市場規模8,500億円のフードロス問題に取り組む「株式会社クラダシ」 〜IPOから読み解く、デジタルシフト #10〜

多くの企業が目標の一つとして掲げ、憧れ、夢を見る言葉、「上場」。これを達成した企業は資金調達の規模が大きくなり、さらなる挑戦ができるとともに、社会的に認められたという箔が付く。何百万社とある日本企業のなかで、上場企業は約3,800社。非常に狭き門を突破した、選ばれし企業たちだ。
本記事では、デジタルシフトを実現しながら新規上場を果たした企業に焦点を当てていく。今回は、フードロスの削減を目指す「株式会社クラダシ」を取り上げる。同社は、2023年6月30日に東証グロース市場に上場した。初値は800円で公開価格の520円を上回った。

フードロス削減に取り組む、「株式会社クラダシ」とは

株式会社クラダシは、2014年に設立された、本来は食べられるにも関わらず捨てられてしまう食品を指す「フードロス」の削減に取り組む企業だ。そのような食品などをメーカー・卸売業者・小売店から仕入れ、会員に安く販売するECサービス「Kuradashi」を運営している。Kuradashiでは、生鮮食品やレトルト食品から、飲料、日用品、化粧品など幅広い商品を扱っており、商品によっては通常の半額以下で販売されているものもある。仕入れ先は、ネスレやコカ・コーラ、江崎グリコなどの大手企業を含め、2023年3月末時点で1,300社を超えるという。同3月末時点で累計会員数は46万人以上おり、40代・50代の利用者が多いとのことだ。

2023年5月には、初となるKuradashiの常設店舗を東急田園都市線たまプラーザ駅直結の商業施設「たまプラーザ テラス」に開設した。オフラインでの需要データを蓄積し、オンライン販売に活用するという狙いだ。また、これまでに培ったノウハウを活用し、ブランディングやマーケティングの支援、ECコンサルティングも行なっている。

クラダシは、2022年6月期の売上高が約20億7,300万円で、営業損失は約7,400万円だった。2023年6月期は第3四半期累計で売上高が約22億2,400万円、営業損失が約1億3,400万円となっている。

市場規模8,500億円のフードロス問題

フードロスは世界的に問題視されており、日本においてもさまざまな理由で発生している。例えば、規格外品や売れ残りの発生、「3分の1ルール」という、納品や販売のタイミング次第で賞味期限に余裕のある商品でも小売業者から卸売業者やメーカーへ返品されてしまう流通業界の商習慣などだ。農林水産省は、令和3年度のフードロス推計値を523万トンと発表している。推計を開始した平成24年度からの推移を見ると、600万トン以上がしばらく続いたが、令和元年度からは500万トン台になり、最小は令和2年度の522万トンだった。クラダシは、このフードロス問題を成長の機会と捉え、市場を開拓していった。商習慣の存在や需給変動への対応のため、フードロスを完全に無くすのは難しいことから、まだ食べられるが従来の流通では販売できない商品を扱うECサービスに着目した。同社は、フードロス市場を約8,500億円と算出しており、成長の余地はまだまだあるとしている。

ECでありプラットフォームでもある

KuradashiはECサービスであるとともに、仕入れ先企業とユーザーをつなぐプラットフォームとしても機能している。仕入れ先企業は、廃棄予定品や売れ残りを再流通させることで廃棄コストを縮小し利益に転換でき、ユーザーはそれらを安く購入できる。両者の行動はフードロスの削減につながるため、企業はブランド価値が向上し、ユーザーは手軽に社会貢献活動へ参加できるというメリットもある。また、Kuradashi上でフードロスを発生させないよう、ダイナミックプライシングを導入している。商品の受注進捗や残数、残存賞味期限に応じて価格を最適化させることで、商品をできる限り余らせないようにする仕組みだ。今後は、仕入れ先とユーザー数をさらに拡大するために、仕入れ先企業と商品ラインナップの充実がユーザーを呼び、ユーザーの増加が仕入れ先企業を呼ぶという、プラットフォームビジネスの好循環を生み出すことをできるかが鍵を握るだろう。

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