eスポーツ業界初上場。「ウェルプレイド・ライゼスト株式会社」とは 〜IPOから読み解く、デジタルシフト #3〜

多くの企業が目標の一つとして掲げ、憧れ、夢を見る言葉、「上場」。これを達成した企業は資金調達の規模が大きくなり、さらなる挑戦ができるとともに、社会的に認められたという箔が付く。何百万社とある日本企業のなかで、上場企業は約3,800社。非常に狭き門を突破した、選ばれし企業たちだ。
本記事では、デジタルシフトを実現しながら新規上場を果たした企業に焦点を当てていく。今回は、eスポーツ事業を手がける「ウェルプレイド・ライゼスト株式会社(ウェルライ)」を取り上げる。同社は、2022年11月30日に東証グロース市場に上場した。初値は6,200円で公開価格の1,170円を上回った。

eスポーツ専業企業として初の上場。eスポーツ総合商社「ウェルライ」

ウェルライは、2021年2月、共にeスポーツ領域の事業を展開する競合企業である、ウェルプレイド株式会社と株式会社RIZeSTが合併し誕生した。同社は「eスポーツ総合商社」を謳っており、eスポーツ関連の事業を幅広く手がけている。eスポーツイベントの企画・運営や、プロゲーマー・YouTuberなどのマネジメント、さらに、eスポーツを活用した地方創生プロジェクトも進めている。また、東京都の秋葉原でeスポーツ専用施設「e-sports SQUARE」を運営している。

同社によると、国内のeスポーツ市場は、2020年に約67億円だった市場規模が2024年に約184億円に成長し、試合観戦者・動画視聴者からなる「eスポーツファン」は2020年の約686万人から2024年には約1,461万人に成長すると予測されているという。また、世界のeスポーツ市場規模は2024年に約1,957億円に達する見込みとのことだ。このように拡大するeスポーツ市場のなかで、同社は、eスポーツにまつわる事業を一手に担えることを強みとしている。

同社の上場は、日本において「eスポーツを専業にする企業として初めての上場」と報じられるなど注目された。上場した際の初値は公開価格の約430%となり、2022年に上場した企業のなかで「初値上昇率」が1位の銘柄となった。
ウェルプレイド・ライゼストの事業(2022年10月期 決算説明資料より)

ウェルプレイド・ライゼストの事業(2022年10月期 決算説明資料より)

eスポーツへの熱い想い。競合する2社の合併と、ゲーム偏愛社員の存在

ウェルライは、代表取締役を複数人にする体制で、元はウェルプレイド社だった谷田 優也氏と髙尾 恭平氏、RIZeST社だった古澤 明仁氏の3人が代表取締役を務めていた(髙尾氏は2023年1月に代表取締役を辞任)。谷田氏と髙尾氏の出会いは渋谷のゲームセンターだったという。「eスポーツ業界はこれからますます発展する」と確信し、2015年11月にウェルプレイド社を設立した。古澤氏は自身のnoteで「合併前から時折、『未来』の話を3人でしていたんですよね、業界の未来の話を。不思議と嫌な感じが全くなかったし、むしろ『共感』できることが圧倒的に多かった」と明かしている。3人のeスポーツへの強い想いが、競合する2社を合併へと導いた。

また、同社は、自社の競争優位性として「ゲーム偏愛社員」の存在をあげている。本当にゲームが好きな社員が運営するからこそ、他社には真似できないアプローチが可能で、それが競争優位性にまでつながっているという。実際に、「フォートナイト 勝利数日本9位」や、「ストリートファイターV プロ選手ライセンス保持」などの実績を持つ社員がいるとのことだ。「eスポーツの力を信じ、価値を創造し、世界を変えていく。」をミッションに掲げ、eスポーツに並々ならぬ情熱を傾ける人たちによって、「eスポーツ業界初の上場」は成し遂げられたのだ。

広がるeスポーツ市場。楽しみ方はゲームのプレイだけではない

eスポーツ人気の広がりは、配信プラットフォームやSNSの発展により、「ゲームの体験」が拡大されたことが一因となっている。単にゲームをプレイするだけでなく、その体験を共有したり、共通の話題として交流したりと楽しみ方が広がった。さらに、昨今は「観戦勢」と呼ばれる人々が急激に増加しているという。自身はゲームをプレイせず、他者のプレイを見たり応援したりする楽しみ方だ。ウェルライでは、eスポーツイベントの運営やプロゲーマーのマネジメントだけでなく、このような観戦勢も含めたコミュニティへのアプローチにより、eスポーツの裾野を広げている。日本のeスポーツ市場はまだ立ち上がったばかりだが、ここからどれだけ市場が伸びるかが注目される。
eスポーツ人気:楽しみ方の拡張(2022年10月期 決算説明資料より)

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