Googleやビル・ゲイツも出資する“代替肉”スタートアップ「インポッシブル・フーズ」〜海外ユニコーンウォッチ#2〜

「ユニコーン企業」ーー企業価値の評価額が10億ドル以上で設立10年以内の非上場企業を、伝説の一角獣になぞらえてそう呼ぶ。該当する企業は、ユニコーンほどに珍しいという意味だ。かつてのfacebookやTwitter、現在ではUberがその代表と言われている。この連載では、そんな海外のユニコーン企業の動向をお届けする。今回は欧米を中心に注目されている「代替肉」を扱う「インポッシブル・フーズ」を紹介する。

肉ではない肉を作る「インポッシブル・フーズ」

インポッシブル・フーズは2011年、スタンフォード大学名誉教授のパトリック・ブラウン氏が創業した。人工肉の一種である「代替肉」の製造や販売を手掛けている企業だ。家畜からではなく、人工的に作られた「人工肉」には大きく2つの種類がある。大豆などの植物から作られた「代替肉」と、動物の細胞を培養して作る「培養肉」だ。インポッシブル・フーズは前者の「代替肉」を扱っており、代替肉製品をネットやスーパーで販売している。さらに、BtoB事業として代替肉の提供も行っている。例えば、バーガーキングと提携し、代替肉を使った「インポッシブル・ワッパー」を全米で販売している。
インポッシブル・フーズが作る代替肉の特徴は、その肉々しさにあると言われる。「ヘム」という大豆の根粒に含まれるタンパク質を原料にすることで、本物の肉のような色や味を作り出したのだ。同社は、2020年1月にアメリカ・ラスベガスで開催された世界最大級の家電・技術見本市「CES(Consumer Electronics Show)」では、豚肉の味を再現した代替肉を発表。Digital Shift Times編集部も実際に現地で試食した。(「CES2020、来場者の注目を浴びたブースをテーマ別にご紹介!」https://digital-shift.jp/startup_technology/CES200117)

インポッシブル・フーズは、2020年8月に2億ドル(約210億円)の資金を調達。同社にはGoogleやビル・ゲイツ氏なども出資していて、これまでに調達した資金の総額は15億ドル(約1575億円)と発表されている。

急拡大する「代替肉」市場

今までのインポッシブル・フーズの成長は、「代替肉市場」自体の成長と言いかえても過言ではないだろう。同じく代替肉を扱うスタートアップで2019年に上場した「ビヨンド・ミート」と共に、インポッシブル・フーズは代替肉市場を牽引してきた。なぜ、今、代替肉市場が急拡大しているのだろうか。

大前提としてインポッシブル・フーズやビヨンド・ミートといった「テクノロジー企業」の技術力がある。より本物の肉に近い味の製品開発に成功したのだ。それに加えて、代替肉市場を押し上げるのは、近年の環境問題への意識の高まりだ。実は、畜産業は温室効果ガスを多く排出している。国連食糧農業機関が2013年に発表した内容によると、人為的に排出されている温室効果ガスのうち、約14.5%が畜産業に由来しているという。社会や環境に配慮した「エシカル消費」や環境・社会・ガバナンスを重視する「ESG投資」など、消費者も投資家も環境への優しさを考慮した行動が増えている。こうした背景から温室効果ガスを多く排出する畜産業から代替肉へのシフトが起こっているのだ。

また、代替肉市場への期待感はその裾野の広さにもある。植物由来である代替肉は、肉を食べない主義の人でも食べることができるからだ。豚肉を食べないイスラム教の人や動物性の食品を避けるベジタリアンなどでも、代替肉であれば食べることができる。つまり、通常の肉製品よりも潜在的な市場が大きいと考えられているのだ。同じ人工肉で、まだ発展途上である「培養肉」は、元をたどれば動物の細胞を利用していることから、仮に今後、培養肉の開発が進み価格が下がったとしても、この点は「代替肉」に分があると言えそうだ。

大手企業の参入で本格化する競争

これまでは市場と共に成長してきたインポッシブル・フーズだが、この成長が今後も続くかはわからない。急拡大する代替肉市場に大手企業が続々と参入しているからだ。

ネスレは2017年、植物性食品を製造するスイートアース社を買収。2019年には代替肉を使ったハンバーガーの販売を開始している。また、ビヨンド・ミートに出資していたアメリカ最大手の食肉加工企業タイソン・フーズはビヨンド・ミートの株を手放し、自社で代替肉の製造に取り掛かった。一方のビヨンド・ミートは2019年の上場時に株価は高騰したものの、その後はマクドナルドとの提携話が出るたびに上がり、立ち消えるたびに下がるというように、大企業の影響を受けている。

市場が拡大した結果、大手企業が参入するようになった代替肉市場は、黎明期から次のステージに進んだと言えるだろう。既存の大手企業と違い元々の販路を持たないインポッシブル・フーズなどの新興企業は、プレイヤーが増えることで商品がコモディティ化し、販売チャネルの勝負になった場合、厳しい戦いになるかもしれない。

日本でも加速する「代替肉」

欧米を中心に盛り上がりを見せる代替肉市場だが、その勢いは日本でも確実に広がりつつある。農林水産省は、代替肉や培養肉といった「代替タンパク質」の需要拡大やロボット・VRなどの食分野での活用などを議論するために「フードテック研究会」を2020年4月に立ち上げ、7月までに6回の会議を開催した。会議では、研究開発の促進やルール形成などについて意見交換が行われたという。さらに、この研究会での提言を受けて、同省は2020年10月、産学官連携による「フードテック官民協議会」を設立した。フードテック分野への投資額は、アメリカの9,574億円、中国の3,522億円に対して日本は97億円に留まっているのが現状だ。今後、国としてさらにフードテック分野に注力することが期待されている。

また、民間企業の参入も増えている。日本ハムや伊藤ハムといった食品加工メーカーやロッテリア・モスバーガーなどのファストフード業界、さらにセブンイレブン・ローソン・ファミリーマートといったコンビニ大手3社まで代替肉製品を販売している。もはや食品を扱う企業で代替肉を視野に入れていない企業は無いのではと思えるほど、ここ数年で一気に参入企業が増えている。もちろん、どの企業でもまだ主力製品とまではなっていないが、日本でも広がりつつある代替肉市場の今後を見据えた競争は既に始まっているのだ。

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