場所やモノ、スキルなどを誰かと共有することでビジネスを行うITサービスを、シェアリングエコノミーと呼んでいます。2030年には市場規模は11兆円を超えるという予測もあるなど、大きな注目を集めています。そんなシェアリングエコノミーで今後発展すると考える領域について解説します。
まずはシェアリングエコノミーの意味をおさらいしておこう
シェアリングエコノミーとは、インターネットを活用しながら、個人間で貸し借りや、売買を行う新しいビジネスの形態のことです。「シェアエコ」や「共有型経済」と呼ばれることもあります。
たとえば、駐車スペースが自宅に備わっているけれど、何らかの理由で自家用車を手放した人、空き家を持っている人、使っていない高級バッグがある人など、普段はあまり利用していない遊休資産を活用できることから、注目を集めています。また、インターネットを活用することによって、大きな費用をかけることなく、収益を得ることができる点も特徴です。
さらに、モノが溢れる時代になったことによって、所有する価値観から、必要なときに持っている人から借りるという価値観に転換しつつあることも、シェアリングエコノミーの普及を後押ししていると考えられています。とくに若者は経済が停滞したこともあり、所得が減っています。そのため限られた収入の中で賢く生活しようという意識が働いており、ミニマリズムや手軽さを重視する、いまのニーズにマッチしています。
シェアリングエコノミーで期待できる経済効果とは?
シェアリングエコノミーは新しい時代のビジネスですが、期待される経済効果にはどんなものがあるのでしょうか? 解説します。
供給不足の解消
たとえば、終電がなくなったあとのタクシー乗り場には行列ができることがあります。また、急な雨が降ったときも、タクシーの需要が一時的に高まり、なかなか乗車できないといった状況が発生します。ただ、需要の高い状況を基準にタクシーの台数を増やしてしまうと、閑散期には顧客のいないタクシーが増え、負担になってしまいます。そんなときにUberのようなライドシェアサービスがあれば、一般のドライバーがタクシーの代わりとして供給不足の解消に役立ちます。
ホテルなどの宿泊施設も同様です。夏休みやお正月休み、あるいはお祭りなどイベントが行われると、ホテルや旅館への需要が一時的に増え、予約が取れないといった状況も発生します。そこで空き物件に宿泊させる民泊のようなシェアリングエコノミーサービスがあれば、既存の宿泊施設では難しい需要の増加にも対応することができます。したがって、シェアリングエコノミーサービスが普及することによって、供給不足の解消による消費拡大が期待できます。
潜在的な需要を開発できる
シェアリングエコノミーでは、一時的な利用が大半のため、購入するよりも価格面での負担が軽く済みます。また、インターネットを活用し、手続きを簡略化させることによって手軽に利用することができます。そのため、価格や利用時の手間が理由で、敬遠していたような消費者への障壁がなくなります。そのため潜在的な需要が掘り起こされて、消費が拡大すると期待されています。
周辺ビジネスが拡大する
シェアリングのプラットフォームを提供している事業者の周辺には、関連するビジネスが拡大すると予想されています。たとえば、民泊のようなシェアリングサービスでは新たな利用者を受け入れる前に、ハウスクリーニングを行う必要があります。ホテルや旅館などの既存の宿泊施設なら、常時利用している清掃業者がありますが、民泊では新たなビジネスを生み出す可能性があります。このようにシェアリングエコノミーが拡大する中で、周辺ビジネスが活性化すると予想されます。
シェアリングエコノミーで今後発展しうる領域
シェアリングエコノミーにおいて、今後、発展すると考えられている領域にはどんなものがあるのでしょうか? ビジネスとして可能性を秘めた領域を考えます。
空間のシェア
ホテルや旅館といった既存の宿泊施設では、食事やハウスキーピングなど、環境が整っている反面、コストが高くなります。とくに長期間、宿泊する場合には、大きな出費になります。一方で、空き部屋を貸したい人がそのスペースを提供するAirbnbではホテルのようなホスピタリティを提供しない代わりに、低価格で利用することができます。そのほか、定額の住み放題の多拠点生活プラットフォームであるADDressも新しい空間シェアの形として、これから需要が増加すると予想されます。土地や建物はコストが高いもののひとつで、所有せずにシェアしながら活用する方法が定着する可能性があります。
スキルのシェア
シェアできるものは空間やモノだけではありません。個人のスキル・知識・経験と、それを必要とする企業をマッチングするサービスも、シェアリングエコノミーのひとつです。たとえば、個人のスキルを売買するcoconalaや、フリーランスのプラットフォームとして知られるLancersといったサービスがあります。副業やフリーランスといった従来の正社員的な働き方にとらわれない柔軟なワークスタイルが普及していることが関係しています。
移動のシェア
日本ではタクシー業界からの反発もあり、本格的なローンチができていませんが、配車アプリのUberは移動をシェアするサービスです。自家用車のドライバーが副業として、タクシーとして利用者を乗せます。人口の減少によって公共交通機関の赤字が続く、地方では交通難を救う手段として、移動のシェアに熱い視線を送る自治体もあります。
お金のシェア
近年、マーケットが拡大しているクラウドファンディングサービスは、資金を調達したい人と、持っている資産を活用したい人をつなぐお金のシェアビジネスだと言われています。国内最大級のクラウドファンディングサービスであるMakuakeやCAMPFIREなどが代表的です。
モノのシェア
定額制で洋服が借り放題になったり、高額のブランドバッグをシェアできるビジネスなど、個人間でモノを交換するプラットフォームは、モノを所有することから、共有することへの価値観の転換でもあります。使っては捨てる消費型社会から循環型経済への変化を意味します。Air Closet(エアークローゼット)や、LUXUS(ラクサス)といったシェアリングエコノミーがこれに相当します。
シェアリングエコノミーの今後の課題とは?
