Facebookも注目の「メタバース」とは何か? スマホ向けメタバース「REALITY」のDJ RIO氏に聞く

Facebookが社名を変更し、中核事業に据えるほど力を入れる「メタバース」。2021年8月にはグリー株式会社が、今後2~3年で100億円規模の事業投資を行い、グローバルで数億ユーザーを目指すと発表しましたが、その中核を担うのが、グリー株式会社の子会社であり、これまでバーチャルライブ配信アプリを手がけてきたREALITY株式会社です。今回は、そんな同社の代表を務めるDJ RIO氏にインタビュー。そもそもメタバースとは何なのか。なぜこんなにも注目が集まっているのか。メタバースは、世界のあり方をどのように変えるのか。メタバース初心者のビジネスパーソンには必読のインタビューです。

ざっくりまとめ

- メタバースの土台にあるのは、「複数の現実を生きている」という感覚。SNSなどのデジタルなコミュニケーションも、広義の意味ではメタバースといえる。

- REALITYは、バーチャルライブ配信アプリをベースにメタバース事業を展開。法人に特化したパッケージも。

- コミュニティづくりには運営の不断の努力と、「荒らし行為」を誘引しない世界観づくりが大切。

- メタバースの普及は、多様性の肯定にもつながっていく。REALITYでは、独自の経済圏の構築にも注力。

メタバースは、現実と「対立」するのではなく「並行」する

——そもそもメタバースとはどのような概念なのでしょうか?

定義は人によってさまざまですが、基本にあるのは、「私たちは複数の現実を生きている」という感覚だと思います。これは比喩的な表現ではなく、例えばもうすでに多くの方に、SNS上やオンラインゲームの中だけでつながっている知人が存在するはずです。物理的に顔を合わせたことがなかったとしても、そういった知人と過ごす時間は、人生の一部としてたしかな手応えを持っている。そこで、そうしたデジタルな世界を「現実と対立する仮想世界」ではなく「並行して存在する複数の現実の一つ」として捉える考え方が、広義の意味でのメタバースだと思っています。

——今、このタイミングでメタバースという考え方に注目が集まっているのはなぜなのでしょう?

いくつかの要因が考えられます。まずはテクノロジーの進歩によって、デジタルな世界を奥行きのある「空間」として感じさせるリッチな表現が容易になったこと。『フォートナイト』や『マインクラフト』、『あつまれ どうぶつの森』といった、ゲームの世界を想像していただくと分かりやすいと思います。もちろん、コロナ禍の影響もありますね。人と人のフィジカルな接触が制限されるなかで、Zoomをはじめとしたオンラインツールを用いて人間関係を補完するという体験を、この2年間で多くの人が共有しました。

企業目線で考えると「メタバース」という言葉を使うことで、投資家からの見え方を変化させようという目論見も見え隠れしています。特にその傾向が顕著なのが、先ほども触れたゲーム業界です。これまでゲーム業界の株価は、その業績と比較すると低めの値付けがされがちでした。それはどこかで「ゲーム産業は水もの」という旧来の価値観が生き残っていたからでしょう。だからこそ、「メタバース事業」という新たな看板を掲げることで、イメージの転換を図っているのだと考えられます。

一方で、ブロックチェーン技術を用いた暗号通貨の広がりによって、デジタルな経済圏が生まれつつあることも、見逃せない潮流です。つまり、経済の世界においても、すでにフィジカルな世界と並行する、もう一つの現実が築かれつつあるのです。

こうしたさまざまな流れが合流することで、メタバースという大きなうねりが生まれているのだと捉えています。

バーチャルライブ配信アプリを、メタバースアプリとして再解釈

——そうした現状を踏まえ、御社の提供するメタバースとはどのようなものなのでしょうか?

