2022年のトレンドは、D2CからD2A(Direct To Avatar)へ
スタートアップ企業やベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米国の調査会社CB Insightsが、2022年の12大テクノロジートレンドの一つに挙げているのが「D2A(Direct To Avatar)」です。デジタルシフトタイムズの読者にとっては、消費者にダイレクトに製品やサービスを届ける「
D2C(Direct To Consumer)」はお馴染みだと思いますが、今年はこれからD2Aという言葉をよく耳にするようになるかも知れません。
D2Aのトレンドとその可能性を予測するのはCB Insightsだけではありません。世界的なトレンド予測会社のWGSNは、「実世界に存在しないアイテムをデザインし、アバターに直接販売するこのD2Aコマースにより、ブランドはサプライチェーン不要で新たな収益源を開拓することが可能になる」と、その可能性を言及しています。
さらに、全米小売業協会(NRF)が主催する世界最大級の小売展示会「NRF2022」でもD2Aは大きな話題となっており、主要な小売業はどこも参入すると予測されています。すでに大手企業ではナイキがいち早く参入しています。
NRF2022のセッションでは「アバターエコノミー(経済)」という言葉が使われ、「小売と
メタバースの融合にチャレンジすべきタイミングが到来した」と述べられました。
2021年後半のアメリカにおける成人のメタバース認知度は31%でしたが、45歳~64歳になると認知度はきわめて低水準とのこと。一方で、2012年には10代の94%がFacebookに参加していましたが、2021年になると27%にまで低下しています。米メタ社(旧Facebook社)のメタバース事業へのシフトには、若い世代を取り戻したいという狙いが見てとれます。
ナイキがいち早く、D2Aに参入。アバターを巡る戦いはすでに始まっている
スポーツアパレル大手としていち早くD2A市場に参入したナイキは、2021年12月に
NFT(※1)スタジオ「バーチャルアパレル」を手掛けるデザイナーグループの 「RTFKT(アーティファクト)」 を買収しました。買収金額は非公開ですが、この買収により同社のさらなるデジタル化が進むでしょう。ナイキはゲーム「Fortnite(フォートナイト)」内でスニーカーのデザインを提供するなど、近年はゲーム分野での進出にも力を入れています。
NFT(※1)
「非代替性トークン」を意味する「Non-Fungible Token」の略。ブロックチェーン技術を用いることで、複製が容易だったデジタルデータの唯一性が証明可能となり、アートをはじめとする多くのデジタル資産が高額で取引されるようになった。
メタバース上でアバターにナイキのスニーカーを履かせることで、今まで以上にブランドに対する愛着が湧くと言われています。現実の世界では新型コロナウイルスの影響で外出機会が減った上に、複数の靴を履き回す人が多いので、常に同じ靴を着用する人は少ないかと思われます。しかし、アバターは一度履いた靴を長期にわたって着用し続けるので、それがリアルでの消費にも影響を与えるようになります。アバターをどのプラットフォームで作り、どのように利用するのか。アバターを巡る戦いはすでに始まっているのです。
D2Aを行うプラットフォームとして、ナイキは2021年11月に「ゲーム版 YouTube」とも呼ばれるRoblox(ロブロックス)内に「NIKELAND」を開設しました。ここではゲームの作成や他のプレイヤーが制作したゲームを体験することができるほか、アバターが着用できるナイキのアイテムも用意されています。
Robloxは2021年3月にNYSEに上場し、当時4兆円を超える時価総額を記録しました。トップページにはいろいろなゲームが並んでいて、自由に遊ぶことができます。さらに、ITゲームのリテラシーがあればオリジナルのゲームを作って公開することもできます。そこから収益を得ることも可能で、それが「ゲーム版 YouTube」と呼ばれる由縁です。簡単にアバターを作り、パーソナル化もできて、ゲームでも遊べる。同社はゲームで使うアバターの衣装で収益を得ており、アメリカでは「メタバースの本命」とも言われている企業です。ビジネスモデルは「エンタメ × ゲーム × ソーシャル」の組み合わせから成り立っています。
アップルの新端末リリースが起爆剤となり、今年はVR/AR実用化元年に
私は年内にアップルがVR/AR端末を出すと予想しています。ユーザーインターフェースが得意なアップルが端末を出すことで、大きな転換点になると睨んでいます。現在、FacebookがZ世代(1990年代後半~2000年頃に生まれた世代)からの支持を失っており、代わりに写真・動画共有アプリのスナップチャットが人気を伸ばしAR機能の利用が大きく増えています。機が熟している中でアップルが新端末を出せば、大きな変化を呼び起こすと私は予想します。
