D2Cのメリットデメリット|成功させるポイントや成功事例も紹介

2010年代からアパレル業界や生活用品業界で徐々に増えはじめたD2Cというビジネスモデル。ここではD2Cの概要に加え、ビジネス手法としてのメリットやデメリットについて解説しながら、具体的な事例をご紹介していきます。

かつてテレビがもっとも影響力のあるメディアでした。自然と広告費も集まり、商品をPRしたい場合には、最優先で活用されていたメディアです。それがインターネットへとシフトしたことで、行動履歴や属性にあわせた広告表示ができるようになっていきます。さらにSNSが誕生し、インフルエンサーと呼ばれる影響力を持つ人物が広告媒体として機能しつつあります。そんななか2010年代からアパレル業界や生活用品業界で、徐々に増えはじめたビジネスモデルが店舗を持たず、自社のECサイトを通じて製品の販売を行うD2Cです。ここではD2Cの概要に加え、ビジネス手法としてのメリットやデメリットについて解説します。

まずはD2Cの特徴を知っておこう

D2Cは自社のECサイトを通じて、直接、消費者に商品を販売するビジネスモデルですが、他にどんな特徴を持っているのでしょうか? まずはD2Cの概要を解説します。

そもそもD2Cとは?

略語の読み方は「ディーツーシー」で、英語の読み方は「ダイレクト・トゥ・コンシューマー」です。直接、消費者に販売するビジネスモデルを指しています。従来は、製品を販売するメーカーやブランドは実店舗を持ち、そこに来店されたお客様に向けて販売するか、製品を販売してくれる店舗を獲得し、流通業者を通じて、その店舗に製品を卸すことで自社以外のチャネルを使って販売を行っていました。対して、D2Cでは自社で企画・生産した商品を、自社ECサイトなどのチャネルを使って直接、消費者に販売します。そのため従来のビジネスモデルと異なると言われるわけです。

BtoCとの違い

D2Cは一般消費者を相手にしている点では、いわゆるBtoCのビジネスと同じだと言えます。ただし、BtoCが販売手法への決まりがないのに対し、D2Cは「Direct to Consumer」という名前の通りに、“直接”消費者に製品を届けるという点で異なります。また、販売チャネルに制限のないBtoC に対して、D2Cでは自社のECサイトが主な販売チャネルである点が異なります。

BtoBとの違い

BtoBはBusiness to Businessの略で、いわゆる法人同士の取引を指します。そのため一般の消費者を対象としているD2Cとでは、取引する相手が異なります。

CtoCとの違い

なお、CtoCはConsumer to Consumerの略です。個人と個人による金銭を介した取引のことで、たとえばフリーマーケットやネットオークションがCtoCにあたります。

SPAとの違い

SPAは、Specialty store retailer of Private label Apparelの略で、製造小売業と呼ばれています。主にアパレル企業が採用しているビジネス手法ですが、商品の企画から製造、そして販売までを自社で行うというもので、それまで主流だった商品を店舗に卸して販売をしてもらう形態を取らずに、自社の店舗でのみ販売を行います。こうしたSPAはアメリカのアパレルブランド「GAP」が、1980年代にスタートさせたと言われており、日本では「ユニクロ」が採用していることでも知られています。D2Cとの違いでいえば、自社で開発・製造した商品を自社の店舗で販売するSPAと、同様に自社で開発・製造した商品を自社のECサイトで販売するD2Cと、まとめることができます。

D2Cのメリットとは?

では、なぜ2010年代に入り、D2Cを採用したブランドが続々と登場したのでしょうか? D2Cでビジネスを行うメリットについて取り上げます。

マーケティングコストを抑えやすい

D2Cのビジネスモデルでは、小売店や卸売業者など、中間業者を介しません。DMやSNS、ウェブサイトなど、自社のメディアを使って販売していきます。したがって、従来の販売方法では必要とされていた、卸や流通、販売代理店などへの中間マージンや、ショッピングモールの出店費用、販売手数料が不要になります。また、CMやタイアップなど商品認知を広めるためのマーケティングにもコストがかからないというメリットがあります。