拡大を続けるシェアリングエコノミーですが、一方で課題も指摘されています。今後の発展を左右する障壁について考えます。
新型コロナウイルスの影響への対応
新型コロナウイルスの感染拡大は、シェアリングエコノミーに大きな打撃を与えています。見ず知らずの誰かとインターネットを介して、モノや空間をシェアするため、感染への不安から利用を避けがちになるからです。消毒やソーシャルディスタンスを保つ対策を講じるのはもちろんですが、ネガティブな印象が広がらないよう、感染のリスクが低いことをPRしていく必要があるでしょう。
既存産業や既存市場への配慮
シェアリングエコノミーでは、所有から共有へ価値観の転換を促します。そのため既存産業や既存市場からの反発を受ける可能性があります。たとえば、カーシェアが普及すれば、新車をわざわざ購入しようという人が減り、販売が落ち込む可能性があります。したがって生活習慣が大きく変わることによって、既存産業や既存市場のビジネスを脅かすかもしれません。
補償制度の整備
シェアリングエコノミーでは、プラットフォーマーが予約や手配など手続きを仲介しますが、取引の中心は主に個人対個人です。そのためトラブルや事故が起きた場合の責任の所在や補償の範囲が十分ではないケースが見られます。市場として拡大し、成熟していくためには、補償制度を整備し、利用者が安心して参加できる環境を整える必要があります。個人での補償には限界があるため、業界団体や自治体なども積極的に補償制度の整備に加わることが期待されています。
取引に関わる人の信頼性の確保
また個人と個人との取引では、本人確認を厳密に行う必要があります。モノやスペースを提供する側には公的機関を通じた届け出を行う仕組みを構築したり、利用者には運転免許証などの公的な身分証明書の提出を求めることも大切です。悪質なユーザーを相互レビューによって排除したり、ときには事前に対面による確認を行うことで、安心して取引できるよう信頼性の確保に努めるべきという意見も出ています。
シェアリングエコノミーのサービス例を紹介
シェアリングエコノミーの仕組みが広まったことで、さまざまな事業者が参入しています。代表的なサービス事例をご紹介します。
Airbnb
Airbnb(エアビーアンドビー)は、いわゆる民泊を広めたシェアリングエコノミーの成功例として知られています。空き部屋や空き物件などを、旅行などで宿泊先を探している個人に提供するサービスで、世界中に施設を提供するホストがいます。宿泊先を探すゲストはAirbnbのサイトから行き先や旅の期間、条件などを入力し、予約する仕組みになっています。民家だけではなく、お城や島など個性的な宿泊先も登録されているのが、特徴です。なお、イギリスでは簡易的な宿泊施設のことを、B&Bと呼びますが、Airbnbのbnbは、このB&Bに由来すると言われています。
CAMPFIRE
CAMPFIREは2011年に創業された国内最大級のクラウドファンディングサービスです。クラウドファンディングとは、新たな資金調達の手法で、不特定多数の支援者から少額の資金を集める仕組みのことです。手元にお金がないけれど作品を作りたい人や、新製品を開発する資金がほしい人などが、CAMPFIREのウェブサイトでプロジェクトを作成し、情報を公開します。そのプロジェクトを見て、支援したい人がいれば、資金を調達することが可能になります。
メルカリ
メルカリは個人が不要になったモノをインターネットを通じて、他の個人に販売することができるフリマアプリサービスです。出品したい人は売りたいモノの写真を撮影し、商品の状態など必要な情報を登録するだけで、マーケットに載せることができる手軽さから人気に火がつき、利用者が急速に増えています。商品を出品する際には費用がかからず、取引が成立した際に、手数料が引かれる仕組みになっています。
akippa
akippaは契約者がいない月極の駐車場や、個人が所有する駐車場や車庫、あるいは空き地や空きスペースを駐車場として貸し出すサービスです。利用者は一般的な駐車場よりも安く利用できるケースが多く、お得に駐車できるというメリットがあります。また、空きスペースを貸し出す側にとっても、遊休資産を有効活用し、収入を得ることができるため、利用者が広がっています。
KIDSLINE
KIDSLINEは、スマホを使って、ベビーシッターや家事代行を依頼することができるサービスでスキルのシェアリングエコノミーサービスです。炊事や洗濯など、家事だけではなく、子どもの送り迎えなども依頼することができる自由度の高さも人気の理由です。また、24時間で対応してくれたり、急な用事が入った当日にベビーシッターを手配してくれるなど、働きながら子育てをしている人にとってはとても助かるサービスとなっています。近年は、依頼できるサービスが広がっており、語学やピアノなど、家庭教師の依頼も可能になっています。
今後も拡大が予想されるシェアリングエコノミー
資産を持つ人にとっては利用されていない状態で保有し続けるのは、収入が得られず、無駄になります。また利用者にとっては購入するよりも安く利用できるシェアリングサービスはコスト面で魅力的です。したがって、シェアリングエコノミーは貸す側、借りる側の両方にとってメリットの大きなサービスで、認知度が高まっていることから、今後も市場が拡大すると予想できます。