【有識者対談】紙の名刺は本当に必要!? 紙 or デジタル、DX時代の名刺の役割
2023/8/29
DXの進む現代においても紙が主流であり続ける名刺の世界。各社からデジタル名刺サービスが提供されていますが、依然として紙の名刺には確固たる存在感があります。紙とデジタル、これからの時代の名刺はどうなっていくのか? 紙の名刺でトップシェアを誇る東京オフィスサービスの郷 正義氏と、無限に交換できるデジタル名刺「リットリンク∞カード」を手がけるTieUpsの工藤 継太氏にお話を伺い、これからの時代の名刺のあり方について考えます。
デジタル名刺の強みは、より多くの情報を盛り込める点
郷:まず紙の名刺はモノですので、当然交換した相手の手元に残ります。そのことが、なりすましではない本人と名刺交換をしたという安心感につながります。あらゆる業界でDXが進んでいますが、名刺についてはまだまだ紙のほうがメリットが大きいと考えています。
工藤:私は普段から紙とデジタル両方の名刺を活用していますが、「どちらか一つだけ選ぶなら」という条件であればデジタルを取ります。デジタルのメリットは名刺切れの心配がないし、紙よりも多くの情報を盛り込めることです。デジタル名刺を使っている人はまだまだ珍しいので、交換時のアイスブレイクにもなりますよね。
私どもがリットリンク∞カードを立ち上げた背景の一つとして、もともと「lit.link」というSNSのリンクをまとめたプロフィールサービスを提供していたことが挙げられます。リットリンク∞カードをスマートフォンにかざすことで、lit.linkに掲載された情報を確認できるようになります。弊社としては紙の名刺を完全に否定するつもりはなく、紙の名刺を補完するツールとしてデジタル名刺を捉えています。
――「紙の名刺」と「デジタルの名刺」は対立する概念ではないということですね。
工藤:仮に、私たちが大企業の重役の方と名刺交換をする機会があったら、いきなりデジタル名刺を出すようなことはしません。紙の名刺を所持していることは真っ当なビジネスマンの証明でもあるので、まずは紙の名刺を使うでしょう。その上で、実はデジタル名刺を開発しているということをお伝えして、会話の糸口にしていきます。
――あらためて、名刺の役割について伺います。郷さんとしては紙の名刺はデジタルの名刺よりも安心感、信頼感が強いのが利点とお考えでしょうか?
郷:名刺の基本的な役割としては自己紹介や連絡先の交換がありますが、これらはむしろデジタルのほうが優れています。逆にデジタルが弱いのは「リアルにその人と対面した」という記録の面ですね。紙の名刺を交換したということは、その人と実際に対面したという証拠になりますから。デジタルは情報のコピーや更新が簡単にできるメリットの反面、それが不安の一因にもなります。
工藤:デジタル名刺のセキュリティについては、たしかに郷さんのおっしゃるとおり、改善すべき余地があります。私が思うデジタル名刺の大きなメリットの一つが、紙よりも多くの情報を詰め込めることです。弊社のリットリンク∞カードを活用いただいているインフルエンサーやビジネスマンの方は、すべてのプロフィール情報をこの1枚に集約させています。連絡先がメインの紙の名刺と比べ、リットリンク∞カードであれば自分のSNSや運用しているWebサイトも相手に伝わるので、自分のことをより深く理解してもらうことが可能になります。そこからビジネスを発展させることもあり得るでしょう。
紙とデジタル、それぞれの利点を活かして共存
郷:自分がデジタル名刺を使用していても、相手側が使えないと成立しないという点が大きいと思います。対面の場合は、紙をサッと出したほうがスピーディという点も紙の名刺のメリットですね。SNSが当たり前の若い世代であれば互いにデジタル名刺を交換するシーンもあり得るでしょう。しかし現状は年配の方やITに疎い方もいらっしゃいますので、あらゆるシーンで対応できる紙の名刺に強みがあると考えます。
工藤:私もDXが進んでも紙の名刺が淘汰されることはないと思います。理由としては、商習慣を変えるにはものすごい労力が必要だということ。日本の社会では紙の名刺を持っていることそのものが、ビジネスマンとしての信頼の担保につながっています。ビジネスの場で名刺を切らしてしまうと、それだけでどこか不誠実な印象を与えてしまいます。逆にいえば名刺交換が様になっていると、それだけでビジネスの入り口として安心感を与えられる。そういった状況を考えると、DXが進んでも紙の名刺がなくなることは考えにくいでしょう。
――では万が一、紙の名刺が完全に廃止されたとしたら、どういったトラブルが考えられますか?
