リラクゼーションスタジオ「Re.Ra.Ku(リラク)」運営のメディロムが “スマートトラッカー市場”に参入。ヘルスケアの川上から垂直統合を図るデータベース戦略とは。

リラクゼーションスタジオ「Re.Ra.Ku(リラク)」などを運営する株式会社メディロムが、2020年1月にCES(Consumer Electronics Show)でスマートトラッカー市場への参入を発表した。リリース後、国内外で40万台を超える出荷が見込まれるなど、大きな反響が生まれている。医療・ヘルスケアの総合商社を掲げる同社が提供するスマートトラッカーはどのような内容で、なぜリアル店舗からデバイス領域へ参入したのか。代表取締役CEO 江口 康二氏にお話を伺った。

無充電とデータ解放を武器に、スマートトラッカー市場に参入

―まず始めに、御社の事業領域について教えてください。

我々は医療・ヘルスケアの総合商社になることを目指しています。具体的には、東京で最大の店舗数を誇るリラクゼーションスタジオ「Re.Ra.Ku(リラク)」などのスタジオ運営事業や、ヘルステック事業、ヘルスケア研究事業など、健康増進・予防分野から医療分野まで一貫して提供できるよう、事業展開を進めています。

―2020年1月にアメリカで行われたCES(Consumer Electronics Show)では、「MOTHER」という製品を発表され、スマートトラッカー市場への参入を表明されました。どのような製品なのか、具体的に伺わせてください。

MOTHERは世界で初めて、無充電でアクティビティトラッキングができるウェアラブルデバイスです。具体的には、ユーザーの体温を動力源とした温度差発電技術を用いて、24時間365日止まることなく、ユーザーの活動量、心拍、睡眠、消費カロリーを測定することが可能になります。

これまでのスマートトラッカーは電池の消費を抑えるために、取得データを間引いていました。本来であれば細かく活動データを取り続けたいのですが、そうすると電池消費が早まってしまうからです。その課題に対して我々が挑戦したのが無充電です。例えば心拍についても、継続して計測し続けることが可能になるので、心電図並みのレベルでデータを取れる可能性があります。また、充電のために利用者が都度着脱する必要がないことも大きなメリットです。ほとんどの人は、一度外したら外しっぱなしになり習慣が途切れてしまう。付けたら付けっぱなしという状態を実現できるのがいいんです。
もう一つ、無充電以上にインパクトが大きいのが、SDK(ソフトウェア開発キット)の開放です。分かりやすく言うと、端末で取得したデータを自社で閉じず、端末を利用するヘルスケアサービス事業者などに解放するということです。

我々が活動量データや睡眠データを取得して活用したいように、そういったデータを欲しい事業者は世の中にたくさんいます。例えば実際にMOTHERにお問い合わせを多数いただくのが介護施設や病院です。やはり利用者さん・患者さんの生活習慣データを生かしてよりよいサービスを提供したいんですね。あとはフィットネスジムなどで、活動量データを元により適切なパーソナルトレーニングを提案したいというニーズもあります。


これまで、様々なデバイスで色々なデータが取得されてきましたが、基本は自社に閉じた利用のされ方で、ユーザーはデバイスごとにアプリケーションを複数入れる必要がありました。まさに囲い込み戦略です。今回の私たちのポイントはこの閉ざされた状態を打破しようという点です。これだけ他の事業者が先行している中で、肝となるデータを解放するのはかなり勇気のいる決断です。一方で、後発だからこそ既存の常識を壊していけるというのも事実です。

短期的に見れば、オープンにすることでアプリケーションを通じたマネタイズができなくなるかもしれません。ただ、長期的には、確実に世の中が健康になる可能性が高まり、我々のミッションの実現が近づきます。実際に、大学の医学部や超大手ジムなどBtoBでの利用だけで40万台以上の出荷を見込んでいます。国内だけでこの数はトラッカーとしてはダントツです。CES発表前の注文数が3万台だったことを考えると、いかに世の中に求められていたかを再認識しましたね。

―日米同時での発表でしたが、ヘルスケア領域に置いて日米の市場の違いや傾向について、どのようにお考えでしょう。

そもそも日米で健康予防に対する意識や投資が違いますね。日本は保険のおかげで予防に対する意識が低い。米国は病気になったらある意味おしまいという感覚なので予防に対する力の入れ具合がすごいですよね。実際にガンの発生率も年々落ちています。日本が増えていることを考えると対照的です。

そういった背景もあり、トラッカーの市場は米国では先行して開拓されています。Apple WatchやFitbitなどですね。一方で、データを取得し続けるために充電がネックになるという課題は米国でも同じ。その部分で米国マーケットにも切り込んでいけるなという感覚があります。

日本でトラッカーを使っているのは、ジムでデータを取るような健康エリート層が中心なのに対し、アメリカではもっと大衆化しています。なので、まずは日本のBtoBから、ゆくゆくは米国のBtoCにもアプローチしていく予定です。

