コロナ後の今だから、外食産業のDXを! アナログな業界変革に挑む、クロスマート取締役 岡林氏×デジタルシフトタイムズ編集長 北浦【編集長対談 No.1】

コロナ禍で大打撃を受けた外食産業。アナログ一辺倒であった業界においても、危機感は否応なく高まり、DXおよびデジタル化が急激に進みました。しかし新型コロナウイルスが5類に移行され人流が戻りつつある今、「再び、外食産業のDXやデジタル化への対応が疎かになっている」と危機感をあらわにする人物がいます。

飲食店に人が戻りつつあるなか、なぜ危機感を感じているのか。デジタル化が進まない外食産業における日本特有の課題とは。

自社だけでなく、日本の未来を見据えた「業界全体のDX」を実践する企業を、デジタルシフトタイムズ編集長である北浦 豪文が紐解いていく本連載。一回目は、外食産業の新しいインフラとなるべく、中長期的な視点で食の世界の変革に取り組むクロスマート株式会社の取締役 岡林 輝明氏に、お話を伺いました。

日本独自の低価格・高品質がもたらした弊害

―― コロナ禍で外食産業は危機的な状況を迎えました。当時の外食産業の実態を教えてください。

そもそも外食産業はとても利益率が低い業界です。飲食店全体で見ると平均8%ほどです。これは、短期間で成長した結果、合理的なオペレーションを組んで低価格で高品質な食事を提供するチェーン店が増え、低価格競争が常態化したことが理由です。海外に行くと感じますが、日本の外食は「こんなにクオリティが高くて、こんなに安くていいのか」と思うほどコストパフォーマンスに優れています。しかしその裏側には、従業員が無理をして成り立つオペレーションありきの、長時間労働や人手不足が常態化しています。そこにコロナ禍が直撃して、2020年、2021年の市場規模は2019年と比べて3割以上減少しました。あの頃はコロナ禍の終わりも見えず、国からの助成金で生き残れるかどうかといった状況もあり、多くの飲食店が経営的にも精神的にも不安な状態だったと思います。
※一般社団法人 日本フードサービス協会の公表データより作成
―― 御社の創業はコロナ禍前の2018年ですが、当時からDX、またはデジタル化の必要性は感じていましたか?

そうですね。長時間労働をはじめ労働環境の厳しさは顕在化しており、労働人口も減少する一方ですから、持続可能性がないことも見えていました。そのため、DXと言いますか、デジタル化による業務効率化は不可避でした。

―― これまでアナログが常態化しているなかでデジタルに移行するには大きなハードルがあるかと思いますが、外食産業でデジタル化が遅れている根本要因はどこにあると思いますか?

皆さん、必要性は感じていますが、とにかく飲食の世界は忙しい。長期的に見ればデジタル化はもちろんDXは必須ですが、「今はそれをやっている場合ではない」という方が多いのだと思います。もう一つは個人店の数です。全国にある約70万軒という店舗の7~8割が個人店といわれていますが、大手チェーン店のように、資金もデジタル化のマニュアルもなく、人手も余力もない。個人店のDXが遅れざるを得ないことが、業界全体で見ると大半がアナログという状況を招いていると捉えています。

長時間労働、人材不足が常態化。DXに着手する余裕がない外食産業

―― 日本の外食産業に特有の歴史的背景には、どのようなものがありますか?

外食産業の歴史で最初の大きな変化が生まれたのは、大阪万博以降の1970年代です。この時期にマクドナルドやケンタッキーフライドチキンなど、外資の飲食店が出店し、初めて、飲食店を体系的に経営するノウハウが日本にもたらされました。その後も、外食チェーン店は増加の一途をたどり続け、1997年には外食産業の市場規模が過去最高の29兆円を記録します。狂牛病や鳥インフルエンザ、中食産業の台頭などにより市場が停滞した時期を経て、2010年代に入るとインバウンドの増加で再び盛り上がりを見せました。2020年のコロナ禍以降は、これまでに類を見ない危機的状況を経験したのち、再停滞をして現在に至ると捉えています。

―― 1997年には市場規模が29兆円にまで到達した外食産業の急成長の裏には、どのような要因があったと考えていますか?

