個の時代に「信頼」が結びつける、仕事との新たな出会い「キャリアSNS『YOUTRUST』×コラボレーションSNS『Spready』対談(後編)」

SNSの普及は人と人との関係性を一変させただけではなく、人と企業の関係性にも大きな変化を及ぼしつつあります。国内でそうした流れを牽引してきたのが、キャリアSNS「YOUTRUST」とコラボレーションSNS「Spready」です。今回、それぞれのサービスを提供する岩崎 由夏氏(株式会社YOUTRUST 代表取締役CEO)と佐古 雅亮氏(Spready株式会社 代表取締役)による、異例のトップ対談が実現。後編では、コロナ禍における環境の変化、キャズムを乗り越えるための次なる打ち手、さらには採用マーケットの未来からプラットフォーマーの倫理観まで、幅広い射程でお話を伺いました。

ざっくりまとめ

- コロナ禍を追い風に、両社とも大きな成長を実現。次なる課題は、キャズムをいかに超えるか。

- 個人の人柄や生き方こそが、評価される時代に。プラットフォーマーには倫理観が求められる。

- YOUTRUSTは「脱・採用サービス」、Spreadyは地方中小企業への普及で、さらなる成長を。

コロナ禍による価値観の変化が、成長の追い風に

——両社とも創業から1年ほどでコロナ禍に見舞われたわけですが、事業への影響はいかがでしたか?

佐古:最初はピタリと法人ユーザーの利用が止まって焦りましたね。スタートアップとしては大規模な資本調達が難しくなるなど、大変な面はありましたが、結果的にはサービスにとって追い風になったと思います。
コロナ禍以前、新規事業開発担当者さんがまずやることって、展示会などのオフラインイベントに行くことだったんですよ。そこで名刺を交換して、これまで社内になかった人脈を広げていかないと、新規事業は始まらなかった。けれどコロナ禍によってオフラインイベントが軒並み中止になってしまったんです。そこで新規事業開発のためのネットワーキング手段としてSpreadyをご活用いただくケースが増えています。

岩崎:最初の緊急事態宣言が出たときには、「終わった〜!」と正直思いましたね。ほとんどの会社が採用をストップしてしまったからです。でもユーザーは戻ってくるどころか1年で5倍超と爆増しましたし、結果的には私たちにとってもコロナは追い風でした。特に大きかったのが、多くの企業が副業に対して積極的になったことです。これまで「副業人材なんて採用しない」と言っていた企業が、「副業でもいいから優秀な人に来てほしい」と言い始めるくらい、急激な変化がありました。副業なら固定費もカットできるし、自分たちもリモートワークでオフィスにいないから「副業人材もいいんじゃないか」と考えるようになったんだと思います。副業だけでなく正社員採用の問合せも急増し、コロナ以降で売上は10倍以上になりました。

佐古:10倍はすごいですね!そんなに成長している会社って、HRというカテゴリ全体でもちょっとほかにないと思います。

岩崎:いや、元の売上が小さかったので(笑)。あとはやっぱりセールスチームの頑張りのおかげです。

佐古:たしかに、法人も個人も、僕の身の回りでも最近ではほとんどの人がYOUTRUSTを利用しています。とはいえ、Spreadyにしてもそうですが、現在のユーザーは、いわゆるアーリーアダプターだと思うんです。岩崎さんは、これからどうやってキャズムを超えていこうと考えていますか?

岩崎:そこはチャレンジしかないですね。ただすでに兆しは見え始めていて。最近、銀行や商社、コンサル、メーカーなど、言ってしまえば堅い印象がある組織で働くユーザーが増えてきているんです。つい先日も大手の保険会社で働く30歳前後のユーザーにインタビューしたのですが、そこで聞いた話が印象的でした。彼らはやっぱりもう終身雇用制度を全然信じていないんですね。けれど、待遇は恵まれているからすぐに転職する気もない。けれど「このままでいいのか」と焦ってもいる。そんな中、人脈のある友人たちは何やらそのつながりをきっかけに副業が決まるなど、キャリアの幅を広げているらしい、と。じゃあ自分も、ということでYOUTRUSTに登録されたそうなんです。若い人たちにとって副業というのは今や一種のステータスでもあるんですよね。

佐古:要するに、副業に求めるものが変わってきているということですよね。彼らは金銭ではなく、キャリアチェンジのきっかけだったり、新しい体験だったり、ステータスとなるような経験を求めている。非常に深いインサイトがあるお話だと思いました。

あなたの生き方が、そのままキャリアシートになる時代がくる

——そうしたさまざまな価値観のアップデートも含めて、これから私たちのキャリアを巡る環境にはどのような変化がありそうでしょうか?