郷:基本的にデジタル名刺を使うにはモバイル端末が必須かと思います。会社支給で全社員にモバイル端末を持たせられる会社は一部に限られるでしょう。個人のスマートフォンにお客さまの情報や会社の情報を保存することはセキュリティ上難しいですよね。
工藤:名刺交換はある種のコミュニケーションですので、そこが欠けてしまうとビジネスの場での距離感も変わってしまいます。デジタル化により情報管理やセキュリティ上の問題も起きるので、ビジネスシーンにおいて大きな混乱が生じると考えられます。
ユーザーの「推し活」需要に応えたlit.link
工藤:年齢層はZ世代といわれる20代中盤から10代後半がメインで、なかでも女性の割合が多いですね。もともとlit.linkはインフルエンサー向けのサービスとして生まれたもので、女性をメインターゲットとして広告費などを投入してきた結果と考えています。そしてもう一つ、我々がまったく想定をしていなかった利用法が現在広まっています。いわゆる「推し活」と呼ばれる、自分が好きなアイドルやインフルエンサー、アニメのキャラを紹介するページとしてlit.linkが使われています。その影響もあり、Z世代の女性がボリュームゾーンとなっています。さらに推し活利用は韓国などの海外にも波及していまして、オタク文化のある国に私たちの予想を超えて広まっているのが現状です。
――やはりオタク文化は簡単に海を越えるものなんですね。
工藤:プロモーションはもちろん、弊社が公式の使い方として打ち出したことは一度もありません。オタク文化は本当にグローバルな文化だと実感しました。
自己紹介ツールとしてのデジタル名刺
郷:コロナ禍以降の時代に対応した変化は必要だと感じます。対面での接触機会が減り、オンラインでの打ち合わせが増えました。弊社でもそういった時代の変化に対応するべく、QRコードを読み取ることでオンライン上でも名刺交換ができるサービスを展開しています。普及までに時間はかかるでしょうが、オンライン上の名刺交換に対応したサービスを今後も打ち出していきます。
工藤:名刺本来の価値は人と人とのつながりを形成することにあると私は考えています。その価値は残しつつ、情報の管理や更新が手軽に行えるよう進化するのが望ましいでしょう。今回の取材を受けるに当たって名刺について少し調べたのですが、日本は他国に比べて非常に名刺という文化を大切にしていることが分かりました。長い歴史を持つ商習慣なので、撤廃するには大きな痛みを伴います。それこそ、コロナのような世界にインパクトを与える出来事がない限り、いきなり変わることはないはずです。文化としての側面は残しつつ、DXにより手軽に情報管理ができるようになるのが理想ですね。
――では、将来的に紙の名刺とデジタルの名刺の割合はどのくらいになると予想しますか?
工藤:労働人口の割合がどう世代交代していくかにもよるでしょうが、現時点でデジタル名刺の普及率は1割以下であり、どれだけデジタル名刺の普及が進んでも紙とデジタルでは1:9程度の割合に落ち着くと予想しております。どちらも共存する形になると思うので、それぞれのメリットを活かしたシーンでの使い分けが進むと思います。
――では最後に両社の今後の展望を教えてください。
郷:本日は紙の名刺の利点をお話ししてきましたが、弊社としてもデジタル名刺の取り組みは進めています。「PRINTBAHN PLUS」というサービスでは、オンラインで名刺の作成から交換、管理までワンストップで可能です。時代の変化、お客さまの変化に合わせて紙とデジタル、最適な形で名刺を提供していきます。
工藤:私どもが提供するリットリンク∞カードはデジタル名刺と謳っているので、どうしても交換するイメージがあるかと思います。けれども、弊社が最初に開発したlit.linkは名刺ではなくプロフィールサービスです。そこには自分の好きなモノや性格を相手に伝える意思表明ツールとしての側面が強くあります。
現在、リットリンク∞カードをショップカードとして導入いただいているセレクトショップのトゥモローランドさまは、お客さまとのコミュニケーションツールとして活用されています。受け取った顧客はカードから各種SNSのリンクやキャンペーン情報を入手できるわけです。SNSで自分を表現することが当たり前の時代には、名前と電話番号とメールアドレスだけでは自分を伝えきれません。従来の名刺の概念を拡張するような、新しい名刺の形を提示していきたいですね。
郷 正義
東京オフィスサービス株式会社 営業部 部長
紙名刺でトップシェアを誇る東京オフィスサービス営業部長。
2019年に現職就任後、コロナ禍に直面し営業のDX化と主商材である名刺のデジタル化を進める。開発チームに参加し、2年の開発期間を経て、2022年に名刺管理、オンライン名刺交換が出来る新たなシステムとして「PRINTBAHN PLUS」をリリース。
工藤 継太
TieUps株式会社 Business Development Unit Associate Manager
TieUps株式会社の共同創業者として新規事業開発から営業・マーケティング・事業提携など幅広く手掛け、「lit.link」というプロフィールサービスを2年半で190万人登録者までサービスを拡大。現在はデジタル名刺「リットリンク∞カード」を始めとした新規事業開発を担当。