消費者へのダイレクトチャネルを確保できる

D2Cでは、店舗を持たずに、自社で企画・製造した商品を、自社のECサイトを通じて販売します。商品を取り扱ってくれる店舗に卸せば、それだけ販路が広がるメリットがある一方で、消費者までの間に問屋や小売店などが入り、手数料を支払う必要が出てきます。また売り上げのデータや消費者の反応も、ダイレクトには伝わってこないというデメリットもあります。その点、D2Cでは消費者へのダイレクトチャネルを持っているため、価格を抑えることができるだけではなく、ブランドの構築や顧客と密なコミュニケーションができる点でもメリットがあります。

高い利益率が期待できる

問屋や小売店への手数料を支払う必要がないため、D2Cでは利益率が高くなります。また、セールを行いたいタイミングで自由に価格を変動させたり、クーポンを使った割引サービスへの自由度も高いと言えます。小売店で販売してもらっている場合には、セールも自由には行えないでしょう。

企業の価値観を伝えやすい

消費者との接点が自社サイトやSNSが中心になるため、自社のビジョンを素直に伝えられるだけではなく、商品に込めた思いや開発に至る背景なども、ストレートに発信することができるようになります。

消費者の意見をダイレクトに聞くことができる

消費者とウェブサイトやSNSでダイレクトにつながるようになると、消費者からの意見や感想を直接、受け取ることができるようになります。ときには辛辣な意見やクレームが届くこともありますが、そういった声も商品を改善させるアイディアになる可能性があります。どんな商品を今後展開していくのか? 消費者は商品のどこに魅力を感じているのか? 消費者の反応や声を見ながら、細く分析することができる点もD2Cビジネスの大きな魅力です。

顧客との信頼関係を深めやすい

D2Cモデルでは、大々的な宣伝やPRを行わないため、顧客との距離感が近くなり、関係も強固になっていきます。SNSやDMでも密なコミュニケーションが可能で、商品に対する感想や使い勝手など忖度ない意見が集められます。ときにはそれが商品開発にフィードバックされることで、顧客も自分の好みにあった商品を購入することができるようになっていきます。企業は顧客のニーズにあった製品を開発でき、顧客は欲求を満たす製品を手にできるというWin-Winな関係を構築できる可能性があります。

小売店との交渉を有利に進めやすくなる

消費者に直接、商品を届ける力を持つことによって、既存の流通業者との商談でも優位に立つことができます。販売能力が低ければ、流通業者や小売店に依存してしまい、交渉面でも不利になりがちです。D2Cによって自社しか持っていない消費者情報を握ることができれば、既存業者とのパワーバランスにも影響が出るはずです。

D2Cのデメリットとは?

D2Cは店舗展開でかかる大きなコストを削減できたり、直接、消費者の声を商品に反映させることができるといったたくさんのメリットがある一方で、デメリットも指摘されます。マイナス点を理解した上で、D2Cにチャレンジしてみるか、判断してみてはいかがでしょうか?

初期投資がかかりやすい

店舗を持たずに、店舗展開にかかるコストが不要になるのが、D2Cのメリットですが、ECサイトやサポート体制の構築に初期投資が必要になります。どのようなECサイトを構築するかによって、コストは変わりますが、大手のECサイトと連携したり、DSPを活用した方がコストは安くなる可能性があります。

マーケティング戦略が難しくなる

独立性の高いD2Cブランドの場合、認知してもらうまでに宣伝活動に力を入れる必要があり、マーケティング戦略が重要な鍵を握ることになります。大型商業施設にテナント出店したり、繁華街に店舗を構えるといった手法では、そこから認知を広めていくことができますが、自社ブランドに関心を持つターゲットはどんなペルソナなのか? そして彼らに響くブランドストーリーはどんなものなのか? 戦略を立てながら、ブランディングしていくことが重要です。SNSを使った宣伝やマーケティングのノウハウを持つ、ブレーンを雇い、緻密な戦略を立てていく必要があります。

商品が売れるまで時間がかかる場合がある

D2Cにおける顧客と企業の距離感の近さは、すぐに構築できるものではありません。少しずつ商品の良さやブランドイメージを理解してもらい、ファンになってもらう必要があります。見込み客を集め、商品やブランドのヒストリーやアイデンティティ、魅力が伝わるコンテンツを定期的に提供していくことも大切です。ときにはサンプルを用意し、実際に使用していただく必要もあります。したがって、商品が売れ、ビジネスが軌道に乗るまで、時間がかかることになります。

