信頼できる「人」が新たな判断基準になる。 Bolomeに聞くデジタルシフト時代の販売手法、社交電商。

中国ツアーの最後に訪れたのは、越境ECのパイオニア、Bolome(波羅蜜)だ。BATHの一角、バイドゥの資本を受けている新興企業である。「中国でヒット商品を作る」を創業理念とし、会員数800万人以上のライブ中継越境EC「Bolome」を展開する。加えて、注力しているのが「WeStock」。拡散力を持つ中国版インフルエンサー「KOL(Key Opinion Leader)」を起用した越境ECプラットフォームで、企業のマーケティングを支援する。Bolomeとは一体どんな会社なのか。日本でも話題になっているKOLマーケティングとはどのようなものなのか?Bolome本社でお話を伺った。

日本人が共同創業した越境ECプラットフォーマー

Bolomeは2015年に創業した新興企業。立ち上げたのは、携帯電話向けサービス・システムの開発を行っていた旧ネットビレッジ(現Funfun)の同期だった中国人と日本人の6人だ。同年に、中国にいながらにして日本や韓国の商品を購入できる、toC向け越境ECアプリ「Bolome」をリリース。日本とのつながりが深いため、サービスは日本のメディアにも多数掲載された。

bolomeの特徴は、ライブ動画配信ができること、店頭価格で購入できることである。店舗のライブ動画を配信することで、実際に買い物に行っているかのようなUXにこだわった。また、日本の工場から直接商品を仕入れることで流通のコストを抑え、日本で購入するのと同じ価格での商品の提供を可能にした。

2016年には、toB向けの越境EC卸販売プラットフォームサービスを開始。日本企業300社以上と直接取引を行い、販路拡大を支援してきた。

そして2017年末に第三のサービス、WeStockをローンチした。WeStockは、SNSで強い拡散力を持つ「KOL(Key Opinion Leader)」のネットショップを使い、そのフォロワー合計2億人にリーチできるECショップネットワークだ。

契約しているKOLは500人以上で、人気・実力ともにトップクラスを厳選している。企業は広告費を支払うか、商品を無償提供することでプロモーションができる仕組みだ。

Bolomeが商品の無償提供のみでプロモーションを引き受けるのは、商品を売り切る自信があるからだ。一般的に、商品の無償提供を受けても、売れずにただの在庫になってしまうリスクがある。しかしWeStockでは、すでに販売実績をもち、ファンのいるKOLを起用するため、ある程度売れ筋を予測できる。そのため、このビジネスモデルが可能になっているという。

WeStockの特徴は、幅広く集客できる点にある。まず、中国のECサイトを束ねるタオバオとWeChatの両方に対応している。通常のサービスはどちらかにしか対応しておらず、双方を使えるマーケティング支援サービスは唯一だという。さらに、1億人のアクティブユーザーを誇る中国の動画プラットフォーム、bilibiliユーザーへもプロモーションが可能だ。

bilibiliは、会員登録の厳しさで知られている。入会時にテストがあり、日本の二次元への理解がないと、正式な会員になれないという。会員はテストを通過したコアなファンばかりなので、他のサービスのユーザーよりもロイヤリティが高い。人間になりすましているロボットのユーザーもほぼいない。加えて、1995年以降に生まれた世代が今後、購買層として伸びてくることから、プロモーション先として人気が高いのだ。bilibiliはWeStockの株主でもあるため、関係性が強い。

KOLの拡散力を使ったプロモーション

具体的に、KOLプロモーションはどうやって行われるのか?

