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「メディアと広告の未来」~NewsPicksのデジタルシフト。その次に来るものとは #03

『東洋経済オンライン』『NewsPicks』の編集長を歴任し、現在は株式会社NewsPicks 取締役、NewsPicks Studios CEOを務める佐々木紀彦氏。経済誌の記者を振り出しに、編集者、映像クリエイター、経営者と進化し続ける佐々木氏は、これからのメディアと広告をどう見据えているのだろう。佐々木氏のこれまでのキャリアと思考をもとに、同氏が徹底的にこだわるコンテンツの考えかたをつまびらかにするとともに、組織の文化や人の魅力づくり、リーダーシップ論にも切り込んでいく本企画。全3回にわたり、立教大学ビジネススクール 田中道昭教授との対談形式でお届けする。

最終回は、佐々木氏のこれまでの経験と田中氏が視察してきた海外の最新の潮流をもとに、本対談のテーマ「メディアと広告の未来」について、大いに語っていただいた。

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*本稿は対談の要旨であり、実際の対談内容は動画をご覧ください。

「メディアと広告の未来」~NewsPicksのデジタルシフト。その次に来るものとは #03

企業の魅力を活かすクリエイティブコンサル力が、メディアに求められている

田中 最後に、今日の表題である「メディアと広告の未来」についてお伺いしたいと思います。これまでの情報を整理しておきますと、もともと佐々木さんが仰っている三つの革命、デジタル・モバイル・ソーシャルというところが、未来にすごく影響してくること。それからやはり、顧客とのつながりの重要性。これは、佐々木さんもいろいろなところで言われていますよね。また、プライバシー重視の流れは外せません。そして、ずっとお話してきた、組織の文化というところも当然未来に影響するでしょうし、やはり最後は人。人の魅力をどう引き出すかという話があると思います。この辺りを根本的なテーマにしながら、ずばり「メディアと広告の未来」というテーマを与えられたときに、何を想起されますか。

佐々木 私は「広告についてあまりにも無知だった」と、この1年ですごく反省しています。というのは、ジャーナリスト部門と広告部門のあいだにはファイアウォールがひかれてあって、広告部門は触れちゃいけないものと思っている記者もいるほどに分断されている。このファイアウォール自体は、伝統的なジャーナリズムにとって大事なんですが、経営の立場になると、そこにこだわりすぎるとダメということに気づきました。

ジャーナリスト部門と広告部門は分けたほうがいいんです。けれども、経営としては両方を見られる横断性がないとダメです。何が言いたいのかというと、ジャーナリストにとって、(課金で収入を得る)お客さんは読者だけですが、メディアにとっては広告主も、非常に大事なお客様です。そして広告にこそ、編集のスキルが活きると感じています。

ビジネスメディアは、たとえばファッションメディアに比べると、コンテンツづくりのノウハウやプロデュース力があまり発達していません。なので、企業がこれだけ多くありながらも、どうプロデュースして見せたら良い広告になるのか、その会社の魅力が伝わるのかがよく分かっていない。その点、田中先生は記事広告にいっぱい出ていらっしゃって、良いところをうまく引き出されているじゃないですか。これからは、そういう役割の人が必要だと思っています。

政治や社会の分野では、権力の監視役としてのメディアはとても重要です。ただ、経済メディアについて言うと、企業の権力が強すぎた時代は、メディアは牽制したほうがよいのですが、今の日本企業って元気がありません。かつ常に株主に徹底的に監視されている。となると、企業の良いところをどう抽出して、より魅力的に見せてコンテンツ化して、行動喚起まで移すか、といったクリエイティブコンサルタントのような機能は非常に大事になってきています。実際、私たちもやり始めています。
NewsPicks Studiosでは、クリエイティブ部門も広告部門も両方とも私が管掌していて、そこにおもしろさを感じています。ビジネスコンテンツ分野の広告はとても堀りがいがある気がしています。

