コロナ禍で地方シェア拡大。置くだけ健康社食「OFFICE DE YASAI」のDX戦略
2022/3/24
オフィスに専用の冷蔵庫を設置するだけで、毎日新鮮な野菜やフルーツ、惣菜が食べられる「OFFICE DE YASAI(オフィスで野菜)」。商品管理や集金管理はすべて配送スタッフにお任せできるので余計な手間もかからず、コロナ禍の影響や健康志向の高まりもあって、大都市から地方まで導入する企業が増加中です。企業の福利厚生としてのサービスであるため、従業員は100円から商品を購入できる手軽さも魅力。DXを推進することで従業員の健康管理やフードロスの削減、地場経済の振興を目指す、株式会社KOMPEITO代表取締役CEOの渡邉 瞬氏の展望に迫ります。
Contents
ざっくりまとめ
- 農業コンサルの仕事に従事するなかで渡邉氏が感じた「農作物の販路の少なさ」を解決するべくOFFICE DE YASAIは生まれた。
- コロナ禍により、リモートワーク化できない地方の中小企業からのニーズが増加。
- 従業員の健康管理システムの構築、フードロスの削減、OFFICE DE YASAIのメディア化といったDXを進めていく。
- 本年度中に現在4ヵ所の製造拠点を9ヵ所に増やして、地場経済がまわる仕組みを各地に生み出していく。
福利厚生としてのビジネスモデルで人気となった「OFFICE DE YASAI」
はい、主に物流や製造に関するコンサル業務を担当していたある日、農業系のコンサルチームを起ち上げるという話になって、先輩からの誘いで自分も所属することになりました。そこから農業の実態に触れて、農作物の流通経路の選択肢が非常に少ないなと感じたんです。農業人口の減少と高齢化が進むなか、農業界を盛り上げる必要があるなと。やっぱり物事は外部から人が入ったほうが発展すると考え、思い切って業界を盛り上げるために独立しました。
大半の農家は農作物を農協に卸していますが、ちょっと先進的な農家だと自分から飲食店に卸したり、直売所で売ったり、ECサイトで販売したりしています。常々、販路が少ないという問題を感じていたので、販路を増やすためになにかできないかと思ったのが大きなきっかけです。
——独立直後はどのような事業を手掛けられたのでしょうか?
生産者とエンドユーザーをつなぐプラットフォーマーになるべくECサイトを起ち上げましたが、上手くいかずに半年でクローズしました。次に始めたのが、麻布十番で酒屋の店舗を借りての八百屋です。八百屋を自分でやることで、農作物の流通の基本を学ぼうと思ったんです。自分で実際に流通の現場を見ることで、なんらかの課題や光明が見えてくるだろうなと考えての選択でした。
でも、そう簡単に野菜が売れるはずがなく、余った野菜を知り合いの企業に持って行き、買ってもらっていたんです。そこで言われたアドバイスが「わざわざ家まで持ち帰るのが面倒だから、その場で食べられるようにしてくれるとありがたい」というものでした。それでミニトマトを持って行ったら、すぐに食べられると好評だったんです。値段が100円以下なら皆さん買ってくれますが、200円にすると売れなくなる。100円以下では原価割れしてしまうので、企業の福利厚生として販売する戦略を考えました。野菜を持って行くと多くの方が「健康的」という面に価値を感じて喜んでくれたのですが、当初は想定していなかった反応でしたね。
コロナ禍で地方企業からの問い合わせが拡大
シリコンバレーだと福利厚生のサラダはよくありますが、OFFICE DE YASAIを開始した2014年の日本では、今と比べると全く理解が進んでいませんでした。当時先行していたオフィスグリコさんが特に費用なしで設置できるのに対して、弊社の場合は費用負担が発生することも理解が難しかったのだと思います。しかし地道に実績を積んでいくことで、設置していただける企業が増えていきました。やっぱり世の中に健康経営の流れが生まれたことが大きいですね。どこも人材採用が苦しいなか、社員の健康管理を充実させることで差別化したいという意図もあったのでしょう。
——新型コロナウイルスの影響はどの程度受けましたか?
2020年4月に緊急事態宣言が出されて、5月には売上が6割減少しました。オフィスに従業員が来ないので、当然野菜も売れません。これは大変なことになったなと思いましたが、5月に緊急事態宣言が解除されると地方の企業からの問合せが増えたんです。それまでは都内の中小企業がメインターゲットでしたが、地方にある中〜大規模の企業からの問合せが増えて、風向きが変わったことを感じました。話を聞くと、なかなか100%リモートワークに移行できないため、出社した社員が外出せずに食事できるサービスに対するニーズがあると分かりました。デスクワークが多いからこそ健康的な野菜はウケがよく、いろいろな企業からお声がけいただくようになったんです。それまでのターゲットだった東京や大阪などの大都市だけでなく、地方エリアにも力を注ぐようになりました。現在は、従業員5名以上の規模から利用を推奨しています。
——生鮮食品の品質管理や、配送から回収まで一連のオペレーションは非常に大変かと思いますが、どのように対応していますか?
