【Netflix徹底解剖】Netflix4.0、世界最先端のDX戦略を追う
2021/11/10
全世界での有料会員数が2億人を突破。飛ぶ鳥を落とす勢いで快進撃を続ける企業、Netflix。現在の利用者の中には、彼らの事業が店舗を持たないDVDオンライン郵送サービスからスタートしたことを知らない人もいるかもしれません。1997年、小さなスタートアップ企業として創業したNetflixはその後、DVDレンタルのサブスクリプション、動画ストリーミング配信のサブスクリプション、そして動画オリジナルコンテンツの配信と、デジタルを基盤に着実にビジネスを変革し、今や皆さんご存知の通り、デジタルコンテンツプラットフォームの王者へと成長を遂げています。今回の「世界最先端のデジタルシフト戦略」vol.4では、そのビジネストランスフォーメーションの変遷を立教大学ビジネススクール 田中道昭教授に徹底解剖していただきます。小さなスタートアップ企業であったNetflixがいかに王者となれたのか。その変革の奥にある秘訣とは。DXに取り組む日本企業も見習うべき一貫した姿勢に迫ります。
Contents
真のプロ集団であり続けるための、「自由と責任」の企業文化とは
Netflixのカルチャーを社内に浸透させるために2009年にウェブ上に公開され、米国のテクノロジー業界等で大きな話題となった「カルチャーデッキ」では、自らのカルチャーを「Freedom&Responsibility(自由と責任)」と記しています。その他「我々はチームであって、家族ではない」「我々は子供のお遊びチームではなく、プロスポーツチームのように機能する。どのポジションにもスターが就いているように、スマートに人を採用し、育成し、切る」*という言葉が綴られており、これらはNetflixが持つカルチャーを如実に表しているでしょう。ヘイスティングス氏は「まあまあの仕事ぶりの人には、辞めてもらう」とよく発言しているほか、実際のカルチャーデッキにも「スター以外には即座に十分な退職金を払い、スターを採用するためのスペースを空ける」*との記載があります。「自由と責任」が意味する究極の責任とは、成果が出せなければ辞めさせられるということなのです。
* Netflix Culture Deckより引用・翻訳:
https://www.slideshare.net/reed2001/culture-1798664
Netflixの強みは、一貫した「二つの三位一体」にあり
まずは「コンテンツ×ディストリビューション×テクノロジー」の三位一体です。コンテンツは言わずもがなでしょう。ディストリビューションとは、そのコンテンツの届け方のこと。当初はDVDの郵送からはじまり、現在ではストリーミング配信でコンテンツをディストリビュートしているわけです。最後がテクノロジー。ビッグデータとそれを解析するAIは、コンテンツの質の向上にも、ディストリビューションの効率化にも大きく寄与しています。この三つの歯車がしっかりと噛み合っているところに、Netflixの強みがあります。
4度のDXで到達した「Netflix4.0」。ビジネスモデル変革の秘訣に迫る
注文のオンライン化は、顧客と直接つながれるというメリットももたらしました。そこで得たデータを分析し、次の注文時におすすめのDVDを表示させるレコメンデーションの仕組みも、この頃から既に実装されていたものです。そういう意味ではNetflixは、創業当初からデータドリブンなテクノロジーカンパニーだったと言えるでしょう。
彼らが他社に先駆けてDVDレンタルのサブスクリプションモデルを確立し、「Netflix2.0」と呼べるフェーズへとスムーズに移行できたのも、データに裏打ちされた顧客とのエンゲージメントがあったからこそです。一方で、かつての競合であったDVDの有店舗レンタルショップがサブスクリプションモデルに移行できなかったのは、延滞料が大きな収益を占めるビジネスモデルであったからです。さらに動画ストリーミングを主体とした「Netflix3.0」、自らがオリジナルコンテンツの制作も手がける「Netflix4.0」へと移行していくには、莫大な資金が必要であったはずですが、ここで大胆な投資ができたのも、データドリブンな経営判断があったからこそ。こうしてみると、Netflixのビジネスモデルの変遷は、DXの基本となる「つながる(コネクト)、深める(エンゲージメント)、成長させる(グロース)」というプロセスを着実に踏まえたものだと言うことができます。
目指すべきは、「ニッチでエッジでキャッチーなコンテンツ」
以前、デジタルシフトタイムズで対談をさせていただいた元News Picks編集長である佐々木紀彦氏は著書『異質なモノをかけ合わせ、新たなビジネスを生み出す 編集思考』のなかで、News Picksの編集にあたって最も参考としたメディアにNetflixをあげた上で、これから求められるのは「ニッチでエッジでキャッチーなコンテンツ」だと整理しています。
この言葉の意味は、Netflixと地上波のテレビ番組を比較すると、よりわかりやすいはずです。テレビはいまだに多くの視聴者に届くメディアですが、一人ひとりの視聴者に深く刺さることを目的とした番組づくりはされていません。つまり、リーチは広いけれど、エンゲージメントは浅い。それがいわゆる「テレビ離れ」の一因にもなっているわけです。対してNetflixが手がけているのは、ユーザーに深く刺さるニッチな番組です。その分、個々の番組のリーチは限定的になるのですが、Netflixの番組はロングテールかつレコメンデーションでつながっているため、全体でみればリーチも広くなります。結果的に、「ニッチでエッジでキャッチーなコンテンツ」をより多くのユーザーに届けることができているのです。