クレジットカードでの支払い比率の高い諸外国に比べて、日本は長らく現金主義でキャッシュレス決済の比率が低い国だと言われてきました。2016年の調査でも日本のキャッシュレス決済の割合は20%程度だったのに対し、世界に目を向けると、割合が40〜60%台の国が大半を占めていました。しかし、2019年を過ぎた頃から、お得に利用できる決済サービスが続々登場したこともあり、キャッシュレス決済が大きな広がりをみせています。政府も日本のキャッシュレス決済の比率を2025年までに4割程度に、将来的には世界最高水準となる80%を目指すと発表するなど、キャッシュレス決済の普及を後押ししています。これからさらに利用の促進が期待されるキャッシュレス決済について解説していきます。
キャッシュレス決済とは?
キャッシュレス決済と聞いて何を思い出すでしょうか? クレジットカードでしょうか? それとも電子マネーでしょうか? あるいは最近、急速に普及が進むスマホ決済だという人もいるかもしれません。ここからはキャッシュレス決済の基本情報を解説します。
現金以外の方法でお金を払う仕組みのこと
キャッシュレス決済とは、何か物品を購入するときやサービスの対価を支払う際に、現金以外の方法を使って支払うことを指します。具体的にはクレジットカード、デビットカード、電子マネー(プリペイド)、そしてスマホ決済などといった方法があります。特別に新しい支払い方法というわけではなく、たとえばネットショッピングをして代金を振り込むとき、口座からの引き落としでネットサービスを利用するとき、あるいは交通系ICカードにチャージをして使うときなど、日常のさまざまな場面で活用されてきました。こうした従来型のキャッシュレス決済に加えて、近年、とくに普及が進むのが、コンビニやスーパー、ドラッグストアといったリアル店舗での買い物に利用できる、スマホを活用した決済サービスです。
キャッシュレス・消費者還元事業の施行で普及が加速
2019年以降にキャッシュレス決済の普及が進んだひとつの要因と言われるのが、経済産業省が行ったキャッシュレス・消費者還元事業です。2019年10月1日から消費税が8%から10%へと変更されましたが、増税による消費の落ち込みを緩和するため、消費者が商品を購入する際にキャッシュレス決済を選択すると、支払先が中小企業なら5%、フランチャイズ店舗でも2%をポイント還元されるという施策でした。
同時にキャッシュレス決済に必要な設備を店舗が整えやすくするため、加盟店が事業者に支払う手数料の1/3を国が補助する制度や、決済の端末を導入する費用の2/3を国が負担する制度も整備されました。これを機に一定期間、加盟店手数料を無料にしたり、大規模なキャッシュバックキャンペーンを行うことでシェアを広げようとする事業者が登場し、競争が激化しました。これにより急速にキャッシュレス決済の普及が加速したという背景があります。なお、このキャッシュレス・消費者還元事業は2020年6月を持って終了しています。
キャッシュレス決済の種類
キャッシュレス決済は現金以外の方法で支払いを行う仕組みですが、具体的にどんな種類があるのでしょうか? ここからはキャッシュレス決済の種類について解説していきます。
クレジットカード決済
クレジットカード決済は、商品の購入やサービスの決済をクレジットカードで行うことで、代金はカード会社が立て替え、後日、保有者から支払いを受ける後払いの仕組みになっています。保有者の信用によって取引が成り立っているため、カードを発行するときには与信審査が必要となります。クレジットカードと同様に決済で使えるカードとしてデビットカードというものがあります。こちらもキャッシュレス決済のひとつですが、違いは店頭でカードを読み取るとデビットカードの場合、即時に口座から引き落とされる仕組みになっている点です。
クレジットカード決済を店舗が導入する場合、カード情報を読み取るための専用の端末を設置する必要があり、数万円の費用がかかると言われています。さらにカードで支払いを行うと、店舗はカード会社に手数料を支払うことになっており、一般的に中小店舗向けの手数料は5〜7%程度と言われています。
なお、従来のクレジットカードはカードを端末にスワイプしたあとサインをするか、端末に差し込んで暗証番号を押すことで本人確認をしていましたが、カードをかざすだけで支払いが完了するタイプのクレジットカードも近年は登場しています。
スマホ決済
