トルコの小さな村から生まれたEdTechスタートアップ「Udemy」 〜海外ユニコーンウォッチ #3〜

「ユニコーン企業」ーー企業価値の評価額が10億ドル以上で設立10年以内の非上場企業を、伝説の一角獣になぞらえてそう呼ぶ。該当する企業は、ユニコーンほどに珍しいという意味だ。かつてのfacebookやTwitter、現在ではUberがその代表と言われている。この連載では、そんな海外のユニコーン企業の動向をお届けする。今回は学びのプラットフォームを提供する「Udemy(ユーデミー)」を紹介する。

トルコの小さな村から生まれたユニコーン

Udemy社は、2010年にアメリカで創業された教育系スタートアップ企業。オンライン上でさまざまな講義を受けられる学びのプラットフォーム「Udemy」を提供している。Udemyには、15万を超える動画講座のコンテンツがあり、その内容は多岐にわたる。プログラミングやデータサイエンスなどのコンテンツがある「開発」カテゴリや、マーケティング・プレゼンテーションなどを学べる「ビジネススキル」カテゴリに加え、「デザイン」や「写真」などクリエイティブ系のカテゴリも用意されており、仕事や趣味のスキルアップに活用されている。各カテゴリでは初心者向けの講座から最先端の内容まで幅広く取り扱っている。講座はそれぞれ価格が決められていて、無料のものもある。
Udemyの起源は、トルコの小さな村で起きた創業者の実体験だ。Udemy創業者のエレン・バリ氏は、教室が1部屋しかない学校に通っていた。教育環境は限られていたが、家で使えるようになった「インターネット」によって彼の人生は変わる。オンライン上の教材を使って勉強し、世界中の人とつながった。その結果、国際数学オリンピックで銀メダルを取ったというのだ。そして、この経験をもとに、「Improving Lives Through Learning(学びを通して人生をより豊かに)」を掲げるUdemyを設立した。今では、世界190カ国以上、受講者数3500万人のサービスに成長している。

「CtoCプラットフォーム」という特徴

Udemyの特徴は「CtoCプラットフォーム」であることだ。Udemy上にある講義動画はUdemyが提供しているものではなく、講師になりたい個人が作成している。Udemyは「教えたい」個人と「学びたい」個人をつなげるプラットフォームという立場なのだ。

スキルアップを目指す社会人に向けたオンライン学習サービスは、日本でも「Schoo」や「グロービス学び放題」などがある。これらのサービスは講義動画の作成までを担っており、Udemyのビジネスモデルとは異なっている。講義動画まで作成する場合、講師や講義内容の質を担保することはできるが、その分コストがかかる。プラットフォームの場合は、質を完全にコントロールすることができないが、低コストで運営でき、講師になりたい人が多く集まれば大量の講義動画を扱えることがメリットだ。

Udemyでは受講者が講義を購入すると、Udemy社と講師で売り上げを分ける仕組みになっている。YouTubeなどのように、視聴者には無料でコンテンツが提供され、投稿者には広告収入という形でお金が渡る場合、広告の量によって単価が変わってしまう。新型コロナウイルスが広がった際に企業が広告出稿を控え、YouTubeの広告収入が大きく下がったことは記憶に新しい。一方、Udemyのような仕組みでは、講義が売れれば売れるだけ講師にお金が入る。そのため、講師からしてみれば、良い講義を作成し受講者に選ばれれば、安定して収益を得られるというメリットがある。この仕組みもUdemyに良質な講師とさまざまな講座が集まる一因になっている。良い講師と講座があれば受講者も集まる。こうして、CtoCプラットフォームを運営しているのだ。

日本ではベネッセと提携

Udemyには日本の教育大手「ベネッセホールディングス」も出資している。2020年2月、ベネッセはUdemyに5000万ドル(約50億円)の出資を行ったと発表した。ベネッセとUdemyは2015年に包括的業務提携契約を結び、日本国内でのサービス提供を推進してきた。2019年6月には、法人向けの研修サービスとして「Udemy for Business」の提供を開始。提供開始から8カ月でトヨタ自動車株式会社、ソフトバンク株式会社、みずほフィナンシャルグループなどの大手企業を含む約100社に導入されている。

ベネッセは2020年11月6日に発表した「新中期経営計画」の中で、今後5年間の戦略のひとつに「新領域への挑戦」を打ち出している。その中の「社会人の学び直し支援」・「社会人のキャリア支援」としてUdemyとの資本提携を活用するとしている。今後は、Udemyの基盤を活かし、約2兆円とされる大学・社会人領域の人材紹介や学び市場を狙っていくとのことだ。