田中 そこはそうですね。私自身も記事を書いていますし、スポンサード記事にも登場することもある。そしてそれらの記事の裏側で企画していることもある。記事の企画・執筆・編集は、結局はその企業のマーケティングや、その上の階層の経営戦略につながっています。表裏一体ですよね。会社のミッション、ビジョン、バリュー、そして戦略って最終的には提供している商品やサービスにどう練り込むのかが分からないとできません。経営戦略コンサルティングの仕事も商品・サービスまで分かってないとできないのと同様に、その企業の記事をつくるということもすごく通じるところがありますよね。

佐々木 そうなんですよ。企業向けのクリエイティブコンサルティングはある意味、電通などの広告代理店の領域としてここまで来ていましたが、今はアクセンチュアのような総合コンサルティング会社も参入してきています。企業にとってはロジカルシンキングに基づいたコンサルも大事ですが、クリエイティブコンサルティングの分野も今後どんどん必要とされていくと思います。特に採用の分野では、企業がコーポレートブランドをどんどん発信していかないと魅力が伝わりません

田中 僕のゼミ生の一人がデザイン会社をやっているんですが、最近ある自動車メーカーのデザインのコンペにマッキンゼー・アンド・カンパニーが参加してきたと話していました。ご存知のとおり、戦略コンサルティング会社とテクノロジー系のコンサルティング会社が、広告の世界におりてきている。それだけでなく、さらにデザインのコンペにまで入ってきた。そういう意味では競争が激しくなりますけれども、広告を見ているとは感じさせないような自然で魅力的な広告が生まれてくる期待もあります。NewsPicks Studioさんがタクシーで流している広告もまさにそうですよね。

佐々木 これはあくまで空想ですけれど、今日のテーマでプラティシャーってずっと言っていますが、もしかしたらプラティシャーの広告モデルもあり得るのかな、と。我々がはじめに言ったプラティシャーとは、編集コンテンツを届けるためのプラットフォームで、クリエイティブエージェンシー的な機能を持ちながらそのコンテンツを自分たちのメディアで拡げることもできるビジネスモデルです。NewsPicksはメディアを持っていますので、そういう形も今後あるかもしれない。テレビ局もCMは自分たちで作らず、外部に任せています。それが不文律です。もしかしたら広告コンテンツとして最強に良いものをつくれて、かつ自分たちで拡げることができるような、広告型プラティシャーというのも今後あるのかもしれませんね。

田中 そこを含めて表裏一体でコンテンツから入れると強力ですよね。そういう意味では、佐々木さんは広告に結構視点がシフトしているんですね。

佐々木 シフトといいますか、興味があります。クリエイティブと広告の両方を見ているので、奥深いマーケットだなあと思っています。

田中 すごく難しいのは、もともと旧来型のオンラインメディアは、ページビューを争っています。結局ページビューが伸びることで、広告が伸びる。そうなっていくとやはりスポンサーに忖度しなければならなくなる。一方、もともとメディアは表現の自由、言論の自由を担うという憲法のなかでも重要なミッションがあります。そことのバランスはどうするんですか。

佐々木 そこも収益バランスだと思います。我々の収益バランスは半分が広告で、半分がサブスクリプションサービスなんですね。そういうふうに収益を多様化していれば、一方の顧客に対して広告を出していただいているから言いたいことを言えないみたいなことがなくなる。そのバランスが大事だと思います。PV至上主義のように広告に全部依存してしまうと言論の自由がどんどんなくなってしまう。ですので、ファイアウォールは引いたうえで両方を見られる、まさにCCOのような経営者的な立場の人が入ることによってコンテンツ編集のノウハウを編集にも広告にも両方に活かせるようになることがベストだと思います。ただ、ジャーナリストには自由に書いてもらって。実際、NewsPicksは、そこの忖度が本当に無いんですよ。

