行列飲食店に「ファストパス」。導入後の変化と、テーブルチェックが目指す、飲食業界の構造変革

世界34か国・地域でレストランとゲストをつなぐプラットフォームを提供する「TableCheck(テーブルチェック)」。「Dining Connected 世界中のレストランとゲストを繋ぐプラットフォーム」をミッションに掲げ、飲食店、ユーザー双方にとって、より良いダイニング体験を提供することを目指し、2024年2月には、飲食店の優先案内サービス「TableCheck FastPass(以下、テーブルチェック ファストパス)」をリリースしました。

テーブルチェック ファストパスのリリース背景や新サービスの狙い、導入事例から見るダイナミックプライシングの可能性について、株式会社TableCheck 代表取締役社長CEOの谷口 優氏に話を伺いました。

非合理的なビジネス構造が長年変わらない日本の飲食業界

── テーブルチェック ファストパスについて教えてください。

テーブルチェック ファストパスは、ゲストが手数料を支払うことで、行列のできる人気の飲食店も待たずに確実に入店できるようになる優先案内サービスです。ゲストは限られた時間を有効活用できるだけでなく、行列に並ぶストレスをなくすことができます。飲食店にとっては、「優先案内の手数料」という新たな収益源を得ることで、収益構造の改善に貢献していけることもサービスの特徴です。

── 日本の飲食業界は、慢性的な人手不足や原材料費の高騰、需給バランスと価格の不整合など、さまざまな課題が顕在化しています。こうしたなか、テーブルチェック ファストパスをリリースしたのはどのような背景があるのでしょうか?

有料の優先案内サービス自体のアイデアは、2016年ごろから構想していました。某テーマパークで運用されていた優先入場ができる仕組みを知って、飲食店にも応用できないかと考えていたのです。その後、時代とともに世の中に対するダイナミックプライシング(価格変動制)を受け入れる空気感が醸成され、消費者の態度変容が起きてきたタイミングで、テーブルチェック ファストパスをリリースしました。

飲食業界だけでなく、世の中には経済的非合理性は数多く存在しています。現在も飲食業界に存在する経済的に非合理的な慣習として、一物一価の価格設定があります。例えば、平日昼間の閑散期や祝前日・休日の繁忙期といった需要の変化があるにもかかわらず、全く同じサービスや価格で消費者に提供しているのが現状です。

つまり、需給に応じた価格設定ができないため、売り上げ機会の損失が生じているのです。しかし、原材料費や人件費の高騰が進むなかでも、飲食店は客離れを恐れて値上げに踏み切れず、結果として従業員の賃金も上げることができない。こうした悪循環から、経営逼迫に陥る飲食企業も少なくありません。

日本の飲食業界が抱える喫緊の課題を解決したい。そうした想いから、テーブルチェック ファストパスを新たにリリースしました。創業以来、「最高のレストラン体験の提供」を追求してきたレストランテックカンパニーとして、テクノロジーで飲食店とゲストのより良いマッチングを図り、外食体験を向上したいと考えています。

トラブルの発生件数が減り、新規顧客の拡大に

── サービスの第一弾として、国内の人気ラーメン店6店舗で先行導入されていると拝見しました。具体的にどのような成果や反響につながっているのでしょうか。

今回、サービスの初期リリース時においては、行列のできる人気店を中心にテーブルチェック ファストパスを導入いただきました。ミシュランガイド掲載店「銀座 八五」では、テーブルチェック ファストパスを導入したことで、最大6時間の行列に並ばず入店できるようになり、顧客満足度向上、リピート客の増加につながったとうかがいました。また、整理券で指定された時間に戻ってこないなどのキャンセル被害もなくなったという嬉しいお声もいただいています。このように、テーブルチェック ファストパスを導入する飲食店のベネフィットは「新たな収益源の確保」だけでなく、「行列の手間やトラブルを回避できる」ことも大きなメリットだと言えます。

