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「メディアと広告の未来」~NewsPicksのデジタルシフト。その次に来るものとは

『東洋経済オンライン』『NewsPicks』の編集長を歴任し、現在は株式会社NewsPicks取締役、NewsPicks Studios CEOを務める佐々木紀彦氏。経済誌の記者を振り出しに、編集者、映像クリエイター、経営者と進化し続ける佐々木氏は、これからのメディアと広告をどう見据えているのだろう。佐々木氏のこれまでのキャリアと思考をもとに、同氏が徹底的にこだわるコンテンツの考えかたをつまびらかにするとともに、組織の文化や人の魅力づくり、リーダーシップ論にも切り込んでいく本企画。全3回にわたり、立教大学ビジネススクール 田中道昭教授との対談形式でお届けする。

初回は、佐々木氏が『東洋経済オンライン』『NewsPicks』をトップブランドに成長させていった軌跡と秘訣について探るのとともに、現在にいたる佐々木氏の経歴をたどりながら5G時代を見据えたメディアとコンテンツのあり方についてユニークな討論が交わされた。

*本稿は対談の要旨であり、実際の対談内容は動画をご覧ください。

「メディアと広告の未来」~NewsPicksのデジタルシフト。その次に来るものとは

『東洋経済オンライン』が成功した三つの要因

田中 佐々木さんは、『東洋経済オンライン』の編集長に就任後、半年足らずでPVを月間5000万にまで伸ばし、同分野でのトップメディアにしたことで知られています。今でも『東洋経済オンライン』は、数あるオンラインメディアの中でも一際高いブランド価値を誇っていますが、短期間で急成長させることができた背景には何があったのでしょう。

佐々木 2012年当時は既に競合メディアが存在し、東洋経済オンラインは、いわば後発のポジションにありました。他社と同じことをしていても勝ち目はありません。その対抗策として私は三つの施策を打ちました。一つは、ターゲットシフトです。当時のビジネスメディアは、雑誌もオンラインも50代が読者層の中心でしたが、東洋経済オンラインはそこから一気に若返りを図り、ターゲットを30代に据えました。
二つ目はデジタルファーストです。腕の良い記者に紙面を任せる、紙面に載せた記事をデジタルに流す、という紙ファーストの考えから、デジタルのためのコンテンツをつくる方向に舵を切ったのです。

田中 具体的にどこまでデジタルファーストにしたんですか。

佐々木 コンテンツの7~8割をデジタルオリジナルにしました。読者と同世代の私が読みたい記事を、紙と同じクオリティでつくる。しかもそれを毎日5本以上公開していました。私もプレイングマネジャーとして、取材しては書く、書いては取材する毎日。コラムも自分で書いていました。あの頃ほど働いた時代はなかったかもしれません。
そして、三つ目がオープン化です。ヤフーなどのプラットフォームへの記事配信をスタートしました。自社のほかに支店を作っていくような感覚です。

田中 これらメディアディストリビューターの活用は、当時から主流だったのでしょうか。

佐々木 利用するメディアはありましたが、私たちほど積極的ではなかったように思います。たとえば、ヤフーに掲載された記事がどう広がるのか、どうすればよい場所に記事を掲載してもらえるのか、そういうこだわりは、我々が一番強かったのではないでしょうか。

NewsPicksに移籍。プラティシャー戦略が生まれた

田中 これらの施策が功を奏し、業界でもさらに注目される存在となった佐々木さんですが、2014年に株式会社ユーザベースに移籍、同時に『NewsPicks』編集長に就任されます。ここに至る流れを聞かせてください。

佐々木 NewsPicksは、もともとはユーザベースの創業者であり、現代表取締役CEOの梅田優祐が立ち上げました。最初はニュースのキュレーションと、ニュースに対しコメントできる点が売りでしたが、それだけではユーザーが課金するまでにいたらない。一番大事なのはコンテンツ、と考えた梅田が私に声をかけたのが始まりです。

