日本の労働者不足解消と経済成長の鍵は「フリーランス×WorkTech」活用にあり!? ポスト・コロナ社会における「ニューノーマルな働き方」とは

労働生産性向上には女性・高齢者の就業拡大と、フリーランスなど多様な働き方への選択肢が必要不可欠

2020年7月17日に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2020(骨太方針2020)」に基づく、ポスト・コロナ時代を見据えた「新たな日常」の早期実現を目指す主な施策項目が、経済財政諮問会議の方針や、成長戦略会議における有識者の意見を踏まえ、2020年12月1日に中間的な「実行計画」としてとりまとめられた。

経済財政諮問会議とは、内閣府に設置された総理大臣を議長とする会議体である。また、経済財政諮問会議が示す経済財政運営と改革の基本方針等の下、我が国の経済の持続的な成長に向けて、成長戦略の具体化を推進するため、2020年10月6日に成長戦略会議が設置された。成長戦略会議とは、内閣官房に設置された官房長官を議長、経済再生担当大臣と経済産業大臣を副議長とする会議体である。

成長戦略会議では、経済成長率を上昇させるためには、「労働生産性」と「労働参加率」の伸び率を上昇させることが必要であるという考え方を中心に据えている。労働生産性向上の成果を働く人に分配することで、働く国民の所得水準を持続的に向上させ、需要の拡大を通じた成長を図り、経済の好循環を実現していく。

労働生産性向上については、2020年6月15日に「中小企業の生産性革命を実現する議員連盟」が設立されるなど、政治サイドでの動きを活発化させている。労働参加率の上昇については、COVID-19(Coronavirus disease 2019:新型コロナウイルス感染症)の影響により、女性の就業者数が低下していることから、足下では、女性や高齢者の就業拡大に向けた環境整備を進めるとともに、テレワークや兼業・副業、フリーランスといった新しい働き方で安心して働ける選択肢の準備が進められている。

フリーランスの活性化においては、独占禁止法や下請代金法を適用することを明確化した一覧性のあるガイドラインを作成した上で、発注事業者とフリーランスとの取引におけるトラブルに迅速な対応ができるよう、独占禁止法や下請代金支払遅延等防止法に基づく執行体制を充実させ、労働者災害補償保険の活用を図るための特別加入制度の対象拡大が行われる予定である。兼業・副業の活性化においては、2020年9月に改定された「副業・兼業の促進に関するガイドライン」に関する分かりやすいパンフレットや、労働時間を申告する際に活用できる様式の周知等が図られる予定である。

コロナ禍の中、WorkTech(ワークテック)市場が急成長中

世界では、ワークプレイス(働く場)をサポートするテクノロジーであるWorkTechと呼ばれるクラウドアプリケーションの市場が、COVID-19をきっかけに急成長している。

企業にとってのWorkTechとは、総務、人事、健康管理、経理、財務、法務などの間接部門が事業部門をサポートする際に活用するテクノロジーであり、下記が例として挙げられる。

OfficeTech:Office(オフィス)×Technology
HRTech:Human Resources(人的資源)×Technology
HealthTech:Healthcare(ヘルスケア)×Technology
AccountTech:Accounting(会計)×Technology
FinTech:Finance(ファイナンス)×Technology
LegalTech:Legal(法律)×Technology

WorkTechはその他にも、ビデオ会議、プロジェクトマネジメント、ワークマネジメント、バーチャルオフィスなどのリモートワークに関わるテクノロジーを包含したものである。多くの従業員のワークプレイスが、オフィスから自宅等に変わったことにより、テクノロジーの力で、さまざまな間接部門のサポートを進める必要性が高まったと同時に、従業員がコンピュータ上で、勤怠管理、労務管理、健康管理、経費精算などをストレスなくスムーズに対応できるようにするために、各間接部門のテクノロジーを連携させる必要性も高まってきており、さまざまなワークプレイス向けのX-Techを連携させたWorkTechクラウドアプリケーションのニーズが急速に高まっている。

2020年には、WorkTechに関する大きなイベントが日本国内でもいくつか開催された。2020年6月30日~7月2日には、世界30ヶ国以上からスポンサーと参加者が集まる1,000名規模のアジア最大級のWorkTechに特化したオンライン国際カンファレンス「Grooves Work Technology Summit」が開催され、2020年7月28日~30日には、「Grooves Work Technology Summit」​の日本版が開催された。そして、2020年10月7日~10日には、「WORKTECH20 TOKYO」が開催され、すべてのWorkTech関連イベントで大きな盛り上がりを見せた。

