小売業界に求められるこれからのマーケティングDXとは何か。オンラインイベント「オプトマーケティングカンファレンス」レポート
2023/1/10
2022年11月10日、「小売業界に求められるこれからのマーケティングDX」をテーマに、オンラインイベント「オプトマーケティングカンファレンス」が開催されました。当日は、小売業界各社の豊富な事例やマーケティングDXに関するノウハウが紹介され、大きな盛り上がりを見せました。本記事ではそのなかから、オーダーメイドブランド「KASHIYAMA」でのDXプロジェクトによって明かされた「最適な顧客体験・接客の実現とは? 小売マーケティングDXとCX」と、顧客行動の分析から成果をあげた「ららぽーとクローゼット」の事例が紹介された「商業施設におけるマーケティングDX」についてレポートします。
Contents
ツール導入後、「定着」に向けて行った改革
「最適な顧客体験・接客の実現とは? 小売マーケティングDXとCX」セッションより
登壇者
デジタルトランスフォーメーション本部
デジタル戦略部
大井 綾子氏
株式会社デジタルシフト
CXデザイン部
チームマネージャー
清水 啓介氏
清水:本セッションのテーマは、手段として導入したツールを上手く使いこなせず、DXもCXも実現できないという失敗を防ぐことです。ツールの導入はあくまでスタートであって、重要なのは定着と運用だという観点からお話しできればと思います。大井さん、よろしくお願いいたします。
大井:私がDX担当としてツール導入後の定着に向けて行ったことは三つあります。一つ目は「チーム結成」、二つ目は「みんなが腹落ち」、そして三つ目が「ゴールの明確化」です。
最初は、顧客カルテやBIツール(※1)を導入したらスタッフ全員が活用すると思っていましたが、そうはなりませんでした。ツールを使うよう強制力を持たせた取り組みを行っても定着にはつながりません。理由が分からず、現場スタッフにインタビューをしてみると、「目的とゴールが腹落ちしていなかったから」だと分かりました。
※1 BIツール:ビジネスインテリジェンスツールの略。企業に蓄積された大量のデータを集めて分析し、迅速な意思決定を助けるためのツールのこと。
目的・ゴールの腹落ちを推進するために、三つの改革を実行しました。「活用している人の成功体験を共有」「推進チームのバージョンアップ」「表彰」です。これらの改革を行ったことにより、「顧客体験価値を上げる」という目的が理解され、「ファンになってもらう」というゴールが明確になりました。目的とゴールが腹落ちしたことで、顧客カルテが活用されるようになり、その結果、より顧客を意識し、皆が顧客体験価値の重要性に気づくことができました。
今回の経験から、スタッフ一人ひとりがツールを活用し、自分と顧客を意識することが非常に大事だと感じています。ツールはあくまでも手段で、新しいツールが導入されたからといって顧客体験価値が上がるわけではありません。ツールを最大限に利用して、自分と自分の接客をアップデートし、顧客体験価値を上げることこそが重要です。
清水:ありがとうございます。CXはあくまでお客さまが中心です。企業側のイメージ先行で設計せず、お客さまと向き合ってよい体験/わるい体験を考えた上で設計することが重要です。また、腹落ちさせながら組織を動かすことも大事になります。従業員の方々にどう能動的に動いてもらうか、そして、お客さまにどう向き合うか、この二つが理想のDX・CXには必要だと考えています。
「顧客行動」に立ち返り見えた「体験」の価値
「商業施設におけるマーケティングDX」セッションより
登壇者
商業施設本部 商業施設運営部
イノベーション推進グループ 主事
伊藤 剛氏
三井不動産株式会社
商業施設本部 商業施設運営部
イノベーション推進 技術統括
越智 将平氏
伊藤:三井不動産では「VISION 2025」という長期経営方針のもと、「DX VISION 2025」を掲げ、DXに取り組んでいます。そのなかには「事業変革」「働き方改革」「推進基盤」という大きく三つの柱があります。 今回は「事業変革」についてのお話です。
「事業変革」とは「Real Estate as a Service」という考え方で、不動産を「モノ」として扱うだけではなく、「働く」「住まう」「楽しむ」といった行動を起点にした「サービス」を提供することを目指しています。
そのなかで、2017年11月に、商業施設と連携したECモール「&mall」をオープンしました。これは、従来の商業施設ビジネスとは異なり、よりエンドユーザーに近いビジネスモデルです。&mallという事業を通してエンドユーザーを知ることで、新たな価値を提供する「これからの商業施設」を考えました。それは、テナントに場所を貸すだけではなく、お客さまを意識し、テナントを通してお客さまに直接サービスを提供するというものです。具体例として「ららぽーとクローゼット」をご紹介します。
越智:ららぽーとクローゼットは2021年3月、商業施設「ららぽーとTOKYO-BAY」内にオープンした店舗です。&mallのサテライトストアとしてファッションを中心に扱っています。事前に予約して店舗で試着し、&mallでご購入いただく、というショールーミング(※2)を前提としているのが基本的なソリューションです。 複数の店舗を回らずまとめて試着できることが提供価値となっています。しかし、正直に申し上げますが、これがなかなかうまくいきませんでした。試着予約とショールーミングの難しさに直面し、利用者が増えないという壁にぶつかりました。
※2 ショールーミング:商品を購入する前に、消費者が実店舗に足を運んで価格や性能を確かめた上で、実際の購入はオンラインで済ませる流れのこと。
そこで、OMO(Online Merges with Offline)の視点で顧客行動全体からサービスを見直すことに決め、顧客行動のパターンを8種類に分類しました。そのなかで、ららぽーとクローゼットのターゲットに該当するグループは、そもそも数が少ないという結論に至ります。そのため、独自調査の結果から増加傾向があると分かった別のグループに向けて、ららぽーとクローゼットを再設計することにしました。
具体的には、「試着予約」だけではなく「体験予約」を追加しました。例えば、「パーソナルカラー診断」や、3Dボディスキャナーを使った「ボディタイプ診断」です。診断後には、トータルコーディネートやスタイリングのお手伝いをします。
これらを始めて半年ですが、成果が出てきています。特筆すべきは、予約のうち95%が体験予約になっていることです。また、体験予約をされた方は購入率が高いことも分かっており、客単価も通常の2倍以上になっています。&mallでの購入率も高い状況です。このような、購入率が非常に高く、お客さまに喜んでいただけるような販売方法は注目すべきだと考えています。
今回、OMOにおいて重要な視点は、お客さま主体で考えることだと、本当に思い知りました。「ショールーミングが流行るだろうからショールーミングをやろう」は、難しいということです。「Real Estate as a Service」で考える我々のサービスは、お客さまがどういう行動を取っているかをしっかりと理解した上で、そのお客さまの行動に即したサポートでありたいと改めて考え直しました。