DX戦略

日本スポーツ界の常識や慣習をDXでアップデート。日本代表選手から中高生までが幅広く活用する「ONE TAP SPORTS」

スポーツ競技にデジタル技術が使われるシーンが多くみられるようになりました。画像処理AIによるビデオ判定やロボット審判、ドローンによるカメラ中継など、その活用と普及は当たり前になりつつあります。
さまざまなDXがスポーツ界に広がるなか、「選手のコンディション管理」という側面からアプローチしているのが、「ONE TAP SPORTS」です。ナショナルチームのアスリートから部活動に熱心な中高生まで、あらゆる競技、あらゆるプレイヤーがこぞって活用する、その理由、その価値、そこから広がる可能性とは。開発提供元である株式会社ユーフォリア 代表取締役Co-CEO 宮田 誠氏にお話を伺いました。

ざっくりまとめ

- これまで感覚に頼っていた選手のコンディション管理をデジタルの力で見える化。

- ラグビー日本代表のフィジカル強化に貢献。他競技への導入が勢いよく進んだ。

- ONE TAP SPORTSを軸に、エッセンシャルワーカー向けといった、スポーツの枠を超えた展開を見据える。

選手のコンディションを可視化するソフトウェアを開発・提供

――まずは、ONE TAP SPORTSのサービス概要について教えていただけますか?

スポーツ選手のコンディションを可視化するサービスです。選手の日々の体調や身体の状態は見えづらく、選手が多いほど把握するのは難しいものです。暗黙知と経験と勘どころによって、なんとなく推し量ってきたこれらを数値で見える化したのが、このONE TAP SPORTSです。

具体的には、コンディションを構成する一つひとつの要素をソフトウェアに集約し、選手の管理に活用しています。例えば、その日に何km走って、どのくらい筋力トレーニングをし、運動強度はどれくらいだったのか。または食事や睡眠によってどの程度リカバリーできているか。今のコンディションはどのような状態か。収集の仕方もさまざまです。スマホから選手本人が入力する項目もあれば、GPSデバイスやスマートウォッチといったウェアラブルデバイスと連携して取得するもの、体組成計から得るものもあります。監督やコーチはこれらの情報が一覧化されたダッシュボード画面を見ながら選手のマネジメントにあたります。

ラグビー日本代表の活躍が会社の針路を決定づけた

――創業のきっかけを聞かせてください。

2008年、共同代表の橋口 寛とともに、コンサルティング会社としてスタートしました。創業時にはすでにエンジニアもいたので、案件によってはソフトウェアの開発というアプローチも行いながら事業を展開していました。

――そこからスポーツの領域へはどのように舵を切られたのでしょうか?

ラグビー日本代表との出会いがきっかけです。2012年、エディー・ジョーンズ氏がヘッドコーチとして招聘され、2019年のラグビーW杯日本開催という大舞台に向けて、どういう戦略のもと強化していくのか、マイルストーンとなる2015年W杯でどういう結果を出すのか、そのために何が必要なのか、といったことが戦略としてバックキャスティングされていました。その一つに選手のフィジカル強化が掲げられ、ケガを防ぎながら強度の高い練習を行う必要がありました。仕事仲間を通じて「選手一人ひとりのコンディションを管理できるシステムをつくれないか」と、打診を受け、開発を始めるきっかけになりました。

以来、2013年、2014年とご一緒し、2015年のW杯で日本代表が、“ブライトンの奇跡”とセンセーショナルに報じられるほどの大金星を挙げたことが、ターニングポイントになりました。このときに「勝利の裏には何があったのか」と、我々の提供するソフトウェアも注目され、ここから事業の方向性が大きく変わっていきました。

――ユーフォリアのプロダクトが日本代表の勝利の立役者として、認知されたのですね。

私たちはシステムの一端を担ったに過ぎません。ただ、このときまではラグビー日本代表のためだけに開発したものだったので、その後は他の競技にも転用できるよう半年かけて汎用化を行いました。そして 2016年夏、ONE TAP SPORTSという名称で再リリースし、現在に至ります。

我々にとってありがたかったのは、日本代表やトッププロチームに軒並み採用されたことです。初期に導入いただいたのはプロ野球の福岡ソフトバンクホークスさん、その後、Jリーグのチームと続きました。トップオブトップから入ったので、影響力が非常に大きかったですね。コーチや指導者のクチコミで一気に広がり、シャワー効果で下の世代でも導入が進みました。2018年には事業の一本化を図り、さらにスピードを上げていこう、と外部資本も入れ、社員も一気に増やしました。

――やはり、スポーツ界からの期待は大きかったのでしょうか?

期待されている、と思いましたね。「我々がやらなきゃ誰がやる」と。プロ選手や指導者の方がONE TAP SPORTSを熱心に使ってくださる姿を目の当たりにし、スポーツチームにとって必要不可欠なインフラであることを実感しました。一方、海外にはコンペティターが複数存在し、日本代表やプロチームへと日本市場の参入も狙っています。しかし、日本企業である我々こそが日本代表チームをサポートし続けなければ、と使命感を強めています。

アマチュアでも使いやすく さまざまなサポートサービスを提供

――再リリース後も、さまざまな競技を研究しながらアップデートされてきたのでしょうか?

そうですね。スポーツ全般に通ずる機能をベースに、競技ごとに特化した機能を足していきました。こうした項目出しは専門家の知恵をお借りして確度高くつくりこんでいますが、我々の強みは実地でPDCAを高速に回せることに尽きます。もちろん開発力があってのことですが、それをクイックに実現できるエンジニアの存在が大きいですね。進展を続けるスポーツ科学やフィジカルの理論にも柔軟に対応できるようSaaS型にし、開発言語も開発スピードに合わせて最適化しています。

――アマチュアでの導入も顕著です。背景には何があると感じていますか?

