Web3時代の檀家制度!? 「寺DAO」。NFT購入で寺院と伝統職人を継続的にサポート
2023/5/30
Web3を理解するキーワードの一つである「DAO(Decentralized Autonomous Organization、分散型自律組織)」。管理者が存在しない非中央集権型の新しいコミュニティであり、昨年にはデジタル庁も独自のDAOを立ち上げてニュースになりました。今回はDAOの仕組みを応用して、寺院と伝統職人の継続的なサポートを行う「寺DAO」を共同運営するフレームダブルオーの代表取締役社長 原 麻由美氏と同社CTOのaggre氏に、DAOと従来のコミュニティの違いについてお話を伺いました。
Contents
ざっくりまとめ
- フレームダブルオーが提供する「Clubs」は、1分でDAOを始められる無料ツール。プログラミングも不要で、デザインのテーマを選び必要な情報を入力するだけで自分のDAOが立ち上がる。
- 寺DAOが目指すのは寺院の修復にまつわる課題の解決。数十年ごとに発生する寺院の修復費を捻出し、伝統職人の経済的評価を高めることを目的としている。NFTを購入することで誰でもメンバーになれる。
- 寺DAOは現代の檀家制度ともいえるシステム。従来の檀家制度と異なるのは、参加者にも文化財のNFTや伝統職人のオーダーメイド製品の購入権などのリターンがあること。
- DAOは株式会社のような一面も持ち、参加メンバーが財務管理や意思決定、組織管理を行う。
DAOを始めるならClubs、といわれるサービスを目指して
原:私たちは2018年からブロックチェーンの事業を続けてきましたが、ようやく今年の3月にノーコードでDAOを立ち上げられるサービスをリリースできました。それが Clubsです。想定しているユーザーは起業家、クリエイター、アーティストの皆さんです。プロジェクトを実現させるためにメンバーや資金を集めてコミュニティを成長させることができます。
Clubsの特徴はたった1分でDAOを始められることです。ブログを始めるならWordPressといわれるように、DAOを始めるならClubsといわれるようなサービスを目指しています。プログラミングも不要で、デザインのテーマを選び必要な情報を入力するだけで、無料で自分のDAOが立ち上がります。
aggre:技術者の視点からお話ししますと、Clubsはリリース直後ですので製品としてできることにはまだ限度があります。DAOはブロックチェーンで管理されているからこそ、透明性を担保して運営できることが一番の強みです。このブロックチェーンなどの技術的な部分を無視して、DAOであれば完全に手離れした状態でお金が自動的に入る、といった認識を持たれている方も見受けられます。決してそんな夢のツールではないので、DAOの運営にはビジョンの必要性を感じています。
原:DAOを支えている技術的なバックグラウンドを理解しないと、上手く使いこなすことは難しいと考えています。そこをスルーしてコミュニティへの理想だけが先走ってしまうと、設計思想がない惰性で立ち上げたコミュニティになってしまいます。
DAOを活用して、寺院と伝統職人を継続的にサポートする
原:寺DAOは翠雲堂さんという伝統建築企業とパートナーシップを結び、Clubsのリリースに先行して昨年の6月から運営をスタートしています。寺DAOが目指しているのは、寺院の修復にまつわる課題の解決です。寺院は定期的に建物を修復する必要がありますが、一度修復すれば完了ではなく、数十年後に再び修復作業が発生します。その際に資金が足りなければ建物は老朽化しますし、文化財を維持できないといずれは所有者不明となり、海外に安く流出してしまうケースもあります。
さらに、コロナ禍で海外からの訪問者が減少して、伝統工芸の仕事にも影響が出ています。資金を集める既存の手段としてはクラウドファンディングがありますが、単発でのプロジェクトをメインとした手段なので、寺院の修復に必要な資金を継続的に集めることは難しいんです。そんなときにDAOを活用すれば、継続的にメンバーの方から支援をいただくことができます。さらに、金銭面の支援だけに終わらない貢献も期待できるので、寺院の修復には適した仕組みとなっています。寺DAOにはオリジナルのNFTを購入することで参加することができます。
――寺院の修復費用が足りないという問題は、いつ頃から顕在化してきたのでしょうか?
原:もう長らく寺院の維持が難しい状況が続いていると聞いています。ただでさえ厳しい状況が、コロナ禍の影響によりさらに悪化しています。寺院や国宝の修復に携わる職人の仕事は本当に素晴らしいのですが、それに見合う経済的評価がされていません。伝統職人の収入が、とあるソーシャルゲーム企業の1/12だったという話を聞いたときは大きなショックを受けました。そういった寺院と伝統職人の置かれている状況を改善するべく、寺DAOは設立されました。
――寺DAOの構想について、翠雲堂さんは最初から理解を示してくれていたのでしょうか?