人気の飲食店では、整理券を配布したり、記帳制にしたりするなど、それぞれのルールを設けているところが多くあります。その一方で、「行列客同士のトラブルが発生する」、「近隣からクレームが寄せられる」、「整理券で指定した入店時間にゲストが戻ってこない」、「外国人の方が整理券制の仕組みを理解できずに、いつまでも入店できない」といった課題の声も挙げられています。このようなネガティブ要因を、テーブルチェック ファストパスを導入したことによって回避できるようになった、というお声を導入店舗からいただいています。

さらに、これまでお店へ行きたかったけれど、何らかの理由で行列に並ぶことができなかった客層の来店を促し、「新規顧客の拡大」につながったことも成果として挙げられます。

飲食店の機会損失をなくし、新たな収益機会を提供するファストパス制度

── 飲食店のファストパス制度が台頭することで、飲食店ビジネスはどのように変わっていくとお考えですか?

先述した飲食業界の経済的非合理性による機会損失がなくなっていくのではないでしょうか。「有料優先案内で待たずに入店する」という消費者の新たな選択肢を提示することで、 収益を確保して利益を最大化させていく考え方が、さらに当たり前になっていくと予想しています。他方で、ファストパスを利用していない消費者の体験はそのままで、損なわれることはありませんが、全席に占める優先案内枠の割合やプライシングなどの設計が鍵を握ります。

日本の飲食業界にも需給バランスに応じた最適な価格設定が可能なダイナミックプライシングは、徐々に広まっていくと考えています。今回のテーブルチェック ファストパスは、飲食業界におけるダイナミックプライシングの可能性を見極めるための試金石となりうると捉えています。

現在は行列ができる人気店での展開になっていますが、今後はさまざまな業態やジャンルにも拡大していくので、そこで得た知見やノウハウをもとに、飲食店ごとに最適な手数料の設定や体験設計を見出していきたいですね。

“安すぎる日本”といわれる飲食業界を変えていく

── ライフスタイルが多様化し、消費者の価値観が変化するなか、「タイパ」についてもさまざまな議論が生まれています。これからの“タイパ DX”についてはどのような見立てを持っていますか?

時代とともに、合理的かつ効率的な意思決定が求められるようになり、タイパ思考の普及も進んでいるわけですが、我々はそうした経済効率性をスピードアップさせるお手伝いをしている認識で事業を展開しています。

社会に大きな変化をもたらす生成AIも、これからさらに発展していき、日常生活に浸透していくことでしょう。その一方で、消費者がそうした世の中の変化を受け入れるパーセプションになっているかが肝になると考えています。それは、飲食業界のビジネスモデルを変革していく上でも同じです。経済的に非合理的な構造を合理化していく流れが加速し、多様な業界でダイナミックプライシングが広まり始めていますが、現状では「飲食店では手数料を取るべきではない」という意識が特に飲食店側で強いように感じます。

私は、世界に誇るべき日本の食文化を維持しつつ、さらに発展させていくためには、“安すぎる日本”といわれる飲食業界を変えていく必要性を強く感じています。

既存のビジネスモデルに変革をもたらし、飲食店の価格最適化を実現させていくために、今後もサービス開発に尽力していく予定です。飲食業界における価格最適化とビジネスモデルの変革を図ることで、飲食店とゲストを最適にマッチングし、食体験のさらなる向上につなげていきたいと考えています。

谷口 優

株式会社TableCheck 代表取締役社長CEO

1984年6月神奈川県生まれ。幼少期の約10年間をシンガポールで過ごす。国際的な統合決済管理プラットフォーム企業で、営業・リーガル・経営企画などさまざまな業務に携わる。2011年3月、株式会社VESPER(現・株式会社TableCheck)を創業し、CEOに就任。世界中のレストランとゲストをつなぐプラットフォームとして、世界を席巻する日本発のグローバルテック企業を目指す。

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