新型コロナウイルスを追い風にEdTech業界は資金調達ラッシュ

Udemyは2020年2月にベネッセの出資を受け、同年11月、さらに5000万ドル(約50億円)の資金調達を実施している。企業価値は32.5億ドル(約3250億円)となった。この背景には新型コロナウイルスによる「オンライン学習特需」がある。Udemyの発表では、新型コロナウイルスの感染が広がってから、講義への登録がマーケットプレイス全体で425%も増加している。

これはUdemyに限らず、教育(Education)とテクノロジー(Technology)を掛け合わせた「EdTech」業界は新型コロナウイルスの感染拡大を受け、急成長。資金調達が相次いでいる。インドのオンライン教育大手「Byju’s(ビジュス)」は今夏、5億ドル(約500億円)の資金を調達、語学学習アプリの「Duolingo(デュオリンゴ)」は2020年11月に3500万ドル(約35億円)の資金調達を実施している。この他、各国のEdTech企業が数十億円規模の資金調達を実施している。

旧来の教育系企業のうち、オンラインに進出している企業においても、まだまだオフラインで教室を持っていることが多く、新型コロナウイルスの影響が直撃した。しかし、新興EdTech企業はほぼ全てをオンラインで完結しているため、外出や対面を控えることによる悪影響は最小限に抑えられたうえに、オンライン需要を取り込むことまでできた。そのため、大型の資金調達が続いていると考えられる。今後は、現在の「オンライン学習特需」がいつまで続くか、そして、今回の特需で獲得したユーザーをいかに離れないようにできるかが焦点になるだろう。

人気記事

中国EV市場を席巻する、三大新興メーカーを徹底分析。脅威の中国EVメーカー最新事情・後編【中国デジタル企業最前線】

中国EV市場を席巻する、三大新興メーカーを徹底分析。脅威の中国EVメーカー最新事情・後編【中国デジタル企業最前線】

中国企業の最新動向から、DXのヒントを探っていく本連載。今回は、ガソリン車に代わるモビリティとして期待が高まるEV(Electric Vehicle=電気自動車)と、その核とも言える自動運転技術で世界をリードする中国の強さに迫ります。前編では「EV先進国」の名を欲しいままにしているその理由を、国の政策や技術の面から探ってきました。後編となる今回は、自動車産業に参入してきた新興メーカー3社を紹介するとともに、日本の立ち位置の考察、中国が抱える課題を話題に進めていきます。

「8割以上の精度で、赤ちゃんが泣く理由が判明」CES2021イノベーションアワード受賞。注目の日本発ベビーテック企業とは

「8割以上の精度で、赤ちゃんが泣く理由が判明」CES2021イノベーションアワード受賞。注目の日本発ベビーテック企業とは

テクノロジーの力で子育てを変えていく。そんなミッションを掲げ、泣き声診断アプリや赤ちゃん向けスマートベッドライトなど、画期的なプロダクトを世に送り出してきたファーストアセント社。「CES2021 Innovation Awards」を受賞するなど、世界的に注目を集めるベビーテック企業である同社の強さの秘密とは。服部 伴之代表にお話を伺いました。

メタバース覇権を握る、最有力候補!? フォートナイトを運営する「Epic Games」 〜海外ユニコーンウォッチ #6〜

メタバース覇権を握る、最有力候補!? フォートナイトを運営する「Epic Games」 〜海外ユニコーンウォッチ #6〜

「ユニコーン企業」――企業価値の評価額が10億ドル以上で設立10年以内の非上場企業を、伝説の一角獣になぞらえてそう呼ぶ。該当する企業は、ユニコーンほどに珍しいという意味だ。かつてはFacebookやTwitterも、そう称されていた。この連載では、そんな海外のユニコーン企業の動向をお届けする。今回は人気オンラインゲーム「フォートナイト」を運営する「Epic Games(エピック ゲームズ)」を紹介する。

自動車大国・日本がついに中国EV車を輸入。脅威の中国EVメーカー最新事情・前編 【中国デジタル企業最前線】

自動車大国・日本がついに中国EV車を輸入。脅威の中国EVメーカー最新事情・前編 【中国デジタル企業最前線】

中国企業の最新動向から、DXのヒントを探っていく本連載。今回は、ガソリン車に代わるモビリティとして期待が高まるEV(Electric Vehicle=電気自動車)と、その核とも言える自動運転技術で世界をリードする中国の強さに、前後編の2回にわたって迫ります。前編は、自動車大国・日本さえも脅かす存在になるほど進んでいる中国EV市場の実情をお届けします。

世界のMaaS先進事例7選。鉄道・バス・タクシーなど交通手段を統合したサブスクモデルも!

