【DX時代の賢いマイホーム購入術】TERASS 江口CEOとモゲチェック 塩澤COOに聞く、不動産および住宅ローンの選び方

あらゆる業界でDXが進む現代。紙と電話が業務の大勢を占めていた銀行と不動産業界においても例外ではありません。今回お話を伺ったのは、次世代不動産エージェントファーム「TERASS」の代表取締役CEOを務める江口 亮介氏と、住宅ローン比較サービス「モゲチェック」を運営するMFS取締役COOの塩澤 崇氏。DX時代に不動産の世界はどう変化したのか? そんな時代において不動産を購入する際のポイントとは? それぞれの視点から語っていただきました。

ざっくりまとめ

- TERASSはテクノロジーにより不動産仲介業務を効率化して、高付加価値な不動産売買の体験を提供する企業。モゲチェックは最適な住宅ローンを提案するポータルサイト。

- DXにより銀行はオンラインのマーケティングが一般化し、不動産業界も紙や電話がメインだった業務スタイルからペーパーレス化にシフト中。

- AIが進化しても住宅のような「低頻度、高額商材」の営業は取って代わられないと江口氏は考える。そして、中古物件の流通が増えるこれからの時代は、不動産エージェントの価値が高まると予想。

- 金利や銀行など、選ぶポイントが数多くある住宅ローンでも、定量的な分析によりその人の最適解が見つかるというのがモゲチェックの哲学。

- ほとんどの人がマイホームは一生に一度の買い物。情報を自分で仕入れて比較して、プロのアドバイスを取り入れることが求められる。Web上に氾濫する二次情報、三次情報に惑わされず、自分で一次情報を取得することが重要。

DXにより不動産の購入体験と売却体験を向上させる

――TERASSとモゲチェック、それぞれのサービス概要について教えてください。

江口:当社は不動産の仲介を行う不動産エージェントに対する業務サポートを行っています。旧来の不動産仲介業は駅前に店舗をかまえて、紙や電話ベースで事業をしているという形が多かったのですが、我々はクラウドを活用することでどこからでも不動産の仲介ができる環境を実現しています。個人で活動するエージェントの方々が、不動産を買いたい人、売りたい人と取引しやすくしているわけです。我々が直接消費者の方と接するのではなく、エージェントの業務効率を上げることで、よりよい不動産の売買を間接的に支援しています。

塩澤:モゲチェックは住宅ローンの比較サービスで、住宅ローンを利用したいお客さまと、住宅ローンを提供したい金融機関の二者の橋渡しをしています。二つの大きなサービスがあり、一つは金利ランキング。もう一つがモゲレコという最適な住宅ローンを提案するサービスです。これは、お客さまが入力した情報に基づいて、その方に最も合致した住宅ローンを紹介するものです。

基本的に住宅ローンには審査があるので、金利が安いからといって誰でも通るとは限りません。モゲレコはお客さまの情報から審査が通りそうな住宅ローンを選別してご提案するシステムです。金利だけのランキングは他社にもありますが、ローン審査の通りやすさまでを含めて提案できるのがモゲレコの大きな強みです。いずれもお客さまの利用料は無料で、そのままローンの申し込みまでワンストップで可能です。

――江口さんに伺います。フルリモートで働けるTERASSの所属エージェントは、従来の会社に所属するエージェントと比べてどのような強みがあるのでしょうか?

江口:大きく二つあると考えています。従来の仲介会社に所属するエージェントは「月に○本契約をしないといけない」というノルマがあったので、お客さまに対して無理な契約を強いることもありました。TERASSの登録エージェントは皆さん個人事業主なので、月1本でも契約できればそれなりの収入になります。それにはもちろん高い能力が求められますが、本当の意味でお客さまに寄り添ったサポート、ご提案ができるようになります。もう一つが業務の効率化です。我々がエージェントの方々にさまざまなツールを提供しているので、オンラインでの契約はもちろん、査定や物件提案も自動で行えますし、お客さまに最適なローンをご提案できるツールもあるので、エージェントがすべての銀行のローンを把握する必要はありません。エージェントを媒介にして、デジタルの力で不動産の購入体験と売却体験を向上させることが可能になります。

銀行と不動産業界もデジタル化が進み、業務の形が大きく変化

――お二人への質問です。AIやデジタル化の進展は業界にどのような変化をもたらしましたか?