WeStockでは、商品の選定、仕入れから販売、配送まで一気通貫してKOLを支援しており、まずはKOLがプロモーションする商品を決めるところから始まる。KOLは、自分が紹介する商品に対するこだわりを持っている。おかしなものを紹介すれば、ファンが不利益を被り、離れていってしまうからだ。自信を持って紹介できない商品は、取り扱いできないという。

商品が決まったら、KOLが文章を書いたり写真を撮ったりして、商品をプロモーションしていく。例えば、美容系KOLの「大佬甜er」さん。中国版SNSのWeiboに180万人、TikTokに110万人以上など、トータル400万人以上のフォロワーを抱える。もともと鉄道会社の社員だったというが、休日に暇だったという理由で化粧動画を撮影したところバズった。その時点ではKOLとは言えなかったが、「面白いから日本の商品を紹介しよう」ということでWeStockが売り出したという。化粧品を中心にプロモーションしており、2018年のECの祭典「独身の日」には、販売開始後44分で200万元(約3200万円)の売上を達成した。高い販売力を持っている。

拡散力という意味では、芸能人も変わらない。しかしKOLが特別である点は、商品の売り方をわかっている点だ。自分の特性を理解し、商品の魅力を伝えるためにどのような媒体でどう見せたら良いか。自分の特性やフォロワーを見ながら常に工夫するのがKOLなのである。

WeStockが目指すのは、KOLとブランドの関係性の構築だという。ブランドがただお金を出して終わりではなく、商品の情報を発信することをKOLの信頼性の向上にも繋げていく。商品をPRすることで、企業は商品が売りやすくなり、KOLは信頼を獲得できる。そしてKOLのファンたちはより良い商品と巡り会える。相乗効果が生まれ、三方が幸せになることを目指している。

「人」を判断基準にものを買う時代

中国で大きな影響力を持つKOL。株式会社デジタルシフトアカデミー代表取締役社長・株式会社オプトホールディング グループ執行役員の吉田康祐氏は、「中国ではもともと偽物が出回っていたため、モノではなく人を信頼する文化が根付いている」と話す。信頼できる人が推薦しているものを購入するのだ。

WeStockが推進しているのは、信頼できる人を判断基準にモノを買う仕組み作りだと言える。SNSとECとを組み合わせて販売を促進する「ソーシャルコマース」に近い。中国では「社交電商」と呼ばれ、新たなECの手法として定着している。

一方で、今回同じツアーに参加した立教大学ビジネススクール教授の田中道昭氏は「人を判断基準とした購買は、中国に限らないだろう」と語った。世界がグローバル化しインターネットで繋がり、モノと情報が溢れる時代。人は大量の選択肢の中から、より良いと思われるものを見極め、選ばなければいけなくなった。自分の選択が正しいのか、自信を持てない人が増えている。判断基準とするのは、もはや特定のメディアの情報ではなくなった。自分がよく知っている、信頼できる「人」なのだ。「デジタルシフトが進んだ世界で求められているのが、社交電商なのではないか」。

信頼できる人からものを買う、社交電商。日本でも芸能人だけでなく、インスタグラマーやYouTuberなど影響力を持つインフルエンサーが増えている。ますます個人の信用が重要になり、個人が影響力を持つ時代になると感じた。KOLマーケティングのプラットフォームを構築したBolomeは、その中でどんな手を売っていくのか。日本と中国を股にかける企業だけに、その動向は日本のビジネスにも影響を与えるだろう。

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3泊4日の中国ツアーで感じた、中国小売の「今」について6回に渡りお伝えした。

純粋に、自分のイメージしていた中国と、実際の中国は大きく異なっていた。QRコード決済や宅配サービス、様々なロボットたち。テクノロジーの進化で、中国の生活は大きく変わってきている。それらを目の当たりにして、日本との差分を考えさせられた。

アリババはデータのエコシステムを形成し、EC・店舗・物流が一体となったニューリテールを実装。それだけに止まらず、データを活用した新たなビジネスを生み出し続けている。

しかし1強という訳ではない。新興企業も新たな社会インフラとなるべく、各領域でしのぎを削っている。新時代の覇権をかけた企業間の競争の中から、新たなテクノロジー、新たなサービスが生まれる。それはもはや中国国内だけにとどまらず、グローバルに影響を与えていく。

世界中のどの企業も、デジタルシフトはもはや大前提。顧客体験を追及し、どのようにデジタルを活用してビジネスを組み立てていくかが、今後の生き残りを分ける鍵となるだろう。

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