岩崎:私はこれから、明確に個の時代がくると思っています。会社員であっても、自分がどんな人間なのか、どんなスキル・経験・つながりがあるのかをコツコツと蓄積していかねばならない時代になるはずです。
実際、私も採用をするときに、履歴書だけを見てスカウトするのは、ちょっと違和感があります。Twitterやnoteでどんなことを発信したり、興味を持っていたりするのか調べますし、Facebookに共通の友人がいれば「この人ってどんな人?」と聞いてみる。そっちのほうがリーズナブルなだけでなく、リアルな人柄が分かりますからね。
スキルや経歴よりも、人柄が重視される時代になると言うこともできるかもしれません。いるだけでチームが活性化するような人っているじゃないですか。今、多くの企業が求めているのって、そういう人だと思うんですよね。だから人と人との信頼関係に基づいた、私たちのようなサービスのニーズが伸びているのではないでしょうか。

佐古:自分の生き方が、そのまま信頼につながる時代ですよね。自分が何を大切にして、何に真剣に取り組んで、どうやって生きてきたのか。そういう人生の轍みたいなものが、そのままキャリアシートになるイメージです。それくらい人と人との関係が重要になる。それは避けられない変化だと思います。

岩崎:だからこそ、佐古さんのおっしゃっていた「ソーシャルキャピタル※の可視化」が重要になってくるわけですよね。一方で、そういう時代になっていくと、私たちプラットフォーマーには高い倫理観も求められると思うんです。そのあたりを佐古さんはどう考えていますか?

※社会関係資本。社会・地域などのコミュニティにおける、人々の信頼関係や結びつきを示す概念のこと。

佐古:よくこういうテーマでお話をすると、「ブロックチェーンでキャリアを改ざんできないようにしては?」といった話題になるのですが、僕はそれには倫理的に反対しています。改ざんというと言い方は悪いですが、キャリアの中には伏せておきたい失敗もあるじゃないですか。それが人間だと思うんです。だから、テクノロジーの力で半ば無理やりにキャリアを可視化するようなやり方には、僕は賛同できないですね。もう一つ明確に決めているのは、可視化したソーシャルキャピタルは、絶対にユーザーの許諾なしで二次利用しないということです。これはもう、最低限の倫理だと思います。岩崎さんは、倫理的な側面で気をつけていることはありますか?

岩崎:私たちが評価軸を設定しない、ということです。中国で導入が進んでいる「信用スコア」みたいなことはやりたくないですね。だって、人ってそんなに簡単にスコア化できるものではないじゃないですか。その人のどんな側面にフォーカスするかで評価は全然変わってくるし、ある人にとっては素晴らしい人が、ある人にとってはひどい人であることだって、当たり前にありますよね。環境やコンテクストにも大きく依存するものだと思います。だから私たちは「信頼」を大切にしますが、それをスコア化することはしないと決めています。

YOUTRUSTとSpreadyが、それぞれ目指す未来

——最後にお二人のこれからの展望を教えてください。

岩崎:最初にお話した通り、求職者様にとってフェアな転職市場をつくることが、私たちの事業のゴールです。そのために、まずはYOUTRUSTを日本で最も利用されるキャリアSNSとして成長させていきたい。キャリアを真剣に考える全ての人が登録しているような、そんなキャリアのインフラを目指したいですね。
そのためには、ある種の「脱・採用サービス」も必要です。つまり、YOUTRUSTを信頼している人とのコミュニケーションを楽しむための「普通のSNS」にしていきたいんです。タイムライン機能の実装や、通常タイムラインと募集情報が集まるタイムラインを分離したのも、その一環です。
実際に最近では、仕事を通じて感じたちょっとした気づきや思いを、気軽に投稿してくれるユーザーも増えてきました。先ほどもちょっと触れましたが、自分の仕事について気軽に書き込めるSNSって、ほかにはほとんどないんですよね。そういう意味では、少しずつ独特の空間になってきたと感じています。

佐古:僕たちは、引き続き新規事業開発にフォーカスを当てていきたいと考えています。やっぱり、日本ではまだまだ新規事業の立ち上げが少ない。そうした社会的な課題を解決する一助になれば嬉しいですね。
その点でも、コロナ禍をきっかけに、多くの企業が危機感を持って事業変革に取り組んでいる今は、大きなチャンスだと思います。この流れをさらに加速するために、これからは大企業だけではなく、地方中小企業にも積極的にアプローチしていきたいですね。
もちろん、プロダクトのユーザビリティもさらに高めていきたい。クイックにサービスをアップデートしていけることは、僕たちの強みの一つでもありますので。法人ユーザーにも個人ユーザーにも、さらに使いやすい環境を整えることで、みんなが「やりたいこと」に出会い続ける社会の実現を目指していきます。

岩崎 由夏

株式会社YOUTRUST 代表取締役CEO

大阪大学理学部卒業後、2012年株式会社ディー・エヌ・エーに新卒入社し、2016年子会社ペロリに経営企画として出向。「信頼される人が報われる転職市場に」というミッションのもと、2017年株式会社YOUTRUSTを設立。2018年4月にリリースした、信頼でつながる 日本のキャリアSNS「YOUTRUST」は、友人や同僚と仕事の話を楽しみながら、新しいつながりやキャリアに役立つ情報・仕事と出会えるサービスで、累計ユーザー数は5万名を突破。プライベートでは1児の母。

佐古 雅亮

Spready株式会社 代表取締役

2008年、株式会社インテリジェンス(現:パーソルキャリア)に新卒入社。人材紹介事業部にてキャリアコンサルタント、リクルーティングアドバイザーとして勤務。法人営業部隊のマネジメントを経験の後、スタートアップに対するHR関連のアドバイザリー等を行うスタートアップ支援事業を立ち上げ、事業責任者として当該部門を管掌。2018年5月、Spready株式会社を創業、代表取締役。慶應義塾大学文学部卒。

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