ヘルスケア領域の川上を奪うために

―「医療・ヘルスケアの総合商社」を掲げて創業し、まずはリアル店舗から事業を始められたそうですが、どのような背景があったのでしょうか。

まず、医療・ヘルスケアの総合商社を目指す前提の部分をお話すると、世の中で医療分野だけがボーダーレスになっていないんです。わかりやすい事例として、アメリカで承認された医薬品が日本にくるのに3年から5年も時間がかかる。国内で承認されているけれど、海外でできない治療なども存在します。そんな風に国によって制度が違う。まさにボーダーが存在するのを壊していこうというのが、私が創業した時の思いです。

どうしていくかというと、繋いであげるんです。仮にもし明日ガンですと宣告されて、ステージⅣだとわかったら、日本ではもう人生終わりだとなる。ところが、米国にいくとステージⅣでも治って帰って来る可能性が高まるんですよね。日本人は英語もできないし、手続きも煩雑。それを繋いであげることをしたいというのが作りたい世界観のイメージです。

そう考えると、医療産業複合体をどう作るかがテーマになります。米国で今問題になっているのが、保険会社と病院の相反関係です。個人破産の6割が医療破綻と言われるくらい医療費が高い中で、保険が降りずに病院が取りっぱぐれて潰れてしまうことがある。保険会社にとっての損失が病院にとっての売上で、逆も然りです。だからこそ、これを私はこの二つを一体にするべきだと考えています。日本でも70%の病院は赤字で税金によって成り立っていますが、それも一体化により解決することだと考えています。

製薬会社は病院を必要として、病院は保険組合を必要とする。健康保険組合は現在健康だけど、将来疾患の恐れのあるユーザーデータベースを必要としている。私がリアル店舗の事業を始めた一番の理由は、ヘルスケアにおける川上のデータが取れるからです。川上を奪えれば川下まで行けて、先の構想に近づける。そんな背景から店舗を始めました。

店舗という揺るがないメディアを軸に派生事業を展開

―ヘルスケアの川上に当たるデータを取るために、Re.Ra.Kuではどのような工夫をされたのでしょうか。

Re.Ra.Kuが事業上大事にしたのは、2つのポイントです。1つ目はリラクゼーション事業という領域で「健康だけれども不調な方」が集まる状況を作ったこと。2つ目はカルテ情報をiPadの電子データにしたことです。私自身整骨院とか接骨院にたくさん通いましたが、毎回多数の情報を書き込むのに対し、そのデータが管理・活用されていないのが実態です。当時から同業界は個人事業中心にレッドオーシャンで飽和していましたが、ITを使うオペレーションや、訓練・教育を統一化するチェーン化で勝機があると確信していました。

結果的に、年間来店150万人を超え、ユーザーが自身の情報をアップデートする大きなメディアをオフラインに作ることができました。これらのデータをもとに、例えば花粉症などユーザーの方々のアレルギーに対して解決策を提供したり、店舗では解決しきれない部分についてライフスタイルアシストという、オンライン上でトレーナーを選定して生活指導を受けられる「Lav」というアプリを勧めたりしています。そこからユーザーデータをさらに取得しやすくするためにMOTHERが加わり、オンライン・オフラインを通じてさらにデータ取得・活用ができるような体制になっています。

―メディロム自体の創業は2000年ですが、今また事業を開始する場合も店舗から始められますか?

はい、店舗から始めると思います。いくらデジタルが浸透してもなくならないビジネスは確実にあります。人が疲れたら身体をほぐすという行為は江戸時代からある。いかにAIで生活が便利になっても我々は疲れからは抜け出せないから、きっと400年後も存在していると思います。それに、30分の施術の間お客さんの情報がずっと入って来る。こんなに美味しい市場はないと思います。

保険・病院分野への参入で医療のボーダレス化を

―最後に、今後の展望について教えてください。

データが取得活用できる基盤ができたので、将来的には保険の分野に参入します。具体的には、少額短期保険から始めていく予定です。例えば、店舗を利用されている方に提供する、1回100円で入れる「ぎっくり腰保険」。もしぎっくり腰になったら3回無料になります、というようなイメージです。すでにRe.Ra.Kuを利用されるお客様がいる状態で始められるので、多くの方に使っていただける確信があります。そうして保険証書を発行し、保険の組み立てを行っていく中で、並行して国内外の病院の買収をしていくつもりです。

そこまでいくと、まさに先ほどお伝えした相反する保険と病院の一体化、それによる医療のボーダーレス化に繋がっていきます。病院は日本だけでなく、タイ、中国、台湾、インドネシア、アメリカ、ブラジル、キューバの7カ国で15年ほどかけて展開していく想定です。その世界感においては、例えば、英語が話せない人でもガンになった場合、最先端治療が受けられ、日本よりも生存率が高い米国で治療を受けられるためのトラベルパックのような保険を販売できます。

保険が利用されると保険事業にとってはマイナスなものの、病院にとってはプラスになるという財務体制をグローバルに作る。そのためのギャップを、MOTHER含めデジタルで埋めていくことができればと思います。
江口 康二
1973年、東京都生まれ。大学を卒業後、自動車の買取・販売会社に入社。同社インターネット事業部長就任後、独自に開発したビジネスモデル特許で「日経優秀商品・サービス賞」を受賞。同時期に最年少役員に就任。同社退職後、2000年に株式会社リラク(現・株式会社メディロム)を設立。現在はリラクゼーションスタジオRe.Ra.Kuを展開するほか、オンデマンドトレーニングアプリ「Lav」の開発・運営を行っている。

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