田中 それがいいところですよね。

佐々木 一方でクリエイティブディレクターのように、企業の良いところや魅力をうまく引き出せる人も、同じ会社にいるとおもしろいと思いますね。

田中 NewsPicksが本当に素晴らしいと思うのは、例えば、編集長の池田光史さんが記事のなかで記者としての本分として当然に企業をクリティック(批評・評論)することもある。でもその少し前には、その企業のスポンサード記事を扱っていたりするところです。そこは本当に素晴らしいところですし、変わらないでほしいと思います。

佐々木 それでいうと、たとえば私は編集部のコンテンツに触れることはしていません。編集コンテンツはもう私の権限じゃないので、そこは自由にやってもらっています。要は、権限を分けることが大事なんだと思います

プライバシー重視の流れが、広告の在りかたを変えていく

田中 いま、「メディアと広告の未来」についてお話していて非常に本質的な未来のことを語っていただいたんですが、私自身、「CES 2020」に行って思ったのが、現在、プライバシー重視の流れがものすごく来ているということです。

CESが始まる前から注目されていて、実際、最大の盛り上がりを見せたセッションが『Chief Privacy Officer Roundtable』でした。そもそも日本だとチーフ・プライバシー・オフィサー(CPO)という言葉自体、聞いたことのない人が多いと思います。
このセッションには、アップルやフェイスブックのCPOに加え、日本の公正取引委員会に相当する、連邦取引委員会(Federal Trade Commission:FTC)のコミッショナーも登壇しました。そもそもAppleがCESに出るのが28年ぶりで、なおかつそれが『Chief Privacy Officer Roundtable』に登壇するということが大きな話題となっていました。

アップルはマイクロソフトと並んで、アメリカのテクノロジー系の会社のなかでもプライバシー重視の会社ですが、CPOは「データミニマイゼーション」とおっしゃっていてね。「もともとユーザーの情報は、あまり取らないようにしています」と。
たとえば佐々木さんが「明日の天気を教えて」って端末に話した場合、「東京都」「港区」といった大きな単位で位置情報をつかんで伝えているんですね。それが、今日この後、おいしいケーキを食べに行きたいと思ったら、そのときに初めて佐々木さんがいる緯度経度までリサーチして情報を取得する、というようにデータ収集の粒度を変えている。ほかにもいろいろなお話をされたんですが、それにもかかわらず、メディアのセンチメント(市場心理)やFTCのコミッショナーは、「それでも不十分」という感じでした。

今年1月15日の日経新聞にも、Googleが2年以内にサードパーティークッキーを規制する、という記事が一面に載りましたよね。このように、アメリカのデジタル広告業界は、プライバシー重視の流れが相当来ていて、これがメディアと広告の未来にも相当大きな影響を与えると思います。
佐々木さんはここについてどのようにお考えでしょうか。あるいはNewsPicksとしたら、どうしていかなければいけないと思いますか。

佐々木 プライバシー重視の流れは強まりますよね。そういう意味で我々は顧客のデータをあまり取っていないんです。良くも悪くもパーソナライズをしていません。
今後は、敢えてデータを取らずに皆が同じ広告を見るというような、ブランド広告的なものが見直されるかもしれません。テレビもパーソナライズされていないから良い部分もあるじゃないですか。先ほどのクリエイティブエージェンシー化の話しかり、クリエイティブ力とデータ力とに二極分化していく。プライバシー重視によって、クリエイティブ力が復権していく気がします。

田中 そうですよね。日本のプライバシー対策はデータの利活用とともにさらに周回遅れだと思います。昨年辺りから情報銀行と言い出していますが、アップルは「極力、データを取らないようにします」「クラウドとデバイスは違います」というところまで来ている。正確にお伝えすると、これはアップルやグーグル、フェイスブックだけの問題ではありません。プライバシーの話ですから、全産業に及ぶことです。

佐々木 アップルはCMでも「我々は情報を大事にしています」と言っていますよね。セキュリティ対策をしっかりしていること自体が信頼につながり、ビジネスの便益につながる時代なのかもしれないですね。

