EVとメタバースが統合する未来。加熱する中国メタバース最新事情・後編【中国デジタル企業最前線】
2022/4/14
昨年から多くの話題をさらい、今もその言葉をあちこちで耳にする「メタバース」。中国でもBAT※をはじめとする巨大IT企業がメタバース事業に進出し、多様なサービスを展開しています。今やアメリカとともにメタバース先進国となった中国の事例を読み解くことで、DXの手がかりを探っていきます。後編ではバーチャルヒューマンを使った企業プロモーションの姿、EVとメタバースが融合することで変化する人々の生活にフォーカスします。
※BAT:B=バイドゥ、A=アリババ、T=テンセント
Contents
ざっくりまとめ
- メタバースの普及によりデジタルツイン、バーチャルヒューマンも発展していく。特に後者は、リアルのタレントに代わりCMや企業キャンペーンの世界にも進出しつつある。
- 2026年には、4人に1人がメタバースで1時間以上を過ごし、世界の組織の3割がメタバースに対応した製品やサービスを手がけると予測されている。
- 中国ではEVとメタバースの融合が進み、自動車内でゲームや映画なども楽しめる。自動車は移動するスマホとなっている。
メタバースがマーケットにもたらす五つの変化
4)デジタルツイン技術の発展
5)バーチャルヒューマンの普及
Emergen Researchの調査によると、世界のバーチャルヒューマンの市場規模は2020年に100億3,000万USD、2030年5,275億8,000万USDとなる見込みです。中国の調査機関iResearchのレポートとコンサルティング会社量子位が発表したレポートを参照すると、中国のバーチャルアイドルを中核とした産業の規模は、2020年が前年同期比70.3%増の34億6,000万元、2021年は62億2,000万元に達する見込みです。さらに2030年には、中国のバーチャルヒューマンの市場規模は2,700億元に達すると予想されています。このうち、キャラクター型バーチャルヒューマンの市場規模は約1,750億元、サービス型バーチャルヒューマンは約950億元を超える見込みです。今後、ますます多くの産業がバーチャルヒューマンを起用するようになり、その産業に与える影響は、2020年は645億6,000万元、2021年は1,074億9,000万元に達することが推測されています。
バーチャルヒューマンの商業的価値は今まさに掘り起こされつつあり、ビジネスシーンでの応用範囲がさらに広がっていくでしょう。日本にはアイドル好き、アニメ好きの50、60代の層も多く存在するので、バーチャルヒューマンとの親和性は高いと思われます。中国と同様に、市場のニーズはあるといえるでしょう。
Z世代が消費力を持つにつれて、ブランドマーケティングにバーチャルヒューマンは欠かせない存在となると予想されます。コカ・コーラ、ルイ・ヴィトン、プラダ、テスラ、SK2などブランドを有する企業では、すでにバーチャルヒューマンをプロモーションに起用しています。バーチャルヒューマンの場合、「スキャンダルや炎上など、リアルのタレントで発生しうるブランドイメージの毀損リスクを回避できる」という大きなメリットがあります。スケジュールの調整問題もなく、任意の時間・場所で撮影が可能であり、ヘアメイクも不要で、マネージャーや備品・雑費などのコストもすべて削減可能です。今後、人気のバーチャルヒューマンが数多く誕生していき、企業はより一層、自社のイメージタレントとして積極的に活用していくでしょう。
2026年、4人に1人はメタバースで1時間以上過ごすようになる
リサーチ&アドバイザリー企業のGartnerは、2022年2月9日のプレスリリースで「2026年までに人々の25%は、仕事やショッピング、教育、ソーシャル、エンターテインメントなどの目的で、1日1時間以上をメタバースで過ごすようになる」と発表しました。さらに企業もメタバースに移行することで、従来とは異なるビジネスモデルでサービスの拡大・強化が進み、「2026年までに、世界の組織の30%がメタバースに対応した製品やサービスを持つようになる」と予測しています。ただし、この数値はあくまで世界の平均であり、おそらく日本の組織は出遅れる可能性が高いでしょう。逆に中国とアメリカは30%以上の伸びをみせると予想します。
