【記憶力は才能でも努力でもない】AIで記憶の定着を助けるアプリ「Monoxer」で日本の教育が変わる
2022/9/13
問題を解くことで記憶の定着化を図るアプリ「Monoxer(モノグサ)」。これまで必死に書いたり読んだりすることで闇雲に覚えていた学習を、よりスマートに記憶化させるということで、小中学校から高校、大学、専門学校、さらには塾、社会人教育など幅広い場に導入されています。AIがその人のレベルに合った問題とヒントを出してくれて、定着した後も定期的な反復練習で忘れることを防いでくれます。Monoxerを導入することで学習のスタイルはどう変わるのか? モノグサ株式会社の代表取締役 CEOを務める竹内 孝太朗氏に、記憶と学習の関係についてさまざまな視点からお話を伺いました。
Contents
ざっくりまとめ
- Monoxerは問題を解くことで記憶の定着化を図るアプリ。以前から学習系アプリは数多く存在したが、「記憶の定着」に特化したものはなかった。
- これまで学習の記憶は生徒個人に委ねられてきたが、Monoxerにより無駄なく効率的な記憶が可能となる。忘却を防ぐための反復練習機能も搭載。
- 人々の記憶の水準が上がれば、答えが一つのテストはなくなり、ディスカッションや創作活動が主体の教育に変わる可能性も。
- 今後は学習だけではなく、営業スキルをはじめ、さまざまな社会人スキルもMonoxerの対象に。
どのアプリも解決できなかった「記憶の定着」に主眼を置いたプロダクト開発
もともと30歳くらいのタイミングで教育事業での起業を考えていました。何をつくろうかと考えていたとき、ちょうど英単語の勉強をしていて本屋にヒントを探しに行ったんです。本屋には「TOEICで○○点取る方法」といった本がたくさん並んでいましたが、「TOEICで高得点を取ったら何が変わるのか?」という疑問があったし、そもそも自分がTOEICで何点を取りたいのかもよく分かりませんでした。
当時、私はリクルートに在籍していて海外出張もあったので、もっと実用的なテキスト、例えば「ノンネイティブ同士の会話に役立つ300語」みたいなものがあればいいなと思ったわけです。海外駐在経験のある先輩だったらそういった単語のリストを持っていると考えて、そのシェアリングサービスを構想しました。そこで、現モノグサCTOの畔柳に相談したところ、すでに同様のサービスはたくさん存在していると。英単語アプリも当時からたくさんありましたが、どれも根本的な問題が解決できてないから類似サービスが乱立しているのではないか、と畔柳は考えていました。その問題とは「覚えるのが難しい」ということです。そこから二人三脚でMonoxerの開発が始まりました。
――Monoxerではどのように記憶の定着を図っているのでしょうか?
Monoxerの基本コンセプトは「解いて覚える」ことです。記憶するためには読んで覚える、書いて覚えるなどいろいろな方法がありますが、2011年の研究で「読むよりも書くよりも、解いて覚えるほうが記憶が長期化する」という説が提唱されました。学校では覚えた後にテストをしますが、Monoxerでは常に問題を解き続けていくことで記憶の定着を図ります。
しかし、方法や答えを覚える前からテストをするわけですから、当然ヒントが必要です。Monoxerはその人の記憶度合いに合わせてヒントの量が調整されます。ギリギリ解けそうなレベルの問題とヒントが出されるので、常に思い出す作業を継続することができるわけです。ヒントの量はAIが調整してくれるので、効率的に記憶を定着させることが可能です。
――現在、Monoxerはどのような教育機関で導入されているのでしょうか?
小学校、中学校、高校、学習塾の割合が多く、次いで専門学校、大学、社会人教育などに全国47都道府県で導入されています。3歳半の子どもから、頭の体操として高齢者の方にまで使っていただけます。海外ではミャンマーやマレーシアでも導入が進んでいます。
――Monoxerを学校に導入するにあたって苦労した点はありますか? また、市場を開拓するために有効な戦略はあるのでしょうか?