田中 その一つのカギが、広告自体を読みたい、見たい。広告だけど広告と感じない。または、広告と分かっていても見てみたい。そういう本質的なところに向かう感じですかね。

佐々木 だと思います。そして、お金をもらっていることを明示して、ステマにならないようにする。良い広告であれば、視聴者も嫌がらないと思います。広告がさらに物語化というか、クリエイティブ化していくんでしょうね。

田中 NewsPicksさんはスポンサード広告と銘打った記事でも読まれているものが多いですよね。

佐々木 多いです。ベタベタな商品広告はしないと決め、ブランドの世界観を現すことに特化しているので、好評です。

田中 スポンサード広告でも本当に本質を考えてコンテンツにこだわる、ということですね。

佐々木 そういう意味でもクリエイティブ力は一番大事な気がします。

デジタルシフトを“ワクワク”で語りたい

田中 今日は、Digital Shift Timesの企画ということで、途中にはリアルとの融合やリアルシフトという話も出ましたが、デジタルシフトも含め、これらは目的ではなく手段であり、本質は、事業自体をいかに変革していくのか、アップデートしていくのかというところだと思っています。
最後に、Digital Shift Timesをご覧の方にメッセージをお願いします。

佐々木 「デジタルシフト」「DX」という言葉がはやっていますが、何か怖いものみたいに思う人もいると思うんですが、全然そういうものではなく、むしろ楽しめるものだと思うんですよね。年齢も関係ないですし、若い人でも意欲があれば任せればいい。とにかく覚悟を持って楽しんでやれば、別に悪いものじゃないと思うので、自然体で臨めばいい。そのときに過去の自分にこだわりすぎず、「DXしたあとのほうがワクワクするよ」みたいに、脅しではなくワクワクで語りたいですよね。
そして、デジタルに詳しくなくても、デジタルシフトはできると思います。
私は超アナログで、ずっと『らくらくホン』を使っていたような人間です。周りを見ていても、デジタルに詳しくて、デジタルが大好きな人ばかりが成功しているわけじゃない。アナログ派の方もぜひDXに臨んだほうがいいんじゃないかと。

田中 まさに編集思考、考え方、思想、そして何のためにやるのか。パーパスやミッション、価値観が重要だと思います。

佐々木 まさにそうだと思います。

田中 今日はありがとうございました。
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佐々木紀彦(Norihiko Sasaki)
NewsPicks Studios CEO/NewsPicks取締役(新規事業担当)
1979年福岡生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業、スタンフォード大学大学院で修士号取得(国際政治経済専攻)。東洋経済新報社で自動車、IT業界を担当後、「東洋経済オンライン」編集長に就任。2014年、NewsPicksに移籍し、初代編集長に。2018年、映像コンテンツのプロデュースを手掛けるNewsPicks Studiosを電通との合弁で設立。最新著書に『編集思考』。ほかに『米国製エリートは本当にすごいのか?』『5年後、メディアは稼げるか』『日本3.0』『ポスト平成のキャリア戦略』(塩野誠氏との共著)がある。
田中道昭(Michiaki Tanaka)
立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授。株式会社マージングポイント代表取締役社長。「大学教授×上場企業取締役×経営コンサルタント」という独自の立ち位置から書籍・新聞・雑誌・オンラインメディア等でデジタルシフトについての発信も使命感をもって行っている。ストラテジー&マーケティング及びリーダーシップ&ミッションマネジメントを専門としている。デジタルシフトについてオプトホールディング及び同グループ企業の戦略アドバイザーを務め、すでに複数の重要プロジェクトを推進している。主な著書に、『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』(日本経済新聞出版社)、『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』(日経BP社)、『2022年の次世代自動車産業』『アマゾンが描く2022年の世界』(ともにPHPビジネス新書)『「ミッション」は武器になる』(NHK出版新書)、『ミッションの経営学』(すばる舎リンケージ)、共著に『あしたの履歴書』(ダイヤモンド社)など。

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