アップルのティム・クックもメタバースについて興味を示しており、直近の決算発表ではすでにApp Storeでは14,000のARアプリが提供されていることを強調しています。2020年の時点でスナップチャット世代は、他の世代よりも3倍多くARを活用しているとのデータもあります。
私はプライベートでメタ社のオキュラスを愛用していろいろな動画を楽しんでいますが、最初に使ったときはものすごく驚きました。あまりにもリアリティがすごくて、携帯電話やスマートフォン、タブレットを初めて使ったときよりも大きな衝撃を受けました。
アマゾンプライムVRなどメタ以外からも様々なメニューが提供されており、メタのオキュラスがプラットフォームとなってアマゾンやグーグル等他のデジタルプラットフォーマーからサービスが提供されているという構造にも驚きました。観光地などもVR動画になっていますが、オキュラスを使った翌日は、昨晩の景色が実際に見たものなのか、VRで見たものなのかわからなくなるほどです。船に乗ったりジェットコースターに乗ったりする映像も非常にリアルで、長時間利用すると気分が悪くなることもあるので注意が必要です。あらためてVR機器を使用してわかったことは体調も考えると利用できるのは週に数日ですが、実際に行けない場所に行けるというリアルすぎる体験ができます。
オキュラスユーザーはまだ一部の人に限られていますが、アップルがVR/AR端末を出せば、かなりの人が購入するでしょう。アップルは、オキュラスのことをかなり研究した上で、UI・UXに優れた製品を出してくるはずです。オキュラスは単独のデバイスですが、アップルのビジネスの基軸はiPhoneにあり、先ほども述べたように、すでにApp Storeには14,000のARのアプリが用意されています。ですので、アップルの端末は必ずiPhoneと連携ができるようになるでしょう。私は、アップルの出す新端末が起爆剤となり、今年はVR/ARの実用化元年になると予測しています。
VR/AR・メタバースも、エコシステムの覇権争いが鍵に
では、
VR/
AR・メタバースの世界でどこが覇権を握るのか? そこはやはりプラットフォーム、エコシステムが重要になります。今は乱戦期で、さまざまな企業がメタバースに参入していますが、最終的にはGAFAMのような既存の巨大企業がプラットフォームを構築して多くの人が利用するようになるでしょう。一方、そこに収まらないニッチなユーザーをターゲットにしたプラットフォームも出てくるはずです。
最終的に重要なのは、消費者の生活全般のエコシステムの覇権を握れるかどうかです。もちろん、メタバースの世界でどんなアバターやコンテンツを提供するのかも重要ですが、それだけでなく、エコシステムとしてどれだけ多くの商品やサービスを提供できるかが鍵であり、これからはエコシステムの覇権争いになるでしょう。
もう一つ大切なのは
サブスクです。特にゲームですね。マイクロソフトがなぜ巨額のM&Aでゲーム会社を買収したのかにも関係しますが、すでにストリーミング配信の動画はサブスクがメインとなっています。しかし、月額数千円となると複数のサービスを利用する人は少ないでしょう。ゲームも早晩そうなるはずです。AmazonはすでにAmazonプライムでいろいろなサービスを一つのサブスクで提供していますし、アップルも一昨年からApple Oneというサブスクを開始しています。多くの企業がサブスクを提供するようになりますが、最後はどれだけ総合的な商品、サービスを一つのサブスクで展開できるかです。実はアバターやメタバースだけの勝負ではありません。
アバター経済拡大の鍵は、デジタルアイデンティティを重視するスナップチャット世代にあり
Z世代および、13歳~34歳のスナップチャット世代が重要視するのは、デジタルの世界における「サステイナブルで公平なアイデンティティ」です。すなわちそれがアバターです。リアルでなにかモノを作るには原材料を消費しますが、メタバースではそれがありません。アバターの世界が公平なのは、生まれ持った「肉体」という制約から解放されて、誰でも自由に使えるということです。自分の好きなようにデザインできる公平な世界です。
スナップ社によると、スナップチャット世代の価値観は「多様性、様々な価値観、インクルーシブを重視する」「ボランティア、チャリティ活動に積極的で世界のことを考えている」「本当の自分にこだわり、遊び心がある」といったものです。さらに、適応力が高く楽観的で柔軟性があり、「本当に自分でありたい」と考えているアイデンティティを重視する世代でもあります。この世代にとってはデジタルの世界におけるアイデンティティ、つまりデジタルアイデンティティも当然重要です。だからこそアバターエコノミー(経済)が拡大する余地があると言えるでしょう。メガトレンドを掴み、若い世代の価値観の変化を掴み、それらを踏まえて大胆な戦略を構築して迅速に行動することが求められています。