原:翠雲堂さんは当初、NFTに投機的なイメージを持たれていたので、時間をかけてご説明して納得いただきました。寺DAOはメンバーシップNFTを買ってコミュニティに参加いただくことが目的なので、転売目的のNFTではないということ。コミュニティのミッションに共感して、寺院の存続に貢献したい人だけが集まる場所であることを丁寧にご説明しました。我々のビジョンに翠雲堂さんにも共感していただき、寺DAOが立ち上がりました。
現代の檀家制度としての寺DAO
原:翠雲堂さんには日本全国17,000軒の寺院とのネットワークがあります。高い技術を持った職人のネットワークも持っているので、職人によるオーダーメイド製品や貴重な文化財のNFTなどをメンバー限定で用意しています。
寺DAOには、寺院の文化的な背景にも強い関心を持っているメンバーが多くいます。伝統職人が寺院の建築や装飾について説明をするイベントなども設けていますが、装飾の色の意味を説明するだけで、多くの方は喜んで聞いてくださいます。こういったイベントに参加できるのもメンバーだけの特典です。
――通常のコミュニティとDAOの違いはどこにあるのでしょうか?
原:寺DAOは従来の檀家制度に例えると分かりやすいでしょう。寺院への説明も「今までの檀家制度ではお寺を支えるために寄付をしてもらいましたが、寺DAOの場合は寄付だけではありません。コミュニティが成長すると参加者も還元を受けられます」といった内容で理解いただいています。
参加者への還元があるからこそ、多くの人が寺院の発展のために積極的な関与を持続できる仕組みが構築されています。寺DAOとはデジタル化された檀家制度という認識で多くの寺院に認知されていて、ありがたいことに今では寺DAOへの参加を希望される寺院も着実に増えてきています。
DAOと株式会社の共通点。DAOの特徴は資金がブロックチェーン上で管理されていること
原:DAOの大きな特徴は資金がブロックチェーン上で管理されていることです。DAOにはコミュニティ共通の資金プールとなるトレジャリーというものが存在します。ここにはDAOの収入が入るのですが、単純な寄付とは違いコミュニティのためのお金としてデポジットされていきます。トレジャリーの用途を決めるのはメンバーたちです。そう考えると、DAOはコミュニティというよりも実際は株式会社に近いといえるでしょう。
aggre:株式会社に株式が存在するように、DAOにはブロックチェーン上にトークン(※)があるため、誰も改ざんできません。株式会社の株主は名簿で分かるように、DAOのメンバーも可視化されています。また、株式会社と同様にメンバーが財務管理や意思決定、組織管理を行うことができます。このように株式会社とDAOの共通点は数多くあります。
※トークン:「暗号資産」や「仮想通貨」と同義語。代替可能なファンジブルトークンと代替不可能なノンファンジブルトークン(NFT)に大別される。
――DAOの本来の価値はどこにあるとお考えですか?
aggre:DAOの価値はトークンにあると思っています。株式会社の価値が株式に集約されていくのと同じで、DAOの価値はトークンに集約されていきます。トークンがあるからこそ収益分配が公平に行われますし、情報もオープンになります。
株式会社の株式をストックオプションとして受け取るときに、「この株式は本当に大丈夫なのだろうか?」と疑問に思う人はいませんよね。株式会社が設立している時点で、その株式は安全と認識しているからです。けれども、それがトークンとなるとまだまだ社会的な信用がありません。私はそのイメージを払拭したいと考えています。
――では、今後の展望を教えてください。
原:将来的にはDAOとリアルビジネスの境界をなくしていきます。Web3に閉じた盛り上がりで終わらせずに、リアルなコミュニティのなかでイベントを開催することも考えています。Web3は分散的な世界だからこそ誰でも簡単にスタートできますが、リアルなビジネスと絡めることで分散的なスケーラビリティの恩恵を受けられると思っています。リアルなビジネスを展開しているクリエイターや企業からも魅力的なサービスに感じてもらえるよう、Clubsをアップデートしていきます。4月にはClubsの機能を拡張するブラグインのマーケットプレイスをリリースしました。今後はプラグインが増えていくことで、Clubsのできることが一気に拡大していくでしょう。
aggre:このマーケットプレイス内のプラグインを使うことで、「特定のトークンを持っている人にだけ限定映像を公開する」なんてことも可能になります。そういった単機能のプラグインが数多く用意されているので、今まではできなかったリッチな機能をDAOに持たせることができます。世界中の開発者がプラグインを提供できるので、これから多種多様なプラグインが生まれていくでしょう。
原 麻由美
フレームダブルオー株式会社 代表取締役社長
メーカーで新規事業を立ち上げIPOを経験、2011年にソーシャルマーケティングのスタートアップを創業以来、10年間にわたってさまざまな業界で事業とブランドを開発してきたシリアルアントレプレナー。2014年に寺院や国宝を修復する職人の仕事が経済的に過小評価されていることを知り、FRAME00を創業。ブロックチェーンを通じて持続可能な分散型コミュニティを実現する「DEVプロトコル」を作っています。
aggre(アグリ)
フレームダブルオー株式会社 CTO
中学より独学でプログラミングとデザインを開始、オープンなインターネット技術にコミットし、オープンソースとアニメと二次創作を愛するプログラマー。最新の技術スタックを追求し、技術的なアイデアで日々の課題を解決する。OSSコミュニティを運営する経験から、伝統とOSSに共通する経済的課題を発見し、DEVプロトコルを設計。