5Gによる超高速通信や、AIを活用したビッグデータ解析、XRのような仮想現実技術など、ICT(情報通信技術)が、さまざまな分野で導入されています。その波はスポーツ界にも及んでおり、スポーツ(sports)とテクノロジー(technology)を融合させることから、スポーツテック(Sports-Tech)と呼ばれています。そんなスポーツテックの特徴やユースケースをご紹介します。
スポーツテックとは何か?
スポーツテックとはスポーツ(sports)とテクノロジー(technology)を組み合わせた造語です。情報通信技術を代表とするテクノロジーが、スポーツの観戦はもちろん、トレーニングや競技の運営、ギアの進化など、さまざまな分野に及んでいます。こうしたスポーツとテクノロジーの融合は、迫力のある試合観戦や競技レベルの向上に貢献するだけではなく、スポーツ産業全体の発展につながっています。
スポーツテックの3つの要素
スポーツテックを語る上で、以下の3つの要素が欠かせません。それが「支える」「観る」そして「する」です。まず「支える」とは、スポーツテックが競技を行うアスリートのパフォーマンスを向上させるために寄与していることです。トレーニングが科学的な見地に基づいたものになり、より効果的な方法が考案されています。また、アスリートが最高のパフォーマンスを発揮できるような用具やギア、グッズの開発にもスポーツテックが関与しています。こうしたスポーツを支えるためにテクノロジーが活用されているわけです。
また、「観る」とはテクノロジーの力によって、スポーツ観戦の醍醐味である迫力がより観客に伝わるようになっています。テレビやラジオ、インターネットなどを通じた観戦に臨場感が加わり、さらにスタジアムでの観戦も、これまでにはない体験へと進化しています。こうした変化は新たなファンの獲得にもつながります。
そして、「する」はプロやアマチュアを問わず、スポーツを体験する人がより楽しむことができる環境を提供することです。効率的でパフォーマンスがあがるトレーニング法の発見や、新たなギアやグッズの開発など、参加へのハードルを下げる取り組みもあります。
スポーツテックが利用されているユースケース
では、スポーツテックがどのような形で導入されているでしょうか? 具体的な事例をご紹介します。
eスポーツ
eスポーツは、従来のスポーツの概念を大きく変えるものです。スポーツは一般的に走ったり、飛んだり、そして泳いだりと、肉体を駆使しながら、その記録を競いあうものでした。一方で、スポーツのなかには、車やバイクなど人間の肉体以外の要素が勝敗に大きく影響するようなモータースポーツや、射撃やアーチェリーといった集中力や戦略性など身体能力とは異なるベクトルで争うあう競技もあります。eスポーツも同様です。一見すると、コンピュータゲームであるeスポーツは競技に身体性は感じられません。しかし、eスポーツに求められる瞬発力や判断力、戦略性は十分にスポーツ的です。そのためeスポーツはアジア大会の公開競技として実施されたように、ひとつのスポーツ競技として認知されつつあります。
こうしたeスポーツの進化に、テクノロジーの貢献が不可欠です。公平な競技環境を整えるためには、処理能力の向上などハードウェアの進化や通信環境の高速化が求められます。またVRとの親和性も高く、迫力ある試合観戦も近い将来、可能になります。
ウェアラブルトレーニングサービス
一流のアスリートのトレーニングでは、運動量や健康状態を常時監視しながら行うことが欠かせません。効果を測定したり、選手のパフォーマンスレベルを正確に把握するためです。こうした測定にはさまざまな機器が使用されてきましたが、現代ではより詳細なデータを収集するため、ウェアラブル端末を取り付けながら、トレーニングを行うことが一般的になっています。脳や心肺機能、筋肉の活動データを収集、分析することによって、スポーツの競技レベルも向上しています。
ライブストリーミングプラットフォーム
スポーツ観戦の醍醐味は、筋書きのないドラマ性にあります。勝敗やプレーの行方が予測しづらく、観客は一喜一憂することで、スポーツにのめり込みます。したがって、スポーツはライブで観戦することが重要です。テレビのスポーツ中継は以前からありますが、多種多様なスポーツがあり、そのすべてを網羅することはできません。そこで発展してきたのが、ライブストリーミングプラットフォームです。高速なインターネット環境を駆使して、テレビ中継のないエリアでも、スポーツが観戦できる環境を整えることによって、新たなファンの獲得など、スポーツ市場の拡大に寄与します。
スポーツテックの市場規模
スポーツテックの市場規模は2019年の段階では310億円ほどでしたが、2022年には1062億円、2025年には1547億円まで急拡大するという予測があります。このような急拡大の背景には、スポーツ視聴のための動画配信サービスが広まっていることと、IoTを利用したスポーツ用品やサービスが登場していることが挙げられます。