生産管理が難航する場合がある

自社で店舗を展開するSPAや、従来からある小売店を介した販売手法では、在庫を抱えるリスクが大きくなる一方で、大口の顧客からの注文があれば、コストを一気に下げることも可能でした。価格が下がれば、それだけで消費者へのアピールになります。対して、D2Cでは、実績がない段階では、販売数が読みにくく、当初は生産ロットを抑えながら、慎重に在庫を管理していく必要があります。ロットを抑え過ぎれば、生産コストも上がってしまうため、計画的に生産する必要があります。トレンドや消費者のニーズを読みながら、生産管理を行っていくことは、難易度の高い業務だと言えます。

取引先とのトラブルが起こるリスクがある

OEMからD2Cに転換した場合、事業が軌道に乗ることで、従来の取引先や卸売先から価格や販売条件に関するクレームが入ることも予想されます。とくに、OEM製品とD2Cブランドが混在している場合には、商品展開や価格において、バッティングが生じることもあり、軋轢につながる可能性があります。いつ、どのタイミングで商品を切り替えるのか? 既存の流通経路の交通整理をしながら、丁寧に事業を進める必要があります。トラブルによって流通に影響が出ることもあり、慎重に行うべきです。

自社製品を手に取ってもらいにくい

多くのD2Cでは、実店舗を持たず、ECサイトでの販売が主になります。従って、顧客が商品を実際に手にして、試したり、素材や色を確認することが難しくなります。とくにアパレルでは試着をしたり、身体に当てて似合うのか色味を確認することもできません。商品が届いたらイメージと違っていたというクレームが発生する可能性もあるため、交換や返品の体制を構築しておく必要があります。

個別的な対応が求められる

消費者から感想や要望が届くことはメリットではありますが、手間がかかる作業でもあります。とくにそれまで小売を中心にしていた事業者なら細かい注文や消費者へのフォローにストレスを感じるかもしれません。SNSが発達しているため、悪い評判やずさんな対応はあっという間に広がっていき、ブランドイメージや企業イメージを大きく傷つけることにもなりかねません。個別的な対応を受け入れる体制を構築することが求められます。

D2Cを成功させるためのポイント

では、D2Cをスタートさせ、ビジネスを軌道にのせるためにはどんなポイントを抑えれば良いのでしょうか?

D2C向けの商品を選ぶ

販売形態が特殊なため、D2Cに向いている製品と、あまり向いていない製品があります。自社のECサイトでの販売が中心になるため、ECサイトで購入しがちな製品が向いていると考えられます。たとえば、サプリメントや健康食品がそうです。そのほか化粧品やPC・カメラ・オーディオといった一部の家電製品、洋服やインナー・下着もECでの購入が定着しているため、D2Cに向いていると言えます。反対に生鮮食品などは近隣のスーパーマーケットなどで購入する人が多数で、D2Cにあまり向いていないと言えます。そのほか製品の差別化が難しい、消耗品も難しいでしょう。

サブスクリプションサービスを導入する

D2Cの成功の鍵は、顧客にいかにファンになってもらうかですが、一度、ファンになってくれた顧客との関係を継続していくために、サブスクリプションサービスとの相性が良いと言われています。化粧品やシャンプー、健康食品といった製品は、日常的に利用するため、定期的に購入する必要があります。ちょうどなくなったころに、自宅に届くような仕組みになっていると、重宝され、関係が継続しやすくなります。こうしたサブスクリプションは消耗型サブスクリプションと呼ばれています。一方で月額の利用料を支払うと、毎回異なるアイテムが送られてくるサブスクリプションがサプライズ型サブスクリプションです。花束や洋服のレンタルなどがこれにあたります。

顧客が拡散したくなる商品を作る

マス広告を控えるなど、マーケティングにコストをかけないのが、D2Cのビジネスモデルの特徴です。そのため、PRはSNSや自社サイトのコンテンツ、メールマガジンといった手法が中心になります。こうしたツールではとくにクチコミが情報の拡散には効果があり、誰かに話したくなる、伝えたくなる魅力を持った製品を作ることがポイントになります。ポジティブなクチコミは商品の魅力を伝えてくれるため、大きな武器になります。

