2050年カーボンニュートラル実現のためには再生可能エネルギーの供給強化が必須。電力のピークシフトで、再エネを効率的かつ安価に活用する、LooopのDX戦略
2024/7/2
再生可能エネルギーの最大普及を通じた「エネルギーフリー社会」を目指す電力会社のLooop。2022年には電力の市場価格と連動し、30分ごとに変動する料金単価に基づくプラン「スマートタイムONE」をリリースして、大きな話題となりました。
日本政府が推し進める2050年のカーボンニュートラル実現に向け、DXにはどのような可能性があるのか。電力小売事業「Looopでんき」のサービスを提供する同社の代表取締役社長 CEO 森田 卓巳氏にお話を伺います。
ピークシフトにより、経済性と環境配慮を両立させる
私たちのビジョンである「エネルギーフリー社会の実現」のために必要な手段が、再生可能エネルギーだと考えています。「人々がエネルギーを自由に使い、新しい価値を創造し発揮することで、持続的な豊かさを実現できる社会」、それが私たちの考えるエネルギーフリー社会です。その実現のために、地球環境と持続的に共存できて、未来まで使える再生可能エネルギーの普及が不可欠だと考えています。
――Looopでんきのプランである「スマートタイムONE」の概要と、「ピークシフト」という考え方について教えてください。
スマートタイムONEは2022年12月1日からスタートしたプランですが、三つの大きな特徴があります。まず一つめが基本料金0円(※業務用機器を使用する電力プラン「スマートタイムONE(動力)」は基本料金が発生)。二つめは、30分ごとに電力量の料金単価が変動することです。毎月の料金は、「お客さまの電力使用量×料金単価」で決まりますが、この料金単価が日本卸電力取引所(JEPX)のスポット市場価格に連動しており、30分ごとに変動する仕組みとなっています。エアコンの稼働が増える夏と冬には料金単価は上がる傾向にあり、春と秋は下がる傾向にあります。電力の需給バランスによって、JEPXのスポット市場価格は変動します。
近年、再生可能エネルギーの導入が進んだことで、電力需要の少ない時期には再生可能エネルギーの出力制御が行われることがあります。この時期はJEPXのスポット市場価格が非常に安くなり、0.01円/kWh(※)まで下がることもあります。逆に需要が高い時期には30円/kWhまで上昇することもあるため、安い時間帯にまとめて電力を使うことで料金を抑えられます。これがピークシフトの基本的な考え方です。ピークシフトにより、再生可能エネルギーを上手に活用して、安価に電力を使うことができる。つまり、経済性と環境配慮の両立が可能になる。これが三つめの特徴です。
※ kWh:キロワットアワー。1kWの電力を1時間使用したときの電力量。
アプリを活用し、ピークシフトを無理なく普段の生活に取り入れる
従来の電力の基本料金は固定制でしたので、変動制プランへの抵抗があることは予想できました。そこで、料金の予見可能性を高めるためにLooopでんき公式モバイルアプリを開発しました。このアプリの「でんき予報」では、前日・当日の料金単価に加え、翌日の“予想”料金単価が確認できるので、事前に電力の使用量をある程度コントロールできます。アプリを常に確認しなくても、料金単価が安い時間帯には「でんき日和」、高い時間帯には「でんき注意報」「でんき警報」の三種類の通知を出しています。このアプリで市場連動型のプランに対する心理的な障壁を取り除いて、行動変容を促すことが目的です。
――ピークシフトを普段の生活に取り入れるためのコツを教えてください。
やはりエアコンは電力消費が大きいので、使用する時間帯を工夫すると大きな効果が出ます。食器洗い機や洗濯機はどの時間帯に動かしても生活にそれほど影響が出ないので、料金単価が安い時間帯に使用するのもポイントです。最近は予約タイマー付きの洗濯機もありますので、生活リズムを無理に変えることなく、ピークシフトをやりやすくなっています。
もう一つはEVの充電時間です。EVの充電には多くの電力を必要とするので、どの時間帯に充電するかは、EV所有者としても電力の供給側としても重要になってきます。電力需要の少ない時間帯にEVの充電を行うことで、料金を安く抑えられる上に、電力需要の安定化にもつながります。今後EVが普及してくると、EVの充電時間をどのように分散していくかが課題となるでしょう。
――お昼の電気が1 時間無料になる「ゼロエネ放題」などのキャンペーンも実施していますが、どういった狙いがあるのでしょうか?
