過渡期を迎える中国EV自動車市場と自動運転事情 【2024中国のスマートEV自動車最新事情・後編】

前編では中国EV自動車市場において、日系自動車メーカーがどう巻き返しを図ろうとしているのかについて紹介しました。後編では、過渡期を迎えていると言われている中国EV自動車市場の現状と中国における自動運転事情について紹介します。

中国EV自動車市場は曲がり角にある

前編では、中国IT企業の華為技術(英語:HUAWEI、日本語:ファーウェイ)や小米(英語:Xiaomi、日本語:シャオミ)が中国EV自動車市場においても影響力を増していることを紹介しました。この勢いは、日系自動車メーカーだけではなく、中国の伝統自動車メーカーでさえ、無視できない状況にあります。

2024年2月には中国最大手のEV自動車BYDが値下げを決めたことから、他社も値下げに追随し、テスラも2024年4月下旬に値下げを余儀なくされました。不完全統計によると、現在中国には50社を超えた新興新エネルギー車メーカーがあり、自動車市場はすでに構造調整期に入っているとされ、今後、淘汰が始まるとみています。
各EV車メーカーの自社発表データを参照し作成

各EV車メーカーの自社発表データを参照し作成

以前、百度(英語:Baidu、日本語:バイドゥ、以下「バイドゥ」)・騰訊控股(英語:Tencent、日本語:テンセント)などのIT大手とセコイア・キャピタル・チャイナ、SIGなどから出資を受け、中国新興EV自動車メーカーとして注目を集めた威馬汽車(英語:Weltmeister Motor、日本語:WMモーター、以下「威馬汽車」)は2023年10月10日に上海の裁判所に破産を申請し、受理されたと発表しました。

かつて新興EV自動車勢の先頭集団にいると目されていた威馬汽車の破産申請は、中国のEV自動車市場が「曲がり角」を迎えていることを象徴する事例といえるでしょう。威馬汽車は米自動車部品大手、伊フィアットを経て、吉利汽車(英語:Geely Automobile、日本語:ジーリー)でボルボの買収を指揮した沈暉氏が2015年に創業しました。当時の中国はEV自動車創業ブームで、IT起業家が立ち上げ、「新造車三兄弟」と呼ばれている上海蔚来汽車(英語:NIO、日本語:ニーオ)、小鵬汽車(英語:Xpeng、シャオペン、以下「小鵬汽車」)、理想汽車(英:Li Auto、日本語:リ・オート)の3社もこの時期に創業しています。自動車業界での実績が豊富な沈暉氏が率いる威馬汽車は、それぞれBMWと日産自動車インフィニティブランド出身の経営者が共同創業したBYTONと並び、大きな期待を集めていました。資金面では前述の通り、有力IT企業やVCが支援し、2018年時点で自動車業界の中で評価額が最も高い新興EV自動車メーカーとなっています。2020年にシリーズDで100億元(約2,100億円)を調達したことで、累計調達額は230億元(約4,830億円)に達しました。2018年9月には初の量産車「EX5」を発売し、数カ月にわたって新興EV自動車メーカーの販売台数ランキングでトップにもなっています。しかしその勢いは続かず、2022年の販売台数は3万2,000台にとどまっており、その大部分はDiDiなどネット配車業界からの受注が占めていました。

一方、ライバルだったNIOの販売台数は12万台を突破し、明暗を分ける結果となっています。さらに2023年に入ってからは、販売店舗の大量閉店や工場の操業停止、給与未払い、社会保険料の未納など、さまざまな問題が明るみに出ています。競合の新興EV自動車メーカー達が続々とNASDAQ及び香港取引所上場を果たす一方で、威馬汽車は上海取引所の新興企業向け市場「科創板」や香港取引所への上場を目指したがいずれも失敗に終わっています。最後は破産手続を申請し、2024年3月末には累計負債金額203.67億元(約4,277億円)でした。

小鵬汽車が開発した空飛ぶクルマが話題に

一方、前述した新造車三兄弟の一つであるの小鵬汽車は、今回の「北京国際自動車ショー」で話題をさらっていました。7年をかけて研究開発した空飛ぶクルマの最新シリーズの展示には多くの人が集い、注目を浴びていました。空飛ぶクルマは4つのタイヤを持つスポーツカーのようなボディに、大型のプロペラを2基搭載、地上走行と空中飛行が両方可能な一体式の設計を採用しています。プロペラは収納可能な折り畳み式で、地上走行時はボディ内に収納できるようになっています。電動モーターで駆動するプロペラの推進力で垂直離着陸が可能で、運転手を含めて2名の乗車ができる空飛ぶクルマは、将来の量産化と商用化を目指しています。

これまで、世界のスタートアップ企業や、航空機メーカー、自動車メーカーなどの多くが空飛ぶクルマの開発を宣言していますが、小鵬汽車のようなプロペラ2基のデザインはかなり珍しいものです。空飛ぶクルマは技術的には小型のドローンから派生したものであり、技術と安全性のために一般的には最低でも6基以上のプロペラを装備しています。この小鵬汽車が開発した空飛ぶクルマは、将来、景勝地での遊覧飛行に活用するなど、主に郊外での利用を想定しているとのこと。また、これとは別に2024年中にも、陸上では自動車で走行し、離陸地点で後部から電動垂直離着陸機(eVTOL)を切り離して飛行させるモデルを商業化し、予約販売を始める予定です。当該シリーズは飛行ユニットと地上走行ユニットが別体になった分離式の空飛ぶクルマで、飛行ユニットと地上走行ユニットがそれぞれ独立した製品になっているのが特徴です。通常のeVTOLでは地上を走ることはできませんが、小鵬汽車のモデルは空陸両用が可能で、現実の利用シーンや法規制を考慮すると、この分離式の空飛ぶクルマが一番商業化と量産化しやすいと判断したそう。

