プラットフォーマー研究

大幅ダウンラウンド上場。メディアプラットフォーム「note」とは 〜IPOから読み解く、デジタルシフト #2〜

多くの企業が目標の一つとして掲げ、憧れ、夢を見る言葉、「上場」。これを達成した企業は資金調達の規模が大きくなり、さらなる挑戦ができるとともに、社会的に認められたという箔が付く。何百万社とある日本企業のなかで、上場企業は約3,800社。非常に狭き門を突破した、選ばれし企業たちだ。
本記事では、デジタルシフトを実現しながら新規上場を果たした企業に焦点を当てていく。今回は、メディアプラットフォームを運営する「note株式会社」を取り上げる。同社は、2022年12月21日に東証グロース市場に上場した。初値は521円で公開価格の340円を上回った。

クリエイター数500万人を突破。メディアプラットフォーム「note」

note株式会社は、前身の「株式会社ピースオブケイク」として2011年12月に創業され、2012年9月にコンテンツ配信サイト「cakes(ケイクス)」を立ち上げた。そして、2014年4月、C to Cメディアプラットフォーム「note」を開始する。その後、2020年4月には、サービスに合わせ、社名を「note株式会社」に変更。cakesは掲載されたコンテンツに不適切な内容があると指摘される「炎上騒ぎ」などを経て、2022年8月31日でサービスを終了した。

noteは、会員登録すれば誰でも文章や画像、動画などのコンテンツを自由に投稿することができるC to Cのプラットフォームサービスだ。コンテンツを投稿するクリエイターは、自分の作品を有料にして収益を得ることもできる。この収益の一部が手数料として同社に入るビジネスモデルだ。また、独自ドメインやアナリティクスを利用できる法人向けサービス「note pro」も提供しており、2022年8月末時点で564社が有料契約している。

2022年4月、noteに会員登録したクリエイター数が500万人を突破した。note上で収入を得る人は10万人を超えている。2021年11月期の同社の売上高は約18億8,400万円、経常損失は約4億3,300万円だった。同社の上場に関しては、直近の資金調達で300億円を超えたといわれる時価総額が、想定価格から算出すると約44億円になっており、大幅なダウンラウンドであることが発表時から話題となっていた。

伝統的なメディアの仕組みをインターネット上で実現する。note誕生の背景

noteは、伝統的なメディアの仕組みをインターネット上で実現し、クリエイターを支援することを目指している。出版やテレビ、新聞といった伝統的なメディアでは、優れた作品が生み出され、人々に届き、収益化されるエコシステムが確立されていたという。しかし、インターネットの登場により、誰でもコンテンツをつくることができるようになった一方、SEO対策により人目に付くコンテンツに偏りが生じ、広告依存のビジネスモデルによる収益性の低さも課題となった。そこで、既存のメディアが構築していたエコシステムをインターネット上に生み出そうと考え、同社が始めたのがnoteだ。

noteは、多くのコンテンツが共存し、多様性に富んだプラットフォームになることで、「あらゆるクリエイターの本拠地になる」ことを目指しているという。サービス提供を開始する際、同社の代表取締役CEOの加藤 貞顕氏は「ここは、コミュニケーションとマーケティングとクリエイティブが一体化した場所です」と、noteに投稿している。

クリエイターの創作活動を支える収益化を推進。新機能「メンバーシップ」とは

noteは2022年7月、それまで提供していた「サークル」機能を「メンバーシップ」にリニューアルした。メンバーシップは、クリエイターが簡単に「月額制サブスクリプション」を始められる機能だ。サブスクリプションに登録した会員に向けて、限定コンテンツや限定クーポン、イベント・セミナーへの招待など、特典を自由に設定できる。実際に、ニュース解説や作業風景といった会員限定コンテンツの公開やオンライン交流の実施、新商品の先行販売などが行われている。サブスクリプションモデルでクリエイターの収益基盤を安定させることで、創作活動に集中できる環境を整えるとともに、ファンとの長期的な関係構築を支援するのがねらいだ。すでに、クリエイター群像劇を描いた大人気マンガ『左ききのエレン』の原作者 かっぴー氏や、元日経記者で経済ジャーナリストとして活動する後藤 達也氏をはじめとするクリエイターが利用している。

noteのクリエイターで、2021年の年間売上上位1,000の平均年間売上は667万円だった。同社は、メンバーシップの提供によって、単発的な作品販売とは異なる、継続的な収益化を促進することで、ユーザー層や会員登録数、購読者数を拡大し、自社の収益性を向上させることを今後1〜2年の成長戦略として位置付けている。収益化が難しいとされるメディア・コンテンツ分野だけに、サブスクリプション機能や法人向けサービスなどに力を入れる同社の戦略が注目されている。

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