モバイルバンキングサービスを提供する非銀行のフィンテック企業「Chime」 〜海外ユニコーンウォッチ #15〜

「ユニコーン企業」ーー企業価値の評価額が10億ドル以上で、設立10年以内の非上場企業を伝説の一角獣になぞらえてそう呼ぶ。該当する企業は、ユニコーンほど珍しいという意味だ。かつては、MetaやX(旧、Twitter)もそう称されていた。本連載では、そんな海外のユニコーン企業の動向をお届けする。なお、昨今の市場環境を鑑み、本記事は特別に「設立10年以内」という制限を外してユニコーン企業として選出する。今回は、モバイルバンキングサービスを提供するフィンテック企業「Chime」を取り上げる。最近では、2025年にも上場するのではないかという観測が報じられた。

「Chime」とは

Chimeは、2012年に設立されたアメリカのフィンテック企業で、モバイルバンキングサービスを提供している。ただし、モバイルバンキングサービスを扱ってはいるが、Chime自体は銀行としての登録は行っておらず、あくまでフィンテック事業を手がける一般企業である。これは同社も明示しており、外部の銀行と連携することで、モバイルバンキングサービスの提供を可能としているのだ。このような業態は「ネオバンク」とも呼ばれる。アメリカに数あるネオバンクのなかで、Chimeは大手のうちの一社だ。

Chimeの根幹にある思想は、共同創業者であるクリス・ブリット氏とライアン・キング氏が持った問題意識だ。2人は10年以上前の世界的な金融危機のなか、従来の銀行システムが一般顧客を最優先に考えていないと感じた。表面上は「無料」と謳いながら、実際には後から隠されていた手数料が生じる仕組みなどがあるとし、これを問題視した。そこで、従来の銀行システムと一線を画し、顧客中心を目指した上で、当座貸越の手数料や、月額サービス料を無料としたモバイルバンキングサービス「Chime」を生み出した。

Chimeは、2021年8月に、シリーズGラウンドとして約7億5000万ドル(約1,125億円)の資金調達を実施した。その際、企業価値は約250億ドル(約3兆7,500億円)に達したという。資金調達後はIPOが間近とも言われたが、2022年には、IPOの計画が延期されたと報じられた。

裾野を広げるChimeのサービス

Chimeは、フィンテック企業としてモバイルバンキングサービスを中心としながら、幅広い金融サービスを提供している。中核となるモバイルバンキングサービスは、アプリで24時間365日対応が可能で、月額サービス料や最低残高の要件もない。給与の先払いサービスも提供しており、従来の銀行よりも最大で2日早く受け取ることができる。また、手数料無料での送金も可能だ。さらに、年会費や利息が無料で、信用調査も不要で作成できるクレジットカードも扱っている。これは、「クレジット・ヒストリー」が重要なアメリカ社会ならではのニーズを捉えたサービスだ。このように、Chimeは単なる銀行機能にとどまらず、さまざまなサービスを展開している。

コロナ禍に発揮されたChimeの真価

Chimeは、新型コロナウイルス感染症が蔓延した際、その独自の対応が注目を浴びた。パンデミックへの対策として、政府が個人に支払う給付金を、本来の支給日より早く利用できるようにしたのだ。つまり、給与支払いと同じように、Chimeによる「先払い」を実現した。この施策は、資金繰りに困るユーザーから歓迎された。また、パンデミックによるオンライン需要の高まりとも重なり、厳密な数値は公表されていないものの、Chimeはこの期間にユーザーを伸ばしたと推測されている。「銀行」という、昔から存在する巨大金融システムに異議を唱え、新たな手法を模索するChime。上場もささやかれるなか、コロナ禍のように、旧来の銀行システムでは不可能な独自のサービスを提供できるかが勝負の鍵を握りそうだ。

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