2007年にiPhoneが登場して以来、モバイルインターネットのユーザー数は増加を続け、現在のスマートフォンの市場規模は、年間販売台数約13.5億台にまで成長しています。全世界のインターネットユーザーは約46億人、中国のインターネットユーザーは10億人を超え、インターネット普及率も71.6%以上です。2020年度、中国デジタルエコノミーコア産業のGDPは全GDPの7.8%を占め、2025年は10%を超えると予測されています。
中国のインターネットユーザーは毎日平均約5時間ネットに滞在し、ソーシャルコミュニケーション、動画視聴、ライブ放送視聴、ネットショッピングなどを楽しんでいます。今後、メタバースの発展によりユーザーがオンラインの滞在時間を大幅に増やし続け、より幅広い仕事やエンターテインメント分野に影響を与えることが予想されます。メタバースは、今後20年間の世界のテクノロジーのトレンドをリードし、人類のデジタル化における最重要ツールとなり、テクノロジーの体系的な革新のためのテスト場になるでしょう。
EVとメタバースの統合が実現する未来
ゲーム、映像、新興ベンチャー系テクノロジーなどの企業が主体となって、デジタルツイン、オープンワールドゲーム、バーチャルヒューマン、バーチャルソーシャル、バーチャルカンファレンスなどの分野を開拓していくでしょう。
2)VR/AR/MR次世代技術のハードウェアの継続成長
VRデバイスの年間販売台数は1100万台(2021年)から5000万台(2025年)に急増し、ゲーム、映画、テレビなどのアプリとコンテンツは発展初期段階に入っています。年間VRデバイスの販売台数が1億台を超えるかどうかは、光学、ディスプレイ、インタラクション、データ通信、バッテリー、ストレージなどのハードウェア技術領域でのブレークスルー次第となるでしょう。
3)EVとメタバースにおけるアプリの統合
中国の「新興EV造車三兄弟」といわれるNIO(上海蔚来汽車)、Xpeng(小鵬汽車)、Li Auto(理想汽車)をはじめとする新興自動車メーカーは、車内VRとメタバースのアプリ統合を進めています。すでにNIOは北京のスタートアップであるNORO VRと、同じく北京に本社をかまえAR端末を手がけるエンリアルに出資を行っています。
次世代の車はハードウェアではなく、ソフトウェア基点でつくられていくようになるでしょう。中国人は1日のうち数時間を自動車のなかで過ごしますが、車内で映画やゲーム、音楽を楽しんだり、おいしいレストランの情報を検索したり、家の炊飯器やエアコンを起動させたりもできる、まさに至れり尽くせりな空間となっています。今やEVとは、移動できるスマホともいえる存在になっているのです。そんななか、中国では特定の場所で完全自動運転となるレベル4の自動運転が実現しています。つまり、人々は車内でメタバースを利用することで、移動時間をバーチャルな世界で過ごすことも可能となるのです。EVとメタバースのアプリ統合は、ネットの世界と現実の世界の行き来をさらに加速させ、人々の生活を変化させることでしょう。
株式会社デジタルホールディングス 中国事業マネージャー兼グループ経営戦略部事業開発担当
天技营销策划(深圳)有限公司 董事総経理
2004年来日、東京工科大学大学院アントレプレナー専攻修了。IT支援やコンサルティング、越境EC、M&Aなど多岐にわたって従事したのち、2011年に株式会社オプト(現デジタルホールディングス)に入社。2014年より中国事業マネージャー兼中国深圳会社董事総経理を務める。日中間の越境ECの立ち上げ、中国政府関係及びテクノロジー大手企業とのアライアンス構築、M&Aマッチング、グループDX新規事業の立ち上げなどを担当。