Web3マーケティングへの第一歩【「Web2.5からはじめるマーケティング」ウェビナーレポート】

「Web3(Web3.0)」という言葉が急速に広がり、ブロックチェーンやNFTなど、関連する技術を活用した事例も増えています。しかし、実際に自分の業務にWeb3を取り入れる方法が分かる人は多くないかもしれません。今回は、マーケティング領域でWeb3を活用する第一歩として「Web2.5のマーケティング」を提案するオンラインセミナーをレポートします。

2023年4月18日、株式会社オプトが主催するオンラインセミナー「【Web3.0×デジタルマーケティング】 Web2.5からはじめるマーケティング」が開催されました。本セミナーは二部構成で、前半では株式会社既読 CEOの長谷川 春氏、SBINFT株式会社 代表取締役社長の高 長徳氏から「Web2.5のマーケティング」に関する説明やNFTなどを活用した実例が紹介されました。後半は、株式会社デジタルホールディングス グループ戦略部の足尾 暖氏と、全体のモデレーターも務めた株式会社オプト プランニング統括室 室長 兼 コミュニケーションデザイン部 部長の中村 駿介氏を交えた4名によるパネルディスカッションが行われました。実際のオンラインセミナーの様子をお届けします。

「既存の顧客を大事にしながらブランドを一緒に育てていく」のがWeb3マーケティング

長谷川:本日は「Web3につなげるためのWeb2.5からはじめるマーケティング」というテーマでお話しさせていただきます。「Web3」がバズワードになっていますが、クリエイティブエージェンシーとして、いろいろなお客さまと向き合うなかで「実際、どうやったらよいのか」や「何から始めればよいか分からない」という意見が多くあります。それらをふまえて、「まずはこう考えてみてはいかがでしょう」という内容をお伝えします。

そもそもWeb3は「ブロックチェーンの技術を基盤に、ビッグテックが管理しているプラットフォームから解放され、個人がオープンなインターネットを取り戻すために生まれたカウンタームーブメント」といわれています。これがなぜ生まれたかというと、GAFAMなどのビッグテックがユーザーのデータを持ち広告配信などに使うことで、彼らの資本を肥大化させてきたことが背景にあります。正直、国境を越えた支配者になっているというのが現状だと思います。このような中央集権的な情報権力を分散させて、より個人をエンパワーメントすることを目指したため、Web3という概念が注目を浴びるようになっています。

Web3に至る変遷を簡単に振り返ります。Web1.0は一方通行の時代です。昔のGoogleやYahoo!などのように一方的にコンテンツを掲載するものでした。Web2.0になると、SNSなどに代表される双方向・相互コミュニケーションの時代になります。そして、分散化の時代となり、プラットフォームには依存せず、参加者が分散して情報を所有するというのがWeb3です。

続いて、Web2とWeb3のマーケティングの違いについてお伝えします。現状のWeb2のマーケティングでは、サービスやプロダクトを出した際に、まずは新規顧客を獲得するために認知を上げ、興味を持ってもらい、購入された後は購入者をつなぎ止めてクチコミを広めてもらう、という手法が多いかと思います。一方、Web3のマーケティングでは、認知獲得から購入の過程ももちろん重要ですが、どちらかといえば、すでに購入してくれた人や関わってくれている人たちに、さらなるブランド体験を提供することに注力する、という考え方が重要になります。
言い換えると「既存の顧客を大事にしながらブランドを一緒に育てていく」という考え方です。ブランドというと、つくった側が管理しなければならないという考えが強いと思いますが、それだけではなく、どんどんユーザーを巻き込みながら一緒に育てていく方針がWeb2との大きな違いです。その上で、現状のWeb2のマーケティングから、Web3のマーケティングに向けた第一歩として始めやすい手法が「Web2.5のマーケティング」と考えていただければと思います。

広告にブランド体験やストーリー体験を掛け算。Web2.5のマーケティングとは

長谷川:それでは、Web2.5のマーケティングについてご説明します。既存の広告施策と、NFTやXRなどの体験を絡めて顧客のロイヤルティを上げるというのが基本的な考え方です。従来の広告による情報伝達に、Web3の技術で可能になるブランド体験やストーリー体験を掛け合わせたものになります。
Web2.5のマーケティングを行う最大の狙いは、LTV(顧客生涯価値)を高めることです。既存顧客のロイヤルティの向上によってアップセル・クロスセルを狙うことができます。また、PRやUGCコンテンツが生まれることで、そのコンテンツへの関心が高いユーザーの認知を獲得することもできます。さらに、NFTをはじめとするデジタルアセットの販売・転売によって、デジタル経済圏での売上が生まれる可能性もあります。

ここで、Web2.5のマーケティングに該当する具体的な事例をご紹介します。スターバックスは、NFTを使ったポイントを貯めるスタンプラリーを実施しました。スターバックスでアイテムを買ったり、ゲームに参加したりすることで、NFT(デジタルスタンプ)を獲得でき、これを貯めることで特典や特別な体験が手に入るというものです。
次は、H&Mです。メタバースから着想を得たコレクションの発表や、ARによるデジタルウェアラブルの体験を提供しています。さらに、メタバース上にバーチャルストアをオープンしており、実店舗でもデジタルの服を買うことができます。
弊社が関わった事例としては、東急電鉄が東急新横浜線の開業に合わせて、NFTプロモーションを実施しました。NFTを制作・配布し、NFT所有者向けの体験ARコンテンツを提供しました。結果としては、3日間で10,817枚のNFTを配布しました。
中村:ありがとうございます。続いて、SBINFTの高さんからも事例をご紹介いただきます。