スポーツテック関連動画配信サービス
5Gの商用サービスが世界各国で開始されはじめたことによって、スポーツテック関連の動画配信サービスのマーケットも活性化しています。5Gの通信速度は4Gの約20倍で、遅延も4Gの10分の1程度だと言われています。また、同時に接続できる端末も10倍になるため、リアルタイムのストリーミング配信との親和性が高いスポーツ観戦では、需要を喚起すると期待が寄せられています。野村総合研究所によるレポートでは、スポーツテック関連動画配信サービスの市場規模は、2019年に276億円を記録し、2022年には651億円、2025年には863億円に達すると予測されています。
IoTを利用したスポーツ用品サービス
スポーツテックにおいて、今後さらに市場が拡大するとみられるのが、IoTを利用したスポーツ用品サービスです。これはランニングの走行時間や距離を測定できる腕時計やスマートウォッチのほか、野球やテニスなどのトレーニングで活用されるスイングスピードを測定するセンサー、VR映像を活用したトレーニンググッズなどを想定しており、2019年の34億円という市場規模から、2022年に411億円、2025年には685億円に急拡大すると見られています。
東京のスポーツテックの動き
続いては東京におけるスポーツテックの代表的な取り組みをご紹介します。ひとつは、電通が主催し、スクラムベンチャーズ社がパートナーとして運営に参加する「SPORTS TECH TOKYO」です。これはスポーツ×テクノロジーに取り組む企業やスポーツクラブ、スポーツビジネス関連組織、メディアなどを掘り起こすことを目的にしたプロジェクトで、200を超える個人や団体が参画しています。
株式会社ventus
株式会社ventusは東大発のベンチャーで、プロスポーツチームやアスリートを支援する「電子トレカ®︎」を提供しています。whooop!という名称でサービスが行われており、スポーツチームやアスリートはオンライン上でトレーディングカードを発行します。それをファンが購入することによって、資金を調達する試みです。ファンはトレーディングカードを購入することによって、応援するチームや個人を支援することができるだけではなく、特典を受けることもできるというものです。
株式会社ookami
株式会社ookamiはスポーツエンターテインメントアプリの「Player!」を開発するスタートアップ企業です。「Player!」の特徴はスポーツをライブで観戦するユーザー同士が集まり、応援する様子を可視化するSNS機能にあります。ファンが応援するチームに投げ銭やギフティングという形で資金を援助することもできます。その際の手数料をパーセンテージで得るのではなく、月額の定額料という形で設定している点からスポーツチームに優しいと評価を受けています。
株式会社Link Sports
株式会社Link Sportsはアマチュアスポーツチームの管理ツール「TeamHub」を提供しています。草野球やサッカーなど、チームを作り、趣味としてスポーツに興じている人もいるでしょう。日々の練習や試合などでは、出欠確認や、用具の準備など、メンバー同士のコミュニケーションが欠かせません。これを円滑に進めるためのツールが「TeamHub」です。「TeamHub」では、コミュニケーション機能に加え、スコアを入力することで、チームやメンバーの成績を可視化することができる点も特徴的です。
スポーツテックが注目される理由
なぜいまスポーツテックに注目が集まっているのでしょうか? その理由を考えます。
IT技術
ひとつはIT技術の進歩によって波及する効果への期待感が高まり、ITへの投資が増えている現状が挙げられます。ビジネスモデルの変革が起こると予想する声も多く、こうしたポジティブなイメージがスポーツテックへの関心にも貢献しています。
スポンサー市場規模
日本ではあまり認知されていませんが、スポンサー市場の拡大が挙げられます。サッカーのプレミアリーグとJリーグのスポンサー収益を比較しても、2013年から2016年にかけて67%増加しているプレミアリーグに対して、日本のJリーグは26%の伸びに止まっています。また、世界におけるスポンサーシップ市場の拡大は顕著で、10年間で2.8兆円も拡大しています。
テクノロジーの進化はスポーツ分野にも及ぶ
5Gによる超高速通信に代表されるITテクノロジーの発展は、さまざまな分野での効率化、付加価値の創出に貢献しています。スポーツ分野も例外ではなく、スポーツテックという名称で知られるようになってきました。スポーツ大会の多くが開催中止や、観客数を減らしての運営を強いられるなか、動画のストリーミングサービスのように投資が伸びているジャンルもあります。日本でもスポーツテックに取り組むスタートアップが増えており、今後もビジネスの進展に注目が集まっています。