弊社のメタバース事業は、大きく二つに分けることができます。まずはバーチャル展示会をはじめ、仮想空間をビジネスに活用したいという企業向けに展開している「REALITY XR cloud」。3DCGやVRテクノロジーを用いたバーチャル空間の制作から、バーチャルイベントの配信までを、ワンストップで担えるクラウドソリューションです。ホワイトレーベルで提供されるので、 自社サービスとして展開可能なことも特徴の一つです。

一方で、一般のコンシューマー向けにスマートフォンアプリで提供しているのが「REALITY」というアバターコミュニケーションプラットフォーム。これは元々、私たちがバーチャルライブ配信アプリとして提供していたものに、「ワールド」機能※という新機能を加え、メタバースとして再解釈した形です。

※「ワールド」機能は期間限定公開のため、「掲載日」時点では実装されていません。

——「ワールド」機能とは、どのような機能なのでしょうか?

REALITYで利用されているアバターのままで、3Dバーチャル空間を自由に歩き回ることができる機能です。特にゲーム性などがあるわけではなく、あくまでメタバース内でのコミュニケーションを楽しんでもらうために開発しました。例えば、「ワールド」内で花火大会のようなイベントを開催することがあるのですが、そうするとユーザーの方々が、浴衣姿のアバターでイベントに参加したり、一緒にスクリーンショットを撮って記念撮影をされていたりする。こちらが遊び方を提供するのではなく、ユーザーの皆さまにメタバースの楽しみ方を発見してもらおうという発想です。

ジャパニメーション的な世界観がグローバルで人気の「REALITY」

——ほかのメタバースと比較した、REALITYの特徴を教えてください。

まずはこれだけのスマートフォンユーザーを抱えているメタバースは、ほかにないと思います。多くのユーザーを抱えるVRチャットサービスもありますが、それらはほとんどがパソコンを想定したサービスになっています。アバターの作成からボイスチャットをはじめとした3D空間での自由なコミュニケーションを、一つのスマートフォンアプリで実現しているサービスは、実はすごく少ないんです。そこは私たちの強みになっていると思います。

——ちなみに現在は、どのようなユーザー層がREALITYを利用されているのでしょうか?

年齢層でいうと、10〜20代の若いユーザーが多いですね。男女比は、女性の方がやや多いでしょうか。国別のユーザー比率は、実は日本が15%程度で、あとは北米を中心に、アジア、ヨーロッパと大きな偏りなく散らばっている状況です。これは結果的にこうなったというよりも、当初からグローバル展開を見据えて事業を展開してきた帰結だと捉えています。アバターをはじめとした絵柄の世界観が、ジャパニメーションテイストになっているのも、グローバル展開を進める上で有利だと考えたからです。今や日本のアニメのファンは世界中にいますが、ジャパニメーション的なコンテンツをつくれる企業が海外にはそう多くないので、グローバルに見れば世界観の差異化をしやすいというメリットもあります。

手塩にかけたアバターと、声によるコミュニケーションが、コミュニティの質を担保

——コミュニケーションの場を運営するにあたって、心がけてきたことはありますか?

どんなデジタルコミュニティにも共通していえることですが、無差別にスパムを送るといった、いわゆる「荒らし行為」を行うユーザーは、どうしても一定数出てきてしまいます。基本的なことですが、そういったユーザーへの対応を、まずは徹底しています。

とはいえ、テキストを中心としたSNSでのコミュニケーションと比較すると、ボイスチャットを基本とするREALITYでは、誹謗中傷などの絶対数が圧倒的に少ないです。これはやはり文字と声という、フォーマットの違いによる影響が大きいと思いますね。アバターもある種の抑止力になっている印象です。やっぱり、かわいらしいアバターでひどいことを言える人は、そんなに多くない(笑)。アカウントがBANされてしまうと、それまで手塩にかけてつくり上げてきたアバターが無駄になってしまいます。そういう意味では、REALITYという世界観そのものが、コミュニティーに秩序をもたらしているのではないでしょうか。

その上で、運営側としてはコミュニティが小さかったごく初期の頃からコミュニティガイドラインをしっかりと定めて、望ましくない振る舞いについては注意喚起してきたという感じです。

——バーチャルライブ配信という文化が今ほど根付いていなかった頃の、小さなコミュニティとしての空気感が今も息づいているのですね

そうですね。REALITYがバーチャルライブ配信プラットフォームとして生まれたことの影響は、現在のコミュニティの空気にもすごく表れていると思っています。ほとんどのユーザーさんは、自分が好きなVTuberのファンとして登録された方たちなので、基本的には「誰かを応援したい」という気持ちがすごく強いんです。そういう人が集まる場所だから、自然とポジティブな雰囲気のコミュニティになっているのだと思います。

——一方で、運営側として今後の課題はあるでしょうか?