日本の文化的な背景が大きいと思います。海と山の食材に恵まれていて、食へのこだわりも強い。結果、ミシュランで星を獲得したレストランの数が世界一という実績にもつながっていると思います。そこに経済成長や飲食店経営のノウハウが組み合わさることで、産業として大きく成長したと考えています。

外食産業のDX化を模索するなかで出会った卸売業の存在

―― クロスマート社の創業時のエピソードを教えてください。

弊社代表の寺田(代表取締役 寺田 佳史氏)は、実家がラムネのメーカーで、従来から外食の世界に興味があったということもあり、最初は飲食店の仕入れに着目したサービスを開発しました。飲食店は同じルートから仕入れをしているにもかかわらず、A店はキャベツを100円で購入しており、B店は80円で購入している。この非対称性をデジタルの力で解決すれば喜ばれると考えたわけです。結果的にこのサービスは失敗しました。なぜかといいますと、飲食店側が仕入れに対してそれほど困っていなかったことが要因でした。また、金額よりもその卸売業との関係性が大切だったということも当時は認識できていませんでした。

この失敗をきっかけに、卸売業の皆さんと深くコミュニケーションを取るようになりました。そこで、皆さんが日々の受注業務に悩まれていることが分かりました。飲食店からの発注は電話とFAXがメインで、弊社のお客様は一社当たり平均で1,000店舗以上と取引をしています。深夜でもお構いなしに連絡が来て、膨大な発注に対応することに多大な労力を要していました。

当時のコロナ禍においては、飲食店よりも卸売業の皆さんの方が厳しい状況に置かれていました。卸売業の利益率は飲食店よりもさらに低く、平均で1%未満です。卸売とは通過型のビジネスで、仕入れて商品を流通させるビジネスモデルであることもあり、原価が8割、粗利が2割程度という構造上の理由があります。飲食店もDX化すべきですが、それ以上に飲食店を支える卸売業の皆さんのDX化の方が急務であることに気付きました。

そこで、卸売業の課題解決に資するサービスの開発を決断しました。卸売業の存在は日本の外食産業にとって、必要不可欠です。その背景の一つとして、国土の狭い日本の飲食店は在庫の置き場所にも苦労しており、大きな冷蔵庫が一つか二つ置いてあるだけという店舗が大半で、長期間材料をストックすることは物理的に不可能です。そこで、毎日食材を届けてくれる卸売業が巨大な冷蔵庫のような役割を果たしているわけです。外食産業の領域にインフラとなるサービスをつくり業界全体を変えていく。そして、卸売業のデジタル化こそが間接的に飲食店を支えることになるという考えにいきつき、クロスオーダーは生まれました。

―― あらためてクロスオーダーの概要と御社のビジネスモデルを教えてください。

クロスオーダーは、飲食店と卸売業をつなぐプラットフォームです。飲食店が電話とFAXで行っていた発注をLINEで可能にしました。飲食店からは手数料をいただいておらず、受注側の卸売業から手数料をいただくビジネスモデルです。その背景には、先にも述べたように、卸売業のペインが非常に大きいことがあります。数千店舗の飲食店から、毎日のように電話とFAXが届き、 受注処理にコストも時間もストレスもかかっている状態であり、このアナログの受注が減れば減るほど楽になるというのが現状です。さらに受発注に加えて、商品案内ができる販促や請求機能など、これまでアナログで行われていた業務をすべてデジタル化すべく進化させていくことで、卸売業の皆さんだけでなく飲食店の業務も効率化していきます。すでに5万軒を超える飲食店に導入いただいており、早ければ年内、もしくは年明けにも10万店舗を超える見込みです。これだけ急速に飲食店に広がっているのは、飲食店、卸売業の皆さんと共に同じ未来を実現しようとしているからだと思っています。

業務効率化だけでなく、本来やりたかったことの実現にも寄与

―― 短期間でクロスオーダーが導入数を伸ばしている要因はどこにあるのでしょうか?

やはり卸売業の皆さんと同じ目線で外食産業のことを考えたプロダクト開発をし、信用を得られたこと、要は実績を積み重ねていった点にあると思います。外食産業はデジタル化が遅れている業界の一つですが、過去にはパソコンやスマートフォンで受発注を可能にするサービスもありました。しかし、結局それらのサービスは使い勝手が悪いせいか、電話とFAXの受発注に置き換わるには至りませんでした。その点、クロスオーダーは、誰もが日常的に使っているLINEでの受発注が可能です。この手軽なユーザー体験が受け入れられ導入社数を伸ばし、業務効率化を実践する店舗、卸売業が増えてきました。その成功事例を見て、さらに導入する店舗が増えていったことが大きな要因と考えています。もう一つは、コロナ禍でデジタル化の意識が高まったという点も大きいですね。

