日本発フードテック企業・完全栄養食を販売する「ベースフード」 〜IPOから読み解く、デジタルシフト #1〜

多くの企業が目標の一つとして掲げ、憧れ、夢を見る言葉、「上場」。これを達成した企業は資金調達の規模が大きくなり、さらなる挑戦ができるとともに、社会的に認められたという箔が付く。何百万社とある日本企業のなかで、上場企業は約3,800社。非常に狭き門を突破した、選ばれし企業たちだ。
本記事では、デジタルシフトを実現しながら新規上場を果たした企業に焦点を当てていく。今回は、完全栄養食(*)「BASE FOOD」を手がける「ベースフード株式会社」を取り上げる。同社は、2022年11月15日に東証グロース市場に上場した。初値は710円で公開価格の800円を下回った。

* 1食で、栄養素等表示基準値に基づき、他の食事で過剰摂取が懸念される脂質・飽和脂肪酸・炭水化物・ナトリウムを除いて、すべての栄養素で1日分の基準値の1/3以上を含む。

完全栄養食のパイオニアとして、フードテック市場牽引を目指すベースフード

ベースフードは2016年に創業し、完全栄養食を開発・販売する企業だ。「完全栄養食」と銘打たれた同社の商品には、不足しがちな栄養素について1食で1日の基準値の3分の1が入っている。他社の完全栄養食では、水に溶かして飲む粉末タイプも販売されているが、ベースフードは主食であることにこだわっている。食パン型やチョコレート味・メープル味などがあるパン「BASE BREAD」や、平打ち麺・細麺が選べるパスタ「BASE PASTA」、さらにココアや抹茶などの味を楽しめるクッキー「BASE Cookies」などだ。同社のECサイトから購入できるほか、コンビニやドラッグストアなどでも販売されている。

2016年の創業後、2017年に販売を開始し、5年で月間定期購入者が10万人を超えたという。2022年2月期の売上高は55億4,500万円、経常損失は4億6,000万円だった。2022年2月には20億円の資金調達を発表。「日本発フードテック企業」を自負し、資金調達の際は「日本における完全栄養食のパイオニアとして、フードテック市場の拡大を牽引していくことを目指しています」とコメントしていた。そして実際に、まだ数の少ないフードテック企業としての上場となった。
BASE BREAD

BASE BREAD

“主食”で栄養バランスを改善する。ベースフードの開発背景

完全栄養食メーカーのなかでも、ベースフードが特徴的なのは「主食」にこだわっていることだ。同社はミッションとして「主食をイノベーションし、健康をあたりまえに」を掲げており、あくまでも主食を中心とする健康食を志向している。食事の中心にある主食の栄養バランスを向上させることで、ただ必要な栄養素を満たすだけではなく、食事を楽しみながら栄養も摂取できる世界を目指しているのだ。

ベースフードが生まれたきっかけは、同社代表取締役の橋本 舜氏がサラリーマン時代に、仕事に没頭するなかで健康診断の結果が少しずつ悪化したことだという。仕事と栄養の両立に難しさを感じた結果、「毎日食べる“主食”の栄養バランスがよければいいのでは? そうすれば、誰でも簡単に栄養バランスのよい食事がとれるのではないか?」というアイデアが浮かんだとのことだ。構想から1年以上をかけ、100種類以上の試作を重ねた結果、BASE PASTAが完成した。その後、BASE BREAD、BASE Cookiesと商品の幅を広げていった。

「オフライン」からオンラインにつなげるD2Cモデル

ベースフードは自社ECでのサブスクリプションを中心に商品を販売している。2022年8月時点でサブスクリプションの会員数は13.8万人、同月のデータで、サブスクリプションの売上比率は74%、顧客の継続率は93%だ。D2C(Direct to Consumer)と呼ばれるビジネスモデルだが、ベースフードには大きな特徴がある。それはオフラインチャネルを開拓していることだ。

D2Cは、自社ECと顧客を直接つなぐ形式が多いことから、マーケティングチャネルもデジタルで完結することが多い。しかし、ベースフードはコンビニやドラッグストアなど、実店舗での販売を広げているのだ。売上高に占める比率は、自社ECが69.2%、他社ECが18.5%、リテールが11.7%、その他0.7%となっている。テレビCMやデジタルマーケティングでベースフードに興味を持った潜在消費者が、商品を手軽に試すことができる場として実店舗が機能しているという。

2020年2月から2022年2月までの2年間で、月間定期購入者数は約10倍伸びている。その要因として、商品のフレーバーが増えたことやコロナ禍により栄養バランスへの意識が高まったことに加え、2021年3月から開始した、コンビニでの販売が要因に考えられると同社は分析している。コンビニで販売したことにより実際に商品を試すことができるようになり、定期購入開始のきっかけになっているということだ。購入者にとっては、実店舗や他社ECよりもベースフードのECで定期購入するほうが単価が安くなるため、最初の購入は実店舗であってもECの定期購入に移行するメリットがある。

ベースフードはD2Cモデルながら、実店舗を顧客とのタッチポイントと捉え、マーケティングチャネルの一つとして活用している。今後は、デジタルマーケティングはもちろんのこと、海外も含めさらに取扱店舗を増やすことで、オフラインとオンラインをつなげて売上を伸ばすという好循環を拡大する戦略を描いているようだ。
自社ECで販売される定期購入セット

自社ECで販売される定期購入セット

Article Tags

Special Features

連載特集
See More