GAFAMで進む、オフィス復帰。「生産性」にまつわる、経営層と社員間のギャップとは
2023/5/18
コロナ禍をきっかけにリモートワークが広く普及しましたが、パンデミックの終焉に伴い、オフィスワークへの復帰(Return to Office=RTO)を試みる企業が増えています。GAFAM(※1)らテック大手各社の対応はハイブリッドワークも含め企業ごとに分かれていますが、社員たちがオフィス復帰に反発する事例も出ています。その要因は、オフィス復帰を進める経営層と、リモートを求める社員間での「生産性」の認識のギャップにあるようです。
では、GAFAMなどの経営層はなぜオフィス復帰を促進しているのでしょうか。今回は、シンガポール在住ライターで、グローバル企業の動向に詳しいLivit Singapore CTOの細谷 元氏に、GAFAMを中心とするテック大手の働き方の動向とその理由を解説していただきました。
Contents
コロナ禍以後のオフィスワーク復帰をめぐる動向
GAFAMそれぞれの動向
アマゾンは2023年2月、リモートワークから週3日以上のオフィスワークを義務付けるハイブリッドワークを5月から開始すると社内通達で発表。しかし実際のところ、オフィススペースの準備が整っていないため、従業員の復帰が数ヵ月遅れる見通しです。それでもアマゾンは2023年5月3日、公式ウェブサイトで「多くのアマゾン社員がオフィスワークに復帰。シアトル本社の様子」とする記事を公開(※3)し、オフィスワーク復帰を促進する姿勢を社内外に示しています。
アップルも週3日のオフィスワークを義務付けるハイブリッド型を採用。一部報道では、社員の出勤数をバッジ記録により確認し、出勤しなかった社員に対して警告を発するなど厳しい対応が講じられているといいます。
また、INSIDER INTELLIGENCEが2023年4月25日に伝えたところでは、グーグルではサンフランシスコ・ベイエリアと「米国のいくつかの地域」の社員に対し、少なくとも週3日のオフィスワークが求められています。
メタは完全リモートワークを許可しているものの、他のテック大手同様、オフィスワーク復帰を画策している模様。現在、同社の求人で「リモートワーク」を許可する新規ポジションがなくなったほか、マーク・ザッカーバーグCEOもオフィスワーク促進を示唆する発言を行っています。
※2 Insider Intelligence(2023年4月14日)参照
https://www.insiderintelligence.com/content/big-tech-companies-push-return-office-workers-pushing-back
※3 Amazon公式ニュース(2023年3月3日)参照
https://www.aboutamazon.com/news/workplace/amazon-return-to-office
GAFAM以外の大手企業、週4〜5日のオフィスワークも
例えば、セールスフォースでは、2021年に「Work From Anywhere」ポリシーが導入されましたが、現在同ポリシーは改定され、「non-remote」社員には週3日のオフィスワーク、「non-remote」かつ「顧客対応」の社員には週4日のオフィスワークが求められています。エンジニアに求められるのは、四半期に10日のみの出勤です。もともと20日でしたが、社員の意見により、10日に短縮されました。
一方、ゴールドマン・サックスでは、デービッド・ソロモンCEOの意向により、他社に先駆け2022年3月に週5日の完全オフィスワーク復帰となりました。
テック大手がオフィスワーク復帰を促進する理由
また、メタのザッカーバーグCEOの最近の発言も、最新情報による意識変化を示すものです。ザッカーバーグCEOは2023年3月14日の発表で、2023年が同社にとって「効率の年」になると宣言しましたが、この発表のなかで、社員のパフォーマンスに関する内部データを分析したところ、オフィスで働くエンジニアのほうがより多くの成果を出していることが示唆されたと発言しました。完全なリモートワークを許可する同社ですが、ザッカーバーグCEOのこの発言から、同社も他のGAFAM同様に、オフィスワーク復帰を模索するのではとの憶測が広がっています。
生産性をめぐる見解の相違
生産性プラットフォームのClickUpが米国の知識労働者1,000人を対象に調査を実施したところ、大半の労働者が「生産性」を、アウトプットではなく「達成感」という感情的な解釈で定義しており、経営層が定義する生産性とは異なることが判明(※4)したのです。同調査によると、生産性とは達成感であると回答した割合は56%と半数以上となりました。一方、邪魔されずタスクを効率的に達成すること、との回答は3分の1、目標達成のために努力すること、との回答は28%でした。
また、自分自身の生産性の測定には「達成感」を使用する一方で、同僚の生産性は、作業量・作業の成功・時間管理に基づいて評価するバイアスが存在することも確認されました。このバイアスは、マネジャーや経営層にも存在する可能性を示唆するもので、見解の相違を生み出す要因になっている可能性が指摘されています。
※4 FORTUNE(2023年3月2日)参照
https://fortune.com/2023/05/02/return-to-office-managers-employees-productivity-definition/
[文] 細谷元(Livit)http://livit.media/