ゼロエネ放題は「Green Looop Action(以下、GLA)」という取り組みの一環として実施しました。電気料金を安価に抑えて、再生可能エネルギーを無駄なく使う。この両立を推進するアクションがGLAです。ゼロエネ放題では1日を30分単位の48コマに分けて、12時半~13時半の1時間を電力無料の時間帯にしました。2023年の11月17日と26日に実施していますが、両日とも無料の時間帯には大きく電力使用量が伸びています。電力の需要量を増やすことを「上げDR(デマンドレスポンス)」と呼びますが、上げDRにより再生可能エネルギーを無駄なく使うことができ、安定供給の実現につながると考えています。
再び上昇する電力需要に対し、再エネ供給力の強化が急務
日本のエネルギー政策の方向性を決める「エネルギー基本計画」は3年に1度改定されますが、2024年の今年は改定の年にあたり「第7次エネルギー基本計画」が策定されます。「第6次エネルギー基本計画」において日本の電力使用量は、2010年頃を境にしばらくは減少の一途を辿っていくと考えられてきました。しかし、2050年のカーボンニュートラルに向けた脱炭素化と相まって、大規模な電源投資が必要な時代に突入したことで、電力の需要が再び上がると予想されています。
「第6次エネルギー基本計画」の時代には、生成AIがここまで浸透して半導体工場やデータセンターが各地に建てられることは予想されていませんでした。ここで再生可能エネルギーの供給力を強化しなければ、火力発電などに頼らざるをえなくなりカーボンニュートラルは遠のき、日本の国際競争力も下がってしまうでしょう。2022年時点で、電源構成に占める再生可能エネルギーの割合は21.7%ですが、2030年には36~38%にまで増やすことを政府は目標としています。さらに、政府は原発も脱炭素電源として、2022年の5.5%から2030年には20~22%まで増やす方針です。再生可能エネルギーだけですべての電源構成をカバーするのは難しく、原発をめぐる動きはカーボンニュートラルを実現をしていく上で重要なポイントになるでしょう。
――3年で日本の電力需要の予想は大きく変わったということですね。
再生可能エネルギーの供給力を高めるのはもちろん重要ですが、再生可能エネルギーの発電設備の適地が各地に偏在しているという課題があります。洋上風力も陸上風力も風が吹く地域に限られますし、太陽光も東京ではなく郊外に寄りがちです。この地域偏在性を解消するために、電力需要が見込まれる産業を各地に誘致するといった案もありますが、根本的な解決には至っていません。
これはエネルギーの側面だけでは解決できない課題であり、今後は供給面だけでなく、いかに増加する再生可能エネルギーを効率的に使うか、需要面まで考える必要があるでしょう。配送電をはじめとする系統を増強することで、遠隔地に送電する案もありますが、莫大なコストがかかります。エネルギー業界に加えて産業界の知見も踏まえて、全体で取り組む必要があるでしょう。
――では、御社の今後の展望について教えてください。
私は2023年の4月に社長に就任したとき、10年後の2033年の目標を掲げました。それは、企業の時価総額を3700億円に成長させ、スマートタイムONEの顧客を250万件に増やすというものです。人々の再生可能エネルギーのニーズを引き起こしていくことが私たちのミッションであり、そのためには「安いから使ってみた」「社会貢献をしたいから使ってみた」という入り口を増やすことが重要だと考えています。再生可能エネルギーをより社会に普及させるため、まずは足元のできることから着実に積み上げていきます。
森田 卓巳
株式会社Looop 代表取締役社長 CEO
ネットベンチャーの中国法人にて、システムエンジニア、プロジェクトマネジャー、総経理(最高執行責任者)などを経て、2012年、Looop入社。
太陽光発電所のEPC事業、太陽光、風力発電による発電事業の事業本部長・管掌取締役、電力小売事業、経営戦略、財務戦略部門の管掌取締役を経て、2023年4月より現職。東京学芸大学教育学部卒。慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。