商品の流通体制を改善させる

ECサイトを通じて商品を購入する顧客は、少しでも早い商品の到着を歓迎しています。24時間、いつでも欲しいと思ったときに購入ボタンを押して、手に入れられるのが、ECサイトの良いところだからです。そのため、店頭で接点があった顧客よりも配送の遅延や欠品に対して、ネガティブな感情を持ちがちだと言います。そのため、スピーディに顧客に届くよう、製造から発送、ときには返品までの流通体制を強化・改善しておくことは重要です。

ウェブマーケティングの知見を深める

D2Cの場合、自社で商品企画から流通までをECで完結させることになります。したがって、ウェブマーケティングの知識が販売に直結するため、マーケティングの最新のトレンドにアンテナを張り、効果的な施策を打ち出していくことが求められます。

D2Cの具体例を知っておこう

最後にD2Cビジネスを行っている具体的な企業の事例をご紹介します。

Warby Parker(ワービー・パーカー)

Warby Parkerは2010年にアメリカで生まれたアイウェアブランドです。たった4人の学生が立ち上げ、製造や販売にかかわる中間業者を排したD2Cとして当初からスタートしています。販売はオンラインのみで行われているほか、アイウェアを購入前に試着体験できるように専用のアプリの開発も行っています。Instagramを活用したブランド戦略も巧みで多くのフォロワーがいることでも知られており、クチコミから購入を決める顧客が多いとも言われています。

Casper(キャスパー)

Casperは2014年にアメリカで創業されたマットレスメーカーですが、当初は1種類のマットレスだけしか取り扱っていませんでしたが、2年間で100億円の売り上げを記録するなど、大成功を収めたD2Cブランドとして知られています。マットレスメーカーではなく、「睡眠を中心としたデジタルファーストブランド」というイメージ戦略が特徴的で、従来のマットレスメーカーとの差別化が消費者に受け入れられた形となっています。

BULK HOMME(バルクオム)

BULK HOMME(バルクオム)は、メンズコスメ市場で多くの顧客を抱えるブランドです。サッカーの有名選手をブランドのグローバルアンバサダーに任命していたので、ご存じの方も多いかもしれません。インフルエンサーの知名度を生かして集客を行い、初回限定の特別価格で購買を刺激。その後、お得な定期購入コースで囲い込むといった手法を取っています。

COHINA(コヒナ)

CHOINA(コヒナ)はXS〜Sサイズに特化したファッションブランドで、身長150cm前後の小柄が女性を主なターゲットにしている点が大きな特徴です。創業は2017年11月で翌2018年から本格的な事業展開を行っています。ユーザーをサイズという面から絞り込んで、ファッションアイテムを展開している珍しいD2Cブランドだと言えます。

17kg

17kgは「イチナナキログラム」と呼びます。10代の女性を中心に人気を集めるプチプラ系の韓国アパレルブランドです。早くからInstagramを中心としたPR戦略を取ったブランドとして知られ、2019年にはラ・フォーレ原宿に実店舗もオープンさせるなど、リアルとデジタルを融合させたオムニチャネル化を進めています。

BOTANIST(ボタニスト)

BOTANIST(ボタニスト)は、I-ne(アイエヌイー)が展開するメンズヘアケアブランドです。テレビCMなどのマス広告は行わず、デジタルマーケティングに集中投資したことで知られています。とくにInstagramを活用することで、自社商品のファンを獲得しています。

土屋鞄製造所

土屋鞄製造所は、1965年に創業した歴史ある鞄製造所ですが、ECサイトでの販売に成功しています。とくにビジネス現場で女性を美しく見せることに重きをおいた鞄ブランド「HINON」や、背負える仕事用鞄ブランド「OTONA RANDSEL」などが、人気となっています。社内のスタッフがデジタルマーケティングの知識を身につけることで、効果的なPR体制を組織していることでも知られています。

D2Cのメリットを活かしたビジネスを展開しよう

D2Cは店舗を中心とした従来の販売方法と比べ、コストも抑えられ、在庫を抱えるリスクも低いため、メリットの多い手法だと言えます。さらに広告媒体もマスメディアからSNSなどのメディアに移行しているため、時代にあったビジネスだと考えられます。D2Cに参入するのか、メリットやデメリットを把握した上で、検討してみてはいかがでしょうか?

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