高:SBINFT代表の高と申します。我々は、元々、「nanakusa」というNFTマーケットプレイスを2021年4月にリリースしました。その後、2021年9月にSBIホールディングスのグループに入り、現在はグループ内でWeb3部門、特にNFTのコンサルティングやマーケットプレイスといった事業に特化した会社を運営しています。

私からは、弊社とパートナーとの取り組み事例をいくつかご紹介させていただきます。一つ目は、ローソンエンタテインメントと取り組んでいる、ローソンチケットサービスと連動したチケットNFT事業です。これは2022年4月にリリースしており、ローソンが扱うさまざまな興行・イベントの記念チケットの配布から始めています。現在、30イベント以上の配布実績があります。
二つ目は、東北新社と取り組んでいるWeb3コンテンツです。「IRI-DO」というオリジナルのNFTコンテンツを共同制作しています。有名なイラストレーターや声優をキャスティングし、NFT保有者向けのさまざまなリワードプログラムを提供しています。
最後は、広島県竹原市と共同で行った地方創生に近い事例です。竹原市が「アートプロジェクト2022」という、まちおこしイベントを実施しました。その際、町のなかにいくつかQRコードを設置し、それを読み取ると全部で8種類のNFTを受け取ることができるスタンプラリー型のNFT体験を提供しました。そのNFTを持って、提携している竹原市内の施設に行くと、ドリンク1杯無料などの特典を受けられるというものです。

お客さまは「ユーザー」ではなく、価値を共に高める仲間

中村:ここからは、パネルディスカッションとして、足尾さんを含めた皆さまにお話を伺います。Web3をマーケティングに活用していく上での心構えやステップとして大事だと思われることは何でしょうか?

高:事業者の方々は、大小の違いはあれど課題を抱えています。そのなかで共通している課題は、NFTを扱う前段階として「暗号資産を持つ」ということ、そして「ユーザーにどういう体験を提供するか」ということです。特に後者に関しては、既存サービスにちょっとした付加価値を加えたいというNFT活用のお話もあれば、全く新しいNFTだけのサービス展開を希望されることもあります。ただ、どちらにしても、その先にいるユーザー・既存顧客に対して、なるべく分かりやすく、シンプルにNFTに触れてもらうことで、「いいな」と思ってもらえる体験を目指すべきだと思います。我々の事例を振り返ると、まずはそのようなプロジェクトをPoC的に少しずつ始めるケースが多いです。

長谷川:NFTはもちろん大事で、基盤となる技術ではありますが、企業としての方針も鑑みて考えなければならない側面もあるので、我々はデジタルアセットやデジタルアイテムの付与から始めてみることをオススメしています。まさに同じく、PoCから始めることが多いと思います。

足尾:コミュニティ運営を半年以上続けてきて思うのは、NFTやWeb3を活用したコミュニティマーケティングを行う際は、お客さまに対して「ユーザー」として接しないほうがよいということです。顧客ではなくパートナーという感覚に近いと思います。同じNFTを所有している人たちで、その価値を共に高めていく協同関係を築くことができるかが大事です。そして、NFTの所有者が参加できる余白を残せるかどうかや、その人たちの声から生まれた商品が世の中に受け入れられるといった成功体験をコミュニティのなかでつくることができるかどうかが、NFTを活用する上では重要になると思います。

中村:ありがとうございます。本日のセッションは以上で全て終了となります。皆さま、誠にありがとうございました。
長谷川 春
株式会社既読 CEO

アパレルの学校を卒業後、フリーランスのデザイナーを経て、デジタルエージェンシーのOPTにてARTディレクターに従事。現在は、クリエイティブエージェンシーのKIDOKU.inc代表として、デジタルファッションブランド”XXXXTH”の運営と並行し、企業のWeb3参入支援を行っている。
高 長徳
SBINFT株式会社 代表取締役社長

2000年のインターネット黎明期よりSIerやコンテンツ事業者経験の後、GMOメディア、Yahoo!JAPAN、ドリコムやモブキャストなどでゲームプロデューサーやプラットフォーム事業責任者を歴任。
足尾 暖
株式会社デジタルホールディングス グループ戦略部

アニメ業界、ゲーム業界を経て、現在はデジタルホールディングスに所属するクリエイター。
現在はANIM.JPという4,000人規模のDAOを運営し、コミュニティと共につくり上げる新しいエンタメの形を定義している。
先進技術とクリエイティブを掛け合わせた取り組みや、日本から世界に価値を届けることができるWeb3の活用に日々従事している。
中村 駿介
株式会社オプト プランニング統括室 室長 兼 コミュニケーションデザイン部 部長

2015年オプトに入社。メディアプランナーとしてデジタルブランディング支援に従事。2019年よりコミュニケーションプランニング部門の部長、2021年より、ストラテジー、クリエイティブ、メディアを包括するプランニング領域の統括に就任。

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