スマホ決済は、スマホにインストールした専用のアプリで支払うキャッシュレス決済で、2019年以降に急速に普及しました。決済方法の違いから「非接触型決済(非接触IC決済)」と「QRコード決済」に分けることができますが、前者は多くのスマホに搭載されているNFCやFeliCa、あるいはBluetoothといった無線通信技術を使って、決済情報を通信し、スマホを端末にかざすだけで決済が完了します。また、QRコード決済はスマホ決済アプリを立ち上げた後、支払いレジにある専用のQRコードをスマホのカメラで読み取るか、もしくはスマホの決済アプリでQRコードやバーコードを表示して、お店のバーコードリーダーで読み取ると支払いが完了します。レジにもともとあるバーコードリーダーで読み取りができるため、店側がコストをかけて専用端末を用意する必要がない点から利便性が高く、普及が進んでいます。
このスマホ決済アプリの多くはクレジットカードと紐付けることもでき、通常は残高が不足すると、店頭やATMからチャージ(入金)を行う必要がありますが、事前にクレジットカードを登録しておくことで、残高が不足すると自動的にクレジットカードで決済し、チャージするといった利用法も選択できます。
電子マネー決済
電子マネー決済はプリペイドカードやスマホにあらかじめ金額をチャージし、商品やサービスを購入するときに、チャージした残高から支払いを行うものです。事前にチャージという形でお金を支払うため、前払い式の決済方法ということになります。鉄道会社やバス会社で利用できるICカードが代表的です。支払うときにはICカードやスマホアプリを機械にかざして、データを読み取ることで代金分の残高が引かれることになります。クレジットカードとは違い、前払いのため、基本的に与信は必要ありませんが、カードの発行手数料や預かり金が発生するケースがあります。またクレジットカードと紐付けが可能な電子マネーもあり、このようなカードを作る場合には与信が必要になります。
オンライン決済
オンライン決済は、インターネットバンキングなどを利用して、オンライン上で決済を行うキャッシュレス決済のひとつです。ECサイトでのショッピングではクレジットカードでの支払いも用いられますが、オンラインで主に使用されている電子マネーもあります。あらかじめチャージした電子マネーを利用するため、電子マネー決済と似ていますが、ネットショッピングに特化しており、リアル店舗で使用するケースが少ないため、電子マネー決済と区別されることが多くあります。なお、オンライン決済の電子マネーは、前払いのチャージ型のため、基本的にクレジットカードのような与信を必要としません。そのため未成年やクレジットカードを作れない人でも、利用することができるというメリットがあります。また、紐づけた銀行口座の残高以上の利用はできないオンライン決済が大半を占めます。
キャッシュレス決済のメリット
続いて、キャッシュレス決済のメリットについて考えてみましょう。さまざまな要因から利用が広がるキャッシュレス決済ですが、どんな利点があるのでしょうか?
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キャンペーンやポイント還元が豊富でお得に利用できる
キャッシュレス決済では現金払いにはないお得な側面があります。クレジットカードでは、利用額に応じたポイントが貯まり、さまざまな商品に交換することができます。スマホ決済でも、キャッシュレス・消費者還元事業によるポイント還元は終了したものの、事業者のシェア争いが激化したことにより、利用者を囲い込むためのキャッシュバックキャンペーンや割引サービスを受けることができます。こうした割引やキャッシュバックは現金払いでは受けることができないもので、キャッシュレス決済ならではのメリットだと言えます。
支出管理がしやすい
自分で家計簿を付けて、出費を管理している人もいるでしょう。最近はレシートを撮影するだけで支出の登録ができるアプリもあり便利ですが、それでもひと手間です。キャッシュレス決済なら簡単に取引の履歴を確認することができるので、支出の管理がしやすくなります。最近はクレジットカードの支払い明細をウェブやアプリで確認できる会社もあるので、現金決済よりも節約感覚が身に付くかもしれません。
また、履歴をチェックする癖を身につけると、もし万が一、不正に利用されたとしても比較的早期に発見し、クレジットカード会社やスマホ決済アプリの運営会社に問い合わせるなど、対処することもできます。
個人間で送金ができる