私立学校は、その学校単位で意思決定ができるので、校長先生と他の先生が全員使いたいといったら導入は問題なく可能です。意思決定の点で大変なのは公立の小中学校です。公立ですと基本的には自治体ごとに意思決定を行い、そこには税金が使用されるので議会を通す必要が出てきます。そういった苦労はありますが、大切なのは生徒の成績を上げることです。学校でも塾でも同じですが、Monoxerは一定期間のトライアルをしていただいて、本当に成績が上がるかどうか検証してから採用いただくケースが多いです。これが最も堅実な方法ですね。
生徒に投げっぱなしだった記憶の方法をシステマチックにすることで、長期記憶として定着化
まず先生からは「生徒が本当に覚えたかどうか分かるようになった」という声を多くいただきます。記憶についてはこれまで生徒に任せっぱなしにしていたけれど、Monoxerによって生徒の記憶の定着度が把握できるようになったと。生徒からは「今まで覚え方も教わらず闇雲に記憶していたものが、Monoxerで覚え方を指定されることで勉強の効率が上がった」「テスト前の負担も少なくなった」という声をいただいています。
――やはり記憶もシステマチックな方法だと定着も早いわけですね。
例えば、皆さんが夜ご飯を楽しく食べたときって、24時間経ってもそのことをしっかりと覚えていますよね。それが英単語1,000個覚えるとなると途端に苦しくなる。単に24時間の間、夜ご飯を記憶することは苦しくないのですが、1,000個同時に英単語を記憶するとなると、それが非常に難しい。その原因はおそらく記憶すること自体ではなく管理の部分にあると思うんです。どんな方法で覚えるのか、いつ覚えるのか、といった点を機械に任せられたらもっと楽に覚えられるだろうと考えました。
英単語を覚えるために、表に英単語を書いて、裏に日本語訳を書いたリングカードを使った経験のある人は多いかと思います。この方法はノーヒントなので、分からなければ答えを見るしかないんですね。それだとあまり記憶は定着しません。自分でヒントをつくるとなると、それはそれでかなりの手間になる。Monoxerであればその人のレベルに合ったヒントをAIが出してくれるので、思い出す作業を通じて記憶がより定着されるわけです。リングカードをつくる手間、ヒントをつくる手間を自動化して、さらに反復練習の期間までも自動で設定してくれる。これがMonoxerの強みです。
「当たり前の水準」が上がれば、答えが一つだけの問題は淘汰される
今はまだまだ「何かを記憶すること=才能」と思われている節があります。私はよく「身長」に似ていると話していますが、身長は親から遺伝するといわれているので、背の高い両親であれば子どもも自然と背が高くなる傾向にあります。そして、18歳くらいまでは背が伸びるけれど、その後は与えられた身長で生きていく。記憶もこれと同じく、多くの人は才能だと思っているんですね。なので、生まれつき遺伝的に覚えるのが得意な人と不得意な人がいる。前者は頭がよくて、後者はそうではないと認識され、その能力でできることをして人生を過ごすしかないと思われてしまっているように感じています。
しかし我々は、日常生活を不自由なく過ごせている人であれば、記憶力は相当に高いと思っています。本当に記憶力がなければ靴の履き方なんて、一回履いたとしても次には忘れてしまうでしょう。家から小学校までの道を記憶して毎日普通に通えるなんて、すごい記憶量なんですね。なので、こういった日常生活を過ごせているのであれば、今求められている程度の記憶量は誰もが覚えられるようになると考えています。
江戸時代では、武家の子どもはひらがなを書けて、農村部にはひらがなを書けない子どもが普通にいました。今の時代、小学校6年生でひらがなが書けるかどうかで成績をつけることはありませんよね。それは、江戸時代に比べて教育の水準が上がっているからです。我々は人々の記憶できる量を増やして、当たり前の水準を上げていきたいと考えています。
――「当たり前の水準」が上がった先はどうなるのでしょうか?
今のテストの多くは記憶できたかどうかだけをチェックしているケースが非常に多いと思っていますが、そういったテストは次第になくなっていくでしょう。覚えて当たり前の水準が上がるので、それ以外の要素が注目されるようになると考えています。答えが一つしかない問題はすべて暗記の対象であり、特にテストをする必要はありません。Monoxerで誰もが記憶できることですから。大事なのは答えが一つと決まっていない問題です。ディスカッションであったり、創作活動であったり、そういった方向に時間を使うようになると思います。
営業のスキルも記憶化することで、成績を上げられる時代に
英語や社会は暗記科目と思われている傾向がありますが、我々は数学も記憶対象として扱っていきます。数学の領域において「記憶できない対象がない」という状態をつくっていく予定です。さらに、五教科の領域ではあらゆる科目で必ず成績が上げられるようなサービスに成長させていきます。
また、社会人に必要なスキルの記憶化も検討しています。例えば、営業のスキルも記憶との相関があると聞くと、多くの人は違和感を覚えるかと思います。それよりもトークスキルや相手の身になって考える視点などが重要だと感じるかもしれませんが、我々は記憶が重要だと考えています。学校の五教科以外にもスキルや才能だと思われているものが数多くありますが、それらも記憶できる形式を生み出して「Monoxerを使うことで営業成績を上げられる」という当たり前を確立したいです。
その先はグローバル展開ですね。日本のように塾や学校で活用いただくケースもあるでしょうし、社会人学習で活用いただくケースもあるでしょう。それぞれの国に合わせた戦略で展開していきます。
竹内 孝太朗
モノグサ株式会社 代表取締役 CEO
名古屋大学経済学部卒。2010年に株式会社リクルートに入社。2013年から「スタディサプリ」にて高校向けサービスの立ち上げに従事。全国の高校1,000校を行脚し、学習到達度測定テスト、オンラインコーチングサービスの開発を行う。2016年に畔柳(CTO)とモノグサ株式会社を共同創業。プライベートでは3児の父であり、休日は子どもと一緒にMonoxerで勉強している。