タクシー業界DXの革命児。徳島発の異色スタートアップ「電脳交通」と業界の未来

全国に存在するタクシー会社は約6,000社、その7割は中小企業だといわれています。配車によるアナログな作業が多く発生しようとも、一つの会社だけでDXなどの効率化を進めるには限界があります。そんなタクシー業界にあって、よりスピーディに、より効率的にタクシーの配車を可能にするサービスを提供し、全国のタクシー業界DXを推し進める徳島発の企業があります。それが「クラウド型タクシー配車システム」を提供する、電脳交通です。

クラウド配車システムは、パソコン・ネット回線・タブレットの三つがあればすぐに導入可能。その手軽さと価格の安さから、従来の高額な配車システムを導入できなかった全国のタクシー会社にも受け入れられています。クラウドサービスのためサーバーや周辺機器、導入後のメンテナンスも不要という、従来の配車システムの常識を打ち壊したサービスが、なぜ徳島のタクシー会社から生まれたのか? 地方だからこそ見えてくるタクシー業界の実状に沿った戦略で、斬新な仕掛けを次々と生み出す同社の代表取締役CEO 近藤 洋祐氏にお話を伺います。

タクシー業界に根付いていた、非効率な配車業務をDXで刷新

――なぜ徳島に拠点をかまえる御社がタクシー配車システムを開発するようになったのでしょうか?

もともとは祖父の経営するタクシー会社を再建するため、2010年に私が徳島にUターンしたことがきっかけです。そこからタクシー業界に携わるなかで、構造的な問題が見えてきました。まず挙げられるのが利益率の低さです。タクシー業界のビジネスモデルは、お客さまを目的地までお運びをして料金をいただくという、ごくシンプルなものですが、間接コストの負担が非常に重たいんですね。

近年では燃料高騰の問題がありますし、安心と安全を担保するための高額な保険料も大きな負担となっています。加えて間接コストもありますので、タクシー業界の平均的な営業利益率は2パーセント程度といわれています。全国にタクシー会社は約6,000社ありますが、その7割は車両保有台数が10台~20台の中小零細企業です。年に一回でも大きな事故を起こしてしまうと、それだけで年間の利益が吹っ飛んでしまう。それがタクシー業界です。

そこで当時の私は日々の業務を一つひとつ分解して、非効率な面を探し出しました。その結果、バックオフィスに非効率な業務が複数存在していることが分かったのです。そのうちの一つが配車業務であり、それを改善するプロダクトとして生まれたのが「クラウド型タクシー配車システム」です。

――大手のタクシー会社は以前より高額な配車システムを導入していたそうですが、後発のサービスとして勝算はどのくらいありましたか?

電脳交通を設立してクラウド配車システムをリリースしたのが2015年ですが、祖父の会社の再建と独自の配車システムの開発を両立したということで、業界内である程度注目いただけるポジションを我々はその時点で確立していました。大手のタクシー会社のみが導入していた従来の高額な配車システムと異なり、我々のサービスは初期費用も安く、常に最新機能がアップデートされるメリットがあります。マーケティングが上手くハマれば、多くのタクシー会社に受け入れてもらえる自信はありました。

SaaS型の配車システム提供は全国で唯一、電脳交通だけ

――従来の配車システムと比べて、クラウド配車システムは料金面以外にどのような点がタクシー事業者に喜ばれているのでしょうか?

これまで中小零細規模のタクシー会社は主に無線で配車のやり取りを行っていました。しかし、音声でのコミュニケーションなのでどうしても伝達ミスが発生してしまうんですね。クラウド配車システムでは視覚的にお客さまとタクシーの位置が把握できるので、そういったミスが大幅に減少して生産性の向上につながっています。

そして、一部のオペレーター業務の自動化も図りました。一部の大都市を除き、タクシー利用の多くは電話での配車依頼が主流です。お客さまからタクシー会社に配車の連絡が入って、タクシーが到着する前に再度同じお客さまからの入電があった場合、たいていは催促かキャンセルの連絡なんですね。こういった連絡はかなりの割合で発生しているので、そこをシステムが自動対応することでオペレーターの工数を削減し、新規受注の対応に専念できる環境をつくりました。

――SaaS型にしたことでアップデートが容易にできることも、他社製品にはない大きな強みでしょうか?

そうですね。電脳交通は、今のところSaaSとして配車システムを提供している唯一の事業者だと思います。コロナ禍による乗務員の大量離職でタクシー稼働率が下がり、各地でタクシーが呼べない状況になっています。今の時代は車両一台の生産性を上げて、より効率的な受注管理が求められます。そこで我々は効率的な配車ロジックを開発して、システムに反映しています。

2019年には「事前確定運賃」の制度が始まり、目的地が決まっていればタクシーに乗車した時点で運賃が分かるようになりました。この制度に対応するためにタクシー会社は新たな設備投資が必要になりますが、我々のクラウド配車システムであれば追加の月額料金をお支払いいただくだけでこの制度に対応します。このようにインターネット経由で手軽にアップデートできる点も、弊社のシステムがシェアを高めている要因の一つになっています。

都内では当たり前となった配車アプリの利用率は、全国でわずか2パーセント

――クラウド配車システムは、年1,000回ものアップデートが行われているそうですね。そのためのフィードバックはどこから得ているのでしょうか?