田中 佐々木さんの著書『編集思考』(NewsPicksパブリッシング,2019年刊)にもありますが、梅田さんとは「プラティシャーになろう」という考えで一致されたとか。
プラティシャーとは、プラットフォームとパブリッシャーをかけ合わせた造語です。パブリッシャーとしてコンテンツを創造すると同時に、コンテンツを流通させるプラットフォーマーにもならなければいけない。このアイデアはどのようにして生まれたのでしょうか。

佐々木 梅田と話すなかで生まれました。プラティシャーという言葉自体は、当時米国のメディア業界で使われていたものです。
梅田とは、ビジョンよりも先に戦略が一致したんです。それなら一緒にやってもうまくいく、と思えました。

メディアのSPAモデルとは

田中 佐々木さんは、「プラティシャーはメディアのSPAモデル」と表現されています。SPAとはアパレル業界でよく使われる言葉ですが、これはどういうことですか。

佐々木 コンテンツメーカーも「製造」から「流通」までを自らが手がける必要がある、ということです。
メディアのSPAは珍しい話ではなく、テレビ局や新聞社もこのモデルです。日本の新聞社は発行部数世界トップですが、これだけ強固なモデルを作れたのも配達システムがあるから。テレビ局も電波という強力な流通の寡占のもとに自分たちでコンテンツをつくり、著作権を持っています。デジタルの時代になっても、これが勝利の方程式であることに変わりません。

田中 メディアのSPAと聞いたとき、僕は不動産業界を想起しました。同業界のビジネスモデルもまた製造と流通に分けることができますが、一番モノをいうのはディストリビューション能力です。というのも、不動産って仕込みにおいてはいかに一番高く買えるのかがポイントです。たとえば佐々木さんが一等地にある土地を売りたいと思ったら、高く買ってくれる企業に売りますよね。つまり、一等地の土地は高く買えるところにしか買えない。となると買えるのは、三井不動産や三菱地所辺り。なぜならエンド価格であるマンション価格を他社より高く設定しても売れるからです。ここにはブランド力や信用力も凝縮されています。
佐々木 となると、三井や三菱は日本が繁栄している限り、負けっこないですね。そして、メディアもヤフーに頼り切っていたら営業部隊のいない会社のようになってしまいかねません。それではパブリッシャーの立場が弱くなってしまします。
メディアもブランドビジネスです。今のお話から、プラティシャーとして何よりも大事なのは、ブランドを磨き、信用を磨くことだと感じました。

良いコンテンツと良いクリエイターを持つことが、これからの競争力になる

田中 佐々木さんはNewsPicksの編集長のあとで、CCO(chief content officer)をお務めになられましたが、そのポジションを始められるきっかけは何だったんですか。

佐々木 昨年11月に英『エコノミスト』でも特集されていましたが、いま、コンテンツ業界には石油業界と同程度の投資がなされています。その金額は、年間10兆円以上です。まさに世界的なコンテンツバブルが起きているなかで競争していくには、コンテンツを調達できる力が必要です。そのために大切なのは、クリエイターを惹きつけること、目利きができること。これらに責任を持ってビジネスを見る役職が必要という考えから生まれました。代表例が、ネットフリックスのCCOであるテッド・サランドスです。

田中 NewsPicksのコンテンツ部門は、短期間のうちに魅力的なタレントが増えましたよね。優秀な人を惹きつけるのがCCOの役目、と企図されていたわけですね。

佐々木 NewsPicksは、才能ある人達にとって心地よく、その人たちが出演してみようと思えるメディアであることが一番の競争力です。
映像、活字、音声といった境目は、近く交わり合っていくでしょう。そのなかでどうやってメディアミックスを作るのかを常に考えています。

5G時代に勝てるプラットフォーマーとは

田中 メディアミックスの拡充のために、NewsPicksはオンラインメディアを立ち上げ、雑誌や本を発行し、動画を始めました。さらには、オンラインとオフライン双方のコミュニティも運営しています。佐々木さんはこれらのなかで動画に最も惹かれたそうですが、その理由は何ですか。