世界のMaaS先進事例7選。鉄道・バス・タクシーなど交通手段を統合したサブスクモデルも!

国内でMaaS(Mobility as a Service)実証が活発化している。新たな交通社会を見据え、既存の交通サービスの在り方を見直す変革の時期を迎えているのだ。 交通社会は今後どのように変わっていくのか。MaaSの基礎知識について解説した上で、海外のMaaSに関する事例を参照し、その変化の方向性を探っていこう。

【Netflix徹底解剖】Netflix4.0、世界最先端のDX戦略を追う

【Netflix徹底解剖】Netflix4.0、世界最先端のDX戦略を追う

全世界での有料会員数が2億人を突破。飛ぶ鳥を落とす勢いで快進撃を続ける企業、Netflix。現在の利用者の中には、彼らの事業が店舗を持たないDVDオンライン郵送サービスからスタートしたことを知らない人もいるかもしれません。1997年、小さなスタートアップ企業として創業したNetflixはその後、DVDレンタルのサブスクリプション、動画ストリーミング配信のサブスクリプション、そして動画オリジナルコンテンツの配信と、デジタルを基盤に着実にビジネスを変革し、今や皆さんご存知の通り、デジタルコンテンツプラットフォームの王者へと成長を遂げています。今回の「世界最先端のデジタルシフト戦略」vol.4では、そのビジネストランスフォーメーションの変遷を立教大学ビジネススクール 田中道昭教授に徹底解剖していただきます。小さなスタートアップ企業であったNetflixがいかに王者となれたのか。その変革の奥にある秘訣とは。DXに取り組む日本企業も見習うべき一貫した姿勢に迫ります。

『メタバースとWeb3』著者・國光 宏尚氏が語る、Web3時代に勝つ企業の条件

『メタバースとWeb3』著者・國光 宏尚氏が語る、Web3時代に勝つ企業の条件

「ブロックチェーン技術(※1)を中核とした非中央集権的なインターネット」として定義されるWeb3(3.0)。2021年以降、急速に注目を集めるようになったフレーズですが、全貌を理解している人は多くない、曖昧な概念であることも事実です。今回お話を伺ったのは、3月に上梓した『メタバースとWeb3』がベストセラーになり今やWeb3のエバンジェリストとして知られる、株式会社Thirdverse、株式会社フィナンシェ代表取締役CEO/Founderの國光 宏尚氏。「Web3時代に勝ち残る企業」をテーマに、 デジタルホールディングスのグループCIO(最高投資責任者)を務める石原 靖士氏がお話を伺いました。 ※1 ブロックチェーン 取引履歴(ブロック)を暗号技術によって1本の鎖のようにつないで記録することによって、データの破壊や改ざんを極めて難しくしたデジタルテクノロジーのこと。

BTSや乃木坂46も! SHOWROOMが提供する縦型動画アプリ「smash.」人気の秘訣

BTSや乃木坂46も! SHOWROOMが提供する縦型動画アプリ「smash.」人気の秘訣

「手のひらが特等席。」をコンセプトに、スマホの縦画面に特化した動画コンテンツを配信するバーティカルシアターアプリの「smash.」。2020年10月にスタートした新興サービスながら、今ではBTSをはじめとする韓流グループ、AKB48や乃木坂46などの有名アーティストが出演する多数のコンテンツを擁しています。SHOWROOM株式会社の執行役員にして、smash.事業責任者を務める嵐 亮太氏が考えるsmash.の独自性とは? これからの時代の動画コンテンツのあり方とは? ファンとアーティストの距離感はどう変わるのか? 気になる疑問を投げかけてみました。

コロナ禍でラジオが復権!? 民放ラジオ業界70年の歴史を塗り替えたradiko(ラジコ)の「共存共栄型 DX」とは

コロナ禍でラジオが復権!? 民放ラジオ業界70年の歴史を塗り替えたradiko(ラジコ)の「共存共栄型 DX」とは

Clubhouseをはじめ、新勢力が次々と参入し、拡大を見せる音声コンテンツ市場。その中で、民放開始から70年の歴史に「大変革」を巻き起こしているのが“ラジオ”です。放送エリアの壁を取り払う、リアルタイムでなくても番組を聴けるようにするといった機能で、ラジオをデジタル時代に即したサービスに生まれ変わらせたのは、PCやスマートフォンなどで番組を配信する『radiko(ラジコ)』。今回は、株式会社radiko 代表取締役社長の青木 貴博氏に、現在までのデジタルシフトの歩みと将来の展望について、お話を伺いました。