先ほどの話とも関連しますが、元々REALITYでは、人気のあるVTuberを中心に多くのファンが集まるという構造で、コミュニケーションが行われていました。けれど、今後はメタバースのプラットフォームとして、よりフラットなコミュニケーションが実現する場をつくっていきたい。そこはこれからの課題です。

メタバースが、世界をもっと自由で多様なものへと創り変える

——今後、REALITYをはじめとしたメタバースの浸透は、社会にどのような影響を与えていきそうでしょうか?

メタバースというのは、生まれ持った「肉体」という制約から、人々が自由になれる場所だと思うんです。誰もが自分の望む姿で、この「現実」を生きていくことができる。それって、ダイバーシティ&インクルージョンを進めていく上でも、すごく役立つと思います。

ただそのためには、フィジカルな現実と並行する世界(バース)が複数あること、まさしく「メタ」であることが大切だと思っていて。例えば、今年大ヒットした細田 守監督の映画『竜とそばかすの姫』には、全世界で50億人以上が集う「U」という巨大な仮想世界が描かれていますが、逆にいうと仮想世界が一つしかない設定なわけです。そうなると、今度はその仮想世界でのアバターに縛られるようになってしまう。複数の世界に、複数の自分(アバター)が存在し、そのどれもが現実であるという感覚を持つことが重要だと、個人的には感じています。

——まさにREALITYも、「複数の世界」の一つというわけですね。最後に、御社の今後の展望を教えてください。

メタバースが、よりたしかな手ざわりを獲得するには、三つの要素が欠かせないと考えています。まずはアバターによるリアルタイムでのボイスコミュニケーション。これはある程度まで実現できています。

二つ目の要素は、ユーザーの手で創り変えることのできる拡張可能な3D空間です。ユーザー自身が自分を取り巻く世界に影響を与えられるかどうかって、「現実感」を生み出すためにはすごく大事な要素なんです。マインクラフトはまさにそうですが、世界を創り変えて何かを生み出すことには、ゲーム的な面白さもある。REALITYの「ワールド」にも、いずれは拡張可能性を実装していきたいと考えています。

最後に重要なのが、経済圏の確立ですね。特に私たちは、ユーザー同士の間で経済が循環するクリエイターエコノミーの創出を目指しています。ある意味では、いわゆる「投げ銭」機能を備えたREALITYはすでにクリエイターエコノミーを実現しているともいえるのですが、今後はメタバース内でコンテンツやサービスを提供することで、お金を稼げるような仕組みをつくっていきたい。特にリアルな経済に近づけていくためには、何かを生み出すのではなくサービスを提供することでお金を稼ぐこと、つまり「サービス業」が活発化することが肝心だと考えています。例えば、スタイリストとして、アバターのコーディネイトを請け負うとか、そんなイメージですね。そうした試みを通じて、REALITYという世界の強度を高めていきたいと考えています。(文:福地 敦)
DJ RIO
REALITY株式会社 代表取締役社長

2005年、慶應義塾大学環境情報学部在籍時代に、複数のスタートアップの創業に参加。事業売却後に大学を卒業し、4人目の正社員としてグリー株式会社に入社。事業責任者兼エンジニアとして、モバイル版GREE、ソーシャルゲーム、スマートフォン向けGREE等の立ち上げを主導した後、2011年から北米事業の立ち上げ。2013年に日本に帰国し、グリー株式会社 取締役に就任する。2014年にゲームスタジオWright Flyer Studiosを立ち上げ(現WFS)代表取締役に就任。2018年にはWright Flyer Live Entertainment(現REALITY)を立ち上げ代表取締役社長に就任。2021年、REALITYを中心とした「メタバース事業」への参入を主導。

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