佐々木 一番影響力があり、一番市場規模が大きく、一番多くの人を巻き込めるのが映像です。そこに乗り込んでいきたい欲望があります。もう一つは、5Gの存在です。世の中が動画で消費する時代へと移るなか、ここを押さえないことにはNewsPicksの繁栄はありえません。

田中 動画が一番影響力のあるメディアということは、目指すところは地上波以上の影響力を持つことでしょうか。

佐々木 それは、ちょっと違うかもしれません。NewsPicks Studiosは、「ニッチ」「エッジ」「キャッチー」の3ワードでコンセプトを表しています。ニッチの中でもエッジの立っている話題を、多くの人が観たくなるキャッチーな切り口で届ける。マスはねらっていないので視聴率は地上波の10分の1でいい。ただし、有料でも観たいという人を増やす。広告価値も高くしていく。そんな戦略です。

田中 5Gにも言及されていますが、普及によって何が変わるとお考えですか。

佐々木 コンテンツの提供側からすると、お金をかけずにサクサク見られるようになることが大きいですね。たとえば中国は4G回線ですが、通信料が安いので誰もが動画でコミュニケーションを図っています。おばちゃんが自分の店のアピールにTikTokを使うような。これがさらに進んだものが日本に来るのを見越した未来への投資の向きもあります。

田中 5G時代になったらプラットフォームは、様変わりしますよね。ガラケーとスマホでは決定的に違ったし、スマホになってLINEのようなプラットフォームも生まれました。
佐々木さんは、5Gでは動画をメインとするプラットフォームが誕生する、みたいなことも考えながら、NewsPicks StudiosのCEOをされているのかなと思うんですが……

佐々木 これからはテキストと動画でアプリを変えるのではなく、一つのアプリで両方をまかなうという流れも出てくるでしょう。NewsPicksは、後者のほうが有力かもしれませんね。なにより動画をもっと観やすくする必要があります。当社のライブ経済情報番組『The UPDATE(アップデート)』がTwitterで生配信しているように、これからはYouTubeやTwitterはもちろん、タクシーや電車の車内といったリアルな場にも配信するなど、いたるところでNewsPicks Studiosの番組を視聴できるようにしていきたいと考えています。
第2回目の記事はこちら
第3回目の記事はこちら
佐々木紀彦(Norihiko Sasaki)
NewsPicks Studios CEO/NewsPicks取締役(新規事業担当)
1979年福岡生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業、スタンフォード大学大学院で修士号取得(国際政治経済専攻)。東洋経済新報社で自動車、IT業界を担当後、「東洋経済オンライン」編集長に就任。2014年、NewsPicksに移籍し、初代編集長に。2018年、映像コンテンツのプロデュースを手掛けるNewsPicks Studiosを電通との合弁で設立。最新著書に『編集思考』。ほかに『米国製エリートは本当にすごいのか?』『5年後、メディアは稼げるか』『日本3.0』『ポスト平成のキャリア戦略』(塩野誠氏との共著)がある。
田中道昭(Michiaki Tanaka)
立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授。株式会社マージングポイント代表取締役社長。「大学教授×上場企業取締役×経営コンサルタント」という独自の立ち位置から書籍・新聞・雑誌・オンラインメディア等でデジタルシフトについての発信も使命感をもって行っている。ストラテジー&マーケティング及びリーダーシップ&ミッションマネジメントを専門としている。デジタルシフトについてオプトホールディング及び同グループ企業の戦略アドバイザーを務め、すでに複数の重要プロジェクトを推進している。主な著書に、『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』(日本経済新聞出版社)、『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』(日経BP社)、『2022年の次世代自動車産業』『アマゾンが描く2022年の世界』(ともにPHPビジネス新書)『「ミッション」は武器になる』(NHK出版新書)、『ミッションの経営学』(すばる舎リンケージ)、共著に『あしたの履歴書』(ダイヤモンド社)など。

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