マンガアプリ世界NO.1。急成長市場の覇権を握る「ピッコマ」の戦略

マンガアプリ世界NO.1。急成長市場の覇権を握る「ピッコマ」の戦略

8万以上タイトルの人気マンガやノベルを取り扱い、累計ダウンロード数は3,000万を超える電子マンガ・ノベルサービスの「ピッコマ」。サービス開始は2016年4月という後発ながら、23時間待てば一話を無料で読める「待てば¥0」サービスを他社に先駆けて導入するなど、新しい試みを積極的に取り入れ業界トップに君臨しています。短期間でピッコマが躍進を遂げた理由から、従来のマンガに代わる新しい表現形式である「SMARTOON」の魅力、今後のグローバル展開について、株式会社カカオピッコマ常務執行役員の熊澤 森郎氏にお話を伺いました。

「8割以上の精度で、赤ちゃんが泣く理由が判明」CES2021イノベーションアワード受賞。注目の日本発ベビーテック企業とは

「8割以上の精度で、赤ちゃんが泣く理由が判明」CES2021イノベーションアワード受賞。注目の日本発ベビーテック企業とは

テクノロジーの力で子育てを変えていく。そんなミッションを掲げ、泣き声診断アプリや赤ちゃん向けスマートベッドライトなど、画期的なプロダクトを世に送り出してきたファーストアセント社。「CES2021 Innovation Awards」を受賞するなど、世界的に注目を集めるベビーテック企業である同社の強さの秘密とは。服部 伴之代表にお話を伺いました。

Googleやビル・ゲイツも出資する“代替肉”スタートアップ「インポッシブル・フーズ」〜海外ユニコーンウォッチ#2〜

Googleやビル・ゲイツも出資する“代替肉”スタートアップ「インポッシブル・フーズ」〜海外ユニコーンウォッチ#2〜

「ユニコーン企業」ーー企業価値の評価額が10億ドル以上で設立10年以内の非上場企業を、伝説の一角獣になぞらえてそう呼ぶ。該当する企業は、ユニコーンほどに珍しいという意味だ。かつてのfacebookやTwitter、現在ではUberがその代表と言われている。この連載では、そんな海外のユニコーン企業の動向をお届けする。今回は欧米を中心に注目されている「代替肉」を扱う「インポッシブル・フーズ」を紹介する。

世界のMaaS先進事例7選。鉄道・バス・タクシーなど交通手段を統合したサブスクモデルも!

世界のMaaS先進事例7選。鉄道・バス・タクシーなど交通手段を統合したサブスクモデルも!

国内でMaaS(Mobility as a Service)実証が活発化している。新たな交通社会を見据え、既存の交通サービスの在り方を見直す変革の時期を迎えているのだ。 交通社会は今後どのように変わっていくのか。MaaSの基礎知識について解説した上で、海外のMaaSに関する事例を参照し、その変化の方向性を探っていこう。

Facebookも注目の「メタバース」とは何か? スマホ向けメタバース「REALITY」のDJ RIO氏に聞く

Facebookも注目の「メタバース」とは何か? スマホ向けメタバース「REALITY」のDJ RIO氏に聞く

Facebookが社名を変更し、中核事業に据えるほど力を入れる「メタバース」。2021年8月にはグリー株式会社が、今後2~3年で100億円規模の事業投資を行い、グローバルで数億ユーザーを目指すと発表しましたが、その中核を担うのが、グリー株式会社の子会社であり、これまでバーチャルライブ配信アプリを手がけてきたREALITY株式会社です。今回は、そんな同社の代表を務めるDJ RIO氏にインタビュー。そもそもメタバースとは何なのか。なぜこんなにも注目が集まっているのか。メタバースは、世界のあり方をどのように変えるのか。メタバース初心者のビジネスパーソンには必読のインタビューです。

デジタル戦略で生まれ変わるカインズ。ホームセンターからIT小売企業への変遷の軌跡【前編】

デジタル戦略で生まれ変わるカインズ。ホームセンターからIT小売企業への変遷の軌跡【前編】

生産労働人口の減少を受け、日本企業はいよいよ生き残りをかけたデジタル化に取り組まなければいけないと言われるフェーズに入ってきました。とはいえ、それができている企業とそうでない企業との差が激しくなっているのも現状です。 そんななか、ホームセンター大手カインズでは、40年かけて積み重ねてきたホームセンターとしてのあり方を見直し、IT小売企業として生まれ変わろうとしています。カインズでデジタル戦略本部長を務め、戦略の指揮をとる池照 直樹氏に、同社のデジタル戦略についてお話を伺いました。 前編は、カインズがどのようにしてデジタル化を実現させていったのか、具体的な取り組みを交えてお届けします。