我々は現在、全国4ヵ所でタクシーの配車に特化したコールセンターを運営しています。かつてはタクシー会社が自前でコールセンターを所持していましたが、業界の市場規模が縮小するにつれて手放す会社が増えてきました。そういった企業を対象にしたアウトソーシング先のコールセンターです。オペレーターは日々タクシー乗務員とコミュニケーションを取っているので、業界のトレンドや顧客のニーズも把握できます。そこから得た情報をフィードバックして配車システムの改良につなげています。

もう一つはアンバサダー制度の存在です。タクシー業界の経営者の皆さまは、なにか新しいシステムを導入するときに実際の利用者の声を重要視する傾向があります。そこで電脳交通のシステムの利用方法を外部に発信するアンバサダー制度を構築しました。コールセンター運用とアンバサダー制度により、弊社のシステムは解約率が極めて低いのが特徴です。現在、1パーセント以下のチャーンレートを維持できています。

――都市部ではタクシーの配車アプリが当たり前となっていますが、地方におけるアプリの利用状況はどのようなものでしょうか?

現在、配車アプリのユーザーは非常に増えてきており、タクシー会社としてもその存在なくしては営業ができないくらい依存している状況です。業界にとっては大きなイノベーションですが、2年ほど前に我々が取ったアンケートによると、配車アプリ経由でタクシーを呼ばれる方は全国でも2パーセントほどで、98パーセントのお客さまは電話を利用していることが分かりました。

コロナ禍以前のタクシー業界は年間でだいたい18億人ほどの輸送機会がありましたが、その大半が地方の高齢者、年齢層の高いビジネスマンというのが我々の導き出した仮説です。電脳交通は各配車アプリとの連携も進めつつ、電話を使ってタクシーを呼ばれるお客さまの体験を向上させる施策も考えています。まだまだ大半を占める地方のタクシー利用者の方々の声を直接吸い上げて、システムに反映できることが我々の強みです。

――コールセンターを全国4ヵ所で展開しているとのことですが、地方におけるタクシー配車の難しさなどはありますか?

方言や地域性の問題については苦戦しており、その地方独特の表現や発音などを理解することの難しさを感じています。この問題を解決するべく目下進めているのが、コールセンターの全国展開です。やはり「郷に入っては郷に従え」が筋ですので、地域のタクシー会社さまに「電脳交通と共同配車センターをつくりましょう」と提案をして拡大している最中です。我々は配車システムを提供して、そのロイヤリティが収益になります。

全国で、空前のタクシー不足の時代が到来する

――今後、タクシー業界はどう変化していくのでしょうか? 電脳交通の今後の展望についても教えてください。

すでに現在進行形の問題ですが、今後は空前のタクシー乗務員の不足が起こるでしょう。これは最優先で解決しなければならない課題です。2021年と22年に行った自社調査の結果では、お客さまが全国でタクシーを注文した際の配車率は70パーセントほどでした。つまり3割の方々がタクシーを注文しても車が来ない状況なんです。この問題はより深刻化するので、全国でタクシー不足が発生するでしょう。

早朝に空港を利用するためタクシーを予約しようとしてもできない。そういった声が全国から寄せられています。個々のタクシー会社ではなく、タクシー業界として何をすべきかが問われている時代です。対応策として、副業の乗務員を増やす取り組みが各地で進んでいます。

――我々が思う以上に状況は深刻なんですね。

けれども、乗務員が本当に足りていないのは朝と夜の時間帯のみです。例えば17時に仕事の終わる人が、それ以降の時間に副業としてタクシーを運転できるようにする。朝と夜のタクシー利用のピーク時間に働ける乗務員を積極的に採用することで乗り切る方法です。その他、タクシーの運転に必要な第二種運転免許の取得要件を緩和することも検討されています。すでに地域によってはタクシーの深夜営業を止める地域も出てきているので、早急な対応が必要でしょう。

今後は日本ならではの交通システムがどんどん生まれてくると思うので、我々はその先頭に立って新しいシステムを開発していきます。少子高齢化は世界規模で進んでおり、既存のインフラ産業のモデルチェンジが各地で求められています。実際にそういった課題を抱える国も多数存在しています。電脳交通としてはそれらの国に向けて、日本独自の交通システムを提供していくつもりです。

近藤 洋祐

株式会社電脳交通 代表取締役CEO

メジャーリーガーを目指し18歳で単身渡米。その後祖父の経営する廃業寸前だった吉野川タクシー有限会社を27歳で承継し、再建を果たす。その中で生まれたアイデア「クラウド型タクシー配車システム」をCTO坂東と共同開発し、2015年に株式会社電脳交通を創業。徳島県タクシー協会理事。

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