塩澤:住宅ローンに関連する話だと、銀行のマーケティングが大きく変わりました。モゲチェックと連携すればオンラインで集客してそのままローンの受付もできるので、これまでのように案件獲得のために不動産会社へと頻繁に足を運ぶ必要がなくなりました。まだまだ銀行は旧態依然とした業界で、ローンの申し込みも紙と郵送がメインでしたが、我々が率先してデジタル化を進めています。

もう一つ、我々は不動産会社や保険代理店などの住宅ローンを扱っている会社を対象にした、モゲチェックパートナーというフランチャイズ展開もしています。パートナーになっていただくことで従来のようなパンフレットを使った紙メインの営業ではなく、手軽にスマホでローンの案内ができるようになります。営業スタイルがアナログからデジタルに変わることで、効率化と省力化を実現しています。しかも、モゲチェックの紹介実績に基づいて手数料もお支払いしています。

江口:当社は「Terass Cloud」という業務管理ツールをエージェントに提供していますが、ここには顧客情報、取引情報、報酬情報、費用情報がすべて蓄積されています。このツールを活用すれば極端な話、スマホだけで不動産仲介業務が可能になるので、紙ベースのやり取りを大幅に削減しました。不動産業界は銀行と並んで最もDXが遅れている業界といわれますが、固定資産台帳のような紙以外は認められないケースを除いて、あらゆる場面でペーパーレス化を実現しています。物件の査定においてはAIを活用することで、物件の価格が相場と比べて妥当なのかスピーディな判定が可能となり、エージェントの負担も大きく減っています。

中古物件の流通が伸びつつある今こそ、不動産エージェントの力が必要

――AIが進化すると将来的にエージェントの仕事が奪われてしまう、といった意見についてはいかがお考えでしょうか?

江口:僕は「低頻度、高額商材」の営業が、AIに取って代わられることはないと考えています。まず、購入頻度が少ないので消費者に経験値がたまりにくいという特徴があります。家の売買についてはほとんどの方が初めての経験になりますし、頻度が少ないので自分で調べるだけでなくプロフェッショナルの意見も聞きたいというニーズがあるでしょう。そして、最低でも数千万円以上する商品の購入をAIの意見だけで決断できる人は稀だと考えます。

我々がAIを活用するのは主に業務の効率化においてです。家は絶対に購入しなければいけない商品ではないし、賃貸でも満足というお客さまも多いでしょう。AIの活用でエージェントの価値を最大化して、マイホームを購入いただくお客さまを増やしていく。そのためのサポートを我々は続けていきます。

――日本の住宅市場の現状について教えてください。

江口:今までは圧倒的に新築の流通量が多かったのですが、最近は中古物件の流通量が増えてきました。新築を建てる土地が減っていますし、次々と新しい家を建てるのは環境的にもよろしくない。最近は中古物件をリノベーションして再利用する流れも当たり前になっていますし、中古物件を購入しやすいローンなども販売されています。さらに国としても中古物件の利活用を推し進めています。

新築物件はモデルルームをつくり、映像などを組み合わせてプロモーションするので消費者もイメージが湧きやすく、売主から直接購入するので保証付きで安心感があります。対して中古物件は一軒一軒スペックが異なるので、なかなか消費者としての意思決定が難しいという面があります。そんなときこそエージェントの存在意義が高まるわけです。中古物件が増えるほど、不動産を仲介するエージェントの存在が重要になってくるでしょう。

塩澤:10年前に比べると住宅ローンを吟味するお客さまが増えてきたと感じます。とあるアンケートの結果ですが、10年ほど前は多くの人が不動産会社からの情報を重視していて、Webでの情報は一割ほどでした。その差は徐々に縮まっており、数年の内に同数になると見ています。スマホの普及により、自身でローンを比較検討するお客さまは今後も増えていくでしょう。