スマホ決済アプリの中には、個人間で送金ができる機能を持ったものもあります。たとえば、友だちに買ってもらった商品の支払いをしたいときなどに重宝します。銀行口座から振り込むこともできますが、口座番号を教えてもらう必要があり、手続きも煩雑です。スマホ決済アプリを使えば、相手の口座番号を知らなくても、送金することができます。複数人でレストランや飲み屋さんに行き、その代金を割り勘したいときなどにも、使えて便利です。送金手数料が銀行の振込手数料よりも割安なアプリや、条件によっては(指定の銀行を利用するなど)送金手数料がかからないアプリもあります。
キャッシュレス決済のデメリット
現金決済にはないメリットを持つキャッシュレス決済ですが、一方でデメリットや注意点もあります。使いすぎたり、思わぬトラブルに巻き込まれないためにも、事前に学んでおきましょう。
計画的に利用しないと使い過ぎてしまう可能性がある
翌月に代金の請求が来るクレジットカードのように、後払いのキャッシュレス決済は現金払いよりも身銭切っている感覚がとくに薄く、財布の紐が緩みがちです。そのため、計画的に利用しないと使い過ぎてしまう可能性があります。翌月になり、明細が届いて、はじめて使い過ぎたことを実感するわけです。そんな人は即時引き落としが行われ、口座に残高がなければ利用できないデビットカードを利用すると良いでしょう。スマホ決済もクレジットカードを紐付けるのではなく、前払いのチャージ型のアプリを選んで利用すると浪費を防止することができる可能性があります。また、定期的に利用履歴を確認する習慣を持つと、不正利用の発見だけではなく、使い過ぎの防止にもなります。
初期設定や利用前の本人確認が必要な場合がある
キャッシュレス決済は一度、使えば便利ですが、スマホ決済アプリは、利用する前にさまざまな初期設定やセキュリティ向上のための本人確認などを行う必要があります。安全に使うためには必要な手順ですが、入力する項目が多く、面倒に感じる人もいるかもしれません。また、残高が不足した場合に自動的にチャージ(入金)されるオートチャージ機能は便利ですが、アプリをクレジットカードや銀行口座と紐付ける必要があります。
そのほか、スマホ決済アプリの個人間送金を利用する場合も、事前に本人確認を行う必要があります。
キャッシュレス決済サービスの選び方のポイント
キャッシュレス決済といっても、クレジットカード、デビットカード、電子マネー(プリペイド)、スマホ決済など、いくつかの種類があります。また、近年、急速に広がるスマホ決済はアプリによって使い勝手はもちろん機能や還元率に違いが見られます。キャッシュレスサービスを選ぶ際にチェックしておきたいポイントについて解説します。
ポイント1|還元率で選ぶ
キャッシュレス決済を利用するメリットのひとつとして、ポイント還元が挙げられます。キャッシュレス決済で利用した額に応じてポイントが貯まる仕組みで、その割合が還元率です。たとえば還元率が1%なら、1000円の買い物をすると、10ポイント貯まることになります。このポイント還元率は一律ではなく、クレジットカード会社や利用額・頻度によって変動するグレード、カードの種類によっても異なりますが、一般的に1%〜3%程度となっています。また、還元率がアップする期間限定のキャンペーンを行う事業者もあります。貯まったポイントは商品や商品券、あるいは電子マネーに交換することができます。
クレジットカードだけではなく、スマホ決済や電子マネー決済でも導入されているので、還元率で選べば、よりお得にお買い物ができるかもしれません。
ポイント2|加盟店の種類で選ぶ
キャッシュレス決済を導入されていたとしても、その加盟店の決済サービスしか利用できません。ほとんどの店舗で利用できる現金決済との大きな違いです。クレジットカード決済なら店頭に利用できるカードのステッカーが貼られています。スマホ決済も同様にステッカーやポスターが貼られているので、利用したいキャッシュレス決済が使えるか、事前に見ておくことが必要です。レジで支払いをしようと思ったら、使えなかったという失敗を避けることができます。
またECサイトでも事前に使える電子マネーを確認することができます。あまり複数のキャッシュレス決済を使わず、ひとつふたつに利用をまとめるとポイントが貯まりやすくなるため、頻繁に利用する店舗がどんな決済に対応しているのか、調べておくと良いでしょう。身近で使えるキャッシュレス決済を愛用するのも賢い使い方です。
基本知識・ポイントを抑えて活用しよう
キャッシュレス決済はいくつかの注意点を守れば、とても便利でお得にお買い物ができる優れたサービスです。基本情報を理解した上で活用してみましょう。さまざまなメリットを享受できるはずです。