報道によると、中国民用航空局は2024年3月にこの機体について商業運航に必要な型式証明の申請を受理し、審査に入っているとのこと。2024年10~12月に中国で予約販売を始め、2025~2026年にも量産を始める計画で、2024年内の販売価格は100万元台(約2,100万円)。中国勢はEV自動車の技術を使って、空飛ぶクルマの産業振興を急ぎ、世界で存在感を高めていこうとしています。

11以上の都市で、バイドゥの無人運転タクシーが運行

最後に、筆者が2024年3月に体験したバイドゥの無人運転タクシー蘿蔔快跑(英語:Apollo Go、日本語:アポロゴー、以下「Apollo Go」)について紹介します。
バイドゥは2019年からApollo Goの無人運転実証実験を行っています。2021年11月には、北京当局から自動運転タクシーの公道での商用運行許可を取得。2022年8月には重慶と武漢の2都市において、中国で初めて公道で完全無人でのタクシーサービス提供の許可を得ています。さらに2021年6月には、北京汽車(英語:BAIC、日本語:ビーエーアイシー・モーター)傘下のEV自動車ブランドARCFOXと共同開発した新世代のシェアサービス向け量産自動運転車「ApolloMoon(アポロムーン)」を世界初公開しました。

コストは2021年6月時点で48万元(約1,008万円)で、業界における無人運転レベル4モデルの平均コストの3分の1であるとのこと。2022年末までに600台の自動運転タクシーを稼働させることを目標にしています。2023年はサービスの提供範囲の拡大にも力を入れ、中国No.1はもちろん、現時点の世界No.1の自動運転タクシー企業の地位を確立。2023年8月には武漢で無人自動運転空港送迎サービスの提供を開始しています。2024年2月27日には北京大興空港までの高速道路での無人運転タクシーの試験運用が承認され、北京は大興空港エリアでの無人運転サービスを開始する世界初の首都となりました。

2024年2月末時点では累計500万回以上、累計9000万㎞の距離運行を実現。自動運転の技術領域における特許は5000件以上を有し、北京、武漢、深圳、重慶など中国の11以上の都市で無人運転タクシーサービスを提供しています。バイドゥは自動運転タクシーの領域において、乗車オーダー数、運行距離数、サービス展開都市数、サービスリーチ人口数などどれを取っても現時点で世界No.1の地位を保持しているでしょう。

中国の新興EV自動車メーカーがライバル視しているのはテスラだけ

中国の諺に、「三十年河東、三十年河西」(和訳:自分が動かなくても時代の潮流が変わるため三十年は川の東、次の三十年は川の西に居場所が移る)というものがあります。かつては中国の伝統自動車メーカーが日本勢から内燃機関技術を学び、合弁会社を設立して、中国市場で自動車を投入してきました。しかし、ガソリン自動車がEV化する中で、状況は一変しました。中国の伝統自動車メーカーや新興スマートEV自動車メーカーなどは、欧州や東南アジアなどへの輸出を強化する動きにあります。日系自動車メーカーの中国販売が低迷を続ければ、米国市場以外の主要市場にも大きな影響が及ぶ可能性があるでしょう。今回の北京国際自動車ショーの様子を見ていると、これからの自動車は大きなスマートフォンになると考えられます。そこが、「EV車はガソリン車の延長」と考える日本の伝統自動車メーカーとの相違点だったのでしょう。

いまや中国の新興EV自動車の経営者たちがライバル視しているのは、自分たち中国メーカーを除けば、イーロンマスクのテスラだけでしょう。逆に日本の伝統大手自動車メーカー各社は、EV車で中国新興EV車メーカーをライバル視しています。しかし、当の中国新興EV車メーカーは、日本メーカーは眼中になく、極論をいえば、ガソリン車の時代の終わりとともに去りゆく人たちという冷めた目線で見ています。これからはEV自動車→無人運転スマート自動車という時代の流れにあると考えるのが自然です。そうなると、中国新興EV車メーカーにとっての目標は、世界のEV車業界を牽引してきたテスラということになります。もちろんテスラとしても、中国新興EVメーカーの野望を十分認識しているようです。2024年4月28日、イーロンマスクはイーロンマスクは突然北京を訪問しましたが、北京国際自動車ショーには現れず、更にテスラは展示ブースさえ設置をしていませんでした。しかしイーロンマスクの訪中は大きな話題となり、李強首相を始め、外交部、工信部、商務部、中国貿易促進会の幹部たちと会談したと報道されています。報道によると、テスラは自動運転支援システム(FSD)や新型コンパクトEV車(モデル2)の早期導入に関して中国当局から許認可を取ったとされています。今後テスラが中国国内でどのような取り組みを行っていくかは、より一層目が離せないでしょう。

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