定量分析で住宅ローン選びの正解を導き出す

――新しいマイホームの購入体験を提供するという視点で、大切にされていることを教えてください。

江口:我々が最も重視しているのは付加価値を出すということです。不動産のポータルサイトに物件の情報を載せて、やって来たお客さまに説明をしたあとに内見をして決めてもらうといったスタイルは、この先AIに取って代わられてしまうでしょう。我々はお客さまがどんな家を買いたいのか、どんなライフスタイルなのかを確認して、子どもの人数や普段の生活の様子を聞いた上でベストな住宅をご提案しています。もちろん、具体的なローンの種類や金額についても考慮した上でのご提案です。お客さまにとって唯一のエージェントであることを目指しています。

塩澤:モゲチェックのロゴには「住宅ローン選びに正解を」という文言を入れています。ローンを選ぶ際にはさまざまなデータから分析をすることで、確実な正解が見つかると考えているからです。我々は過去に対面で住宅ローンの販売をしていたことがあり、そこで得た多くのお客さまの情報をもとに、「このお客さまなら○○銀行のローンに○○%の確率で審査が通る」という判定アルゴリズムを構築しています。

また、市場データをもとにして金利の予測も行い、その導き出された金利から固定がよいのか、変動がよいのかを判定しています。さらに、団信(※)についても通常のタイプがよいのか、三大疾病に対応した特約タイプがよいのか、といった詳細も含めて最適な解を出します。保障が手薄だけど金利が低い団信がよいのか、保障が充実しているけれど金利が高い団信がよいのか、といった選択は多くのお客さまにとって悩ましい判断です。そこで我々がコスト構造を見える化して、ベストな選択をご提案します。定量分析で住宅ローンの答えを導き出しているのがモゲチェックの強みです。

※団信: 団体信用生命保険。住宅ローン契約者に不慮の事態が発生したときに住宅ローンの残高がゼロとなる生命保険。

一次情報を取得することの重要性。一生に一度の買い物は、徹底的な情報収集を

――では最後に、このDX時代にマイホームの購入を考えている方へのアドバイスをお願いします。

江口:まだまだ多くの方は住宅および住宅ローン選びを気軽に考えているように見受けられます。基本的に一生に一度の買い物なので、徹底的に情報を仕入れて比較して、プロのアドバイスを聞かれることをお勧めします。人は自分が仕入れた最初の情報を信じてしまう傾向にあります。一部の人間だけが情報を握っている「情報の非対称性」は以前に比べて解消されてきているので、単に大手だから安心といった思い込みを捨て、自分でしっかり判断をすれば、個々の最適解は必ず見つかるはずです。

塩澤:一生に一度の買い物なので、「ローンは近くの銀行で」といった決め方をせずに丁寧に比較していただきたいと思います。基本的に銀行は全国どこに住んでいても選べますので。そして大切なのは一次情報を確認することです。今は金利が上昇傾向にありますが、「金利急上昇で家計破綻!」のようなゴシップに踊らされず、一次情報を掴むことです。金利を決めている日銀はどんなスタンスで、どんな声明を出しているのか。Web上の二次情報、三次情報で判断するのではなく、一次情報を自分で確認し、自分で判断する態度が情報過多の時代には必要かと思います。

江口 亮介

株式会社TERASS 代表取締役CEO

慶應義塾大学経済学部卒業。2012年に株式会社リクルートに新卒入社し、SUUMOの広告企画営業として約100社以上の不動産ディベロッパー担当。その後2017年にマッキンゼーアンドカンパニーで経営コンサルタントとして従事した後、2019年に、不動産売買のDXを行う企業、株式会社TERASSを創業。個人で3回の不動産購入、フルリノベーション、不動産売却を経験。

塩澤 崇

株式会社MFS 取締役COO

2006年東京大学大学院情報理工学系研究科を修了(専攻:数理情報学)。その後、モルガン・スタンレー証券株式会社にて住宅ローン証券化ビジネスを推進。2009年にボストン・コンサルティング・グループ入社。金融機関向けの戦略コンサルティング等に従事。2015年9月からMFS取締役COOとして金融機関提携・オペレーション・広報を管掌。

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