日本企業のWorkTech活用は11ヶ国中最下位

一方で、日本企業では、WorkTechの活用が世界の他の国と比較するとかなり遅れている。2018年よりオラクル・コーポレーションとWorkplace Intelligence社がワークプレイスにおけるAI(Artificial Intelligence:人工知能)やロボットなどのテクノロジー活用に関するグローバル調査を実施しており、2019年より日本も調査対象国となっている。筆者は日本での調査結果の分析を日本オラクル株式会社と共同で実施しているが、2019年も2020年も、調査対象となっている11ヶ国の中で日本は、ワークプレイスにおいてテクノロジーを活用していると回答した人の割合が最下位であった。

2019年は、ワークプレイスでテクノロジーを活用していると回答した人は、インドが78%、中国が77%、UAE(アラブ首長国連邦)が66%、ブラジルが60%、オーストラリア/ニュージーランドが57%、シンガポールが56%、米国が53%、英国が38%、フランスが32%に対し、日本は29%(https://www.oracle.com/jp/corporate/features/pr/ai-at-work-survey-japan.html)、
2020年は、インドが79%、中国が76%、UAEが58%、ブラジルが54%、米国が53%、韓国が46%、フランスが41%、イタリアが40%、ドイツが37%、英国が36%に対し、日本は26%(https://www.oracle.com/jp/corporate/pressrelease/jp20201104.html)であった。つまり、日本は間接部門のデジタルトランスフォーメーションが世界の中で大きく遅れていると言える。

フリーランスの活用で約69兆円の国民所得増加も。WorkTechの活用が鍵

成長戦略会議が策定した実行計画において重要視されているフリーランスのWorkTechクラウドアプリケーションについても、世界の市場は急成長して規模が大きくなっているのに対し、日本はまだまだ市場規模が小さい。マッキンゼーアンドカンパニーの試算によると、WorkTechのオンラインタレントプラットフォームが十分活用されることで、2.7T(Trillion)米ドル(1米ドルを100円として計算すると270兆円)のGDPへのポジティブインパクトがある。そういった背景もあり、筆者は、2020年9月9日に、一般社団法人日本パブリックアフェアーズ協会より、「ポスト・コロナ社会におけるニューノーマルな働き方~「WorkTech×フリーランス」がもたらす潜在的労働力活用と経済成長~」というレポートを出版した。さまざまな仮定を置いているが、日本国内の潜在的フリーランス人口を2,149万人と推計すると、フリーランスを十分活用することによって約69兆円の国民総所得の増加が見込まれる。そして、成長戦略の実行計画に書かれている政策的アクションに加え、以下の政策的アクションを取るべきだと提言した。

1)優良事業者認証制度の創設
適正な取引に関するガイドラインを策定し、フリーランスが安心して働ける仕組みを保有する事業者を認証する。

2)フリーランス向け総合プラットフォームの創設
フリーランスに関する政府データ、政策、関連サイト、セミナーやイベント等の情報を1ヶ所に集約したウェブサイトを作り、フリーランス業務の発注者、仲介事業者、受注者向けのコンテンツをそれぞれ整備する。受注者向けにはフリーランス業務を行う上で必要となるスキルを身に着けるためのeラーニング講座も含める。

こういった仕組みを作ることによって、フリーランスのための質が高いWorkTechクラウドアプリケーション市場が成長し、フリーランス自体の総所得も増加することで、日本の労働者不足の解消と経済成長が促進されることを期待したい。
岩本隆
慶應義塾大学大学院経営管理研究科 特任教授
日本パブリックアフェアーズ協会 理事

東京大学工学部金属工学科卒業。
カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院工学・応用科学研究科材料学・材料工学専攻Ph.D.。
日本モトローラ株式会社、日本ルーセント・テクノロジー株式会社、ノキア・ジャパン株式会社、
株式会社ドリームインキュベータを経て、2012年より慶應義塾大学大学院経営管理研究科特任教授。
「技術」「戦略」「政策」を融合させた「産業プロデュース論」を専門領域として、さまざまな分野の新産業創出に携わる。

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