マスク氏が全面的にリモートワークを禁止して物議を醸しました。Googleもオンとオフを組み合わせたハイブリッドワークを導入しています。日本と違ってリモートワークの実験期間が短すぎたことが原因でしょうね。

世界シェアのトップを目指し、本格的にアメリカへ進出

――2022年8月にはシリーズBで45億円の資金調達を発表されていますね。主な用途として「アメリカなどを中心とする海外展開」とありますが、アメリカ市場を狙う背景を教えてください。

oViceはバーチャルオフィスとして、アメリカの「Gather」に次ぐ2位のシェアを獲得しています。来年には本格的に1位を狙っているので、最も市場の大きいアメリカを狙うのは必然的な流れです。先ほどもお話ししましたが、アメリカは比較的早い段階で通常のオフィスワークに戻ってしまったので、リモートワーク未体験の人が多くいます。そんな市場でoViceがどうやってバリュープロポジションを確立していくのか。そこを検討している状況です。

いずれにせよ、世の中は働く場所を選ばない方向に進んでいくと考えています。そこでoViceが独自のバリューを提供できれば、アメリカでも勝算はあるでしょう。oViceがトップシェアを取れるかどうかは別として、マーケットは絶対に生まれます。日本でマーケットが生まれたのですから、他の国で生まれない理由はありません。
アメリカなどのユーザー向けに公開している英語版のoViceサービスサイト

アメリカなどのユーザー向けに公開している英語版のoViceサービスサイト

オンラインとオフラインの二項対立を乗り越える「デジタルワークプレイス」の実現

――先日発表されたコクヨとの業務提携では「デジタルワークプレイス」というフレーズが使われていましたが、この詳細を教えていただけますか?

「デジタルワークプレイス」とは私たちの考えるハイブリッドワークの形です。出社しているのか、リモートなのかといった二項対立に囚われず、オンラインでもオフラインでもシームレスにつながる新しい働き方を標榜しています。現状のハイブリッドワークにおける問題は、働く場所によって不利益が生じてしまう点にあります。

例えばリモートワーク率が一割の会社では、オンラインが圧倒的に不利になってしまいます。なぜかというと、オフラインがほとんどの情報を独占してしまっているからです。共有されている情報が少ないということは、働く人のパフォーマンスを低下させることを意味します。何か出社できない理由があってリモートワークを選んだとしても、そこで不公平が生じてしまうのは好ましくありません。

――仕事のパフォーマンスまで踏み込んで、ハイブリッドワークを捉えているわけですね。

オンライン、オフラインを問わず一つに融合させた空間が「デジタルワークプレイス」です。そこではオンラインとオフラインでも、オフラインとオフラインでも同じコミュニケーションができます。どこで働くのかを自分で決めることができ、場所によって不公平が生じない。「あの人は出社せずにリモートワークだから、会社に対するロイヤルティが低い」と判断されるのではなく、どこで働こうとも結果を出していれば正当に評価される。これが私たちの考えるハイブリッドワークが成立している状態です。

バーチャルオフィスの市場は少数の先行者が勝つ世界

――今後、バーチャルオフィスのマーケットはどのようになるとお考えですか? 御社の展望と合わせて教えてください。

日本の状況からお話しすると、oViceがシェアの大半を取るか、市場が消えてしまうかのどちらかになるでしょう。現時点ではoViceが圧倒的なシェアを占めているので、市場自体がなくならない限り、oViceがトップを取り続けると考えています。oViceがここまでシェアを拡大できた理由としてプロダクトの安定性が挙げられます。少しでも動作が不安定だと日常的な会話もスムーズにできなくなってしまいますが、動作が軽く安定しているoViceならその心配はありません。

オンライン会議ツールの市場では、Zoomが先行者利益でトップを走っています。動作が安定していてアクセシビリティに優れているので、コロナ禍で一気にシェアを伸ばしました。ユーザーが増えることでZoomには新たなノウハウが蓄積されて、さらに良質なサービスを提供できるようになります。マイクロソフトやGoogleも同様のサービスを提供していますが、Zoomには追いつけていません。これと同じことがバーチャルオフィスの世界でも起きるでしょう。

oViceやGatherなどの上位プレイヤーがそのまま独走を続け、M&Aをしながら成長していく。もしくは、GAFAなどに買収されるか。新興国ではローカルな類似サービスが出てきて、独自の発展を続けていく。そういった構図になると思います。

oViceの展望としては、来年にはバーチャルオフィスの世界シェアトップを狙います。チャットツールやソーシャルゲームと同様、ユーザーが多くなるとネットワーク効果によって、多くのメリットが生まれますので。ツールが分散してしまうよりも、皆で同じツールを使ったほうがコミュニケーションもスムーズになります。世界的に見ても、今からの新規参入でバーチャルオフィスの勢力図を塗り替えることは難しいでしょう。デジタルワークプレイスの普及を目指し、これからもトップを走り続けます。

ジョン・セーヒョン

oVice株式会社 代表取締役CEO

1991年11月、韓国生まれ。中学・高校時代にオーストラリアに留学。帰国後日本の大学受験に失敗、その翌日に貿易仲介事業を起こす。日本の大学を再受験して進学し、在学中にIT事業会社の設立。2017年に上場企業に会社の売却を経験。
IT技術のコンサルタントを経て、2020年にNIMARU TECHNOLOGY(現在のoVice)を設立。

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