コンディションやフィジカルに対する考え方が、ここ数年で劇的に変わったことが一つあると思います。二つ目はコロナ禍の影響です。これまで選手の状態は対面で確認するしかありませんでしたが、コロナ禍で強制的に会えなくなったので、オンラインで管理するというニーズが顕在化しました。三つ目は指導者の若年化です。世代交代によって、デジタルに抵抗のない人が増えてきました。これらが大きな要因と考えます。

――2022年9月現在、1700チーム71競技で導入されているとのことですが、団体競技が多い印象ですね。

当初、ラグビーや野球、サッカーなどチームスポーツから導入が広がりました。部員が200人いるようなところも多いので、集約管理のしやすさから先行したと考えます。ただ、現在は導入競技の上位に陸上やテニスなど個人競技が入っていますし、柔道、空手といった武道、最近ではオリンピック種目にもなった、サーフィンやブレイクダンス、スポーツクライミングなどアーバンスポーツと呼ばれる競技でも、導入が進んでいます。また、アスリート個人が使うケースも見られます。個人契約したトレーナーや栄養士と自分の情報を共有するプラットフォームのような、1対多という使い方ですね。

――利用者からは、どのようなフィードバックを受けていますか?

日本代表の各コーチからは、効率化に対する評価の声が大きいです。それまではかなりの時間をかけて一人ひとりにヒアリングしたり、他のコーチやトレーナーの持つ情報を集めたりレポート化されていましたから。また、サッカー元日本代表の酒井 高徳選手は、2014年からONE TAP SPORTSをお使いいただいているリードユーザーにあたりますが、「プロは自分の体調の把握が大事だと分かっているものの、ONE TAP SPORTSで見える化すると自分の認識とのズレに気づく。主観で見える世界を客観的に捉えられる点が大きな魅力」と常に言ってくださっています。

その一方、「使いこなすのに時間がかかる」「見えるようになった課題にどう対応していくのかは私たち次第なんですね」と、おっしゃる方もいます。こうした声に対し、機能のアップデートによって専門知識のない方でも使いやすいよう改善すると同時に、当社スタッフがお客さまを伴走サポートしています。加えて、うまく活用されている方を招いたオンラインセミナーを月に1度開催し、データを使った選手のスキルの高め方、ケガからの守り方、試合当日に向けたコンディションの上げ方などの話を聞ける機会も提供しています。

ONE TAP SPORTSを青少年の健全な育成と健康経営に役立てていきたい

――今後、どのような領域に注力されていく予定でしょうか?

一つは、もっと若い年代に広げていきたいです。現在は大学がメインで、高校にも広がりつつありますが、さらにその下の中学生や小学生は、成長期でもあり育成においてとても大事な時期です。一昔前は、練習に追い込まれ、疲れた状態で試合に出てケガをしたり、結果を出せない、といった話がよくありました。一方、スポーツ科学研究が先進した国の海外の選手は身体をつくりこむのと同じくらい、休んでコンディションを整えることが大事だと理解している場合が多いです。この差は何かというと気質や慣習です。日本人はガマンしてしまうんです。「明日は休んで、明後日の試合に備えます」って言えないんですね。良し悪しはありますが、体育の側面が強く、教育の延長となっていることが、その理由の一つと考えています。

スポーツ中に熱中症になる子どもが多いといわれますが、これを防ぐ際にもやはりデータを見て、「走りすぎていないか」「睡眠不足ではないか」と危険因子を知ることが大前提です。我々の力でスポーツをデータで語れるようにし、指導者やコーチには、より青少年の可能性を広げて育てることに役立ててもらいたいです。

もう一つは、一般の方への提供です。特にエッセンシャルワーカーと呼ばれるような、生活インフラを支える肉体労働が伴う方に提供したいです。実はこの秋、こうした方向けのサービスをリリースする予定です。すでに実証実験をさまざまなメーカーさんの製造現場などで行っていますが、大変よい結果が出ています。

――最後に、今後の展望を聞かせてください。

我々のミッションは、「人とスポーツの出合いを幸福にする。」です。本来、スポーツは自由で楽しくて、精神的な鍛練にもなる健全なものです。この持ち味を、科学の力を使うことでさらに高めたいと考えています。

今はさまざまなテクノロジーが出てきています。これらをしっかり活用できれば、スポーツを介し、人々の幸福に寄与できるはずです。さらにはスポーツの枠を超え、一般の方にもハッピーをお届けするのが我々の最大の目標です。そんな世界をつくるために、スポーツの力を正しく使いたい。ラグビー日本代表がそうであったように、高いポテンシャルを持つ人たちの力が解放されて、みんなのパフォーマンスがもっともっと上がっていく世界に挑戦したいです。
宮田 誠
株式会社ユーフォリア 代表取締役Co-CEO

長野県出身。白馬村在住の親族3名に冬季五輪選手(アルペンスキー)がいた影響から、自身も学生時代に選手生活(スノーボード)を送る。明治大学商学部 産業経営学科卒業後、財閥系商社にてオーストラリア・インドネシア・中国・ロシアとのエネルギー貿易に従事。
その後台湾にて、エネルギー関連の新会社(JV)の立ち上げにプロジェクトリーダーとして参画。現地生産体制整備、マーケティング全般を行う。その後株式会社ブリヂストンにて、マーケティング戦略・企画業務に従事。商品企画、PR、プロモーション、モータースポーツ企画などを行う。ブリヂストン退職後、ルーツのある白馬村を中心に、各地でマラソン・トレイルランニング・スキー・スノーボード等の国際大会の主催・運営、スポーツマーケティング/コンサルティング事業を手がける。2008年に共同代表の橋口寛とともに株式会社ユーフォリアを創業。

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