―― クロスオーダーの導入により、業務効率化以外で、人の介在価値が発揮された事例や成果があれば教えてください。

まず卸売業としては、これまで複数人で行っていた受注業務が半分、もしくは1/4の人数で対応できるようになります。クロスオーダーにはおすすめ商品を飲食店に案内できる販促機能もありますので、そこに人員を再配置することで、バックオフィスからプロフィットセンターとして売上を伸ばす事例も増えてきています。飲食店目線でも今まで手に入らなかった情報が手に入るので購買体験は良くなっています。クロスオーダーは業務効率化だけでなく、人員の配置を変えることで、本来やりたかったことを実現できる組織体制の変革にもつながっています。

飲食店の皆さんのお話を伺うと、飲食店のDX化にも貢献できているという確信を持てています。ここで一つエピソードに触れますと、とあるフランス料理のシェフが「お客さまに提供する食事を、最高のものにするためだけに時間と頭を使いたい」とお話しされていました。やはり飲食店の皆さんは食に対してのこだわりが強く、おいしいものを提供したいという意識をお持ちです。調理以外のバックオフィス業務は減れば減るほど飲食店のためになります。クロスオーダーでいつでもどこでもスマホから発注できることで、本業に集中できる環境を整えることができます。

外食産業のインフラになるべく、孫の代まで見据えた経営を

―― 私はDXとは効率化のためだけではなく、本来、人がその人らしく、介在する業務に取り組めるようにすることで、事業そのもののさらなる成長と変化につながるものだと捉えています。その観点からも、クロスオーダーを導入することによる変化は素晴らしいものだと感じました。

一方、外食産業は合理的なオペレーションが徹底された結果、利益率の低い状態が長らく続いていたとのことですが、デジタル化により効率化が進むことで同じ轍を踏んでしまうというリスクは考えられないでしょうか?


たしかにそうですね。効率化が進めば低価格化も進むわけで同じ轍を踏むリスクは十分に考えられます。一方で、消費者の志向性も変わりつつあります。今までは「安くておいしいものを食べたい」というコストパフォーマンス重視だったものが、「多少のお金を支払ってでもいい食事がしたい、いい体験がしたい」というニーズも増えてきています。例えば、自宅では体験できない付加価値の高い食事を求める消費者が増えれば、効率化をした上で高収益な体制を実現する飲食店が増えるでしょう。そうなれば外食産業もさらに夢のある業界になるかもしれません。個人的にはそうなってほしいですね。
―― 最後に、外食産業の方に向けて、岡林さんからのメッセージをお願いします。

コロナ禍で外食産業におけるDXおよびデジタル化の機運は非常に高まりましたが、新型コロナウイルスの5類移行、外食産業・卸売業界の業績回復といった市況感がある昨今、その機運が薄れていることを危惧しています。
※2023年9月5日付 日本経済新聞より引用
 出展元:国内卸売業が2年連続増収 22年度、物流費高騰には懸念 - 日本経済新聞
 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC041J00U3A900C2000000/

なぜなら、現状でも外食産業は長時間労働や人材不足が常態化しており、今後も少子高齢化による人材不足は免れないからです。今こそ、個人の飲食店も含めて、デジタル化を進めていくべきだと考えています。

この業界におけるデジタル化は決して夢物語ではなくて、十分に実現可能なものです。すでに数百社という私たちのお客さまがデジタル化に成功されており、今までできなかった新しい挑戦を始め、収益も上げられています。個人の飲食店のデジタル化は難しいという思い込みがあるかもしれませんが、すでに5万を超える店舗の方々にクロスオーダーを導入いただいています。必要なのは「自分たちにもできる」という捉え方だと感じています。

以前、とあるお客さまに「うちは孫の代まで見据えて経営をしている。その上であなたの会社と付き合うべきか、そういう目で私は君を見ているよ」といわれて背筋が伸びる想いでした。長期的な視点で会社と業界の未来を考えなければ、お客さまからの信頼は得られません。外食産業の新しいインフラとして、私たちは孫の代まで見据えて、クロスオーダーを提供しています。皆さんとぜひ前向きに、業界を変えるための取り組みを続けていきたいですね。

岡林 輝明

クロスマート株式会社 取締役

慶應義塾大学卒業後、2013年、株式会社キーエンスに入社。法人向けコンサルティング営業に従事。2015年、Qrio株式会社に入社。B2B SaaSサービスの事業責任者を務める。2019年、クロスマートに参画。執行役員を経て、2020年より現職。

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