まず、商品の補給は基本的に週1回で、数量やご要望に応じて週2~3回にも対応しています。配送や回収の指示は、配送スタッフ専用のアプリ経由で行っています。都市圏では小回りの利く自転車、バイク、バンを使い分けていますが、大雪などが降ってしまうと対応には苦慮しますね。仕入れ、販売、お客さまへの請求については一元管理のシステムで対応しているので、オペレーションコストはかなり抑えられています。支払いは現金と電子決済アプリのYASAI PAYがあります。YASAI PAYはクレジットカード以外にもPayPay、メルペイ、LINE Payなどと連携できます。いずれは支払いもすべて電子化する予定です。そうすることで売り場の在庫がオンタイムで分かるので、その情報をもとに仕入れを自動化でき、廃棄率の低下につながります。無駄のない仕入れと販売を一つのシステムで実現するという構想です。
温度管理についても改善していきます。今は生産から販売までを10度以下の設定にしていますが、それだと消費期限が2〜3日なんです。温度を4度以下にすることで、野菜も1週間ほど持つようになります。すでにアメリカでは製造から販売までを4度以下でコントロールしているので、長いと2週間日持ちする野菜もあります。日本ではこの流通が構築できていないので、いずれは実現したいと考えています。より多くの人に、サラダを長期にわたって提供するためには欠かせない技術です。
渋谷に設置した自販機「SALAD STAND」にはダイナミックプライシングを搭載
お客さまからは野菜=健康的な食品ということで好評いただいていますが、 実際にOFFICE DE YASAIをご利用いただくことで体調面にどんな変化があったのかについては測定できていません。アンケートによって「野菜を食べる機会が増えた」とか「健康についての意識が高まった」といった回答をいただいていますので、働く人の健康を管理できるシステムをつくろうと考えています。フィットビット(※)などの管理ツールで血圧や健康状態をデータ化して弊社で管理することができれば、OFFICE DE YASAIの導入で健康になったというエビデンスを出せるようになります。今後はより健康面からサービスを訴求していく予定です。
※フィットビット:歩数や心拍数、消費カロリーなどが記録できるウェアラブル端末。
——テクノロジーの側面では、サラダの自販機「SALAD STAND(サラダスタンド)」も展開されていますよね。
SALAD STANDは現在、渋谷ソラスタに入居する企業の従業員が利用できる2階のラウンジに設置しています。AIセンサーを搭載して、通行人の数と売上が分かります。今後は前を通った人の性別や年齢を把握して、時間帯や天候によってどんな人にどの商品が売れたのかを割り出せるようにします。在庫数と賞味期限のデータをもとに販売価格を算出するダイナミックプライシングを搭載していますが、この技術はすでに特許を取得しています。
日配品は消費期限が短くどうしてもフードロスが出てオペレーションに手間がかかるので、今まで自販機での販売は難しいとされていました。SALAD STANDはOFFICE DE YASAIの物流を使うことでオペレーションコストを落とし、ダイナミックプライシング機能を活用することでフードロスを削減できます。
——OFFICE DE YASAIの冷蔵庫の上にタブレット端末を設置した「OFFICE DE MEDIA」はどのような目的でスタートしたのでしょうか?
OFFICE DE MEDIAは、JAと連携して始まったサービスです。コロナ禍で農作物の試食PRなどが難しくなったことが背景にあります。OFFICE DE YASAIの設置スペースをメディアとして利用すれば、その企業の従業員に対して無人でさまざまな農作物のPRが可能です。冷蔵庫上のサイネージによる情報発信だけでなく、PRしたい旬の食材を冷蔵庫に保管しておくことで無料のサンプリングも可能です。サンプリングが気に入れば、そのまま弊社のECサイトから購入できるようになっています。
地方拠点拡大で、地場経済のまわる仕組みをつくる
定番で人気なのはミニサラダやカットフルーツですね。最近のトレンドは豆腐、ゆでたまご、サラダチキンなどのプロテイン系。糖質オフや筋トレブームの影響が大きいかと思います。野菜はできる限り、地場産のものを使うように心がけています。フードロスの削減と、モノの流れの距離を縮めることによってより新鮮なものを届け、地場の経済をまわすことが目的です。
——利用者はどのような属性なのでしょうか?
年齢は20~40代がメインで、男女比はほぼ半々ですね。多い業界は医療系です。大きい病院だけではなく、従業員が10〜30名規模のクリニックが非常に多いです。決まった時間に休みが取りにくかったり、制服を着替えて外出するのが面倒だったり、といったことが導入いただいている理由です。また、薬局やカーディーラーなどの販売店も多いですね。本社には社食があっても、各店舗や支店にはそこまで用意されていませんので。そういった理由から、今後は銀行や鉄道業界にもOFFICE DE YASAIを広めていきたいと考えています。
——では、今後の展望を教えてください。
現時点で北海道から沖縄までサービスを提供できていますが、例えば東日本なら東北地方には、弊社のスタッフではなく宅急便で商品を届けています。入れ替えなどの細かい作業は総務担当者様等にお任せしているので、各地に製造と配送の拠点を用意し、より手軽にサービスが受けられるエリアを増やしていきたいです。
そして製造拠点も増やしていく予定です。現在、北海道、千葉、和歌山、沖縄の4ヵ所にある拠点を、年内には9ヵ所に増やしたいですね。東海、関西、山陰、九州などのようにエリアを細かく分けて、地場の野菜を地元の企業に食べてもらえる取り組みを強化します。併行して、そこで働く人たちの健康を管理するシステムも構築していきます。
渡邉 瞬
株式会社KOMPEITO 代表取締役CEO
1983年、神奈川県生まれ。横浜市立大学商学部卒業後、日系コンサルティングファームに入社。製造業の製造・物流部門へのコンサルティングに従事する。そこで農作物の販路の少なさに課題を感じ、2012年に株式会社KOMPEITOを創業。2014年から、オフィスにサラダを届ける「OFFICE DE YASAI」を開始する。